「ほう、随分と元気そうだな。
貴様、本当に人間か?」
お館様の顔に怪訝そうな表情が浮かびます。
桃太郎はいよいよもってお館様と鬼兵隊の関係に対する疑念を確信に変えていました。
見張りが呼んだわけでもないのにお館様が現れたのです。
(こやつらは目を共有しておる・・)
お館様が来る前に見張りが空と会話していたのを見たのです。
(ということはこの男さえ殺せば・・)
桃太郎がそのような事を考えていると知ってか知らずか
お館様は不機嫌な様子で格子ごしに桃太郎を睨みつけます。
「そろそろワシの部下になる気になったか?
貴様とて死ぬたくはあるまい」
「お主の下につくぐらいなら腹を裂く」
桃太郎の言葉にお館様は少し顔を引きつらせました。
「私には誇りがあるからな。
餓鬼に落ちてまで生きたいとは思わん」
更に桃太郎が挑発するとお館様の顔がサッと朱に染まりました。
なおも桃太郎は罵声を重ねます。
「私は鬼退治をする身だが鬼が哀れに思えてきた。
このような屑に使われておるとはのう」
ぶるぶると身体を震わせ聞いていたお館様が拳を握り締めました。
「開けろ!!この糞をひねり殺してやる!!
さっさとせんかぁーっ!!!」
お館様が見張りに怒鳴りつける様子を見て桃太郎は得たりとほくそ笑みました。
分の悪い勝負ですが、ここから出るにはお館様を蹴り殺すしかないと思っていたからです。
(さあ来い!)
湧き上がる闘志を隠そうともせず桃太郎はお館様が扉を開けて入ってくるのを待っていました。
ところが突如としてお館様が動きを止めてしまいました。
「どうした!かかって来ぬか臆病者!」
挑発の言葉にも耳を貸さずあれほど怒っていたのが平静に戻っています。
「ククク、いい事を教えてやろう。
お前の仲間がのこのこと現れたそうだ。
お前を助ける為か?けなげよのう。
そのけなげさに免じてお前の前で嬲り殺しにしてやろう・・ウーハッハッハッハ」
「・・あいつら・・・」
桃太郎が表情を変えたのを見てお館様から愉快そうな笑い声が上がるのでした。
「来たよ・・・!」
「へへ、来やがったな。
あいつらは俺がなんとかするから気にせず鬼ヶ島に近づいて!」
小船に乗って順調に鬼ヶ島に向かっていた三人の前に遂に門から鬼兵隊の乗った船が出てきました。
「お嬢ちゃん、痛くしないからこっちおいで〜」
出てきたのがたった一艘、しかも二人乗りしている事に猿は安心しました。
小さな船に二人もいれば変身は出来ませんし、してしまえば重さで沈んでしまうでしょう。
しかも、うまい事に鬼は一人が松明を持っています。
「へっ、おっさんなんかに捕まるかよ!」
弓などの飛び道具を持ってない事を確認すると挑発的な事を言いました。
「なんだとこの糞ガキ!捕まえてヒイヒイ言わすぞコラ!」
怒った鬼兵隊の船はグングン三人の乗る船に近づいてきます。
船に乗ったことも無かった三人に比べれば当たり前ですが随分と速いようです。
あっという間に三人の船に触れそうなほど近くにやってきました。
「うへへ、近くで見ると可愛い顔じゃねえか!さあ大人しく・・」
「今だ!」
船がぶつかるほど近くに来た時、猿は掛け声と供に小さな壷の中身を松明を持った鬼に振り掛けました。
「ウギャァーーーーーー!!!」
途端、つんざくような悲鳴と一本の火柱が闇夜を煌々と照らしました。
「そら、もう1個おまけだ!」
そう言って鬼兵隊の船の船底に油壷を投げつけると小船全体が大きな松明に変わります。
鬼達がたまらず湖に飛び込むと猿は松明と化した船を櫂で鬼ヶ島の方へと押しやりました。
どう威張っていても、湖の上にあっても、所詮は木造の館。
火をつけられて困らないはずがありません。
「よし、飛ばそう!
