「正樹ただいまぁ!」
「お帰りぃ。」
インテリア誌から顔を上げて玄関を振り向く。当たり前だけど、姉ちゃん。タイトなスーツ姿。
郊外2DKで姉、由梨香と二人暮し。大学2年と3年。俺たちはそんな感じ。
「あー今日も疲れた〜…」
「キッチンに野菜炒めとスープあるからあっためて適当に食べて。」
「本当ー?ありがとう!!やったー、正樹の野菜炒めだ〜!!」
姉がパタパタ自分の部屋に入り、また出て行く音を後ろに聞きつつ、
雑誌にまた視線を落とす。電子レンジが動く音。洗面所の水の音。
シーリングファン欲しいなあ…でもそれ付けるならもっと広い部屋に住みたいな…
「今かけてる音楽スタアパ〜?いいねー!いつ買ったの?」
俺の目の前のローテーブルにお盆を置く姉ちゃん。GAPかどこかのTシャツにホットパンツ。ラフ。
俺の隣に座り、壁によりかかる。
つーかここ俺の部屋。いつものことだけど。
「一昨日とか。」
「あとであたしのiPodにも入れといてよ!」
「はいはい。」
「…ねぇ、雑誌見てないでかまってよー!一人でご飯食べてるみたいで寂しいじゃん!!」
ため息。顔を上げると、多分今日はじめて姉ちゃんと目が合った。
化粧はとっくに落としていたが、控えめに言ったって整った顔が、にやーってなる。かまってちゃん。
「わかったからさっさと食っちゃってよ。俺が片付けんだから。」
「はーい!」
「今日アレ?仕事ホテル?」
「そー!バンキットだったんだよねー、本当めっちゃ疲れた…まだ全然慣れてないのに」
「お疲れ様。明日休みっしょ?ゆっくりしなよ。風呂、先入っていいから。」
「沸いてるの?」
「沸かしてるとこだよ。」
「正樹大好きー!!」
「はいはい。」
姉ちゃんのハグ。もー慣れっこ。女子高育ちの人見知りだとは思えないオープンっぷりだ。
てゆーかブラ硬ぇ。痛ェし。
「あー、できた弟持って幸せだなぁ!!」
「全くだ。バイト代よこせ。」
「ハグで払う。」
「しね。」
「ひどーい!!ってかあたし褒めてるのにぃ!」
姉ちゃんの表情がコロコロ変わるのを見るのは、結構楽しかった。思わず噴出す。
姉ちゃんもソレ受けてけらけら笑う。ちょっと口が悪かったかなと反省するけど、姉ちゃんはそこんとこ優しい。
甲高い機械音。
「あ、風呂沸いたよ姉ちゃん。入ってきなよ。」
「え?一緒に入ろうよ?」
またぁ?
「いいじゃん!一緒に入ろうよ、背中流してあげるよ?」
「いいよ、一人で入れって。」
「やーだー!正樹と一緒に入るの!!」
…我侭…でもあんまりああだこうだいってもうるさいだけだし、
姉ちゃんが俺と風呂入りたいって言うときは、本当にさみしくて参ってるときだ。
「じゃあ、あとで行くから先入ってて。」
「わ、やった!待ってるからね。」
姉ちゃんはいそいそと食事を片すと、パタパタと風呂場の方へ歩いてった。
中一のとき、友達に笑われて、いつものように一緒に風呂に入ろうと誘う姉ちゃんに大声出したことを思い出した。
悲しそうな顔だった。別にすぐ一緒に行ってもよかったんだけど、なんとなく先へ行かせてしまって数分の暇をもてあます。
携帯をいじってみる。でも頭に浮かぶのは、14歳の姉ちゃんの悲しそうな顔と、2年後に俺がジョーク交じりに
風呂に誘ったときの嬉しそうな顔だった。変な姉弟だとは思う。けどまあ、そーいうのもアリだと思う。
仲悪いよりずっといいよな。
二人暮し先を決めるとき、姉ちゃんがこのアパートを推した理由は、割と大き目でお洒落な風呂桶。
俺が風呂場に入るとすぐに姉ちゃんはその桶を長い脚でまたぎ、俺の後ろに回った。無駄にいい形した乳房を
隠そうともしない。つーか押し付けて後ろから抱きしめてくる。やーらけえ。
今まで付き合った彼女(二人しかいないけど)もれなく全員に「女慣れしすぎ」と言われるのは、
間違いなく姉ちゃんのせいだった。
「いい身体してんねー。」
「姉ちゃんの愛はわかったから流して。お願い。」
「はいきたー!」
「つーかおっぱい隠してよ。」
楽しそうにフランフランで買った愛用のブラシで俺の背中をこする姉ちゃん。無視ですか。
「ねえ正樹の彼女…千夏ちゃん、家に連れてきてよー!」
「絶対ヤダ。」
「なんで?」
「一緒に風呂入ろうとか言い出すでしょ?」
「駄目なの?楽しそうじゃない?」
まあ楽しいっちゃ楽しいんだろうけど……
「…なんかやっぱ彼女とは2人でいたいっつーか…」
「えー、お姉ちゃんは?」
「彼氏作ればいいじゃん。」
「できないんだもん。」
ザーザーシャワーで俺の泡を流すと、さっさと風呂桶に入って向こうを向いてしまった。へそ曲げたらしい。
「まだ島谷さんのこと引きずってんの?」
「…そんなことないけど…」
分かりやす!
