「おい女紹介しろ」  
「やだ」  
にべも無くあしらわれた。  
事もあろうに俺の前の男は、女を紹介してくれという切なる願いを断ったのだ。  
こいつっ……自分だけ潤ってからにっ!!  
「いいじゃんよ吉野。友達紹介するだけなんだからさー」  
「お前のような口を開かなければもてそうな男に女なんて紹介できるか、羨ましい」  
「そんなこといわずにさー」  
そんなこと言われても告白されたのなんか2回だけだぞ。  
昼の教室でみっともなく頼み込んでいるのに、この金髪男・吉野信哉(よしのしんや)というやつは……  
「頻繁に現実逃避するお前に紹介したってなー」  
「お前なら女の伝手くらいいくらでもあるだろー」  
「俺も万能じゃないんだぞ?嫌がらせのための化物みたいな女を用意できるかどうか」  
「くそっこいつはやく何とかしないと……」  
吉野はこの付近ではやたらと顔が広い。  
そりゃそうだ、市街で見かけた可愛い女に片っ端から声かけている変人なのだから。  
しかも大体携帯のアドレスはきっちり交換してあるし、暇があれば女と遊びに行ってる。  
「まあゴジラと素手で戦えそうな女でいいなら探してくるよ」  
「おい……いい加減怒って泣いちゃうぞ?俺は」  
「そんな事言われてもなー。大体どういうのが好みだっけ?お前」  
ふふ……愚問だ。俺にその質問をするだと?  
俺の許容範囲は108まであるぜ!!  
「とりあえず髪は金髪で」  
「金髪……っと」  
吉野は携帯弄繰り回して何か打ち込んでいる。  
女の容姿を検索する機能でもあるのか、お前の携帯は。  
「身長は普通で。俺との身長差が15センチ以内」  
「身長…えー…160以上か……」  
あれ?なんで人にこんな性癖まがいの事をさらけ出さなければならんのだ?  
なんか妄想抱いてるアホな男みたいになってない?  
 
「気にするもんか。あと、胸はC以下だ」  
「胸が全てだって言うわけじゃないと思うが……まさかあれか?LoLiiiyyyy」  
「それ以上言ったら拳が首に食い込んで骨へし折って脊髄引き抜くぞ?」  
断じて俺は犯罪者でも予備軍でもない。  
「それで?あとは何か要望は?」  
「後は……あんま静かじゃない方がいいかな」  
「前の彼女、無口で可愛かったと思うが?」  
「お前……意思疎通にどれだけ時間要したか分かってないな?」  
半年前まで付き合っていた彼女は極端に無口だったのだ。  
とりあえず彼女の挙動から言いたい事を読み取るまでに軽く2ヶ月ほどかかってしまった。  
ああいうのもいいが、やはり話してリアクションが返ってこないのはきついのだ。  
「じゃあ話題が尽きないような奴……お、あいつがいたか」  
「何何?どんな人だよそれ早くアドレスと番号と住所を教えてくれ凸撃するから」  
「お前必死すぎ」  
 
隣の女子高に通っている女の子で、名前は佐伯理香というらしい。  
とりあえず会わせるということで休日に呼び出して会うことになった。  
そもそも何で最初から1対1で会わなきゃならんのだ。  
合コンのほうが良かったんじゃね?  
そして吉野は物陰から包帯だらけでこちらを見てやがるが、ばれてないとでも思っているのか?  
そもそもその仮装はハロウィンか?女の子に悪戯しにいくのか?  
(お、早速一人引っ掛けたぞ)  
その女を見た瞬間、俺は包帯ぐるぐる男を見た時以上の衝撃を受け、視線が固まってしまった。  
目を引いたのは彼女の格好が普通に往来を歩く人たちと大きく異なっていたからだ。  
何やら漢字がたくさん書き込まれた白い服。  
あれは暴れて走る方々が着ていらっしゃった―――特攻服だッ。  
髪を金髪に染めあげ、なにやら棒状のものをぶら下げているが……あれは見なかったことにしよう。  
多分剣道部か何かなんだよ。でなきゃ何か巻いた木刀なんて持ってるはず無いもの。  
きっと木刀が大切だからコーティングしてるんだ。  
胸は押さえつけているのか、それともそのサイズなのか知らないがそれ程大きくない。  
顔は綺麗だし身体はスレンダーだし、あれで服さえまともならなぁ……。  
「いやー今日はわるいねー」  
吉野、近づいたら殺される……とはこの距離では言えないし、多分吉野は尾行を完璧に行っているつもりだ。  
どこまでも馬鹿な奴だったが、せめて安らかに眠ってくれ……。  
 
