国技館高校体育祭は終わり、夜も半ばを過ぎていた。  
運動場の中央に築かれた特設土俵も、ほんの数刻前まで煮えたぎっていた、学生力士らの  
エネルギーが嘘のように、今は闇の中で冷たく沈黙していた。  
生徒会長とぼくは、少し離れて、物陰に隠れて待っていた。  
(ほんとに誰か来るんですか)  
(しっ)  
誰かが灯りのスイッチを入れ、屋根に吊るされたライトが土俵を照らし出した。  
暗闇から、長いポニーテールの、高校生くらいの女の人が、光の中に歩み出た。  
サイズが合わないジャケットのファスナーを喉もとまで上げている。  
裾からは、何も穿いていないすらりとした両脚が、ライトの光を反射して輝いている。  
そして、袖口に隠れて指だけ見える左手に、大きなスコップをさげていた。  
その人が仕切り線の上に立ちはだかり、スコップを垂直に突き立てようと振り上げた瞬間、  
会長は、突然高笑いしながら前に出た。  
「はっはっはっ。やはり来たわね、女子陸上部長、水野ナイキ!」  
「その声は!」  
結んだ髪をたなびかせながら振り向いた。どうやら水野先輩と言うらしい。  
背の高い、決然とした表情が、とてもきれいな人だった。  
「生徒会長、岩波ちくま!」  
「いかにも」  
会長も同じくらい背が高い。制服のブレザーを一分の隙も無く着こなして、すごく  
かっこいい。眼鏡の似合う美人だ。  
「あなたが古伝に通じているのは知っていたわ、水野」  
「邪魔はさせないぞ」  
会長は眼鏡を拭いて掛けなおした。  
「たぶん知らないと思うけど、四股を踏むだけじゃだめなのよ」  
「え!」  
「相撲を取らないと、封印は解けないわ。宝は私が独り占めしようと思ったけれど、  
あなたが来てしまった以上しかたがない。協力しましょう。  
 出たものは等分ということで」  
「む‥‥やむを得ないな。一人じゃ相撲は取れないしな」  
「今思いついたギャグ、言っちゃダメよ」  
二人はニヤリと笑いを交わした。  
「で、お前が立ち会うのか?」  
「あなたの相手はこの子」  
会長は背後にいたぼくを押し出した。  
「付属中学一年、早川トクマ君よ」  
ライトの下に出ると、急に、細い紺色のマワシ以外、何も身に付けていない裸なのを  
意識した。自分の、背の低い貧弱な体が恥ずかしかった。  
「ど、どうぞよろしく‥‥」  
気圧されて、思わず上目遣いで挨拶したら、水野先輩はなぜか急に顔を赤くして、  
唾を飲み込んだ。  
 
水野先輩が東から土俵に入って行ったので、ぼくもあわてて西に走った。  
でも、相手は女の人だけど、ぼくより背が高いし、見た目からしてスポーツが得意そう。  
勝負にならないよ。  
「大丈夫」  
いつの間にかぼくのセコンドの位置についた会長が、心を読んだみたいに声をかけた。  
「きっと上手くいくわ」  
全然説得力無いよ。  
そのとき、土俵の反対側でぼくと向かい合っていた水野先輩が、一気にファスナーを  
引き下ろし、上着を勢いよく脱ぎ捨てた。  
その下は、ぼくと同じく、マワシ一丁の、裸‥‥  
深紅のマワシが鮮烈だ。  
でもぼくの眼は、上を向いて尖った美しい小ぶりな乳房に釘付けになっていた。  
硬直していると、背後で会長が呆れたように言った。  
「女の胸に他に何が付いてると思うの」  
「それもそうですね」  
水野先輩も言った。  
「相撲をとるのに他にかっこがあるかよ」  
「ごもっともです」  
言いたい事はあったけど、逆らっても無駄のような気がした。  
仕切り線まで進んで前かがみになると、マワシの中で硬くなって突っ張った部分が、  
少し楽になった。  
(そうか、お相撲さんはそれでこの姿勢を‥‥いやまさか、そんなはずはない)  
一瞬注意がそれた隙に、先輩がスッと寄ってきて両差しされた。  
「しまった!」  
勝負はもう始まっていたのだ。  
マワシの後を掴まれて、胸に引きつけられた。かかとが両方浮いて絶体絶命だ。  
ところが‥‥  
「せ、先輩、そこ触るの、禁じ手」  
「お前だって気持ちいいんだろ? こんなにしちゃって。今楽にしてやるよ」  
背中の結び目が解かれて、緩んだマワシがストンと落ちた。  
先輩の柔らかい手に、ペニスを直に掴まれて、ぼくは電気を流されたみたいにひきつった。  
「私の言う通りにしろ。そしたらもっと気持ちいいことしてやるぞ」  
 
