キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン  
 
午前中の退屈な授業も終わり、待ちに待った昼休み。  
弁当箱片手に、急いで光晴のクラスに向かう。早く行かなきゃ始まっちまうぞ!  
光晴の隣という特等席で、これを見るが楽しみで学校に来ているようなもんだ!  
光晴のダチでよかったよ。おかげで毎日退屈せずに済む。  
 
「お〜い、光晴〜!メシ喰おうぜ〜」  
「ちょっと待ってくれ。オレのメシがまだ来てない」  
「織部、まだ来てないのか?どうせすぐに来るだろ?先に喰ってるぜ」  
 
ふぅ〜、間に合った〜。どうやらまだ始まってないらしいな。  
我が校が誇る昼休みの名物、『織部里緒菜手作り弁当試食会』は。  
開演に間に合ったことにホッと一息つき、弁当のフタに手を掛けた。  
その瞬間、学校に似合わない黒服にサングラスの男達が教室に入ってきた。  
その男達は入ってきた扉を閉めて跪く。……仕事とはいえ、この人達も毎日大変だな。  
給料がいいから続けてるのかな?いくら貰ってんだろ?今度聞いてみようかな?  
そんなことを考えていたら、扉のガラス越しに見えるシルエット。そして女の勝ち誇ったような笑い声。  
来た来た来たキター!やって来ましたクッキングドランカー!  
我が校一の美女にして、悪夢の舌を持つ女。織部里緒菜の登場だ〜!  
 
「お〜ほっほっほ!武藤光晴!今日こそはワタクシに跪いていただきますわ!  
さあ!食しなさい!この織部里緒菜手作りの……カレー弁当を!  
そして言うのです!『こんな美味しい料理は初めてです。参りました』とワタクシに屈するのです!  
ワタクシの足下に跪き、屈するのです!お〜ほっほっほ!」  
 
右手で大きな弁当箱を光晴に突き出しながら左手の甲を右のアゴに当て、  
小指を立てて勝ち誇ったように笑う織部。  
しかしその目は笑っておらず、光晴の挙動を真剣に見つめている。  
織部から手渡された弁当箱を開ける光晴。  
それを見て、ゴクリと唾を飲み込む織部。  
 
「……うん、美味しそうな匂いだ。ジャガイモや人参も均等の大きさに揃ってるし……何より温かい」  
「あ、当たり前ですわ!この織部里緒菜が作ったんですのよ?  
手が込んでいるのは当たり前。美味しくて当たり前なんですわ!  
感謝しなさいな!わざわざ温めてきてあげましたのよ?  
このワタクシの女神のような美しさと優しさに、感謝なさい!」  
 
光晴に誉められたのがよほど嬉しいのか、背中を反らしながら『お〜ほっほっほ!』と笑う織部。  
う〜ん、いい眺めだ。背中を反らしたら、胸が強調されるからたまらんな!  
織部、学校でも一位二位を争う巨乳だからな。……ホントにたまらん!  
目の前の立派な膨らみに、下半身を膨らませるオレ。  
そんなオレをよそに、カレーを掬い口に運ぶ光晴。  
味はどうなんだ?見た目はめちゃくちゃ美味そうなんだけどな。  
今日はいつものヤツは入ってなさそうだし……今日のはオレも食いてぇなぁ。  
 
「……ど、どうなんですの?お、美味しいんですの?」  
「……うん、味に深みがあって、じっくりと煮込んでいるのが分かる。  
それに専門店で食べるような本格的な味だ。  
もしかしてルーはスパイスを調合して一から作ったのか?」  
「さすがは武藤光晴、よく分かりましたわね。誉めてさしあげますわ。  
そのとおりですわ。このワタクシが一から全て作りましたの。  
神に感謝しなさいな!このワタクシのカレーを食することができる幸運に!  
お〜ほっほっほ!」  
 
光晴に誉められて有頂天になったのか、倒れるんじゃないかというくらいに背中を反らし、胸を張る織部。  
あぁ……その見事な胸に、顔を埋めてぇなぁ。挟んでくれねぇかな?  
 
