青年は自室で寝っ転がってテレビを見ていた。狭い部屋の中には様々な本が何本も塔を成し、ゲーム機やDVDデッキなどがゴチャッと置かれている。一見乱雑ながらも、そこに住まう者にとってはもっとも効率良く物が配置されている、典型的な独り者の部屋。  
 あまり大きく無い液晶のテレビ画面に映っているのは、DVDに録画しておいたローカルテレビ局の放送だ。  
 サイコロキャラメルの空き箱を握り締めた男が、大きな駅前だというに辺り憚らず画面内狭しと飛び跳ねている。もう一人、モジャモジャ頭の男性が、その様子を固唾を飲んで見守っている。  
 力一杯、男の腕が振られ、サイコロが宙を舞う。  
 と、いい所でコマーシャルになった。  
 購入したDVDソフトではなく放送を録画した物なので、コマーシャルまでそのまま一緒に録画されているのだ。  
「よっこいせっと……」  
 青年は体を起こし、飲み物を取りに立った。こういう時に、コマーシャルと言う存在は実にありがたい。  
 十秒とかからず辿り着ける場所にある冷蔵庫を開けて、ペットボトルをラッパ飲みして、そのまま戻す。  
 そこで、ふと、彼の耳に届く音があった。妙に騒がしい。部屋の中からではない。外からだ。  
 騒がしいと言っても、暴走族のような分かり易い騒音ではない。だいたい、この辺りの彼らは意外と根性が無く、バイクに乗っても寒くない、春から夏にかけての温かい時期しか出てこない。  
 内容までは聞こえないものの、声が纏う雰囲気からは楽しそうな様子が浮かぶ。甲高いざわめき。パタパタと駆けていく軽い足音。それも複数。  
 首だけを捻って、壁にかかったカレンダーを見やる。日付は、十月三十一日。なんかあったよなぁ、と記憶を漁って、冷蔵庫の扉を閉めたところで彼はようやく納得した。  
 ハロウィンか。日本人にゃ、あんまり縁の無いイベントだよな。  
 青年の感想はそう思う程度に留まった。  
 町内の子供会か、小学校辺りで主催しているちょっとした地元のイベントだろう。  
 そんな事を考えつつ青年が部屋に戻り、ごろりと元いた場所に寝転がると、タイミングを見計らったようにコマーシャルが終わった。  
 画面の向こうで、サイコロの出目が大写しになる。同時に二人の出演者が、がっくりと膝を付く。  
『……ッッダメ人間!!!』  
 コン、コン。  
 テレビからの血を吐くような罵声に混じって、乾いた音が聞こえた。二度、ドアが叩かれた音。ノックの音だ。  
 青年は首を捻った。夜はそれなりに更けている。時間が時間だ。新聞の勧誘や、宗教関係者にしては仕事熱心すぎる。  
 もし仮に青年の友人達ならば、礼儀正しすぎる。彼らは大抵、ノックなど無しに問答無用でドアを開けて入ってくるからだ。  
 思い当たりそうな選択肢を、頭の中でとっかえひっかえ。だが、どれも当てはまりそうに無い。  
 コン、コン。  
 再び、規則正しく間を開けて二回、控えめにドアが叩かれる。  
 とりあえずは開けるしかないだろう。  
 居留守を使う意味も無い。使ったところで、どうせテレビの音でバッチリばれているだろう。  
 
「はいはーい。今出ますよー」  
 がちゃり、とドアが開かれる。  
「Trick and treat」  
「……はへ?」  
 果たして、青年の予想を全て裏切る訪問者がドアの外には立っていた。  
 訪問者は、一人の少女だった。  
 黒いトンガリ帽子。  
 尖った先端は青年の首に届く程度。中身の方は、たぶん頭の天辺が青年の胸に届くか届かないかくらいだろう。  
 黒いワンピース。  
 薄手の黒い布が凹凸に乏しい細い肢体を包んでいる。スカート裾や袖口はギザギザの波になっていて、肘から先は露出していてこの季節の服としてはちょっと寒そうだ。  
 黒いオーバーニーソックス。  
 ぴっちりとフィットして、肉付きは薄いが伸びやかな足のラインを露わにしている。ニーソックスとスカートの間から覗く素肌は染み一つ無く、健康的に白い。  
 そして、ふわりと広がるスカートの裾から姿を見せているのは、薄いオレンジ色のぱんちゅ。もとい、カボチャパンツ。  
 少女のワンピースのスカートは、年齢の割に大胆なまでに短かった。提灯のように大きく脹らんだパンツの一部がスカートの裾を押し上げて、見えてしまうくらいに。  
 あれは下着としての役割を果たすパンツではなく、コスチュームの一部なのだろう。  
 と、青年は一人で勝手に納得した。  
 だいたい、肝心の隠すべき中身が見えてしまうようではスカートの意味がない。  
