ある山の中に身寄りの無い少年が住んでいました。
名は特に無く呼ぶ者も特にいません。
強いていうならば、その山を自分の縄張りだと主張する山賊が「猿」と呼ぶくらいです。
この少年は山賊の仲間ではありませんでしたが
実際の所は似たようなものでした。
喧嘩にはそれほど自信が無いのでもっぱらかっぱらいをやっていましたが
手に入れたものの内、何割かは親分に渡さないといけませんでしたし
渡さないとどんな酷い目に合わされるか分かったものではありません。
だから、少年は山賊どもの目の届かない遠くにいきたいなぁと思いながらも
今のままでも何とか暮らしていけるので迷いながら暮らしていました。
そんなある日の事、間抜けな旅人がいないか木に登って街道を見張っていると
奇妙な二人連れを発見しました。
一人は逞しい体つきの涼やかな男で
その身のこなしは武芸の心得のない少年から見ても只者ではありません。
この男だけでも目立つものですが、男に抱えられている少女が少年の目を奪いました。
年の頃は十二か十三と言った所でしょうか、
栗色の髪は日の光を浴びて金色に輝き
その姿形の麗しさと言ったら言葉も無いほどです。
その二人連れが通っていくのを見ている間は少年は息をするのも忘れていました。
そして今見た者が夢まぼろしでは無い事を確認すると少年の動悸は激しく高鳴りました。
どうにかしてあの少女を手に入れたい。
今まで、何となく生きていくためにかっぱらいをしてきた少年は
初めて何が何でも手に入れたいと思うものを見つけました。
しかし、連れの男は手強そうです。
一対一ならまず勝ち目は無さそうでした。
悩んだ少年はとりあえず彼らの後を見つからないように追いかけ始めました。
桃太郎と犬姫が道連れになって十日ほどが経ちました。
「集落が見えるな」
街道の先に家々が立ち並ぶ様を見つけ桃太郎が呟きます。
「美味しそうな匂いがするー」
桃太郎の腕の中で犬姫も呟きます。
初めてまぐわった次の日、股が痛いという犬姫を桃太郎は抱き上げて歩きました。
それ以来、犬姫はことあるごとに桃太郎に抱き上げろと言うのです。
あれからもう何度もまぐわいましたし
犬姫もそろそろ痛みはひいたのではないかと思われるのですが
桃太郎は犬姫可愛さにあまり強くは断れず時々はこうして抱いたまま歩くのでした。
「人に見られるといけない。
降ろすぞ」
「えー、なんでぇ?」
「人前で絡む男女は痴れ者とされるからじゃ。
少しばかり我慢いたせ」
「桃太郎さんがそう言うなら我慢するー!」
十分痴れ者な二人は集落へと近づきました。
二人が集落へ入ると村人たちは目を丸くして顔を向けてきます。
「お侍さんだ」
「お侍さんだ」
「何しにきたんじゃろか」
「かっこいー!」
「それにあのおなご、なんという別嬪さんじゃ」
「なんというありがたいことじゃ」
しまいには拝みだす村人まで現れます。
「みんなこっち見てるね」
「旅人が珍しいのだろう」
そんな事を二人が話していると一人の青年が寄って来ました。
「お侍様、是非とも長の所へ立ち寄っていただきたい」
その青年に促されるまま二人は集落の中では大きな家に入っていきました。
「おお、よく来られました。
ささ、どうぞどうぞ」
中にいた老人は二人を部屋に招き入れました。
おそらくこの老人がこの村の長なのでしょう。
「して、この村へはどのようなご用件で参られたのでしょうか?」
「私たちは鬼を退治する為に旅をしています。
その途中、この集落が目に入ったので寄らせて頂いたのです」
桃太郎がそう言うと老人は怪訝な顔をしました。
「おに、とは・・・?」
「人に仇なす邪なる者と聞いております。
心当たりありませぬか?」
今度の桃太郎の言葉には老人は目を輝かせました。
「人に仇なす者を退治する・・世のため人のために旅をされておられるのですか!