さっさと乗り込むぞ!」
まるでお館様と桃太郎の顔色は表裏一体になっているかのようです。
三人が現れたという話をした時、お館様の顔は輝き桃太郎の顔は土気色になっていました。
今は逆にお館様の顔が怒りに赤く染まり、桃太郎の顔色は平常どおりに戻っています。
(どうやらあの様子だと三人はまだ捕まってないらしいな。
それどころかこの男を怒らせるような事までやっているらしい)
単純で感情的な男が目の前にいるおかげで
桃太郎には状況が手にとるように分かっていました。
無論、楽観視できる状況では無いのですが桃太郎は愉快でしかたありませんでした。
「貴様は家臣にどんな教育をしておるのだ!?
人道というものを知れ!」
興奮した様子で怒鳴るお館様を見て桃太郎はうっすらと笑いました。
「なっ、何を笑っている!?」
桃太郎の笑みを見てお館様の顔が青ざめました。
「私のやり方をよく分かってくれていると思ってな」
「なっ・・なんだと!?」
驚くお館様とは対照的に桃太郎は涼しげに笑みを浮かべています。
「この・・狂人め!」
そう言い捨てるとお館様は背を向けました。
「ど、どこに行かれるのです!?」
「門が燃やされたらしい!
万が一の為、ワシは船がまだ残っている内に向こうに渡る。
お前等は火を消せ!」
「ここらへんにしよう」
猿がそう言うと雉姐はそっと小船を塀に寄せました。
先ほどの松明船が上手い具合に鬼ヶ島の門におびき寄せられ燃え移ったようです。
「よし、屋根の上には誰もいないぜ!」
猿が自慢の身軽さで雉姐の肩の上から館の上に飛び乗りました。
「犬姫!」
「うん!」
続いて犬姫も雉姐の肩から飛び猿に引っ張られて屋根へと乗りました。
「雉姐!」
「きゃっ!」
猿の言葉に合わせて雉姐が飛び上がろうとした時、船体がグラっと揺れました。
見れば、船体の端に先ほど燃やされて船から落ちた鬼兵隊がしがみついています。
「この・・!」
「雉姐!いいから登って!」
櫂で殴ろうとした雉姐を猿が呼び止めました。
「でも・・・」
「大丈夫だから!」
「わかったわよ!」
迷っているほど時間はありません。
雉姐は猿の大丈夫という言葉を信じ人間離れした跳躍力で屋根に飛び乗りました。
「どうするの?居場所がバレたら奇襲なんて出来ませんわよ!」
「任せてって!」
猿はそう言うと腰にぶら下げていた小さな油壷をその場にひっくり返しました。
「まさか・・」
「燃やしに来たんだから場所なんかどうでもいいんだって!」
雉姐に片目をつぶって見せると猿は油の垂れた壁に火をつけてしまいました。
「犬姫!」
「こっち!」
船にしがみついた鬼兵隊が呆気に取られる中、
瓦を蹴る乾いた音が騒がしい闇夜に響き渡るのでした。
ただ閉じ込められているだけの桃太郎でも鬼達が混乱しているのはわかりました。
首領らしき男はいなくなるし、見張りは何をしてのか分からない様子でうろうろしています。
桃太郎達が幸運だったのは鬼達が馬鹿だった事と
お館様の指示までも愚かだったことです。
「火を消せ」と言ったり「桃太郎を見張れ」と言ったり「侵入者を捕らえろ」だったりと
お館様の指示が二転三転するため、元々馬鹿な鬼は何をしていいのか分からないのです。
「おい、お前は火を消しにいかなくていいのか。
火の勢いはどんどん増しているのではないか」
桃太郎が言葉を投げかけると見張りに立っている鬼は苛ついた様子で睨み返しました。
「うるせえ! お前を助けに来たのかもしれんだろうが!」
鬼の焦った声を聞き桃太郎は笑みを浮べました。
(助けに来たのかも知れない・・・そう思わせるとは、あいつ等相当派手にやっているようだな)
普通に考えれば侵入者は桃太郎を助けに来たに決まっています。
しかし、そう確信していないと言う事は無茶苦茶に火をつけているのでしょう。
桃太郎ごとこの館と鬼達を焼き殺す気だと思わせているのです。
「おい、お前、鍵は持っているのか?」
「ああ、そんなもんねえよ!