 魔女の服装にオレンジ色のカボチャ、と言う事で頭の先から爪先まで統一したテーマを持たせて全身でハロウィンらしさをアピールしているのだろう。  
 ハロウィンのカボチャとカボチャパンツをかける辺り、そしてソレを周囲にアピールするコスチュームにする辺り、青年はこのコスチュームのデザイナーとはいい酒が飲めそうだと思った。  
 一見した所で素材がどうの裁縫がこうの、と言えるような知識は青年には無かった。  
 ただ、良く出来たコスチュームだというのは分かった。  
 あつらえたような、と言うよりは上から下まできちんと一式あつらえたのだろう。安物の既製品を着ているような、だぶついたりキツキツだったり無理をしている感が全くしない。  
 念の入った事に、小振りな金属製と思しき角燈までもが少女の腰にぶらさがっていた。  
 おおよそ円筒形をしていて、明かり取りの窓は一つきり。その丸窓の中で、熱の無い青色の光が無気味さを煽るように揺らめいている。  
 突然の少女の訪問と、そしてその訪問者の可愛らしさにしばし呆気に取られる青年を、少女が楽しそうな表情を浮かべて見上げる。  
 少女が上半身を傾がせた拍子に腰の角燈が、かろん、と音を立てる。  
 
「すごいな、そのコス、良く出来てるね」  
 青年は素直に感心した。  
 同時に、「炉裏のおぱんちゅハァハァ」とか言ってる節操のない脳内自分の一部に、『パーン!』のアスキーアートと共にツッコミを入れてやる。  
 青年の素直な賞賛に、少女は輝くような微笑みで返事をした。  
 少女が再び口を開いた。  
「とりっく・あんど・とりーと、だよ。お兄ちゃん」  
 鈴を転がすような、とはまさにこの事。  
 楽しいイベントの途中なのだろう、弾むような声音からもそれが伺える。  
 間抜け面を晒す青年の様子から察したのだろう。流暢だった英語の発音もさっきよりも大分カタカナに近くなり、青年にも聞き取れるようになっていた。  
 ハロウィンについての知識が乏しい青年だけれども、少女の台詞に少しだけ違和感を覚えた。  
「あーっと、なんだったかな。確か、お菓子あげるんだったっけ?」  
「そうだよ、お兄ちゃん」  
 青年は、その違和感が自分自身の知識不足によるものだろうと思い、そいつを意識の隅に追いやって、さらにポイと捨てた。  
 仮に彼が自分の覚えた違和感の正体が分かったとしても、子供だから言うべき台詞を間違えて覚えたんだなぁと想像するに留まっただろう。  
 少女が真実、その言葉通りの意図を持っているなど欠片ほども思わず。  
 青年はハロウィンをよく知りはしなかったが、それでも、何をどうすればいいのかくらいは知っていた。歴史的な背景や宗教的な意味は兎も角として。  
「お菓子って言ったってなぁ……ちょっと待っててね」  
「は〜い」  
 なにか子供にあげられそうなのはあったかなぁと記憶を引っくり返しながら、青年は部屋に引っ込んだ。まずは机の上から行方不明のお菓子捜索作戦に取り掛かり、ついでに机の上に置いてあるリモコンでいまだ掛かりっ放しのDVDを止めて、黙らせた。  
 明るく返事をした少女の後ろで、独りでにドアが動いた。  
 きい、と僅かに蝶番の軋みをあげる。誰も触れてもいないのにドアがゆっくりと閉まっていく。  
 少女は手も触れていない。閉まるほど強い風も吹いていない。  
 ドアノブが捻られ、ボルトが引き込まれ、がちゃんと大きな音を立てないようにして閉まった。まるで、見えない誰かが静かにドアを閉めているよう。  
 僅かな音も、空気の揺らぎも生まずにドアは閉まった。  
 少女に背を向けたままの青年は気付かない。  
 かしり、と小さい金属音と共にサムターンが回って、しっかりと鍵がかかる。  
 日本人離れした涼しげな美貌には、うっすらと薄暗い笑みが浮かぶ。  
 ごそごそと探し物をする青年の後ろ姿を、ゆらりと揺らめく鬼火のような光を双眸に宿した少女が見詰めていた。  
 
「うーん、残念だけどあんまりいいのがないなぁ」  
 なんともタイミングの悪い事に、菓子の類いは買い置きがなくなっていたのだ。冷蔵庫の中身も減っており、青年もそろそろ買い出しに行かねばと思っていた頃だった。  
 頭を掻き掻き戻ってきた青年の手に握られるのは、数少ない生き残りの一つ、紙製のパック。  
 少女にポッキーの箱を見せた。  
 箱の紙パックの封は解かれ、いくつか入っている内部の包装ビニル袋も一つは開けられており、見たとおりの食べかけだ。  
 まだ開けたばかりとは言え、流石にこいつをほいとあげるのは気が引ける。しかし、わざわざ青年の家を訪れた、楽しいイベント中であろう少女を悲しませるのはもっと気が引ける。  