なんとご立派な・・・」
老人の目にはうっすらと光るものが浮かんでいます。
「きゃつ等が探しておられる鬼かどうかはわかりませんが
この村の裏手にある山の中に賊が住み着いております。
わしらも迷惑しおるのですが
何しろ奴等のアジトがわかりませんし仲間もそれなりに多く・・・」
「ふむ、どうせ当てがあるわけでもない。
そやつらを倒しにいくとしよう」
老人に、というより犬姫に次の行き先を提示するように桃太郎が言葉を発しました。
その言葉を聞いた老人はそれはもう大層感激して
ひかえていた青年に村中の女たちを呼び飯の用意をして風呂をたけを命じました。
そして、桃太郎達はその夜、大層なおもてなしをうけるのでした。
次の日、桃太郎達は盛大に見送られて村を出ました。
昨日の宣言通り山賊を退治に山へと向かいます。
「何か臭うか?」
「うん!こっち!」
犬姫はさすがに元犬だからか鼻が利きます。
かすかに漂う人間の匂いを追って二人は歩きました。
元々、桃太郎は山奥で育ち山を駆けずり回ってましたので山歩きは得意です。
時折、犬姫を抱えたりしながら歩きつづけます。
村が遠くに見えるようになった頃、二人の前に子汚い格好の浅黒い少年が現れました。
「よう、お二人さんどこいくんだい?」
年の頃はちょうど犬姫と同じぐらいでしょうか。
「お主山賊か?」
あまり駆け引きなどは得意でない桃太郎は単刀直入に尋ねました。
「まさか!俺はただこの山に住んでるだけさ」
「そうか、それならいい」
桃太郎が刀から手を離したのを見て少年は額をぬぐいました。
いきなり斬る体勢に入った桃太郎に(どっちが山賊だよ)と心の中で毒づきます。
「私達は山賊を退治しに来たのだ。
お主山賊を知っておるか?」
「いるのは知ってるよ。
せっかく獲った猪を奪われた事もあるからよ。
でもどこにいるかは知んねえぜ、下手に探ったら何されるかもわかんねえし」
「そうか」
そう言い捨て桃太郎はさっさと歩き出しました。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。
山賊のとこにいくのか?
だったら俺もついてくよ。
一応この山に住んでるから役に立てるかも知んねえし」
そう言うと少年は慌てて二人の後を追いかけました。
「お主、名は?」
少年がついてくるのに気付き、桃太郎が声をかけます。
「特に無い。ガキとか猿とかそんな風にしか呼ばれたこたねえ」
「あはは、本当にお猿さんみたいだもんね」
犬姫が無邪気に笑います。
猿と呼ばれた少年は少し傷つきましたが何も言いませんでした。
間近で見れば少女は益々美しくまるでお伽噺の天女のようです。
あまりにも綺麗なのでもう何を言われても許せそうな気すらしてきます。
「猿よ、鬼とは何だと思う?」
突然、桃太郎が不可思議な事を訊いてきたので
ぼけーっと犬姫に見惚れていた猿は慌てふためきました。
「あっ、ああーっと、鬼?
鬼・・・鬼かぁ・・・やっぱ悪い奴なんじゃねえの?」
「山賊というのは鬼だと思うか?」
立て続けに桃太郎が尋ねてきます。
「うーん、まあ、鬼ってほどでも・・・
悪い奴らだとは思うけど、鬼ってもっと化け物みたいな奴のことだろ?」
猿はなんとはなしに山賊を弁護してしまいます。
人を殺してこそいないものの猿も物取りや強盗はよくやります。
その中に生活に窮してる人がいたら間接的に人殺しをしたともいえるでしょう。
だから、山賊を鬼といえば自分を鬼と言う事に他なりません。
「そうか・・・」
桃太郎は猿の言葉を聞いて少し残念そうに呟きます。
「なんなんだこいつ・・・」