へっ、残念だったな、今さらお館様に従う気になっても遅せえんだよ!」
鬼が威勢良く啖呵を切った時、桃太郎の視界の端にいた影が鬼の頭の上に降って来ました。
一人目は雉姐。
全く注意を払ってなかった頭に短刀をめり込ませました。
二人目は猿。
めり込んだ短刀の柄に全体重を乗せて飛び降りました。
三人目は犬姫。
まだも消えぬ命の火に渾身の力を込めた瓦をお見舞いしました。
「みんな!無事だったか!」
「ももたろさん・・・!」
「ちょっと待ってて」
涙ぐむ犬姫と慰める桃太郎を余所に猿は懐から取り出した釘で鍵を弄くり始めました。
「急いで!」
雉姐にせかされ猿の額に汗が滲みます。
「・・・・・っしゃあ! 開いたぜ!桃太郎さん!」
さすがに元山賊、鍵空けはお手の物です。
「お前達・・・!」
「へへ・・・」
「桃太郎様・・!」
桃太郎が格子の中から出ると三人が身体を押し合うようにして抱きつきました。
こうして四人はようやく再会したのでした。
「よし、ここから出るぞ!」
縄も解いてもらい、三人を抱きしめて体力を回復した桃太郎はおもむろにそう叫びました。
「えっ、でも・・・」
「鬼どもは一人の首領らしき男に操られているのだ。
さっさと逃げてしまったがそいつさえ倒せば全て終わるはずなのだ」
「う、うん、わかった!
船とか燃やしちゃったから泳ぐしかないけど・・」
猿の言葉に雉姐が青ざめました。
「わ、わたくし、泳げませんわ」
「ならば私が抱えて泳ごう。
犬姫と猿は泳げるんだな?」
二人が頷くと桃太郎達は格子を梯子のようにして登り始めました。
猿達が手当たり次第に放火しまくったせいで
既に桃太郎達のいるところまでバチバチという火の爆ぜる音が聞こえ始めています。
「よし、じゃあ行くぞ!」
「ももたろさん・・・」
桃太郎が泳ぐ為に着物を脱ぎ捨てふんどし一丁になると犬姫がぎゅっと抱きついてきました。
走り回り疲れきった体で長い距離を泳ぐ。
その辛さを想像してしまったのでしょう。
犬姫の身体は震えていました。
「ん・・・」
小さな舌が桃太郎の口を舐めまわし柔らかな唇がちゅうちゅうと吸い付きます。
「あん、わたくしも・・・」
犬姫が離れるとすかさず雉姐も唇を奪い取ります。
接吻中の桃太郎の腕に猿の手が触れました。
「あの・・俺も・・」
桃太郎が猿の口を吸い始めると雉姐が犬姫の口を舐め始めました。
そうして四人はそれぞれに接吻し、赤く照らされた夜の湖へと身体を投げ入れたのでした。
夜の水は冷たく不気味な物でしたが、彼等の敵ではありませんでした。
何故なら、再会した喜びが身体中に漲り温めてくれたからです。
鬼ヶ島へ乗り込む時に比べれば、格子の中で一人祈るしか無かった時に比べれば
楽しいとすら言えたかもしれません。
そうして、岸にまで泳ぎ着いた彼等でしたが問題はここからでした。
桃太郎達が泳いで来るのが見えたのでしょう。
お館様と数人の鬼の姿が見えたのです。
「どうした?