「これしかないけど、いいかい?」  
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」  
 わーい、と無邪気にはしゃぐ少女を目の前にして、青年の心にふと魔が差した。  
 開けられたビニルパックの中からポッキーを一本摘み取り、満遍なくチョコレートがコーティングされた先端を軽く咥えて、   
「はい」  
 と、少女の視線と高さを合わせるように体を屈めて、突き出した。  
 いわゆる、ポッキーゲームの姿勢。学生のコンパや、ホステスとの遊びでの定番メニューだ。青年は耳にはした事はあれど、目にした事や実際にプレイした事は無い。女と縁も無ければ金も無い彼にとっては、都市伝説。  
 青年としては、何も意図しない、ただの気まぐれだった。いや、その気まぐれさえも、ナニカの気に当てられたものか。  
 最後までどころか、ポッキーの端に口をつけるのすら強要しようとは思っていない。  
 この可愛らしい少女がどんな風に戸惑うのか、見てみたい。  
 そのつもりだった。  
 さく……。  
 青年が咥えるのとは反対の、チョコで覆われていないクッキーの地が露出した柄の部分。少女はそこを口に含んだ。  
 青年の全ての動きが止まった。  
 目と目が合う。そこで初めて、青年は少女が外国人の血を引いていると知った。  
 少女の瞳は青かった。蛍光灯の光を反射しているのだろう。少女が腰から下げる角燈と同じように、ゆらゆらと蒼い炎の如く揺れるそれはまるで、死沼に誘う鬼火<ウィル・オー・ウィスプ>。  
 吸い込まれそうなほど青い瞳に魅入られてしまったかのようで、青年の頭の中身は全て吹き飛ばされていた。  
 さく…さく…。  
 白く小さな歯が軽い音を立てて、チョコレート菓子を噛み砕いていく。  
 歯が小気味いい音を立てるたびに、二人の距離が徐々に近づいていく。  
 そして、それはやがて、零になる。  
 
 少女の唇は、チョコレートの味が移ったかのようだった。  
 唇同士がほんのちょっとだけ触れ合うほどのごく軽い、でも甘い甘いキス。  
「うふふ。お菓子ありがとう、お兄ちゃん。美味しかったよ」  
 少女が離れてもなお、青年は呆然としていた。思考も、体も凍りついたまま。  
 予想の遥か斜め上を行く少女の行動に、反応できないでいた。  
 つい、と少女から青年に差し伸ばされる物がある。先ほどは青年から伸ばされたが、今度は反対だ。  
 それは少女の人差し指。  
 男の物と比べれば遥かに繊細で柔らかい。その柔らかさがどのくらいなのかと、青年は己の唇で知らされた。  
 唾液と体温で溶け、唇に少しだけ付着していたチョコレートを、少女の指がそっと拭い取る。  
 そして、少女は何の躊躇も見せずに、チョコがついた指をぺろりと舐めた。  
「とりっく・あんど・とりーと、だよ。お兄ちゃん」  
 口中に己の人差し指を含んだまま、目尻を細めて微笑んだ。  
 それは、少女と言う年齢にはまるで似合わぬ、とても艶めかしい笑みだった。  
「"とりーと"はもう貰ったから、次は"とりっく"だね」  
 この時点まで来て、ようやく青年の思考は再び回転を始めていた。青年は慌てた。  
 おかしい。こんなハロウィンは聞いた事がない。  
 お菓子か、さもなくば悪戯か。  
 それがハロウィンの伝統の筈だ。実際に参加した事のない青年だって、それくらいは知っている。  
 その青年の狼狽振りが面白かったのか、少女がくすくすと笑う。  
「言ったじゃない。とりっく・あんど・とりーと、だって」  
 青年の無知と慌てぶりを嘲笑っているのではない。  
 あくまで軽やかに愉快そうに。年下の子供の間違いを直して上げるかのように優しく微笑みながら、少女は青年の思い違いを正す。  
 "とりーと"は、菓子。"とりっく"は、悪戯。  
 二つの単語を繋ぐのは、"オア"ではなく"アンド"。  
 ならば、少女の意思は、こうなる。  
「だから…お兄ちゃんがお菓子をくれたから……悪戯してあげる」  
 
 それは少女の言葉と同時だった。  
 少女に向かって屈んだままの姿勢でいた青年が、バネ仕掛けさながらの勢いで跳ね上がり、突如として"気をつけ"の姿勢になる。否、青年にそのような意思は無い。させられる、だ。  
 二の腕が水平になるまで肩が上がり、ついで右腕が肘の所から直角に曲げられ、くるりと回転して指先が天井を指す。左もまるで同じ。  