土俵の中央で、足を肩幅に開いて立ちはだかる水野先輩の足もとに、ぼくは犬のように  
しゃがみこみ、先輩の股間に顔を押し付けて懸命に奉仕していた。  
深紅のマワシも捨て去られ、ひきしまった裸身が、惜しげもなくライトの光にさらされている。  
先輩の体液が、薄い陰毛を濡らしてキラキラと光り、ぼくのあごを伝って滴り落ちた。  
「ん‥‥上手じゃないか‥‥もっと奥を‥‥」  
ぼくは先輩のお尻にギュッとしがみついていたけれど、先輩はそれでも足りないように、  
ぼくの頭を両手でおさえ、あそこを顔にごしごし擦りつけた。  
心臓が苦しい。ぼくは犬みたいに先輩の股に顔を埋めたまま死ぬんだ。  
「すごく硬くなってる‥‥」  
水野先輩が、ぼくのしゃがんだ脚の間に足を入れ、甲でペニスを下から上に撫でた。  
精液がすごい勢いで飛び出して、先輩のあそこを下から犯した。  
「あっ‥‥」  
ぼくの精液で汚されたと同時に、先輩は体を硬直させ、内股になってぶるぶる震えながら  
やっとのことで体を支えた。  
それからふっと力を抜いて、荒い息をつきながらぼくの髪をくしゃくしゃにかき混ぜた。  
 
「何落ち着いてるの、二人とも! 封印が解けかけているわ! 続けなさい!」  
土俵の外で、生徒会長が珍しく慌てふためいていた。  
ふと気がつくと、土俵が‥‥いや周囲全体が、ビリビリと不穏に振動している。  
遠くで校舎がギイーッと鳴った。空に電光が走った。  
ぼくは唐突に理解した。ぼくたちがやっていたのは、土俵を汚すことで相撲の神か何かを  
怒らせる儀式なのだ。会長が言っている、封印を解く、とは、頂点に達した神の怒りで  
土俵を破壊することに違いない。隠された宝を取り出すために。  
だとすれば‥‥  
ぼくは立ち上がり、水野先輩を抱き寄せて、しっかり視線を合わせた。  
背が低いせいで、おっぱいの間から見上げるようになってしまったけれども。  
「先輩、お願いです‥‥ぼくとセックスしてください」  
先輩はぼくを抱き上げて、ぼくの口に舌を差し込んだ。  
 
ぼくと水野先輩は、立ったまま繋がりあって、まるで淫猥な舞踏のように、ゆっくりと  
腰を蠢かせていた。タントラの双身像の、男女を逆にしたように、先輩がぼくのお尻を  
支え、ぼくは先輩の首にしがみついて、腰に足を絡ませていた。  
先輩のコリコリの乳首がぼくの胸で転がって、背筋が痺れるような快感が走った。  
「お尻‥‥」  
先輩が急に唇を離してささやいた。  
「え?」  
「お尻が弱いんだ。一人でするとき‥‥お願い、お尻に指を入れて」  
「先輩‥‥やり方を教えてください。ぼくのお尻も、先輩にあげます‥‥」  
先輩の指が、ぼくのお尻の穴を、優しく探るように犯した。  
ぼくも真似をして、先輩のお尻をゆっくりとかき混ぜた。  
先輩のお腹の中がかっと熱くなり、筋肉が激しくぼくを締め付けた。  
ペニスが融解した。  
体内で精製されたぼくのエキスが、容赦なく搾り出され、蠕動する子宮に、ごくごくと  
貪るように飲み干されていった。  
 
気がつくと、ぼくは土俵に横たわり、水野先輩と裸で抱き合っていた。  
土俵。映画「帝都物語」の首塚のように、鳴動しながら盛り上がり、ひび割れ崩れていく。  
激しく交わっていたせいで気づかなかったのだ。  
「せ、先輩! やばいですよ」  
「後にして後‥‥」  
先輩は寝ぼけた見たいにけだるく身を起こすと、背中を猫みたいにしなやかに曲げて、  
ぼくのペニスを口にした。  
背中の下で、土俵が爆発したように一気に崩壊した。  
空中に投げ出され、快感とショックに心が麻痺したようになりながら、ぼくは見た。  
古びた木の箱が地下から飛び出し、すぐにバラバラに壊れた。その中にあったのは‥‥  
短い紐のついた、赤い五角形の布だった。布には何か字が染め抜かれている。  
 
土俵には、金が埋まっていると言う。  
 

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