ため息。
姉ちゃんの後ろのスペースに身体を差し込む。湯があふれる。
「何が駄目なのかな…あたし。」
姉ちゃんは、決してダメダメな女ってことはない。見た目は、気を使ってるだけあって上の中。
大学にもまじめに通って、バイトも一生懸命やる。自分のことより他人のことばっか心配する。
家事だって俺のほうが得意ってだけで、結構そつなくこなせる。なのにどういうわけか――
男運に恵まれない。
俺は後ろから姉ちゃんの首元に腕を回した。指先が膨らんだ胸元に触れる。
「周りの見る目がねえんだよ。」
「正樹はそういってくれるけどさ…やっぱりちょっと自信なくしちゃうよ……」
「今日なんかあったの?」
「…別にぃ。」
姉ちゃんのうなじを指で突っつく。姉ちゃんが振り返った。
顎に手を添えて、姉ちゃんの唇を甘く噛むようにチュウする。やーらかい味。
「元気出せって!」
「…」
「…」
「正樹…」
「何?」
「正樹ってイケメンだね。」
「なにそれ?」
「心が。」
「…見た目は?」
「見た目はフツー。」
苦笑い。
と見せかけて後ろから両手で姉ちゃんの乳を鷲掴み。大騒ぎして抵抗する姉ちゃん。
片手を姉ちゃんの股に添えて、がむしゃらに中指を立てた。やらしい声。湯が弾ける音。
もともとくすぐられんのに弱い姉ちゃんは身体をクネクネさせながら大声を出す。
右手で姉ちゃんの乳首を、左手でクリトリスを転がす。どこをどー弄ったら一番いい声出るか、
後ろ向きだろうが目をつぶってようが分かる。そーいう付き合い。
で、知る限り耐えられるギリギリまで姉ちゃんの膨らんでるとことへっこんでるとこを
可愛がると、手の力を緩める。肩で息して身体を小さくする姉ちゃん。身体をひっくり返して
こっちに前を向ける。真っ赤な顔。
「顔真っ赤だよ姉ちゃん。」
「…ぁー、ドキドキしたぁ……」
「気持ちよかった?」
姉ちゃんの人差し指が俺のほっぺたを凹ました。
「年上からかうなよー!」
「はいはい。」
姉ちゃんは指を外すと身体を伸ばして、俺の唇を甘く噛む。桃っぽいバスオイルの香り。
「でも、大声出したら元気でたかも。」
「でしょ?もっかいやらない?」
「ばか!へんたい!!」
今さらになっておっぱいを隠し、脚を折りたたむ姉。じゃあ一緒に風呂入ろうとか言うなよ。なんて。
にしても、いい身体してんなあ…千夏もこんな身体してたらよかったのにな。
この姉ちゃんがこの身体込みで、大安売りされてんの、勿体ねえよなあ。いい男が見つかればいいんだけどな。
「正樹みたいな彼氏が欲しいなー。そうしたら毎日ご飯作ってもらえるし、いじって元気になれるしさ。」
いじられての間違いだろ。まあいいけど。
どっちにしたって、元気出てもらってよかった。姉ちゃんがつらい顔してんのはやっぱ、きついし。
多分今夜は、さみしいっつって俺のベッドに入ってくるんだろうな。姉ちゃんの好きなジャミロクワイを用意しておかなきゃ…
明日はどうせ昼ごろまで寝てるだろうかけど…飯は何を作ってやろう?千夏は、いつ連れてこよう?
姉ちゃんがニコニコした顔を見ながらそういうことを考えてる時間が、俺は結構好きだった。