桃太郎の言ってる事がさっぱりわからず猿は呟きました。
村を出る時は顔を覗かせていただけの太陽がもうすぐ真上に来るという頃
三人は大き目のボロ家を見つけました。
「ここだよ、ここから人間の匂いがする。
それもたぁっくさん!」
ここまで人間の匂いを辿って案内してきた犬姫が言いました。
「あれが山賊のアジトだろうか」
「俺、ちょっと見てくるから待ってなよ」
そう言って猿はボロ家の方へ駈けていきました。
猿としては桃太郎と山賊が戦い共倒れになるのが一番いいのです。
多少なりとも桃太郎に有利にしてあげないと数の差でまず山賊が圧勝すると思ったので
猿は真剣に偵察をする事にしました。
桃太郎が奇跡的に勝利したとしても恐らく満身創痍になっている事でしょうから
自分でも倒せると思うのです。
なによりも犬姫を自分のものにする為には元気な山賊には見つかりたくありません。
これだけの女を見てあいつらが欲しがらないはずがないからです。
それに桃太郎が山賊に被害を与えてくれれば
遠くまで逃げれるかもしれないと猿は考えたのでした。
「調べてきたぜ」
桃太郎達がしばらく待っていると偵察を終えた猿が戻ってきました。
「中にいるのは十五・六人じゃねえかな。
全員は見えなかったが隙間から見た感じと声ではそんぐらい。
攫われてきた女とかはいないみたいだ」
猿は桃太郎に怖気づかれても困るのでも数を少なめに偽ろうかと思いましたが
それは杞憂だったようです。
その報告を聞くと桃太郎は何も表情を変えず頷き立ち上がりました。
「では行ってくる。
帰ってきたら飯にするつもりだが腹が減ったら団子でも食うておれ」
そう言って桃太郎はぶら下げていた腰袋を犬姫に渡しボロ家へと向かっていきました。
「うん、待ってる!」
元気一杯に答える犬姫を見て猿はしめしめと笑うのでした。
「なあ、なんで犬なんて呼ばれてんの?」
桃太郎の姿が見えなくなると猿は犬姫に話し掛けました。
今までずっと話したくて仕方無かったのですが
犬姫があまりに桃太郎にべったりとしているので気後れしていたのです。
「ボク元々犬だったの!
桃太郎さんに人間にしてもらったんだ!」
明るく嬉しそうにそう語る犬姫を猿は気の毒に思いました。
まさか、本当に犬が人間になったなんて思えません。
猿は、彼女は悪い奴らに元々犬なんて呼ばれて繋がれて
性奴隷にでもされてたんだろうなと思いました。
これだけの容姿です、悪い奴らがそれぐらいの事をしても不思議じゃありません。
そんな悲惨な生活をしている所を
賊退治を生業にしているあの桃太郎という侍が助けたのでは無いかと思いました。
だから、恩人である桃太郎にあんなにべったりしているのだろうと。
「そうか・・・大変だったな・・・」
なんとなく事情を察すると猿は同情したような台詞を吐いて犬姫に近づきました。
可哀想だとも思いましたがそれ以上にこの娘にそんな事をしていた奴らが羨ましくなりました。
「なあ・・・」
目の前まで来るときょとんと見上げる犬姫にえいっと覆い被さりました。
「きゃっ!」
「お、俺にもっ!」
袋を抱えた犬姫を地面に押し倒し猿は鼻息荒く顔を犬姫の顔に近づけます。
「いやぁっ!やめてよぉっ!」
犬姫は悲鳴を上げて顔をそむけ逃れようとします。
「無駄だって、ここから声も届かねえよ!
それにどうせあいつは山賊に殺されらぁ!
大人しく俺の女になれよ!」
犬姫は地面に押し付けられたまま顔をぶんぶんと振りました。
「ももたろさんは強いもん!
山賊なんかに殺される訳ないもん!」
犬姫の言葉は猿を激高させました。
「あいつの話はもう止めろ!