「ルーは美味い。ルーは美味いんだがな、弁当としては……激マズだ」  
「お〜ほっほっ…ほ?……なんで不味いんですの!ウソつくんじゃありませんわ!  
スプーンを貸しなさい!ワタクシの愛情料理が不味いわけありませんわ!」  
 
織部は光晴からスプーンを奪い、一口カレーを食べた。  
次の瞬間、綺麗な織部の顔が、赤くなったり青くなったり、目まぐるしく変化しだした。  
 
「……グボ!か、辛いのと甘いのが、口の中で歪なハーモニーを奏でて……キィィィィ〜!  
お、覚えてらっしゃい!明日こそは必ず美味しいと言わせてあげますわ!」  
 
スプーンを握り締め、捨て台詞を残して教室から出ていく織部。  
……やっぱりな。あれの上にルーをかけてたのか。やっぱり織部は悪夢の舌を持つ女だな。  
なんで毎回あれを使うんだ?あれにカレーをかけても不味いだけだろ?バカじゃないのか?  
まぁ不味いと言いながら、毎回残さず全部食う光晴も光晴だかな。  
しかし……カレーワッフルか。オレには理解出来ない料理だな。  
 
「お前、カレーワッフルなんてよく食えるな」  
「せっかく織部が作ってくれたんだ、残すのはもったいないだろ?」  
「ハイハイ、そういう事にしといてやるよ」  
 
カレーワッフル弁当を残さずペロリと平らげた光晴。  
コイツは毎日ワッフルが入った弁当を食べている。なんでもワッフルは大好物なんだそうだ。  
で、それを知った織部が必ずワッフルを入れた弁当を作ってくる。  
高校に入学してからずっとだから……もう半年になるのか。  
そろそろ織部の気持ちにも気づいてやれよ。  
毎日弁当作ってくるなんて、普段の高慢な口調とは違い、健気でいいヤツじゃねぇか。  
小さい頃からの幼なじみで学校に来るのも一緒。家に帰るのも一緒で、休みの日も二人でよく遊びに行っているらしい。  
周りから見ればこの二人はどう見ても恋人。オレも最初は二人が付き合っていると思っていた。  
けど光晴曰く、『バ、バカ言うなって!腐れ縁なだけだよ!』  
織部曰く、『ワ、ワタクシが武藤光晴の恋人?ち、違いますわ!……恋人に見えるのかぁ、ウフフフ』  
……二人とも、顔を真っ赤に染めて否定されても、説得力ねぇっつうの!  
 
「しかしなんで毎日ワッフルが入ってるんだ?」  
「そりゃオレの大好物だからだろ」  
「でもお前、甘いものキライだろ?ケーキとか食わないじゃん」  
 
そう、コイツは甘いものが苦手だ。コイツは辛いものが大好きなんだ。  
なのになんでワッフルなんて甘ったるいもんが好きなんだ?  
 
「正確に言うと、『織部里緒菜が作ったワッフル』が大好物なんだ。  
昔、アイツが初めて作ってくれた料理がワッフルなんだよ。  
アイツが料理を作ってくれたのが嬉しくてな。つい言ってしまったんだ。  
『このワッフル、すごく美味い!もっといろんなワッフル料理を食べたい!』ってな。  
あれ以来織部はいろんなワッフル料理を作ってくれている。  
だが今日のカレーワッフルはもう勘弁してほしいな。正直不味すぎだ」  
「は?織部が作ったワッフルが大好物?……やってらんねぇな」  
 
ワッフルよりも甘い惚気を聞かされたオレは教室を出る。  
そして廊下で光晴が弁当を食べおわるのを待っている織部にこう言ってやった。  
 
「光晴のヤツ、カレーワッフルが毎日でも食いたいらしいぞ?  
なんでも織部が作ったカレーワッフルが大好物なんだそうだ。  
織部の作ったカレーワッフルじゃなきゃイヤなんだってよ」  
 
オレの言葉に両手で口を押さえ、嬉しさのあまりに涙目になる織部。  
ざまあみろ!これでしばらくてめぇの昼飯はカレーワッフルだ!  
 
 
 
……ゴメンな。まさか卒業するまでカレーワッフルが続くなんて思わなかったんだよ。  
でもいいだろ?オレがでたらめを言ったおかげで、恋人同士になれたんだからな!  
 
 
……オレにもカレーワッフルを作ってくれる、美人な子が現れないかなぁ。  
 
ワッフルみたいな甘い生活を送りたいなぁ。  
 
 

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