 兵隊のようにきっちりと気をつけの姿勢で揃えられていた両足が開き、休めの姿勢になる。脚の開きが大きくて膝も曲がっているので、休めの姿勢と言うよりはがに股に近い。  
 まるで見えない展翅台に生きながらに貼り付けられた蝶の標本。  
「俺をどうするつもりだ!」  
 青年の怒気を含んだ怒鳴り声など、どこ吹く風。力の差は歴然としている。どこに怯む必要があるのか。  
 先ほどと同じように、少女がくすくすと笑う。  
 目を細め、桜色の綺麗な唇をにっこりと吊り上げて。年下の子を優しくたしなめるように。  
「ねぇ、お兄ちゃん。普通の子供が、こんな風にお兄ちゃんを金縛りにできると思う?」  
 言外に含む意味は明白。  
「お…俺をどうするつもりですかァ?!」  
 いきなりヘタレる青年。まぁ、無理もないが。  
 全くの突然に彼の日常は目の前の少女に粉砕され、思いも寄らない未知の恐怖に曝されているのだ。百戦錬磨の戦士だとかではない普通の大学生ならば、そうなって当たり前だろう。  
 青年の手も足も、感覚だけを残して神経が切られたみたいで指一本どころか身動ぎ一つ出来ない。その癖、首から上は完全に自由で、少女が何をしようとしているのかは良く見えた。  
 少女は、青年の足元に膝まづいていた。  
 僅かな布の隔たりの向こう側に汚らわしい雄の器官があるのにも躊躇せず、そっと顔を寄せる。少女が、青年を見詰めた。  
 ぞわり、と青年の背筋を走り抜けるものがあった。  
 恐怖と快感だ。そのどちらもまだ精神的なもので、何かを肉体に直接与えられて引き起こされる物ではない。  
 その二つが一緒に背筋を走り抜け、ぞくりと身を震わせる。実際にはそういう錯覚を起こしただけで、金縛りの体は相変わらず身動き一つ出来なかったが。  
 彼はその二つの感情が、相反するように見えて実は同居できるのだと言う事を、幼いと言ってもいい年齢の少女に教えられていた。  
 恐怖は、風に揺らめく炎の如くチロチロとざわめく少女の蒼い眼光によって。  
 快感は、ジーンズの股間に顔を近づけられチャックを咥えられる事によって。  
 少女の意図は明白だった。  
 見せつけるようにしてゆっくりとチャックが引き下げられる。ジジジ…と金属の擦れあう小さな音がする。  
 少女の動きは一つ一つがゆったりとしていた。別に動作が緩慢な訳ではない。青年が、目で見て、情報が脳に届いて、それを理解して、心に染み渡るまで待つ。  
 自分が何をされているのか、じっくりと噛み締めさせるように緩やかな動きだった。  
 それはいっそ扇情的と言ってよかった。  
 
 はぁ、と少女が咥えていたチャックを吐息と共に離した。  
 そこにはまるで媚薬でも含まれているかのよう。  
 直に触れられた訳でもないのに、たったそれだけの行為で青年の肉棒は充血し始めていた。  
「お兄ちゃん。ジャック・オー・ランタンって知ってる?」  
 青年は、その問いに答えるどころでは無かった。  
 股間から沸き起こる熱を必死の思いで防ごうと苦悶していた。少女の吐息が細胞一つ一つに染みこんで、まるで内から炙っているように感じられる。  
 この少女が見た目通りの存在ではないと骨身に知らされている最中では有ったが、それでも十歳近く下に見える女の子の前に勃起したブツを晒す訳には行かない。  
「知らないってお顔してる。仕方ないかな、あたし達ってこの国じゃまだまだマイナーだもの。でも、だから、もっとハロウィンを知って欲しいの」  
 少女が、彼の理性と倫理観と衣服を一枚一枚剥いていく。  
 カチャカチャとバックルを言わせながら、ズボンのベルトを外す。  
 青年は腰を振って、何とか少女の手から逃れようとしたが、徒労に終わった。  
 動かそうという意思に、体は全くの無反応。いまだに青年の体をがっちりと拘束する金縛りが解ける気配は無い。  
「だからね、こうやってハロウィンを知らない人に教えてあげてるの。  
 本当はアンドじゃなくってオアなんだけど、それくらいも知らない人には細かい所がどうなってるーとかよりも、まずは知ってもらわないとね」  
 青年の抵抗も空しく、ジーンズが下ろされた。グレイのトランクスが露わになる。  
 こうしてあげれば絶対に忘れないでしょ?、と極上の笑顔と共に少女は言った。  
 初めは背筋を冷たく走っていた恐怖は、既に半ば以上が肉欲への期待感に駆逐されていた。  
 トランクスの下の器官が、青年のどこよりも雄弁にその事実を物語っている。  
 そこは既に丘となっていた。まだ丘の標高は低い。頂きとはなっていない。なってはいないが、ゆるゆると勃ち上がり、着実に天を突こうとしていた。  