俺を見ろよ!今お前の上に乗ってるの誰だ!」
そう叫ぶと猿は犬姫が抱きしめている袋を掴みました。
「貸せっ!こんなもんっ!」
力づくで袋をもぎ取ろうとする猿に犬姫は必死で抵抗します。
「だめぇっ!!」
桃太郎から託された袋を失う訳にはいきません。
必死で抵抗しますが体勢も寝転ばされた犬姫と起きている猿では分が悪く
その上、元々の力が違いすぎました。
「ああっ、返して!返してよ!」
犬姫が慌てて身体を起こすと彼女のお腹の上に乗った猿がその横っ面をバシンと叩きました。
痛みと衝撃で犬姫が地面に倒れると猿は大勢は決したと思いいやらしい笑いを浮かべました。
「ううっ・・返して・・返してよぉ・・・」
「うるせーっ!」
泣きながらまだすがりついてくる犬姫の頭をバチンと殴ります。
「なんだぁ?こんなずた袋大事にしやがって・・」
あまりに大事にする犬姫の態度にふと興味を覚え猿は袋の中を覗きこみました。
しかし、中にはふんどし何枚かと葉に包まれた団子だけしかなく
銅貨の一枚さえありません。
「へっ、なんだってこんなもんを大事にしてやがるんだ?」
そう言って袋を投げ捨てようとした時、それは聞こえてきました。
「ギャアアアアア!」
つんざくような壮絶な悲鳴が響き渡ります。
バチバチという木の爆ぜる音も耳に届き熱い空気が臭ってきます。
「なっ、なんだぁ!?」
慌てて辺りを見渡した猿が見たものは燃え盛る山賊のアジトでした。
猿は桃太郎という人間を完全に見誤っていたのです。
桃太郎は悪党はどんなに無残な死に方をしても構わないという思想の持ち主でしたし
割と常識に欠けていたので、山に燃え移ったらどうしようなどと考えない人だったのです。
「こいっ!」
猿は慌てて立ち上がると顔を押さえて泣いている犬姫を無理矢理引っ張り上げました。
しかし、犬姫は泣きながらも猿に抵抗し起きません。
「くそっ・・・!気違いめ・・・!」
ぐずぐずしていると桃太郎が戻ってくる、
猿は焦って犬姫を立ち上がらせようとします。
「いやぁー!!やぁだぁー!!」
しかし、犬姫はいやいやと顔を振り近くの木にしがみつきました。
「・・・!」
そうしている内にこちらに向かってくる桃太郎が見えました。
「ちっ!」
猿は諦めて犬姫の手を離し来た道を駈け戻りました。
ここで粘ればほぼ確実に気違いに斬り殺されますが
命さえあればまた機会は巡ってくるかもしれないのです。
幸い、この山は猿の生まれ育った場所です。
例え彼らが体力自慢で山慣れしていても
この山では自分の方が有利に動けるという自信があります。
燃え盛る山賊の家が全く視界に入らなくなるまで駆け下りると
猿は立ち止まり山道のそばにあった木に登りました。
とりあえずここまでくれば安心です。
あとはこうやって木に登って桃太郎達が来るのを察知すれば逃げるだけです。
そうして逃げつづけ、用足しででも彼らが離れればその隙に犬姫を攫おうと思いました。
「へっ、持って来ちまったな」
猿は太い枝の上に座るとそのまま持ってきてしまった袋を見ました。
「そういや団子入ってたな」
安心した事で空腹を思い出し猿は団子を一つ取り出しかぶりつきました。
お餅のように柔らかい団子は猿の口に入ると更に柔らかくなり
まるで液体のように喉に吸い込まれていきました。
その途端、猿の身体は異常なまでに熱くなりました。
「うわぁぁーーっ!?」
身体の異変に驚き猿は木から落ちてしまいました。
「どうしたっ、何があったんだ!?」
アジトに火をかけ慌てて出てきた者を残らず斬り捨てて桃太郎が戻ってきました。
するとどうした事でしょう、猿の姿は見当たらず犬姫は泥だらけで泣きじゃくっています。
「ひっく・・・ひっく・・・ももたろさぁん・・!ももたろさん・・」
桃太郎の姿に気付くと犬姫は抱きついて更に泣きじゃくりました。
桃太郎は狼狽えながらも犬姫を抱きしめ髪を撫でました。
「落ち着きなさい。
怪我をしてるじゃないか」
桃太郎は犬姫のほほが腫れてる事に気付き抱きかかえたまま
まだ燃えている山賊のアジトの方へと向かいました。
燃えている体に必死で井戸水をかけている山賊がいたのを思い出したからです。
「あったあった」
思ったとおり井戸を発見すると死体を蹴っ飛ばして水を汲みました。
そっと水を手の平にすくい、まだしゃくりあげている犬姫の顔に塗ります。
「ひゃっ・・」
小さな悲鳴をあげた顔にぱしゃぱしゃと水をかけて洗うと桃太郎は犬姫の口を吸いました。
軽く吸っただけで離すと今度は涙の跡に舌を這わせ瞼に接吻をしてまた口を吸います。
「ん・・・・」
しばらく接吻したまま髪を撫でていると犬姫の顔がほっこりと崩れました。
腫れたほほがまだ痛々しいですが笑ってくれた事に安心し桃太郎は尋ねました。
「何があったんだ?
猿はどこにいった?」
「あいつが殴ったの・・・。
桃太郎さんが行った後、突然のしかかってきて殴られて・・・
やめてって言ったの、やめてって言ったのに・・・お、押し倒されて・・・」
その時の恐怖を思い出し青ざめた顔に止まったはずの涙がまたつたいます。
「なんだと・・!
