「お〜っす。ご飯食べよー」  
おお、お前か。一体廊下でどうしたんだ?  
「人のセリフを聞きなさい。ご飯食べよって言ったのよ」  
おう。でもこの時間じゃ食堂はカオスだからな。マクドでも行こうかと思うんだが。  
「確かにこの時間じゃ学食は無理ね。そもそも終わるの遅いんじゃない?」  
まあな、あのオッサン勝手に授業脱線して始めた話で爆笑して一人井戸端会議状態だからな。  
そのくせ学生の所為にして長引かせるんだから始末悪ぃよ。  
「ま、今日は用意してあるから、学食やマック行かれても困るんだけど」  
また何か作ってきたのか?  
「ちょっと、『また』とか何回もあるように言わないでよ」  
何回目だと思ってやがんだ。5回目からは数えてないぞ?その五回目も半年前の出来事だしな。  
「人聞きの悪い事言わないでって言ってるの。あたしが料理作ってあげてるみたいじゃないの」  
お前の作った料理食ってるのは事実なんだがな。  
「ま、いつも金欠状態のアンタに恵んでやってるのよ」  
どうでもいいけどそれ、作ってあげてるっていうんだぞ?どーでもいいけどな。  
「いちいちうるさいわね。食べるの食べないの死にたいのアンタの答えはどっち?」  
死にたくないし勿体無いから食うさ。あとな、選択肢が3つなのにどっちってのはおかしいぞ。  
「だからいちいちうるさいのよ」  
 
「はい、これ」  
お〜サンクス。ってワッフル?どうせなら主食系のものを希望したいんだが。それにコレ、なんか厚くないか?  
「ま、食べてみなさいって」  
食うけどさ。  
・・・うん、まあ、とりあえず嫌がらせかどうか聞いておこうか。  
「あれ?美味しくなかった?結構自信作だったのに」  
幸せそうにおにぎり食ってるお前にはわからんわけだ。味見してないんだろ。食ってみるか?  
「い、いらないわよアンタの食べかけなんて!それに味見だってしたわよ。カレーは餡に合うようにルゥから作ったし。ワッフルだってね・・・」  
分かった。確かにワッフル齧った時は思わず幸せになったさ。  
中のカレーも確かに旨い。下手なカレーパンのよりよっぽどカレーしてるしな。  
「ほらみなさい」  
だからってな、甘辛対極のものを組み合わせたら不味いだろうが。ベルギーの人とインドの人が手を繋いで仲良く抗議して来るぞ?  
「カレーだからインド、ってのはアンタにしては愚直ね。それともインド風カレーって分かったのかしら?」  
話逸らすな。  
「そもそもインドにはカレーって言う料理はないのよ。単にカレーっていう料理は欧州出身になるわ」  
はなしそらすな。  
「む〜。うるさいわね。カレー味のパンは美味しいんだから、カレー味のワッフルがあったらもっと美味しいに決まってるじゃないの」  
そろそろ現実見ろって。どう考えても不味いぞこれ。  
カレーのスパイシーな感じと甘さが見事にミスマッチだ。  
「カレーもワッフルもかなり自信作だったのよ?」  
お前さん、普通の料理は旨いのに、創作系はホントNG集だよな・・・  
「だから、人の料理を食べ慣れたみたいに言わないでよ。誤解されるじゃない」  
誤解も何もどうでもいいだろ。お前さん彼氏いるんだろ。俺と二人で飯食ってる状況を気にしろよ。  
「なによ?それ。どっから仕入れたの?そんなうそっこ情報」  
みんな言ってるぞ?  
俺らと違って出来のいい彼氏がいるってな。まあ適当なでっち上げ情報かもしれんがな。  
人気者のなんとやらってやつだな。まあ、悪かったな。  
「はぁ、大体、彼氏がいるいないでアンタとの付き合い方が変わるわけじゃないわよ。そういうんじゃないでしょ?」  
確かにな。  
「じゃあ、授業あるから行くわね。あとよろしくー」  
おーう。んじゃまたな。  
 
 
(そうか。彼氏がいたわけじゃないのか。付き合ってるやつ、いないのか・・・)  
 
 
・・・またあのオッサン脱線講義か。何が億千万なんだよいい加減にしろよな、まったく。  
「お〜い」  
おう。廊下で何やってんだ?  
「いい加減アンタも鈍いわね。12時からすることって何よ?」  
うきうきウォッチングか?俺は飯にするけどな。  
「だからそのご飯よ。どうせ今からじゃ食堂間に合わないでしょ?ちょっと付き合いなさい」  
体育館裏は勘弁だぞ。ボコられる以外なら大歓迎だけどな。  
「違うわよ。はぁ、何か今日テンションちがくない?」  
や、まあ、気のせいだろ。  
「そ」  
 
