もうっ!
信じられないっ!
本当に本当に、こじきと結婚させる?ふつう。
あたしは一国の姫よ。
美しいと評判のお姫さま。
「姫、近くの農家から食べ物を恵んでもらいました。」
今日からあたしの夫となったこじきがパンを抱えて戻ってきた。
あたしは森の中の切り株に腰かけていた。
つい先日パーティーの場であたしは貴族達をまた罵ってしまったの。
その中に久々に会った隣国の若い王がいたのよ。求婚されたけれどもあたしは言ってしまった。
顎が尖ってまるでつぐみが髭を生やしたみたいだってね。
なんかぬくぬくとした雰囲気で優しそうだったけど。
きっとあたしには合わないわ。
そうしたらお父様は今までに無いぐらい怒る、怒る。
お前は人の容姿にばかりケチをつけおって!
我が儘三昧も今日限りだ!
こじきと結婚して出ていけっ!って城を追い出されたわけ。
本当に城にこじきが来ていてあたしびっくりしたわ。
仕方なくこじきの後を泣きながら歩いてきたけど、いい加減涙も出ないわ。
もうすっかり夜だけどお金が無いので野宿しかない。
あたしはこじきからパンを受け取ると一口かじった。
「ちょっとなにこれ?
硬すぎるし、もそもそしてるんだけど!」
あたしが城で口にするものとは大違いだ。味なんてしない。
「姫、水を。」
あら、水も汲んできたの。
けっこうこいつは気がきく。
火をおこして焚き火もあっという間に作ってくれた。
でもやはりこじきはこじき。
隣国の王子はあたしたちが今いる大きな森や
この先に見える栄えた都も全て所有しているという。
「後悔していますか?」
柔らかな物腰でこじきが訊いてくる。
意外と低くていい声だ。
「まぁね。でもお父様、頑固だし…
でもねっあたしも頑固だから城へは絶対帰らないわ!」
あたしは何とか硬いパンを食べきると靴を脱いだ。
城にいた時のままの靴なので細工は美しいがたくさん歩くのに適していない。
「あいたた…。」
「あの…履き古しですが、靴も貰ってきました。」
おずおずとこじきが靴を抱えて寄ってきた。
履き古しの靴は薄汚れ、飾りもついていない質素なものだった。
「あなた、人に頭下げるの、嫌じゃないの?」
「ええ。
私は全ての人たちのおかげで生かされているのです。
私は感謝の心を持って生きているのです。」
「ふーん。」
あたしは顎に手をついてこじきを観察した。
ボロボロの服は裾がもれなく擦り切れ、
せっかくの柔らかな金のクセ毛も絡まって鳥の巣のようだ。
背は高く体付きはしっかりしている。
肉体労働でもしてたんだろうか。
顔は無精ひげに頬に土の汚れがついている。
瞳は深い青だが伸びっぱなしの前髪が影を作っていてはっきり見えない。
さらにヨレヨレのくすんだ色の帽子を頭にのっけている。
コレのせいで冴えない外見3割増しよ。
しかし日焼けしている割に目尻や首に皺はない。
意外に若いのかも…。
あたしの浮腫んだ足を優しく揉みほぐす
こじきを見下ろしながらじろじろと観察していた。
不意にこじきがあたしの片足を持ち上げると爪先にそっと口づけた。
「なっ!何するのっ!?」
「驚かせてごめんなさい、
夫婦になった証にせめて…と思いましたが、
あなたの口元は恐れ多いので…」
「何言ってんのよ。
いきなりされたからびっくりしただけで…
一日中歩き回った足なんて汚いわよ。」
あたしはこじきの顔を自分に向けるといきなりキスをした。
昼間はグズグズ泣いていたけど
あたしはあたしなりにやっていくって決めたのだ。
他国の姫君たちはそりゃ、しとやかだっていうけれど、自分の考えなんて持って無いのよ。
あたしは我が儘だけどあたしの思った通りにやっていきたいだけ。
城から遠く離れたこの夜の森で長いキスをしながらあたしは心の涙を拭った。
顔を離すとこじきが赤い顔をして私を見ている。
前髪が横に流れ大きな青い瞳が私を見ている。
なんだ…けっこういい顔立ちじゃん。
あたしが胸に落ちてきた長い髪を手で払いのける。
こじきはじっとあたしを見ている。
「…姫、綺麗だ。」
「あたしはもう姫じゃない。
今夜からあなたの妻よ。夫婦の誓いの続きをしましょう。」
私はこじきの肩に手を回した。
彼は城に入る前に水浴びさせられたという。
そのせいか服はボロだが体臭などはしなかった。
「やだなー。お父様、水浴びさせたのに新しい服はくれなかったのね。」
「いいんです、私には。」
そういってこじきの青年は微笑んだ。
私もクスリと笑うと再びキスをした。
あたしは彼の首に手を回す。
さっきは乱暴に唇を押しつけてしまったが今度はっと口づけ互いの舌を絡ませた。
彼の手がそっとあたしの胸元を服の上から触り始める。
大きくがっしりとした手はやがてあたしの乳房全体を掴み揉みあげる。
「…ん」
あたしもいつしか夢中で彼の温かい唇と舌を吸ってしまった。
そのうち直に触ってもらいたくてあたしは自ら上半身の服を脱いだ。
寝ころばずに座った体勢のままなので服を下ろした瞬間あたしの胸が揺れた。
すぐに彼があたしの胸に顔をうずめ乳首を吸う。
「あっ…」
あたしは彼の帽子を取り頭を撫でた。
やがて彼の指があたしの足の隙間をくすぐる。
長い指は下着の中に入りだんだんと秘部にせまる。
しかしなかなか蜜が溢れる部分には入ってこない。
「…ああっ…もっと…」
思わず呟いてしまった。
彼が胸から首筋へ舌を這わせ、あたしの耳元に低い声で訊いてくる。
「もっと、どうすればいいんですか?」
ひゃっ。
熱い息がかかりあたしは体をよじってしまう。
「…あたしに言わせるつもり?」
声だけは虚勢を張ってみたが体の力が抜けそうだわ。
すると彼はあたしの正面を向くと真剣な表情であたしを見つめた。
「本当に私なんかとよいのですね?
