……桃太郎さん……………………………
……………桃太郎さん…………起きて……
「ん〜・・・?」
体を揺すられる感覚に桃太郎は眠りから覚めました。
寝ている時でも隙は見せたくないと思っているらしく
普段の桃太郎は相当に目覚めがいいのですが今日はそうでもないようです。
「ふあぁ・・・」
大きなあくびをして枕の柔らかさを味わっている桃太郎に囁き声が聞こえてきました。
「・・・桃太郎さんってば・・!
・・起きてよぉ・・・!」
その声に切羽詰ったような響きがあり桃太郎はゆっくりと目を開きました。
「おっ・・!」
目を開けると鼻がくっつき合うほど間近に猿の顔があり桃太郎は少し驚きました。
「桃太郎さん・・・」
「どうした?
何故そんな泣きそうな顔をしている」
桃太郎がそう言うと猿はますます泣きそうな顔になりました。
「あ・・その・・あの・・・・」
もじもじと言いよどむ猿の頭に桃太郎は布団から出した腕を乗せました。
そして、ぐっと力を入れて引き寄せます。
「んっ・・・」
猿の震える唇に桃太郎の口が合わさります。
猿のささやかな抵抗を無視してひとしきり口を舐めまわすと桃太郎は微笑みました。
「これで口もほぐれただろう?
どうしたんだ?」
「う、うん」
桃太郎の優しい口調に安心し猿の表情が幾分和らぎました。
「あの・・俺・・おしっこして・・・」
「厠に行きたいのか?」
「ち、ちがう!・・・その・・・もう・・・」
鼻が擦りあわされるほど近い顔がはにかむのを見て桃太郎はぴんと来ました。
「おねしょ、か」
「う・・うん・・・・あの、それでどうしたらいいのかわかんなくて・・」
桃太郎は布団を剥いで体を起こすとすぐに立ち上がりました。
呆然と見上げる猿の肩に手を置いて窓の方へ顔を向けました。
「朝・・・というにはまだ早いか」
窓からみえる空はようやく白くなり始めたという感じです。
桃太郎は外から薄暗い室内へと視線を移しました。
犬姫の布団はこんもりと盛り上がっているだけで誰の姿も見えません。
布団の使い方を分かってないので真中で布団に包まって寝ているのです。
雉姉はというと更に酷く、畳の上で解けた浴衣から乳を放り出しています。
桃太郎は顔をほころばせるともう一つの布団へと目を向けました。
猿が寝ていたはずのそこには確かに黒く濡れた染みが広がっています。
「ほう、あれか」
「う、うん・・・どうしよう・・布団代とか・・・」
不安げな表情で見上げる猿の頭に桃太郎の大きな手が乗せられました。
「ふふっ、そんなものはどうでもいいさ。
さ、お前は風呂に行って体を洗って来い。
布団は私が何とかしておく」
「えっ・・・・」
「さあ。そのままにしておくと痒くなるぞ」
そううながされ猿は風呂へ身体を洗いにいきました。
「ふぅ・・・」
短いため息が思ったよりうるさくて猿は少しだけ驚きました。
差し込む朝日を浴びてきらきら輝く水面だけが猿の目に映っていました。
昨晩は犬姫が泳ぎまわっていたほど広い湯船は
たった一人でつかっていると優越感よりもむしろ寂しさを感じてしまいます。
もう上がろうかと思い猿が立ち上がろうとした時、ガラガラと音を立て木戸が開きました。
「桃太郎さん!」
「おお、おったな」
開かれた戸から現れたのは全裸の桃太郎でした。
「そんな風に立ち上がっては丸見えだ。
私じゃなかったらどうする」
少し咎めるような口調の桃太郎の声に猿は慌てて湯船につかり直しました。
「湯もあったとは良かったな」
「う、うん、昨日の残りみたいだからぬるいけど・・・」
そう言ってから猿は桃太郎が何か持っている事に気が付きました。
手ぬぐいかと思っていたのですがどうやらそうではありません。
「あーっ! それ俺のふんどし・・」
「うむ、脱衣所にあったでな。
これも洗わないといけないだろう?」
「い、いいってば!」
猿は慌てて駆け寄ると桃太郎の持っているふんどしを掴みました。
しかし、桃太郎は離してくれません。
「ちょっ・・はなしてっ・・・・」
「何故だ、洗ってやるから湯船に戻りなさい」
ほんの少しの間、二人でふんどしを掴み合っていましたが
突然悲鳴を上げて猿は背を反らせて手を離しました。
こっそりと回り込んだ桃太郎の指に尻穴をつつかれた為です。
「ふふ、兵法の基本だ。
二つ同時には守れない」