今日はなんだ?  
「カレーワッフルよ」  
またか。またカオスな世界にご招待されるのか。  
「ふふふ。まあ食べてみなさいって。食べてあたしの前に跪くのよ!」  
足は嘗めないからな。とりあえず貰おうか。  
「はい、これ」  
おーサンクス。  
ん?んーサンドイッチがワッフルで?いやベーグルサンドみたいな・・・  
「まあ食べてみなさいって」  
・・・むぐむぐごっくん  
「ど?」  
おーこら旨い。カレー生地のワッフルか。間のハムの味を引き立ててる。ハムも厚手に切ってあってカレーに殺されてないな。  
「カレー粉を練りこんだのはいいんだけど、練りこんだだけだと美味しくなくって。生地には苦労したわー」  
なるほど。うん、これならカレーワッフルもいいもんだ。  
「でしょでしょ?これであたしの勝ちねー」  
 
あの、さ。  
「え?」もくもく  
こないだ、彼氏のいるいないは関係ないって言ったよな?  
「言ったわね。確か」  
それは俺を対象として見てないってことでいいのか?  
「また難しいこと聞くのね。特定の付き合ってる人がいたからって、アンタとの接し方が変わるわけじゃない、って言いたかったんだけど」  
ふむ。  
「アンタのことを狙ってて友達してるんでもないしね。そういう女じゃないのはさすがに分かるでしょ?」  
まあな。そのくらいはわかるさ。  
「女引っ掛ける為に生きてるようなのや、妙に馴れ馴れしい男もちょっとね」  
お前さん、グーで殴りそうだしな。  
「うるさいわね。あたしは彼氏作る為に女してるわけじゃないってこと。いつかできたらいいなーとは思うんだけどさ」  
そっか。  
「それにしてもアンタにしては珍しいこと聞いてきたわねー」  
 
こないだからさ、ずっと頭から離れなかったんだ。  
「・・・え?」  
お前に彼氏がいないって事。  
「え・・・?」  
俺もな、その、男女間の友情的ななんとやらみたいな感じだと思ってはいたんだが。  
「・・・うん」  
どうやら違ってきたみたいなんだわ。  
「・・・で?」  
・・・良かったらでいいんだが、また飯作ってきてくれな。  
「・・・黙ってても勝手に持ってくるかも知れないわよ?」  
そうじゃなくてだな。明日とか、明後日とか。どうしても無理な日以外は。  
「・・・」  
・・・お前が作った料理が好きだ。  
お前と一緒に駄弁ってる時間が好きだ。  
気楽に話せるお前のことが好きだ。だんだん惚れてったって奴だな。  
これからも続いて欲しいし、出来れば独り占めしてみたい。  
無理な注文か?  
「・・・なんて答えればいいかわからないわよ」  
イエスかノーだ。簡単だろ。別に恨みはしないさ。どんな答えでもな。それとも、答えるのもイヤか?  
「っ!違うわよ!ただ嬉しくて混乱してただけよ意識してないって言ってもアンタのこと男性として見てないわけじゃないし友人としては好きだったし尊敬もしてるし一緒に話してるのはあたしも楽しいしね」  
「でもことそんなこと言われたら意識しちゃうし意識し始めたらもう今までのこととか思い出しちゃってなんて答えたらいいのか全然わからなくって」  
・・・とりあえず落ち着け。舌噛むぞ?  
「うるさいわね。イエスかノーか二択だったわよね?」  
ああ。  
「今晩は暇?バイトあったっけ?」  
最近バイト辞めたからな。派遣も仕事入れてないからヒマっちゃヒマだ。  
「そうだったの?じゃあ今晩はウチに来なさい。晩御飯作ってあげるからっ」  
 
 
「それにしても休講とはねー」  
いいじゃないか。楽だし。  
「夜にまた、って言った手前調子狂うのよ」  
だから時間つぶしに街歩いてるんだろ?  
「それはそうだけど・・・」  
 
 
―――くいっ  
 
(ん?)  
 
袖引っ張んなって。どうかしたのか?  
「ん。なんか嬉しくなってつい」  
唐突だな。  
「最初から嬉しかったわよ?いやでも後からじわじわくるっていうの?アンタのさっきの台詞がエンドレスリピート」  
やめてくれ。  
「やーさっきはカッコ良かったわよ♪録音して残しておきたいわー」  
・・・やめてくれ。んなことされたら恥ずかしくて悶え死ぬ。  
「ならあたしは嬉しくって悶え死ぬわね」  
まあいいけど。嬉しがってくれたらこっちとしても男冥利に尽きるって奴だ。  
「べ、べつにアンタの為に嬉しがってるわけじゃないわ。アタシの為よ」  
へいへい。  
 
ところで晩のメニューはなんだ?決まってるのか?  
「もちろん決まってるわ。カレーとワッフルよ!」  
カレー『と』ワッフルなんだな?  
「美味しくないものは食べさせたくないもの。それに、インドにカレーはないってことを教えてあげるわ!」  
よろしく頼む。これからも、ずっと、な。  
 

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