私は身分もなく本当に文無しですよ。」
目をそらさずあたしは答える。
「あたしが姫じゃなくなったのも、あなたと出会ったのも、巡り合わせよ。
…もっとも原因はあたしが我が儘だったからかもしれない。
でも仕方ないわ。
明日からつぐみの髭の王の城で働きましょう。」
あたしがそう言うと彼は目を丸くした。
「あなたが、城の下働きですか?」
「そうよ。
二人で城に住み込んで働くの。
二人なら支え合えるし…あたしの事守ってくれるわよね?」
彼はしばらく黙っていたがあたしが彼の頬を触ると、わかりましたと言った。
彼はあたしの服を全て脱がすと切り株に再び座らせた。
そしておへその下にくちづけ、さらにその舌を舐めてきた。
「あっ…」
やがてあたしの熱い蜜を吸い取り、指もゆっくりと入れてきた。
闇が濃くなった森は冷えるのにあたしは身体を熱く火照らせていた。
焚き火の乾いた音とくちゅくちゅという湿った音が聞こえる。
恥ずかしい…。
でも嫌じゃない。
「はぁっ…ねぇ、もっと…。」
あたしは彼のモノを欲していた。
彼は頷くとズボンを下ろし始めた。
彼のモノはすっかり真上を向いている。
このままだと痛いかもしれないと彼が言ったので
あたしは少しだけ湿らせてあげることにした。
ゆっくりと口に含み唾液で濡らす。
思ったよりも硬く太く根元まで含むのはあたしの小さい口では無理だった。
切り株から下りようとした時、彼はどうしようと呟いた。
木が少ない開けた場所を選んだが地面に
あたしを横たえると背中が痛いだろうと言うのだ。
ああ。
でも今やめてしまうのは嫌だ。
あたしは彼に思い切って抱きついた。
「座ったまま、向かい合ってなら…ダメ?」
彼は顔を真っ赤にしたが地面にすわるとあたしを膝に乗せた。
あたしも足を広げて乗り、ゆっくり彼のモノを受け入れる。
「…んっ…あっ…」
息を止めて全て受け入れ彼とキスをする。
ゆっくりと動かすとじわじわと快感があたしを支配する。
彼があたしの腰をしっかり持ち打ちつけてくる。
「ああっ…あんっ、んっ…」
いつもあたしを心配してくれた彼の態度とは違い今の彼は荒々しい。
しかしあたしは彼の事が愛おしくなっていた。
その晩ずっとあたしは歓喜の声をあげ、やがて眠りについた。
城を出てから幾日たったろう。
あたしはつぐみの髭の王の城の台所で働いている。
あの人は庭仕事をさせてもらっている。
相変わらず毎日あたしの心配ばかりしてくれる。
あたし働いたばかりの頃は何にも出来なくって怒られてばかりて…
彼がいなかったらやっていけなかったと思う。
今だってそんなに仕事はこなせないし
ジャガイモの皮むきばかりやっているけど…
今日はここのお城でパーティーがあるもんだからついあたしが追い出された日とか思い出しちゃうのよね。
あれ?台所の外が騒がしい気がする。
台所の入り口に目を向けるといきなり場違いなこの城の主が立っていた。
「是非私と共に来てください。」
そう言うとつぐみの髭の王は強引にあたしの手を引き早足で歩き出した。
突然の出来事にあたしは声を失う。
大勢の客人の気配がしてようやくあたしは叫んだ。
「ちょっといきなり待ってください。やめてください!」
しかし時すでに遅くあたしは舞踏会の真ん中に王と共に立っていた。
薄汚れた服にカサカサの手、もつれた髪の毛。
あたしが姫だったなんて誰もわからないだろう。
まわりの貴族たちが目を丸くし、やがて嘲笑う声が波になってあたしを襲う。
「やっ…やめてくださいっ!
あたし頑張って働いてきたのに。
これはあの日の復讐ですか?」
あたしは俯いて駆け出す。
しかし涙が浮かび前がよくみえず転んでしまった。
さらに運悪くあたしがいつも隠し持っていた野菜クズをいれる小さな壷がゴロンと転がる。
少しでも夫との食事の足しになればと野菜クズを取っておいているのだ。
貴族たちから笑いがドッと起こる。
顔が真っ赤になる。
恥ずかしくて死んでしまいたい。
また走り出そうとすると王に抱き止められた。
ん、この感じは…。
「姫。すっかり我が儘の虫はいなくなったようですね。」
王は金髪をぐしゃぐしゃと手で乱し、くすんだ色の冴えない帽子を頭に乗せた。
「あなたは…」
「姫を試すため、とはいえ大変申し訳ないことをした。
しかし城を出てからの生活で民の暮らしを理解してくれたと思う。」
大広間は静まり返っていた。
王はこじきの格好をしていた時と違い堂々とした声で言った。
「正式に私の妻になって欲しい。」
あたしは再び涙が浮かび頷くのが精一杯だった。