「痛かったでしょう。
ごめんね、ごめんね」
私は窓から差し込む月明かりを頼りにソファに寝かされた人形を探し当て持ち上げる。
すでに暖炉とキャンドルの火は消え、窓辺から冷たい夜の空気が侵入してきている。
ベッドにいた時の暖かさも冷めてきて私は肩掛けの両端をしっかり胸の前までひっぱった。
数時間前の興奮冷めやらず寝つけない私は一人居間へ戻った。
持ち上げた人形を撫で、傷跡を指でなぞる。
人形は今夜のクリスマスパーティーでドロッセルマイヤーおじさんから貰ったものだ。
貰った、というより一つだけ余った人形を私が手に取った方が近いのかもしれない。
この人形は所々角張った形が特徴的なくるみ割人形だ。
他に用意されたプレゼントの人形達はふわふわ長い髪の可愛らしいものだったのにくるみ割人形は生真面目な顔つきの兵隊さんだった。
皆が次々にプレゼントを選ぶ中、くるみ割人形だけ残ってしまい、
私が手に取ると弟がからかって振り上げ壊してしまったのだ。
幸いドロッセルマイヤーおじさんが直してくれたから本当に良かったけれども。
「もしも私がたくさんのプレゼントを一番に選ぶ事が出来ても、私はあなたを真っ先に選ぶわ。
あなたの事が好きよ」
私はいかつく目立たないその人形に愛着を感じており、ギュッと胸に人形を抱き締めた。
その瞬間、胸の中の人形の硬い感触が無くなり私は目眩がしてふらついた。
何かに手をかけないと、と思い辺りを見回すと普段と景色が違う。
目の端に色とりどりに飾られたクリスマスツリーがちらつく。
目眩と同時に目も回ったのか、私はお尻をついて倒れてしまった。
頭がぐわんとしてすぐに起き上がれないまま見上げると巨大なクリスマスツリーがそびえている。
「こんなに…こんなに、天井を突き破りそうに大きかったかしら…」
たじろいで居間にあるソファやテーブルに手を掛けたかったが
壁がそびえるばかりでまるで知らない世界のようだ。
ポカンと上を見上げていると背後からカサカサ、パタパタと音がする。
振り返ると私と同じぐらいの背丈の白いネズミが数匹立っていた。
何でこんな大きなネズミがいるの?
声も出せずに立ち竦んでいると今度は背後でガチャガチャ、バッタンバッタンと音がする。
振り返るといつの間にか我が家にあるおもちゃの人形達が、やはり私と同じ背丈で勢揃いしていた。
背後に目を向けた瞬間大きな白いネズミが私のそばまで二本足でのしのし近付いてきた。
「見慣れない奴だ、新しい人形か?」
ぐいっと手首を掴まれる。
「いやぁっ。離して!」
私はおもちゃ達の中にくるみ割人形はいないか目で探す。
その時細い剣が月光にきらめきネズミの手を叩いた。
「ここは危ない!