そう言うと桃太郎はふんどしを取り上げ恥ずかしがる猿を余所に洗い始めるのでした。
「ぬるいな。
朝にはちょうど良いかもしれんが」
「そうだね」
広々とした風呂場にたった二人だけという贅が嬉しそうなため息を吐かせます。
「・・・ねえ、桃太郎さん。布団どうしたの?」
「ん? 台所に女中がおったから頼んできた。
こっそりと、犬や雉にばれないように替えてくれるそうだ」
「えっ!?そんな・・そうしたら新しい布団代とかかかるんじゃ・・・」
心配そうな声を出す猿を桃太郎はぐいっと引き寄せ抱きしめました。
「お主にはよく助けられているのだ。
そのような事気にしなくても良い」
「桃太郎さ・・・んっ!」
優しい言葉をかけると桃太郎は猿の胸へと手を伸ばしました。
「あっ・・こんなとこで・・・ん・・」
さらに接吻で口を封じました。
むちゅむちゅと唇を食む音が風呂場に響き耳を愛撫します。
「うっ・・・・・」
慰めるつもりだった桃太郎も柔らかな肉を弄っているうちに血が上ってきて
まさぐる手の動きも激しさを増していきます。
あばらの浮いた体がぴーんと張って襲いくる快楽から耐えようとします。
「大分おっぱいが膨らんできたな」
ふにふにと軽く、そして執拗に揉みながら桃太郎は問い掛けました。
「そう・・?」
「ああ、今では犬より大きくなってないか?」
「ん・・・そういえばそうかも・・・」
言われて猿も自分の胸を見下ろします。
「なんか不思議・・・」
「不思議?」
「うん・・」
桃太郎に形を歪められているふくらみを見て猿は呟きました。
「昔は俺がしたかった事を今はされる方ってのがさ・・
いや桃太郎さんほど助平なこと思いつきもしなかったけどさ。
もし機会があればしてやろうと思ってた事を自分の身体でされてるってのが・・なんか・・」
そう口に出した時、猿はふと心に引っかかるものを感じました。
ほんの少しの、しかし確実にある違和感。
その正体を突き止めようとした時、猿は思考を中断させられました。
逞しい指が猿の女の門を撫で始めたからです。
「んぁっ・・!」
不覚にも猿は胡座をかいていた為、守る方法もなく腰を浮かせました。
しかし、桃太郎は指を止めません。
入り口の周りをぐるぐると撫で、蜜口をつつきます。
「めっ・・お湯がっ・・・」
猿は桃太郎の指から逃れるように身を捩って抱きつきました。
柔らかい体の感触に満足し、ようやく桃太郎は指を止めました。
「ここで・・するの?」
「する」
「人が来るかもしれないしさ、部屋に戻ってからにしない?」
桃太郎は返事の代わりに猿の中で指を忙しく働かせて始めました。
「んぁっ・・わかった!わかったからもうっ!」
一際高い声が猿の口から放たれるとようやく桃太郎は指を引き抜きました。
「はぁ・・はぁ・・・」
荒い息を整えながら猿は桃太郎の身体を支えに立ち上がりました。
「ん・・・」
そして、おもむろに身体を反転させ浴槽の縁へ手を置きました。
「おぉ・・・」
目の前に突き出された締まった尻に桃太郎から感嘆の声が上がります。
「あ・・・」
桃太郎はその尻たぶを遠慮なしに両手で掴みました。
「も、桃太郎さん・・・?」
広げられた事で侵入を覚悟していた猿でしたが、いつもの感覚が中々入ってこようとしません。
「・・何してんの?」
「見ておる」
「えっ!?」
驚いて首だけ振り返ると桃太郎はお尻をじいと凝視しています。
「こんな明るい所で見るのは初めてだからな」
「ちょっ・・止めてよ!」
猿も身を捩って抵抗しますが桃太郎の力に敵うはずもありません。
それで、猿は慌てて腕を尻と桃太郎の間に伸ばして隠してしまいました。
「・・見せてくれ」
「やだよ、恥ずかしい!」
「いつもあんな袖も裾も無い格好をしておるくせに。
見せてくれてもいいではないか」
「犬姫か雉姐に見せて貰ってよ!
あの二人なら喜んで見せてくれるって!」
「二人のも見るがお主のも見る!
猿も分かるだろうこの気持ちが!」
ムキになって尻に怒鳴る桃太郎の言葉に猿はハッとなりました。
男なら女のそこは見たくて当然ですしずっとそうだったはずです、
それにも関わらず昨夜の自分を思い起こすとそうでは無かったのです。
雉姐の股を舐めさせられた時の感情はどうだったでしょう。
(俺、心まで女になってきてる・・・?)
