「ちと昼寝するから、二時間くらいたったら起こしてもらえる?」  
「あ、うん。良いよ。おやすみ」  
 うん、それじゃよろしく。と弟は自室にいく。  
   
 三十分後  
 ………寝たかな?……  
 ちょっとくらい寝顔見に行っても……良いよ……ね?…  
 あ、でも、まだ寝てなかったら何て言おう……  
   
 一時間後  
 起きてる?寝てるよね?  
 まだ起きてたりしないよね……  
 ま、まだ起こしに来たって言うには早すぎるし………  
   
 一時間半後  
 そ…ろそろ……良いよね?これくらいなら、起こしに来たって言えるよね?  
 ………  
   
 戸を開けると、彼はグッスリと寝ていた。  
 寝顔を見ると、どうしてもまず「可愛らしい」と言う感想が出てしまう。やっぱり、年下、と言うか弟だからだろうか?  
 男の子としては、いい気分ではないのだろうけど、こんな無邪気で無防備な顔で寝られたら……  
 ………襲いたく……  
 っ!ダメダメ!!………その、初めては…両者の合意の元で……じゃなくて!…その、と、とにかく、ダメなのはダメ!  
 彼はそんな私の気も知らないで、すうすうと健やかな寝息をたてている。  
 ……なんとなく、ずるい。  
 
 ずるい子にはおしおきしなきゃ……  
 気付けば私はベットの脇に立て膝をついていた。弟の顔は、すぐそこ。  
 そうだ、今日こそしよう。  
 キスを。  
 ずるいかも知れないけど、お互い様だ。  
 彼は私の気も知らないで寝てる。それじゃあ私も彼の知らないときにキスする。うん、お互い様だ。  
 徐々に顔が近づき、吐息と寝息が混ざる。  
─もうちょっと………もうちょっとだけで良いから、寝ていて……  
   
 触れた─  
   
 柔らかな感触が、唇に伝わり、寝息が口内に入ってくる。  
 ひどく久しぶりに感じられた。まるでもう十年間も触れていなかったような感触。手放したくない甘い痺れ。  
 ……だけど、ゆっくりと離す。  
 弟に気付かれないように。今度は彼からしてくれる事を願って。  
─本当に、君はずるい─  
 そう思いながら、私の意識はまどろんでいった……  
   
   
 四時間後  
「……さて」  
 起きたとき、眼前にあった姉の寝顔に、驚く前にまず呆然とした。  
 姉は腕を枕にして、ベットに寄りかかって寝ていた。  
「どうすっかな?」  
 時間としてはもうそろそろ夕飯どきだが、こんなに気持よさそうに寝ている姉を、飯のために起こすのは忍びない。  
 とりあえず、体が冷えてしまわないようにベットから毛布を引きずり出し、姉の肩に掛けておく。  
「……まぁ…いいか?起きたとき一緒に起こしてくれるだろ」  
 再びベットに潜り込み、二度寝を決めこむ。  
 飯が作れない訳じゃ無いが、姉と比べれば明らかに劣る。  
 それを食うよりは待った方が良い。  
 料理を作る姉を眺めるのも、一興さ。  
   
 気付いてはいなかった。  
 姉と一緒にいるのが幸せだと感じれる、この新しい気持ちには。  
 

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