ツリーの下に隠れて!」剣を持って現れたのは凛々しい顔の少年だった。
私は大きなツリーの元へ転がりこむと成り行きを見守ることにした。
ツリーの幹はまるで樹齢100年はありそうな太さで
私の周囲にあったいくつかの壁は居間のソファやテーブルと同じ色だった。
どうやら私の背が小さくなったらしい。
先ほどの白いネズミ達、目が赤いのでハツカネズミだろうか、
二本足で立派に立ち、おもちゃの人形や兵隊たちに飛びかかっている。
おもちゃ達もおもちゃの剣や槍必死に応戦している。
私を助けてくれた少年は最前線でネズミを剣で突き蹴りも交えてなぎ倒している。
「あの人はくるみ割人形の兵隊さんだわ。」
少年がかざす剣はくるみ割人形の腰にお飾りとして付いていたものだ。
だが少年の姿はくるみ割人形ではなく、関節も滑らかな人間の姿だ。
生真面目で平面的な顔は彫りの深い顔立ちに、
赤く、やたらと肩や腰に金の飾りや鎖を付けた洋服は
あっさりとした白いシャツと黒いズボンに変わっていた。
私はスカートの裾を握りしめ少年を見守った。
どうやらおもちゃ達の方が押されている。
ネズミは後から後からどこからともなく沸いてくるのだ。
カラフルなおもちゃ達が真っ白いネズミ達にうもれてしまいそうだ。
可愛い人形の女の子がネズミに腕をかじられている。
助けに向かおうとした少年の前にひときわ大きな図体のネズミが立ちふさがった。
「今夜こそ決着を着ける!」
勇ましく声を上げた少年だが、ネズミの厚い毛皮に剣は弾かれ、パンチを受けても倒れそうにない。
ネズミの爪が少年の顔をかすめ少年はよろける。
「危ないっ!」
そう叫んだ瞬間私はツリー下から飛び出し履いていた自分の室内履きを大ネズミ目掛けて投げた。
運良く大ネズミの頭に直撃し、少年は倒れたネズミにのしかかり剣でとどめをさす。
大ネズミの断末魔が響いた瞬間、そこら中にいたネズミ達は走り去り消えた。
私は少年の元へ走り寄った。
おもちゃ達もいつの間にか消え静まり返った居間には私と少年だけになった。
「危ないところをどうもありがとう」
「どういたしまして」
少年の正面に立って私はドキリとした。
凛々しく引き締まった眉と口元、白い肌に赤みがさした頬、大きく黒い瞳は生き生きした光に溢れている。
人形じゃないんだ…。
ギュッと抱き締めた事を思い出し私は今更ながら胸がドキドキしてきた。
「あの、助けていただいたお礼に、お菓子の国へ案内したいのだけれど。」
少年の申し出に戸惑っていると少年は私の手を取り甲に軽くキスをした。
「理由あって今は人形の姿だけれど、僕を信じて欲しい。
君をお菓子の国の舞踏会へ招待したいんだ。」
「わかったわ。
あなたを信じる。
今夜はドロッセルマイヤーおじさんからたくさんワクワクするお話をきいて眠れなかったの。
私も不思議な国へお呼ばれされたいわ。
でも…私、寝間着のままよ。」
「大丈夫、ターンしてごらん。」
言われたまま私がターンすると足元は白く質素な寝間着ではなくヒラヒラとした赤い上質の布がふわりと花開いた。
私はいつの間にか赤いドレスを纏っており、胸元を確認すると宝石とレースが縁どられていた。
そして自分の胸がなんだか膨らんでいる気がする。
手足も細長くなっている気がして首を伸ばして見ていると少年に何年か後の姿じゃないかなと言われた。
それから私は少年に寄り添い手を繋いでいると一瞬、雪が舞い風が起こった。
突然の吹雪に目を閉じ、ゆっくり開けると目の前には華やかな舞踏会が始まっていた。
私はまず金平糖の精という女性に紹介されたくさん感謝された。
少年がお菓子を司る精達を耳元で教えてくれたけれども、だいたいみんな美しい女性で皆それぞれ変わった異国の踊りを披露してくれた。
大広間の中央をチョコレートの精とコーヒーの精がジャンプし交差する。
部屋は音楽と甘い甘いクリームの香りに包まれ、隣の少年と目が合うと甘く優しい笑みをくれる。
流れる音楽がワルツに変わり少年が私を踊りに誘った。
私も踊りは嗜んでいたので喜んで応じる。
3拍子のリズムに揺られお互い見つめ合う。
私は胸の高鳴りがおさまらず、時間が止まればいいと願っていた。