待っててやるから上がって来い」
お館様が余裕を見せているのには理由がありました。
その手にはわんわん泣き叫ぶ五・六歳ほどの小さな子供がぶら下げられていたのです。
「くっ、なんと卑怯な・・!」
水面から上がった桃太郎が叫ぶとお館様の赤い顔が益々赤さを増しました。
「きっ、貴様が言うなァーー!!
火をっ、火をつけておいてっ!!
見ろォ!
もうあんなだぞ!
あんな・・・燃え盛って・・・・・・」
お館様の言う通り、既に鬼ヶ島は巨大な炎と化して天を焦がしています。
お堀越しでありながら桃太郎達の元へゴウゴウという音が聞こえてくるほどです。
「さあ、来い!
このガキを殺されたくなかったら大人しくこっちに来るんだ!」
遠い目をしていたお館様が我に帰ると桃太郎は躊躇いました。
確かに子供を殺されるのは駄目です。
しかし、ここで自分が死んでは意味が無いのではないかと思うのです。
桃太郎は頭の中が真っ暗になるほど悩みました。
子供の泣き声が桃太郎の耳を叩きます。
「わかった・・・」
「ようし、いい子だ、ゆっくりこっちに歩いてきな」
桃太郎は決断しました。
大人しく従う振りをして近づき殴り殺す、と。
そうして桃太郎が一歩づつ近づいていると突然、お館様が声を上げました。
「ウガァッ!」
ぼとりと子供が地面に落ちました。
お館様の腕の付け根あたりに包丁が生えていました。
「さきちゃん!」
雉姐が叫ぶのと同時に桃太郎が走り出しました。
桃太郎に助けられ猿達三人を助けてくれた娘、さきがお館様の腕に包丁を刺したのです。
その行動に自分でも驚いてるかのように、さきは固まって震えています。
「きさまァァァァッ!!!」
倒れ、怒り狂ったお館様の命で鬼がさきを殴ろうとした瞬間
桃太郎の足が鬼の脇腹に突き刺さりました。
鬼が姿勢を崩し倒れると雉姐がさきを、犬姫が子供を攫ってそのまま駆け抜けました。
「桃太郎さん!」
猿の声に振り向くと刀が投げられました。
桃太郎はそれを受け取ると、稲光のように閃いて残りの鬼達の首を斬り落としました。
「・・・・・・・・・・」
お館様はただその光景を呆然と見ていました。
館が燃やされました。
部下であり己の分身である鬼達が殺されました。
自分の身体を傷つけられました。
そういえば、格子の中の桃太郎に侮辱された気もします。
「・・・・・・・・・・」
怒りのあまり眩暈がしてきました。
視界が狭くなり思考が薄れていきます。
「貴様等は絶対に許さんからな・・!
生きたまま焼いてやる!