「それにぃ…これは、いやいやしてるって訳じゃないのよ」  
 少女の言葉に嘘は無かった。彼女の笑みがそれを証明している。  
 目前に迫る卑猥な盛り上がりを嫌がる風でもない。  
 それどころか、ソレが親しい友達にも秘密にしておきたいほどの大切な宝物だとでも言いたげに。  
 鎌首をもたげつつある脹らみを、そっと掌で覆い隠した。  
「お兄ちゃんみたいな男の人に悪戯するのって、すごく面白いんだもの」  
 少女から、春風のように暖かい微笑みは失せていた。  
 今、彼女の貌に浮かぶのは、鼠をいたぶる猫のそれ。  
 青年の肉棒が、どくんと一際大きく脈動した。  
 
 青年の顔に浮かぶ、苦悶の表情は意味が変わっていた。  
 彼は趣味こそ多少特殊な部類に足を踏み入れてはいたが、一般常識と倫理観は普通だった。  
 従って、見せてはいけない相手に見せるべきでないモノを見られてしまう事を嫌がった。必死に小さい手から逃れようとしていた。  
 が、今は違う。  
 動きの止まった手が、その先を与えてくれない事に苦しんでいた。  
 肉の発する熱を余さず感じ取ろうというのか。可憐な手の平は、下着を突き破らんばかりに押し上げる肉棒を、布切れ一枚挟んで包み込んでいた。  
「うふふ、お兄ちゃんのすごく熱〜くなってる」  
 無垢である筈の少女の口から、淫らな言葉が発せられるたび、山の頂きが高くなる。  
「あ!今、ぴくんって動いたよ」  
 羞恥心に顔を真っ赤に染めながらも、青年は顔を逸らさなかった。  
 いや、逸らさないのではない。逸らせない。ダメだと理性が訴えるものの、愛らしい少女の手で触れられているという事実が何よりも彼を昂ぶらせる。  
「とくんとくんってしてる。なんか爆発しちゃいそう」  
 少女は、青年が認めたくない事実を一つ一つ丁寧に指摘して、雄の部分を包んでいる薄皮を剥ぐ。  
 言葉通り、まるで心臓が股間に移ってしまったかのように感じられた。  
「それに、こんなに硬くなっちゃってる…」  
 手の平で脹らみを押し包みながら、中の感触を楽しむように少女が指を蠢かす。  
 くにくにと細い指先がグレイの布地の上で動く度、甘くもどかしい感触が沸き起こっては青年に歯軋りさせる。  
 少女が、小さな唇を窄めて、滾る頂きへと近づけた。  
「なっ?!いや、そんな事しちゃダメだって!」  
「嘘つきなお兄ちゃん。本当はもっとやってって思ってるくせに」  
 青年の制止も少女には届かない。  
 ふぅ、とバースデーケーキの上にたつ蝋燭を吹き消すような感じで、肉棒の先端がいる辺りを軽く吹く。  
 トランクスが燃えた。  
 青い炎に包まれて、瞬き一回にも満たない時間で、灰も残さず燃え尽きる。だと言うのに、青年の肉体には火傷どころか熱すら伝わっていない。  
 途端、戒めから解き放たれた肉棒が、ぶるんと暴れる。  
「あははっ、出た出た〜!」  
 ひょいと軽やかに少女の頭が後退する。  
 
 それが来ると予め分かっていたようなごく自然な動きで、振るわれる肉棒が触れるか触れないかのギリギリの距離を保って避ける。まるで相手の間合いを全て把握した熟練の格闘家だ。  
「あは、お兄ちゃんったら元気〜。それに、ほら、こんなにぷっくりしてる〜」  
 ぴと、と熱く赤く火照った肉塊にひんやりした細い指先が触れる。  
 そっと、慈しむかのように、あくまで優しく。  
 おっかなびっくりで触れているのが分からないほど弱くもなく、かといって好奇心に任せて痛みを与えるほど強烈でもない。その微妙な力加減をわきまえた様は、手練手管に長けたオンナそのものだ。  
 白い指先が、まぁるく円を描く。頭にこさえたコブを撫でてやって痛みを和らげてやるように、ゆっくりゆっくりと。  
 青年が苦しげに喘ぐ。彼の肉棒から腰の裏を伝って、背筋を通り、延髄へと快美電流が流れる。  
 少女はその声を聞きながら、嬉しそうに指を動かす。  
 すりすり、すりすりと小さな円を描きつづける。  
 触れているのが分かるけど、けして強くない。あまりにもどかしい刺激に、もっと強くしてくれと青年の身体が懇願の涙を流し始めた。  
「ほらほら、お兄ちゃん。分かる?先っちょから、ねばねばしたのが出てきたよ?」  
 零れ落ちる透明な粘液を指の腹で受け止めては、少女はソレを亀頭全体に塗り広げていく。  
 羽毛で表面を撫でつけるような愛撫に、じれったい快感と切なさだけが青年の内に積もっていく。  
 じくじくと痺れるような快感が、雪のように降り積もる。だが、少女はけして青年に雪崩を打たせない。  