「見せてくれるまで尻を離さんぞ!」
桃太郎が駄々ッ子のように宣言すると猿はため息を吐きました。
「わかったよ、もう・・・でも部屋に戻ってからね、このままじゃ風邪引くし」
「うむ・・だがもう我慢できん、するぞ」
桃太郎は立ち上がって猿の両肩を掴みました。
「んぁっ・・」
そして、いきなり猿を貫きます。
猿はただ桃太郎の暴力的な動きに耐えるだけで声を上げるしか出来ません。
ザブザブとお湯を乱して桃太郎は猿の媚肉をえぐります。
蠢き絡みつく蜜壷をたっぷりと堪能し桃太郎は浅黒い小さな身体を散々に突き上げるのでした。
差し込んでくる光できらきらと輝く残り湯に二人の身体が漂います。
「今さらだが・・良い湯だな」
精を放ち一応満足したらしく桃太郎がぼそっと呟きます。
ぐったりと桃太郎に身体を預けていた猿がくすくすと笑いました。
ちゃぽちゃぽという呑気な音が二人を暖かく包みこみます。
「今日は一日中たっぷりするからな」
桃太郎の破廉恥な宣言を聞いて猿は驚きの声を上げました。
「え? 一日中って・・鬼は?
せっかく情報掴んだのに」
「拠点がわかったのだ、焦る事はない。
それに猿もふんどしも無しであんな裾の無いの着れないだろ」
そう言われると猿も何もいえません。
動きやすいように裾や袖を短くしたのは猿自身です。
あの着物でふんどしも無ければ秘所が丸見えになるのは猿にだって分かっていました。
しかし、それでも猿は桃太郎の態度が不思議に思えました。
「わかったよ・・・でも桃太郎さん、奥の方まだ痛いからさ・・・」
桃太郎の鎖骨を枕にして猿がじとっと見上げました。
「む・・すまん。
次からは気をつける」
「いつもそう言うけど結局奥まで挿れるんだから・・・」
猿が少し怒ったように言うと桃太郎の顔が情けなく歪みます。
「本当に次からは気をつける。
だから、ほら、機嫌を直してくれ。
せっかくこんな広い風呂が貸切なんだし・・」
機嫌を直してもらおうと桃太郎が言葉を重ねます。
その姿を映した瞳が穏やかに笑いました。
「いいよ・・せっかくの貸切だしね」
そう言うと桜色の唇が桃太郎の口へと重ねられるのでした。
「うーっ!うーっ!」
枕を噛んだ猿の口からうめき声が漏れます。
部屋に戻ったら、という約束は確かにしました。
しかし、突き出したお尻を弄る手は桃太郎だけでは無かったのです。
秘裂の奥には桃太郎の指が出入りし
その上で震えているすぼまりには雉姐の指が撫でており
ほんのりと顔を出した陰核は犬姫が突っついています。
「あぅっ!そこだめっ!そこォ・・」
桃太郎が膣の中に入れた指を曲げると猿の尻が跳ねました。
その反応に弄る指たちはますます激しくなっていきます。
「そこと言ってもどれの事だか・・」
「ふふ、ほんとに可愛いわねぇ・・」
そんな事を言って指を曲げたまま前後に擦ります。
「ぅあァァァァ・・」
猿の口からは涎と一緒に魂の抜けるような声が垂れ流されます。
まるでその真似をするように下の口もぬっちゃぬっちゃと粘度の高い音を立て
涎をあふれされています。
「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」
猿が喘ぎ声を千切りながら発すると桃太郎は満足げに指を抜きました。
猿は抜かれた事にもまだ気付かぬ様子で高く上げた尻を痙攣させています。
「いっちゃった?」
犬姫が無邪気な顔で猿を覗き込みます。
しかし、猿はそれでも反応しません。
桃太郎はその様子を見て、ふんどしを解くと逸物を取り出しました。
そしてだらしなく緩んだ壷口にあてがいます。
「あ・・だめ・・」
その感触で何をされるのか気付いたのか猿がか細い声をあげました。
しかし、桃太郎に腰を掴まれ動く事は出来ません。
「駄目なのか?」
「もう・・やめて・・六日目だよ・・・」
猿が囁くような声でいやいやと首を振りました。
そう、あのお風呂での約束を盾に桃太郎は六日も猿の身体をいたぶっているのです。
「だめだよ・・もう・・やばい・・・俺・・おかしく・・んはァっ!!」
桃太郎は猿の言葉の途中で構わず入れてしまいました。
その衝撃でまた猿は身体震わせています。
「あ・・・あ・・・」
猿の背筋がピンと張ると桃太郎は激しく腰を叩きいれました。
「おれ・・おかしくなっちゃうよぉ・・!」
猿の悲鳴のような声が部屋に響きます。
こうして桃太郎は猿に精を注ぐと退廃的な一日を始めるのでした。
そんな風に過ごしていたある日のこと。
今日は珍しく、桃太郎達四人は日も高い内から都の中をぶらぶらと歩いていました。