貴様等じゃ考えられないほど残酷な目にあわせてやるからなァーー!」
そう言ったつもりでしたが周りの人々には声に聞こえていませんでした。
ただ怒り狂っている事だけは良く分かりました。
そのことを表すようにお館様の身体が赤黒く変身し始めていきます。
「ふん!」
「うそっ!」
桃太郎が刀を振り下ろすとなんとその刀が折れてしまいました。
桃太郎はすぐさま刀を捨て、ふくらみ始めたお館様の身体を両腕で抱え上げました。
既にお館様の身体は桃太郎の二倍ほどになっています。
「ウォォォォォォォッ!!」
雄叫びを上げ桃太郎は走り始めます。
頭の上の物体は己の三倍になろうかとしていました。
五倍ともなればさすがの桃太郎でも苦悶の表情を浮べます。
しかし、止まりません。
元お館様だった体は最終的に十倍にまで膨れ上がりました。
最終的とは桃太郎の手を離れた段階の事です。
「ウォォォッラァッ!!」
気合の雄叫びが響くと巨大化した赤鬼の身体が空を飛びました。
そしてゆっくりと宙を舞って
燃え盛る鬼ヶ島跡に頭から落ちると
お堀にまで滑って沈没しました。
大きくなりきった体の全体重をうけた首は折れ
お堀にはまった頭を抜く事は出来ず
都を揺らしまくったお館様は人々の見守る中、溺死してしまいました。
「いやぁったぁぁぁぁぁぁっ!」
最初に誰が叫んだのかわかりません。
お館様が動かなくなった後しばらく続いた沈黙はこの声で破られました。
その後、我先にと人々が叫びだし歓喜の雄叫びが都の空に響き渡りました。
いまだに寝ていた呑気者も歓喜の叫びの大合唱に叩き起こされ
事情を知るや合唱に加わりました。
大人も子供も関係なく飛び上がり舞踊り、泣き出す人々まで現れました。
まるで祭りが始まったかのような騒ぎです。
いや、この後、この日は毎年お祭りの日になった事を考えると
この日は第一回のお祭りだったといえそうです。
気が付けば桃太郎達の周りには人々の輪が出来ていました。
疲れきって座り込んでいる桃太郎達の元へ代わる代わる人々が礼を言い
時には、大急ぎでこしらえた料理や酒まで持ってくるのです。
交わってから寝ようなどと考えていた桃太郎には少々迷惑でもありましたが
何よりも人々が喜んでいるのを見て彼等もまた喜びました。
どうせ、もう今夜は興奮して眠れそうも無い。
そう確信すると桃太郎達もまた酒を飲み飯を食べて喜びを分かち合うのでした。
「さきちゃん・・ありがとうね」
雉姐に礼を言われ、さきは照らされた顔をほんのりと朱に染めました。
「いえ、そんな・・・」
「さきちゃんが頑張ってなかったら私達は死んでたかもしれないわ」
そっと肩を掴まれますます、さきは照れてしまいます。
「あ、あたし、じっとしていられなくて・・・
あたしだって桃太郎さんに助けてもらったのに何もしないのはずるいと思ったんです・・・」
「そんな事気にしなくて良かったのに。
・・・でも、ありがとう」
そう言うと雉姐はさきをぎゅっと抱きしめました。
「こんなに可愛いのに勇気があるのね・・・」
「あっ・・そんな・・・可愛いなんて・・」
雉姐はくすりと笑うとさきの頬を撫で始めました。
「だって可愛いわ・・すごく・・」
ちゅっという軽やかな音をたて雉姐の唇がさきの唇を弾きました。
「あ・・・」
「こういうの嫌い?」
「え・・その・・・」
戸惑うさきの表情に好感触を得て雉姐は抱きしめた腕をそっとお尻に伸ばしました。
「ふふ・・お姉さまって呼んでいいのよ」
「んっ・・!」
空が白み、人々もぼちぼちと眠りにつこうとし始めた頃
桃太郎達は好意に甘え、元いた旅籠に戻っていました。
「どうすんだよ雉姐、持って帰ってきちゃって」
「いいでしょ別に」
雉姐の布団には既にさきがすやすやと寝息を立てています。
「いいじゃない。
雉姐はその子とするって事で桃太郎さんはボク」
「ちょっと、駄目よ。
わたしだって桃太郎さんとしますからね」
「なんでよ、いいじゃない」
「はぁ・・・」
二人のやりとりを見て猿がため息をつくと桃太郎が膝の上に乗っていた犬姫を降ろしました。
そして、おもむろに頭を下げたのです。