 張り出したエラから艶々した表面まで満遍なく這い回る指先は、とろとろと先走りを垂れ流す鈴口に到達した。  
 指先が尿道口を擦り、ほんの僅かだけ押し入って、くにゅっと穴を広げる。  
 一際強烈な刺激に青年が仰け反った。がつっと後頭部が床に当たるが、痛みなんて感じてる余裕は無い。  
 弾けそうになる寸前。  
 きゅ、と根本を押さえられた。  
「ぐっ!ぐあぁぁぁっ!」  
 白い渦は、奔流となって肉筒を駆け抜ける事を許されずに逆戻り。  
 一見たおやかに見えて万力の如き剛力を秘めた指は、噴きだす事など許さない。指の戒めをすり抜けたちょっとだけ濃い先走りが、ぴゅるっと一滴、力無く吹くがそれだけ。  
「ダーメ。まだイカせてなんてあげなーい」  
 天使のような笑みと優しい声の、残酷な宣言。  
 
 快感を苦痛にすりかえられ、その二つが混ざった荒い呼吸をする青年の体が、ガクリと動いた。  
 ゆっくりと青年の体が倒れ始める。彼の背中の下に見えないジャッキでも据え付けられたような感じだ。まるでダンプの荷台に寝かされているように倒れていく。  
 とうとう、青年は仰向けになった。  
 快感、苦痛、恐怖、屈辱、被虐。  
 全てが混ぜこぜになった彼を、少女が見下ろしていた。  
 少女は何も言わない。黙っている。黙って、彼の開かれた両足の間に立っている。  
 いまや、床に仰向けになった青年の無力な様を、黙って眺めて楽しんでいるかのようだ。  
 唇は閉ざされているが、彼女が何事かを企んでいるのは青年にも分かった。  
 僅かに朱の散らされた少女の頬がもごもごと動いている。  
「まさか…」  
 青年の顔が歪む。  
 少女は見逃さなかった。恐怖と嫌悪に慄くソコに一筋の期待が含まれていた事を。  
 少女は青年が望む事をしてやった。  
 ちろり、と舌を突き出す。  
 一拍の間をおいて、唇で塞き止められていた物が流れ出した。  
 唇を通り抜け、舌の腹を流れ、尖らせた先端から狙った場所目掛けて滴り落ちる。つぅ、と唾液が細い滝と化す。  
 青年が息をするのも忘れるほど見守る中、唾液の流れは狙いあやまたず、亀頭の裏側に落ちる。  
「うぅっ!」  
 彼の体で最も熱くなった所に、少しだけひんやりとした液体が伝う。その温度差に青年が呻く。彼は、少女の体温を感じていた。  
 少女は僅かに顔を揺らして、亀頭表面に満遍なく唾液を垂らしていく。  
 透明な唾液は先走りと混ざりあい、肉棒を淫猥に濡らしていった。  
 目も眩みそうな屈辱。  
 同時に何と言う甘美な快感。青年がどういう感情を抱いているかは、彼の股間が一番雄弁に語っていた。  
 異能の力を持つ人外の存在とは言え、見た目は年端も行かない少女に良いようにされる。  
 異常すぎるシチュエーションもあいまって、屈辱が被虐の快楽へと転化する。  
 いつの間にか、青年は少女によって与えられる酷く歪んだ快楽を受け入れていた。否、心待ちにしていた。それは少女に膝を屈したのと同義であった。  
 既に青年は犬のように彼女の行為を待ち望んでいた。  
「お兄ちゃんはぁ、こーして欲しいんだよね〜?」  
 すっ、と足が持ち上がる。  
 
 肉付きの薄い、年相応の幼い足。  
 盛りのついた犬さながらの勢いで青年の鼻息が吐き出される。円やかさはないがほっそりとした複雑な曲線全てを、青年に見せ付けていた。  
 上から見た時はパンツが裾からちょっと姿を覗かせていただけだが、今は違う。青年の膝辺りに立って、足を上げればスカートが捲れて中身がほとんど見えてしまう。それほどまでに少女のワンピースのスカートは丈が短かった。  
「お兄ちゃん、期待してるでしょ?おちんちんがプルプルしてる。うふふふ、そーっと、踏んであげるね」  
 上がった足は、びくびくと震える肉棒の上に軽やかに降り立った。  
 バレリーナのように爪先が伸ばされる。形の良い桜貝のような爪が黒いニーソックスの薄い生地を通して見える。  
 伸ばされた爪先が、亀頭の裏側にチョンと触れた。  
 くうぅっ、と青年が呻く。  
 それだけで達しそうなほどだった。  
 屈辱は背徳感というスパイスで調理され、素晴らしい料理となる。少女に淫らな器官を足蹴にされるという嗜虐の快感に、脳が痺れる。  
 青年は己の目を疑った。  
 少女が履くカボチャパンツは徹底的に凝ったディティールだったからだ。  
 パンツのモチーフは、彼女自身と同じジャック・オー・ランタン。ハロウィンのカボチャだ。目と鼻を三角形にくり抜き、横に大きくニタリと笑うように口を開けるカボチャ。  