「何の用だ、吉野。岬に言いくるめられて来てしまった」  
(あれ?知り合い?)  
いやでも俺の待ち合わせ相手とは違うよね。  
だってしゃべり方見る限りでは饒舌ってわけじゃないし。  
「今日はあそこに座ってるアホ面の男がいるだろ?」  
「ん?…………」  
聞こえるようにいってるのか?もしかしてあいつは。  
黙りこくってじっとこっちを見てる佐伯さん。可愛いなぁ。  
「あのアホ面と今日はデートだよ」  
「デー…………帰る」  
「ええええ、ちょっと待ってって」  
「男なんてものに興味はない。失礼する」  
「まあいいじゃないか一日くらい」  
……どうやら特攻服女が俺の相手だったらしい。  
確かに金髪で身長も俺より少し低いくらいという条件を満たしてはいる。  
しかしこれはどうなの?  
アリか?むしろこれは逆に考えてアリだったりするのか?  
でもヤンキーというかその……アリなのか?  
むむむ、と俺が考えているところに、吉野はとんでもない事を言ってのけた。  
「じゃあお試しで連れてけよ。羆と指一本で張り合う程強いからさ、稽古相手にでも」  
「……そうなのか」  
佐伯さん、その男の情報を鵜呑みにしたらダメだから!!  
この日本の都心にそんな猛獣がうろついてるわけ無いのだから。  
どんな世紀末なら起こるんだ、羆との乱闘なんて事が。  
頭の中で佐伯さんの世界観について熱く述べている途中、彼女はこちらに歩いてきて胸倉を掴んできた。  
「おいお前」  
「はっ、はい」  
ぐい、と顔同士が近づき、若干煙草の混じった香水の香りが鼻をくすぐる。  
ああ、近くで見ると綺麗さも3倍増しだなあ……  
見詰め合うこと十数秒。  
「お前羆と闘って勝ったらしいじゃないか。少し付き合えよ」  
「いや、それは誤解であって……」  
「何っ!!五回も勝負したのか!!!」  
この人、顔はいいのに頭があれなんじゃないだろうか。  
それともあれか?俺のイントネーションがおかしかったのか?  
しかも何を考えたのか眼をキラキラさせながら俺を誘ったのだ。  
「それは凄いな……では勝負しようか」  
 
「フフフ……ボーリングで負ける気はしない」  
「うう…やられたッ!!こんな屈辱生まれて初めてだ!!!」  
スコア76点。それが俺の記録。  
スコア189点。それが彼女の記録。  
なんとか宥めかして当たり障りの無い競技に(拳を使わない方向で)説得したものの……  
男としての面子ってものが…体面ってものが…いや、ここまでギタギタにされたらどうでもいいか。  
「そもそもボーリングってのが間違ってるよ。俺のハイスコアは108  
「じゃあ別の競技でなら勝てると?」  
バッティング→大敗  
カラオケ→大敗  
レースゲーム→大敗  
格ゲー→大敗  
早食い→大敗  
……  
…  
もう言葉も出ない。  
「それでも男なのか?お前」  
「何か一つ…何か一つだけでも……」  
「ぶつぶつ言ってるなら置いていくぞ」  
「佐伯さん、まだどっか行くの?もう9時になってるんだけど」  
佐伯さんは不思議そうな顔をしてこちらを見ている。  
「デートの終わりにはホテルに行くもんだと教わった」  
「……」  
「吉野が友達に手配しておくと言っていた。何か偽装工作だか何とか」  
「……」  
もう何か言ったりツッコんだりのはやめにしたい。  
何故かと言うと、佐伯さんの思考についていけなくなってしまったからだ。  
吉野は何をいったか知らないけど余計なマネを……  
「さあ行くぞ」  
「佐伯さん?いやあのまずは落ち着いてとりあえずすこし休んでみてから考え」  
「慌ててるのはお前だぞ、ホテルは休む為にあるのだ」  
「いやまあそうなんだけど」  
彼女の異常な腕力が俺の腕をがっしと掴んで話してくれそうに無い。  
「じゃあ問題ない。行こうではないか」  
「いやあああああぁあああぁぁ」  
引き摺られていく姿はきっと水揚げされた魚介類に似ていただろう。  
 