「ちょっ・・桃太郎さん?」
「すまなかった。
私の女々しさで皆には迷惑をかけてしまった」
三人は顔を見合わせました。
桃太郎が何を言っているのかさっぱり要領を得ません。
「な、何のこと?」
「・・私は鬼退治をする役目を受け、そのために旅を始めたにも関わらず
いざ鬼がいると知ると退治するのが嫌になった。
怖くなったのだ。
さっさと退治していればこのような大変な思いはせずに済んだのだ」
「も、桃太郎さんが”怖い”だって?」
猿が素っ頓狂な声を上げると桃太郎は神妙に頷きました。
「ああ、もし退治してしまえばお主達がいなくなるのではないかと思ったのだ。
目的を達すれば母上にも会える。
そうすれば団子の効果を消す事が出来るかもしれない。
そう思うと、退治したくなくなってしまってな・・」
桃太郎が言葉を止めるとすかさず犬姫が抱きついてきました。
「えっへへー、あのね、いっぱいいっぱいしてくれたら許してあげる」
「いっぱい、ってどのくらいだ?」
「あのね、いっぱいだよ。
ずうっといっぱい」
にこにこしながら犬姫は桃太郎の口に舌を擦りつけています。
「それならおっしゃってくれれば良かったのに・・
わたくしが桃太郎さんから離れるなんて事あるわけありませんわ」
雉姐もまた嬉しそうな顔で犬姫ごと桃太郎に抱きついています。
犬姫に押し倒された桃太郎はされるがままにベロベロと顔を舐められています。
猿はその光景を見ながら桃太郎の言葉を反芻していました。
(離れられるのが怖かったって・・・元に戻られるのが怖かったって・・
桃太郎さんが・・あの傍若無人な人が・・・)
猿はふとある事に思い当たりました。
(もしかして・・・あんな執拗に俺を弄ってたのって・・・)
「んぁぁっ・・・!」
犬姫の甘い鳴き声が猿の思考を中断させました。
気付けば形勢は逆転し犬姫は差し込まれた桃太郎の指に踊らされています。
「くぅぅっ・・・・ん」
四つん這いになった犬姫が顔を上げて鳴いています。
その裸身を見て猿は自分の身体についているふくらみに手をやりました。
むにゅっという柔らかな感覚は手の平を覆います。
(確かに・・・犬姫のよりおっきくなってる・・)
「ふぁっ・・んんん・・お姉さまぁ・・・」
聞きなれない喘ぎ声に視線を映すとそこには雉姐に身体をまさぐられているさきの姿がありました。
その横では犬姫の小さな身体に桃太郎のものが侵入しようとしています。
いつ見ても、幼さすら感じる小さな白いお尻に桃太郎の凶悪なものが入っていくのは
少し残酷にすら見えて猿は身体の芯が少し熱くなってしまいました。
当の犬姫といえばあんな太いものを受け入れて体を揺さぶられて悦んでいます。
(はたから見れば俺もあんな風に見えるのかな)
桃太郎に抱えられ宙に浮いた状態で貫かれる犬姫を見てふとそんなことを思いました。
「くっ!」
桃太郎が短い声を出すと動きが止まりました。
痙攣する犬姫の口からかすれた声が漏れていきます。
それを見て猿は二人の元へ近づきました。
「猿・・・」
「・・・タダで泊まらせて貰ってるのに汚しちゃいけないだろ」
その言葉に桃太郎が引き抜くと猿は四つん這いでお尻を高く上げたまま
ぐったりとしている犬姫の秘所に顔を埋めました。
いまだに毛の生えていないつやつやとした丘は柔らかく熱く湿り
その中心からは白い涎を溢れさせています。
「あふぅ・・」
じゅるじゅるとすすると犬姫の口から音がこぼれます。
桃太郎の精を吸い取り舌を差し込んで舐め取ると猿はゆっくりと顔を離しました。
「ん・・・」
そのまま何も言わず猿は桃太郎のしなびた肉を口に含みました。
すぐにまた膨らみ始めたそれは猿の口にはとても大きく
目一杯開かなければ受け入れることすら出来ません。
口の中を支配しているものを丁寧に舌で洗い
鈴口からあふれてくる雫を喉で受け、纏わりついているねばねばの液体も吸い取ります。
その逞しい桃太郎の剣を口の中で感じながら
猿は桃太郎の言ったあの言葉を心に染み渡らせるのでした。
――――翌日――
「ふぁ〜・・」
日がもう下がり始め、ようやくに桃太郎は目を覚ましました。
「ん・・犬姫・・?