 同様に、少女のパンツも目と口と鼻の形に切り取られていた。切り取られつつも人外の力によってか、不可視の力に支えられているので形が崩れない。  
 無論、それはパンツなのだから、内にまた何かを履くなどナンセンス。  
 故に見えてしまっていた。  
 真っ白な丘。  
 無毛の縦筋。  
「あはは、お兄ちゃんのおちんちんが足の下で大きくなってるよ」  
 無垢な秘所を青年に晒しながらの、無垢な微笑み。  
 青年の肉棒がみりみりと音を立てそうな勢いで怒張する。彼がどの程度、興奮しているのかは少女の足裏から良く伝わってきた。  
 ぴっちりと閉じた幼花をもっとよく見ようと青年は足掻くが全ては徒労に終わる。  
「そこから何が見えるのかな〜。ちょっと可哀想だから、もう少しだけ見せてあげるね」  
 急所を踏みつけられる屈辱と、恥辱を煽る言葉。  
 それすらも、今の青年には快感となる。  
 彼を踏みつけていた少女の足が、すっと上がった。舞台上のバレリーナさながらに高々と上がる。不安定な姿勢にも関わらず、少女には微塵もバランスを崩す様子は無い。  
 少女が美脚を大きく割り広げた事で、青年の目には天国が映っていた。  
 足に釣られて、慎ましやかな割れ目が僅かにほころび、陰からサーモンピンクの中身が姿を現す。無垢でありながら妖艶に男を誘う幼膣。  
 これでもかと言うほど焦らされた身は刺激が強すぎた。スカートの中に頭を突っ込んで己の指と舌で割れ目を味わってやろうと、金縛りを解こうと青年が暴れる。  
 目は欲情して血走り、荒い鼻息はまるで蒸気機関車だ。  
「やだぁ、こんな子供のオマンコでそんなに興奮しちゃうんだ……お兄ちゃんの変態さん」  
 
 ヘソに突きそうなほど反り返った竿が足の裏で軽く踏まれる。ニーソックス越しに柔らかさと、少女の体温がじんわりと伝わる。  
 青年に足の温もりを堪能する時間は与えられなかった。すぐに少女の足が動き出したからだ。  
 足を上手く使って、肉棒全体をしごく。  
 たかだか足一本だと言うのに、青年は狂ったように喘ぎ、悶えていた。  
 しゅっしゅっという乾いた音は、すぐににちゅにちゅと湿った淫音へと変わった。  
 ニーソックスが肉棒に塗された唾液と先走りを吸って変色するのも気にせず、少女は責める。少女が少しだけ力を篭めると竿と足の裏が密着して、足の下で寝そべる体はいやらしい水音と泣きそうな喘ぎ声を立てる。  
 とっくの昔に発射体勢に入っていてぷっくりと膨張した輸精管を、土踏まずの弓なりに反った微妙なカーブが扱いていく。  
「お兄ちゃん、イっちゃいそう?」  
 その問いに何度も首を縦に振って答えた。もう青年には痩せ我慢するだけの気力も残っていなかった。  
 少女の足の裏が肉竿の側面に回りこんで、しゅこしゅこと扱きたてる。  
 恥も外聞も男としてのプライドも捨てて哀願した。  
 もう我慢できません。だから、  
「イカせて!お願いですぅ、イカせてえぇぇ……」  
 少女にその願いを聞いてやる気はなかった。  
「だよね〜。カメさんがこんなにパンパンに膨れてるもんね〜」  
 そう言いながら、ソコがどのくらい膨らんでいるのかを少女は確かめるように動く。石榴さながらに真っ赤に膨れ上がった亀頭の上で、少女の指が踊る。  
 親指と人差し指をいっぱいに広げ、亀頭を摘んで、二本の指でくにくにと先端を磨くように擦る。  
 ニーソックスの肌理の細かい生地が亀頭表面をざらりと撫で上げるたびに、神経そのものを撫でられるようだった。  
 ニーソックスは指先までもがすっかりと濡れ、肉棒との間に粘っこい糸を幾本も引いていた。  
 指先が曲げられ、敏感な肌の上をほんの少しストロークする。たったそれだけで、青年の口からは悲痛な呻きにも似た嬌声があふれ出る。  
 自分でするのとも、実際に女と交わるのとも全く違う独特な感触。脳髄が芯から痺れるほど甘く、ただひたすら強烈な刺激。  
「でも、ダーメ。イカセてあげなーい」  
 絶頂の予感がこみ上げるたび、全てを把握する少女は足を離す。  
 後ほんの一押しで極上の快楽を味わえると言うのに、青年はその手前で必ず押し留められた。  
 身体を縛る戒めは頑として未だ解けず、腰を振って少女の足に性器を擦り付けて浅ましく快感を貪る事もできない。ただ飢えた獣のように荒い息を吐いて、涙と涎を垂れ流す事だけが、青年に許された自由だった。  
 そうして、強制的にクールダウンさせられた青年に余裕が戻ると、少女の足が愉しそうに残酷に肉棒を翻弄する。  
 根本を摘まれ、くきくきと細かく扱かれる。  
 弾けそうになる。  