「…あの…お前、じゃなくて…えー…」  
「……」  
もうブルーだ。もう何も言わないぞ。顔色もきっと青色ダイオードみたいになってるに違いない。  
女の子と二人でホテル=密室、しかもなんか佐伯さんも話しかけづらいみたいだ。  
鬱だ。さんざん負けた上に女の子ともまともに会話できないとは……  
彼女がいた奴の台詞じゃないが、あいつはまた別だ。  
しかも何だこの無理やりな展開は?作為を感じるぞ、これは。  
多分これも全て吉野の仕掛けた壮大なドッキリだったってオチが一番いいんだけど。  
「その……えーっと……」  
大体最初の時点からおかしいんだよ。特攻服なんて。  
こんな可愛い娘がそんな格好してるなんて似合わないしね。  
「…実は…前に見かけた時から…」  
いや、これは俺の妄想の産物ということですませるのが一番なんじゃないだろうか?  
そうだよ、きっとどこかからの電波が交じり合って今の状態が生まれたんだ。  
「というわけで……わ…わたしと…」  
多分誰かに張り倒してもらわないとこの幸せな状態は抜け出せそうにないな。  
ていうかあれだ、もう夢なんだ、これは。  
こうなったら告白して、丸ごといただいちゃうのが筋っていうか大宇宙の意思?  
「私t「佐伯さん!!!付き合おう!!俺ら!!!!」  
ほら、佐伯さん目丸くしちゃってるよ。  
やっぱ引くだろ……と思ったら今度は顔が赤くなっていく。  
「えと、あの、つっ…つきあって…も……いいぞ」  
赤らめた顔とかもじもじする所とかされると、尚更可愛いなあ。  
OKもらえたのもきっと夢だからなんだな。  
密室という空間もあってか、俺の顔…いや頭もかなり熱くなってきた。  
「佐伯さんっ!!!」  
「何…んむっぅっ!!」  
可愛さのあまり飛びついて唇を奪ってしまった。  
勢いがつきすぎて少し痛かったが、気にせずしばらくそのまま押し付けあう。  
佐伯さんの息が苦しそうになっていたのでそっと離した。  
「はぁっ……はぁ…」  
「つい我慢できなかったよ、佐伯さん可愛いから」  
「いい……気にしないで、いい…から…」  
俺を連れまわしていた時の強気な態度はどこへやら、今は一転弱弱しかった。  
「お詫びにもう一回……ね」  
「ん……」  
今度はゆっくり、しかも段々と唇を吸ったり舌を使ってみた。  
お詫びの気持ちと、彼女の反応が見たいという本能で。  
「んぅ……はぁ…ん……ぁん…」  
時折口から出る吐息がどうしようもなく艶かしく感じられる。  
さすが夢、質感とかも想像以上だぜ!!  
ふはは、現実から逃げて狂戦士となった俺を止める者などいない!!  
「ん……じゃあ服脱いでくれる……?」  
「わかった……」  
 
さっきより顔が朱色なんだけど、大丈夫なのかな。  
でも俺が脱がすってのも恥ずかしいだろうしなぁ……  
パサリパサリと服を脱いでいくと、透き通った肌が露わになっていく。  
染めていて多少痛んだ髪とは対照的に、それはとても滑らかで繊細だった。  
その綺麗な裸身を見て、やっぱりここは夢の中だった、そう思う。  
「ごめん……あんまり大きくないんだ……」  
「女の価値は胸じゃない!!!」  
「ひゃっ!?」  
小振りだが形が良く張りもある、理想の形だ。  
「ぁ、ん……ひぃっ…ぁん……ぅあ…」  
とりあえず後ろから両手で軽く揉み、たまに先端に触れる程度の刺激を与える。  
この後ろから見たアングルはエロいなー。  
それからしばらくは愛撫を続け、彼女の身体をほぐすことに専念する。  
「はあぁっ…あぁっ……あ、んぅっ……」  
昼間の彼女からは考えられない、ただこちらの責めに耐え忍ぶ姿。  
もう俺も何も考えられなくなっていた。  
ぐったりとした佐伯さんの足を割り開くと、そこは散々弄った成果が現われていた。  
言葉で確認するでもなく、俺と佐伯さんは御互いを見つめ、頷いた。  
 
彼女の反応を見ながらゆっくり、ゆっくり腰を進めていく。  
「…!………ッ」  
男には想像も出来ないほどの痛みだろう。  
何しろ他人が内蔵を押し広げながら入ってくるのだから。  
だけど佐伯さんは強かった。  
痛いはずなのに、爪が俺の肩に食い込む位痛い筈なのに、耐えようとしていたんだから。  
もう夢とか現実とかは問題ではなくなっていた。  
目の前の、強気であろうとする彼女が、どうしようもなく愛おしかったから。  
最後まで入っとき、彼女が無理に作った笑顔が、脳裏に焼きついている。  
あとはなんかムチャクチャだったから覚えていない。  
都合がいい記憶だ。何しろ夢なんだから。  
 
 
 
「……ん?」  
目覚めると窓から差し込んだ光が顔を照らしていた。  
昨日の佐伯さん、あれは結局俺の妄想による夢だったのか……。  
「……ん?」  
良く見ると部屋の装飾がウチの部屋と異なってる。  
ベットもこんな、……あ?  
「佐伯……さん?」  
佐伯里香。夢の中の恋人。何故ココに?  
良く見ると裸で俺の腕の中で寝てる。何が起きた?  
「んぅ……ん…………」  
あ、やばい、起きそうだ。  
とりあえず彼女に何か着せるものを……あれ?  
佐伯さんのあの部分からどろっとした白いものが垂れてる……  
しかもベッドにのいたるところにも……  
……中田氏ヤッチマッター?  
ここは起きないうちにエスケープした方が……  
「んふふふ…だいすきだよぉ……」  
ヤンキーなのにそんな事言うのはやめて欲しい。逃げられなくなった。  
しかも良く思い出せば、こちらから告白しちゃったんだよな。  
うう。  
責任……とるしかないよな。  
一緒にいて話題が尽きる事はないだろうな、と思う。多分引っ張りまわされるから。  
ああ、起きそうだ。俺の彼女(仮)が。  
 
もう一度告白すると起こられるだろうから、先に謝っておこう。  
 

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