・・・猿?
雉・・・?
どうした?
どこだ?」
三人の姿が無く桃太郎は慌てて部屋中を見渡しました。
しかし、三人の姿はどこにもありません。
「みんなどこだ!?」
「ここですわ」
大声をあげるとすぐに雉姐の声が聞こえ桃太郎は胸を撫で下ろしました。
「桃太郎さん目をつぶってください」
意味はわからずとも桃太郎は言う通りに目をつぶりました。
なにやら、衣擦れの音と襖の開く音がします。
「はい、いいですよ」
目を開けた先に映ったのは、深緑色に輝く振袖を着た雉姐の姿でした。
いつも剥き出しだった足も隠れ、髪もまとめ上げたその姿は気品すら漂っていました。
「頼んでいた着物が出来上がったんですの。
どうですか・・・?」
「・・・綺麗だ。
私は着物の事はよくわからんが美しい事だけはわかる」
「キャー、やったー!!」
桃太郎が素直に褒めると雉姐は飛び上がって喜びました。
「あの馬鹿オスどもめ!ざまーみろ!
やったー!何が僕達の方が美しいだ、こん畜生め!
わたしの方が百倍綺麗ですわよ!!」
雉だった頃によほど羽の綺麗なオスに恨みがあったのか
雉姐はしばらくの間、呆気にとられる桃太郎の前でおおはしゃぎで喜びつづけるのでした。
「犬姫ちゃんおいで」
ようやく落ち着いた雉姐に呼ばれると犬姫が姿をあらわしました。
明るい黄色の無地に蝶々がうすくあしらってあります。
ますます幼くなったように見えますがとても愛らしい姿でこれも桃太郎は気に入りました。
「ふふ、可愛いな」
「ほんと?可愛い?」
「ああっ、崩れますわよ」
犬姫が走って桃太郎に飛びついた為、雉姐が小さな悲鳴を上げました。
「猿は・・?」
「ふふ、もちろんいますわよ」
そう言うと雉姐は桃太郎からは見えない廊下の向こうに手招きをしました。
「ちょっと目をつぶってくださる?」
「あ、ああ」
言われた通りに桃太郎は目をつぶりました。
雉姐と猿の声がかすかに聞こえてきます。
「いいから来なさいって・・」
「もういいってばぁ・・」
しばらくするとその声も止み静かな音が聞こえ始めました。
「はい、どうぞ」
そう言われて目を開けた桃太郎の前には一人の少女がいました。
薄紅色の振袖に梅をあしらった、まさしく女の子の着物。
それを恥ずかしそうな顔で纏っている猿が立っていたのです。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でかした!!」
桃太郎は思わず叫ぶと駆け寄って猿を抱きしめました。
「く、苦しいよ・・」
「あ、すまん・・・しかし・・可愛いぞ。
こんな・・とても可愛い」
言葉が見つからない様子で桃太郎は猿をぐりぐりと抱きしめています。
「桃太郎さん・・・」
「なんだ?」
「・・・・お、俺をおかしくした・・・俺を女にした責任・・・とってもらうからね」
猿が顔を赤らめてそうつぶやくと桃太郎はぎゅうっとその小さな身体を抱きしめました。
「ああ、とるとも!」
猿が男に戻りたがっているのでは無いかと思っていた桃太郎はそれは大変な喜びようでした。
「可愛がってくんないと、戻るぞ」
「ああ、一生、死ぬまで可愛がる!
みんな、三人とも、ずっと可愛がりつづける!」
そう叫んだ桃太郎の目にはうっすらと涙が浮かんでいるのでした。