外に出たこの日も桃太郎は鬼ヶ島に近づく事はありません。
大通りを歩いて飾り物屋を覗いたり寿司を買い食いしたりと遊んでいるばかりです。
しかし、どんなに嫌がっていても避けることの出来ないものはあるようです。
彼等に運命を突きつけるように遠くから下品で大きな声が聞こえてきました。
その物騒な響きに桃太郎達は慌てて駆け寄り声の方を見ました。
往来のど真ん中で腰に二本差した厳つい男が若い女性を捕まえて凄んでいます。
「へへっ、いいじゃねえかよ。
ちょんの間で済ましてやるからよお」
男はいやらしい顔をして嫌がる娘を抱きしめています。
「待て! その娘は嫌がっておるではないか!」
桃太郎が啖呵を切ると男は睨みつけてきました。
「あーん? 俺が誰だか分かっていってんのか?」
「おのれのような屑を知り合いに持った覚えは無い」
桃太郎が涼しげに言ってのけると男は娘を離し
自らの着物の襟を引っ張ってそこに描かれた鬼の一字を見せ付けました。
「俺は鬼兵隊だぞ!
逆らうとどうなるか分かってんのか!」
「きへーたい?」
男の怒号の後、犬姫が呑気に繰り返しました。
「この都を守る役人さまだ!
俺らに逆らうって事は法に逆らうって事だ!」
「それがどうかしたのか?」
桃太郎は挑発する気でもなく言い返しました。
元より桃太郎は他人の決めた法に従うような男ではありません。
「てんめえ!!」
遂に切れた男が刀を抜くと一拍遅れて桃太郎の刀も閃きました。
「うがぁぁ!!」
地面に落ちた腕を見て男が汚らしい悲鳴をあげました。
「殺す!てめえは殺してやる!」
片腕の肘から先を失った男の体が見る見るうちにふくらんでいきます。
そのまま桃太郎達の眼前で男は七尺を越え赤く分厚い筋肉に覆われた姿へと変貌しました。
民のざわめきを切り裂くように、鬼となった男が拳を振り降ろしました。
ドゴォッっという聞きなれぬ音をたてて桃太郎のいた場所へ拳をめり込ませています。
「ぐへへ逃げるのは上手いじゃ―」
そこまで喋ると桃太郎の白刃が走り、首がごろりと転がりました。
「ねえ・・か」
地面に落ちた首がきょとんとした顔で動かなくなりました。
「・・・意外に弱かったね」
猿は何から言っていいのか分からずそんな事を言いました。
姿の変わった事に驚くべきかどうか迷ったという事もあります。
「結局・・これまでか・・・」
桃太郎は血も噴出さず動かなくなった鬼の死体を蹴り飛ばしました。
言葉の意味が分からず振り返った猿の目に桃太郎は寂しそうに映りました。
どういう事だろうと問おうとすると騒動を見守っていた一人のおばさんが叫びました。
「あ、あんた達、悪い事は言わないから早くお逃げよ!
鬼兵隊の奴等に見つかったら殺されちまうよ!」
その声は真剣そのもので、さすがの桃太郎も振り向きました。
「鬼兵隊とは何者ですか?」
桃太郎の問いの答えは言葉ではなく悲鳴でした。
その悲鳴を視線で追うと
今しがた息絶えた男と同じ着物を来た集団がこちらに向かってくるのが見えます。
「ほら!早く逃げなよ!」
そう言っている町人達は巻き込まれては敵わぬと鬼兵隊の前をぞろぞろと空けていきます。
「本当に殺されてるぜ・・・」
「へへへ、おりゃこういう歯ごたえのある野郎を殺してみたかったんだよな」
仲間の死体を見た鬼兵隊の集団は仲間が殺された事に悲しんでいる風でもありません。
しかし、それでも桃太郎を標的にしたのは間違いないようでした。
「やるぜ、おらぁ!」
掛け声と供に鬼兵隊の集団の体がふくれ始めると、にわかに一陣の殺戮の風が吹きました。
桃太郎です。
鬼兵隊が変身し始める前に飛び込むとたちまちの内に首を転がしていきます。
鬼兵隊の彼等も相当自分達の強さに自信があったようですが相手が悪すぎました。
桃太郎は敵と定めたら一言の弁解も許さない男です。
その上、正義を遂行する際にはどんな手を使っても成すべきという信念まで持っていました。
つまり桃太郎の前でやっと変身しているようでは呑気すぎたという事です。
二十名以上いた鬼兵隊でしたが
桃太郎と対峙する前に鬼になれた者はわずか五・六人でした。
その中で構える事が出来たのは二人ほど。
拳を振るえたのは一人もいませんでした。
「ふん・・・鬼どもめ!」
距離を置いて見守っていた人々に鬼の定義を考えさせるような事を言い
桃太郎は死体を蹴り飛ばしました。
「こいつらが探していた鬼?」
「うむ。わざわざ親切に鬼だと着物に書いてあるのだ。
おそらくそうだろう」
「ももたろさん!