やがてワルツは終わってしまったが私は離れたくなくて彼の胸にもたれていた。
顔上げ彼の瞳を見つめた後そっと目を伏せる。
彼がそっと唇を重ねてきた。
いつまでたっても次の音楽は始まらず、周囲の人々のざわめきも消えた。
彼の唇が離れ目を開けると大広間には私達二人しか残されていなかった。
「もう、宴は終わってしまうの」
胸が締め付けられ、涙がこみ上げてくる。
もう一度少年は力強くキスしてくれた。
私はしっかり彼の背中を抱き止めた。
彼からの長いキスはやがて私の頬や首筋への愛撫に変わり私のこぼれた涙を拭ってくれた。
彼が私の赤いドレスを下ろし私は落ちたドレスの上に全裸で横たわった。
私の体は胸が手に余るぐらい大きくなり、ウエストも足首も細くくびれていた。
彼が私の胸に頬をつけ呟いた。
「久しぶりに人間どうしの体温で触れ合える…」
「あなたは元々人間だったの?」
彼は私の問いに答えずにつらそうな顔でこう言った。
「君が今夜の事を忘れないでいたら…」
私は頷くと彼に身を委ねることにした。
彼が私の胸を手のひらで揉み口に含む。
シャンデリアの明かりが落ちバルコニーにつながる窓から月明かりが差し込む。
「あぁっ…」
乳首を舌で転がされ声を上げてしまった。
くすぐったいような気持ちがいいような…。
だんだん内股の辺りがムズムズしてくる。
片足の膝を曲げて立てようとしたら彼に太ももを押され足を開く形になってしまった。
彼が私の足の間に顔をうずめる。
彼の指がそっと私の中に入ってくるとクチュと音がする。
彼の熱い息がかかると、どんどん音が大きくなり愛液が内股を伝う。
恥ずかしい…。
彼がさらに私の蕾を舐め、指の本数を増やし中をかき混ぜる。
「…あっ…ううん…」
声を押し殺すのがやっとど腰が逃げてしまいそうになる。
やがて舌先が膣の中に侵入してきたが、浮いてしまいそうになる腰を
彼にがっしり掴まれ私はどうしようもなくて喘いだ。
「ああっ…!どうにか…なってしまいそうよ…」彼の方へ手を伸ばすと彼は私の手を取り、体を被せてきた。
再びキスすると彼の温かい舌が入ってくる。
いつの間にか彼のズボンは下ろされ、私の潤った部分に硬いモノをすりつけている。
キスが終わった瞬間私は
「あなたの事が大好きよ…」
と言って目をつぶった。
愛液で濡らされた彼のモノが少しずつ入ってくる。
全て入りきった後私は圧迫感に顔を歪ませていたが、彼がすぐ動かずに
私の金髪にキスしたり撫でたりしていてくれたので肩の力を抜く事ができた。
やがて彼がゆっくり腰を引き、動き出した。
感じたことの無い痛みに耐えていたけれどある時を境に快楽の感覚が私を支配した。
「…んっ、あんっ…」
はだけた白いシャツから彼の引き締まった体が見える。
このまま二人で朝を迎えられたらいいのに。
瞳の端に涙が滲むと彼はいっそう強く腰を叩きつけてきた。
「…んっ!?」
急に強い快感が全身を巡り体をくねらせた。
頭の中が真っ白になり目をつぶる。
温かい唇が私の唇をふさいだ。
ここまでが私が体験した不思議なクリスマスの深夜のお話。
あの後気がつくと夜は明け私は居間のソファで眠りこけていた。
いつもの寝間着に肩掛け、胸にはくるみ割人形を抱き締めて。
あの不思議な夜の話は両親も友達も信じてくれなかった。
もちろん少年と抱き合った詳細は秘密にして。
ただ一人、親戚のドロッセルマイヤーおじさんはうんうん頷いて話を聞いてくれた。
でもあれからクリスマスの夜に白ネズミの大軍は現れないし、
くるみ割人形もおもちゃだって動き出さない。
私はあの日と大体同じ寸法の体に成長していた。
つまり身長は縮まなかったけれど胸が大きくなりやスラリと手足が伸びたのだ。
今夜はクリスマス。
さっきから思い出のくるみ割人形を探しているんだけれど見つからない。
泣きそうになりながら探していると来客を告げるノックがした。
「はい、パーティーにはまだ時間が…」
言いかけて私は口に両手を当てた。
そこにはあの日出会った、くるみ割人形の少年が精悍な顔付きの青年に身を変え立っていたのだ。「ずいぶん遅くなってごめん。
やっと大ネズミの呪いが解けたんだ。」
私はすぐに彼に飛びつき歓喜の悲鳴をあげた。