 足が離れる。  
 子犬の頭を撫でてやるように、こちょこちょと指が細かく動いて亀頭を撫でる。  
 その愛撫も、弾ける気配があれば、すぐに退く。  
 最後の一押しが貰えずにイカせてもらう事も、かといって自分で慰める事も出来ない。  
 青年に出来る事といえば、ただ無様に泣いて請うだけ。  
 
「ねえ、お兄ちゃん。イキたい?」  
 涙と涎で顔をベトベトに汚してひんひんと泣き悶える青年の様子を見れば、そんな事は一目瞭然。  
 それでもなお、静かな口調で問う。  
「イキたかったら、一つだけ、約束して欲しい事があるの」  
 親指が赤黒く充血しきった亀頭の表面をゆるゆると撫でまわす。  
 それが悪魔の囁きであろうが、今の青年は躊躇しなかった。この達する事の出来ない、延々と続く終わりの無い快感に終止符を打って貰いたかった。  
 獲物の狂態を愉しげに見下ろす少女には、何と返事が返ってくるかなんてお見通し。  
 果たして全ては予想通り。青年は、がくがくと壊れたように何度も頭を縦に振る。  
「する、するよぅ!何でも約束するから!だから…」  
 イカセテ。  
 少女に、青年の言葉を最後まで聞く気はなかった。  
「うふふ、いいお返事です」  
 止まっていた足は動き始め、急ピッチでスライドを繰り返す。  
 上に、下に、白く泡立つ粘液を纏わせた肉棒と足の裏の間でニチャニチャと激しい淫音がする。  
 青年はもう何度目か分からない瀬戸際まで、あっという間に追い込まれた。  
「来年はちゃんとハロウィンに参加してくれる?」  
 足の裏で肉棒を捏ねるように扱きながら、亀頭の先端を親指と人差し指で摘む。  
 きゅうっと締め付けてやりながら、先端から雁の下、裏筋まで満遍なく擦り下げる。  
 亀頭が最大限まで脹らむ。  
「する!この先、一生ずっとちゃんとハロウィンに参加するからっ!」  
 青年が頭を仰け反らせて叫ぶ。既に絶叫だった。  
 望む答えは得られた。  
 少女は満足げにほほ笑むと、絶頂まで後ほんの数ミリの瀬戸際で留まらせられた青年をポンと押してやり、線を越えさせた。  
「ほら。イッちゃえ、お兄ちゃん」  
 ぐ、と足に力がかかり、今までになく強烈に肉棒が扱かれる。  
 下がった指が戻ってきて、雁のクビレを挟み込む。  
 水道栓を開けるように、きゅっと捻られる。  
 次の瞬間、肉棒はまさしく壊れた水道栓を化した。  
 焦らしに焦らされ、たっぷりと溜まった精液がびゅくびゅくと吹き上がる。  
 青年は思う存分、精液を目の前の少女に浴びせ、彼女の愛らしい顔と言わず薄い胸と言わず、クビレの無い腹にまでぶっかけて汚そうとした。  
 が、その願いは少女に届く事適わず。  
 そんな分かりやすい欲望なんてお見通しとばかりに、少女の爪先が裏筋を摘んで、暴れる亀頭をコントロールしていた。  
 宙に切れ切れの白いアーチを描いて、全て身動きできない青年に降り注いだ。  
 先端から白い糸でもズルズルと引きずりだされるかのような圧倒的な射精快感。脳味噌までも精液に変わって鈴口から溢れ出して、ドロリと流れ出ていく錯覚。  
 青年の射精は延々と続く。  
 少女の爪先もくりくりと動き続けて、玉袋に決壊寸前まで溜まった白濁汁を残らず搾り出してやった。  
 
 肉棒に感じる圧力が、ふと失せた。  
 青年は視界に収めようとしても首が動かない。少女の足によって魂まで吐き出されたかのようで、まるで力が入らない。  
 ようよう目だけを動かして、少女がいる辺りを見やる。  
 そこに少女はいた。青年が自分を見るのが分かっていたみたいに少女の瞳も青年を指していて、吸い寄せられるようにピタリと視線が合う。  
 少女の手には、彼女がドアをくぐって入ってきた時からずっと腰に下げていた角燈が携えられていた。  
 かろん、と角燈が触れる物も無いのに音を立てる。小さな筈なのに、その音は嫌に大きく耳を打つ。  
 角燈の丸窓の中でちろちろ燃える蒼い炎が、大きくゆらりと揺らぐ。  
 少女の細い肢体が熱の無い炎に包まれた。  
「じゃあね、お兄ちゃん。今年はこれで帰るけど、約束…したからね」  
 うっすらと白く霞む視界の向こう。  
 青く燃える双眸が微笑む。  
 そうして僅かな言葉を残し、全身に炎を纏った少女は宙に溶けて、消えた。  
 およそ現実離れした光景。  
 それを見届け、何か感想を思いつく暇もなく、青年の意識も闇に堕ちた。  
 

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