また来たよ! あっち!」
犬姫の指差す方に振り向くとまたぞろぞろと鬼兵隊が向かってくるのが見えた。
「キリがありませんわ。
帰りましょうよ」
「ふむ、確かにな。
こいつら何やら仲間を呼ぶ不思議な力でも持っておるようだ。
一旦引き上げるか」
雉姐の提案にのり桃太郎達は大通りから狭い路地へ向かおうとしました。
その刹那、大きな悲鳴が桃太郎の背中を呼び止めます。
「おい、てめえ! 逃げんじゃねえ!
てめえが逃げたらこいつらを殺すぞ!」
その声に振り返ると鬼兵隊の者達は野次馬していた人々を捕まえ刀を突きつけています。
「逃げはせん! 逃げはせんから待っておれ!」
桃太郎は怒りで爆発しそうになるのを抑えてそう叫びました。
「お前等は逃げろ」
犬姫達にそう囁くと桃太郎は鬼兵隊の元へと歩き出しました。
桃太郎の考えはいたって単純なものです。
正義たる者、弱きを見捨ててはいけない。
ただそれだけの事なのです。
「桃太郎さま!」
「桃太郎さん・・・」
「ももたろさん!!!」
桃太郎の所へ駆け寄ろうとした犬姫を猿が後ろから羽交い絞めにしました。
「やぁだぁっ! 離してよぉ! ボクももたろさんと一緒にいるぅ!」
猿から逃れようと体を振る犬姫の目には涙が滲んでいます。
「馬鹿! 俺達がいたら桃太郎さんが本気を出せないだろ!」
猿がそう言って犬姫を引き摺っていきます。
「猿! 任せたぞ!」
「おう、任せろ!
・・・帰ってこないと怒るかんね!」
桃太郎はその声に片手を上げて答えました。
「ご武運を・・・」
そう言うと雉姐と猿は泣き始めた犬姫を引き摺りながら路地へと入っていきました。
「さあ来たぞ、その人達を離せ」
桃太郎が目の前に来ると鬼兵隊の者達は人質を持ったまま変身し始めました。
「おめえは卑怯な事をしやがるからな。
先に変わらせて貰うぜ」
その言葉を聞いて桃太郎の中にある疑問が浮かびました。
(こいつら、さっきから見ていたのか?
それなら加勢に来ても良かったはずだ。
まるで誰かからさっきの戦いを教えられたような・・・)
「ごふっ!」
鬼兵隊達の不可解な行動を読もうと考え込んでいた桃太郎に鬼の拳が浴びせられました。
頑丈さには自信のあった桃太郎でしたが
地をも抉る鬼の拳をもろに浴びてはたまったものではありません。
腹を押さえ崩れ落ちた桃太郎に鬼たちは容赦なく攻撃を加えていきます。
(・・・これは危険だ。
こうなればもう人質に構わず斬り捨てるか・・・いや、しかし・・・)
「お館様・・!」
意識の朦朧としてきた桃太郎がそのような事を考えていた時、鬼の一人がそう叫びました。
すると、他の鬼たちまでも動きをピタリと止めたのです。
「はい・・・はい・・・」
(何だ・・?
誰と話している・・)
なんとか力を振り絞って見上げても誰かが来た様子はありません。
しかし鬼たちは中空に誰かがいるような態度で言葉を交わしています。
「へっ、運がいいな、てめえは・・・
おい、お館様がこいつを中に連れて来いと仰ってる」
先頭にたって殴っていた鬼がそう言うと
他の鬼たちが人質を離し桃太郎を担ぎ上げました。
「おい、お前等はこいつの仲間を探せ。
まだ近くにいるはずだ」
その言葉を合図に鬼たちは散らばっていきます。
桃太郎は朦朧とした意識の中でただ三人の無事を祈る事しか出来ませんでした。