許さん!猿め斬って捨ててくれるわ!」
桃太郎は顔を紅潮させ怒りに身体を震わせます。
炎に照らされたその顔はまるで鬼のような形相をしていました。
「猿の匂いがする・・!」
山道を降りていく途中、突然犬姫が言いました。
殴られた時のことを思い出したのか
桃太郎の襟をぎゅっと掴み強く抱きついてきます。
「どっちだ?」
「このまま降りていった方・・・。
ももたろさん、もう一人にしないでね」
怯えた顔で訴える犬姫に頷くと桃太郎は道を下りていきました。
絶対に斬り捨ててやる。
今でも怯える犬姫が可哀想で桃太郎はそう誓いなおしました。
その時です。
犬姫が鼻をひくひくさせると声を上げました。
「あ、あれっ!」
犬姫が指差す方向へと目を向けると一人の人間が寝転んでいます。
「あいつだよ!
猿だ!猿の匂い!」
その言葉を聞くと桃太郎は駆け出しました。
絶対に殺そう。
そう思って駈けた桃太郎でしたが
猿の傍に来るとさすがにおかしい事に気付きました。
猿は気絶しているらしくピクリとも動きません。
それに姿が知っている猿とは微妙に違います。
身体全体が少し丸みを帯びていて胸も僅かながら腫れています。
「こやつ女だったのか?男だとばかり思っていたが・・・」
「うん、男だった・・・はずなんだけど」
目を丸くしている犬姫と顔を付き合わせると桃太郎は首を傾げました。
「とりあえず起こすか」
「えっ・・」
犬姫が少し嫌そうな顔をしたので桃太郎は少し考えました。
そして、猿の帯びを解いて猿の両手を後ろに縛り上げるのでした。
「ううっ・・・」
「ようやく起きたか」
猿が意識を取り戻し声を発すると桃太郎は猿の胸座を離しました。
ぶら下げられていた猿は当然、尻を地面にぶつけ声を上げます。
「いってぇ・・な、なんだ!?」
痛みで少し遅れましたが猿は自分が両腕を後ろに縛られているのに気付き慌てました。
「ちょっ・・なんだよこれ!?」
「なんだではない!
お前は犬姫に乱暴を働いたらしいからな。
それより聞きたい事が・・・」
「離せっ!離しやがれ!くっそ、離せぇ!」
猿は尻餅をついたまま体を振って喚きます。
桃太郎は言葉を出そうとして思い直し、刀を抜きました。
「黙れ。今お主は死ぬか生きるかの際におる。
黙るか死ぬか選べ」
刀を猿の首筋に当て桃太郎が凄みます。
それで猿は桃太郎の狂人ぶりを思い出し口をつぐみました。
目の前にいる男は躊躇い無く斬るでしょうし
下手をしたらもっと酷い目に合わされる事も考えられます。
「お主はいつ女になった?」
「は?」
桃太郎の言っている意味がわからず猿は間抜けな声を出しました。
「初めに会った時は男だったではないか?
いつ女になったのか聞いている」
「お、俺がいつ女になったってんだ!」
猿は白刃に帯びながらも大きな声を出しました。
しかし、桃太郎は言い返しもせず猿の身体を見下ろしています。
それに釣られて猿は自分の身体を見下ろしました。
するとそこには前をはだけた女の身体があったのです。
浅黒い肌にほんのりとふくらんだ胸は頼りないけれど確かにおっぱいと呼べるものです。
それにその下へ視線を這わせると最近生え始めた陰毛と割れ目があるだけで
ちんぽこも金玉もありません。
全く見当たらないのです。
しばらく呆然と見ていた猿がすうっと息を吸い込みました。
「なっ、なんだこりゃ!?」
仰天した猿は顔を上げました。
「なんで!?なんだよこれ!?
俺に何したんだ!!
俺なんで女なんだよ!!」
挙措を失った猿の姿に桃太郎は眉をひそめました。
「何とぼけてんだよ!
ももたろさん、もうこいつ殺そうよ!」
桃太郎の背中から顔だけを出した犬姫が煽ります。
「そうだな、このままとぼけるようならそれも止むを得ん」
「ま、待ってくれよ!俺もわかんねえんだって!
あんたらがやったんじゃねえのかよ!」
桃太郎は落ち着かせる為、また猿の首に刀をあてがいました。
猿の顔が恐怖にひきつるとゆっくりと口を開きます。
「自分でも女になった原因はわからんと申すか。
まあそれはいい。
どうやら間違いなくお主が猿である事はわかったからのう」
桃太郎の目が怪しく光ります。
「さて、どう懲らしめるかのう」
「殺そうよ、こんな奴!」
桃太郎の腹の脇から顔を出し犬姫が言います。
「ま、待ってくれよ!
悪かったよさっきは、殺さないでくれ!
頼む!頼みます!殺さないで!」
必死で懇願する猿を見て桃太郎は悩みました。
さすがの桃太郎でも女子供を殺す事をほんの少しぐらいは躊躇うのです。
「よし、ではお主が犬姫にした事と同じ事をしてやる」
そう言うと桃太郎は刀を納め、胸座をつかむと拳を振り上げました。
「ま、待っ・・」
バチィンッという派手な音をたてて桃太郎の拳が猿のほほを打ち付けました。
「ぐっ・・」
そして、その一撃でぐったりとしている猿の身体を木に押し付けました。
「ももたろさん・・・」
「少し待っておれ、こやつを懲らしめてやるからな」
そう言うと桃太郎は猿の片足を持上げ、袴を脱ぎ猛った肉棒を猿の股間にあてがいます。
「い゛っっ!」
気を失いかけていた猿は新たなる激痛に声を漏らしました。
「きついな・・」
それはそのはずです。
互いに乾ききった状況でそう簡単にはいるはずがありません。
「はぁ・・はぁ・・やめてっ・・・やめてくれ・・」
力一杯押しのけようとしても桃太郎はびくともせず猿は恐怖しました。
力で敵わぬ事を思い知り、恥も捨てて猿は桃太郎に懇願しました。
痛みだけではありません。
身体が女になっていてもまだ実感がありませんから男に犯されるという事は
何より気持ち悪く想像だにしなかった事です。
どうやっても受け入れる事は出来ません。
「お願い・・止めて・・・」
桃太郎は一旦挿入を諦めて、猿の陰唇に唾を塗り始めました。
その指の感触は気持ち悪く、改めて自分が女になっている事を知らされます。
それにこの唾を塗り終わったら桃太郎は再度挿入するつもりなのでしょう。
それがますます猿の恐怖心を煽ってくるのです。
「頼む、止め――」
「黙れ。お主が犬姫にした事ではないか」
ぎらりと睨んでくる桃太郎は恐ろしくて仕方ありませんが
それでも猿は何とか気力を奮い立たせました。
「お、俺はそこまではし――」
「未遂でも同じ事!」
桃太郎は猿の言い分を一蹴すると再度腰を突きこみました。
「い゛っっ!」
今度はたっぷりと唾をつけたからか
めりめりと肉を掻き分けて桃太郎は侵入していきました。
「ぐぅぅぅぅ・・・」
猿の口から悲痛な声と供に空気が漏れていきます。
桃太郎は腰をずんずんと前後させ容赦なく猿を女にしていきます。
「はぅっ・・・はぅぅっ・・・」
痛みと恐怖で猿の目から涙がこぼれてきました。
背中は木に叩きつけられ、しばられた腕も痺れ、貫かれる痛みに言葉すら出せません。
憎いとか怖いとか悔しいといった感情が痛みによって強制的に忘れさせられ
早く終わってくれ、と言う事だけが頭の中を占めていきます。
「〜〜〜〜っ!」
歯を食いしばり耐える猿の口から音の無い叫びが聞こえてきます。
処女の媚肉は力づくで押し開かれ奥まで桃太郎を受け入れています。
身体の中に入れられる不快感が猿の身体を突き上げます。
自己防衛の為に出てくる粘液がより桃太郎の動きを滑らかにしていき
より激しく突き上げられるのです。
「痛いか?お前は犬姫に同じ事をしたのだぞ」
正確には違いますが、殴られた痛みと貫かれる痛みで
頭の中がぐちゃぐちゃになった猿はそれは酷い事をしたなぁと思いました。
猿は無理矢理犯されることが
こんなに怖くて辛くて悲しい事だとは今まで思ってみませんでした。
猿の目からぽろぽろと落ちる涙を確認し
桃太郎は彼女の中にたっぷりと射精するのでした。