うかつだったと後悔はしている。  
私は甘く見すぎていた。小規模なこの組織にいかほどの戦力があろうかと。  
カメラを欺き、見張りを昏倒させた次の瞬間に奴は現れた。  
気づいた瞬間には腹部に一撃をもらい、そのまま首筋を強打されて私は捕らわれの身となった。  
 
私はマナ・クロサキ。駆け出しの身とはいえ、きちんと訓練を受けたスパイだ。  
 
 
「気がついたか」  
その言葉で意識が急速に覚醒した。  
よく映画なんかじゃここで初めて拘束に気づくが、現実には朦朧とした中で既に手足がベッドに固定されているのがわかっている。  
何とか首を振った。  
……先ほどの男だ。しなやかな肉体は同業者だろうか。  
「お前は俺に見つかり、そのまま逃げた」  
?……何を言っている?  
「つまり、お前がここにいるのをお前のターゲットは知らない」  
……だから何だと言うのだ。  
「いくら出す?」  
……はぁ?  
「まだまだ新人だろう?ココでミスをすれば今後仕事はやりにくくなる。わからんか?手を貸してやると言っているんだ」  
……あきれた。クライアントを裏切ると?本気なら同業者の風上にも置けないし嘘でもひっかかるわけ無い。  
 
「……貴方、私をナメるのもいい加減にしてね」  
その言葉に男は眉をぴくりと動かす。  
「そんな手に乗るほど馬鹿でもないし。大体拘束しといて取引も無いものだわ」  
「ああ、それは趣味だ」  
 
 
 
さらっと言った男の言葉を理解するのに私が時間を要したのを誰が責められよう。  
「……は?」  
「いやー、スパイだのってのはどーしてこう魅力的な格好かね。特に君は理想的だ。その大きな胸とかがぴったりしたスーツで素晴らしく強調されちゃってる」  
……か、軽い……。突然軽くなったが、コレがこの男の本性か……?  
「しかもアレだろ、見た感じアジア系、日本人だろ?いやー、俺黒髪って弱いんだよ。そんなコが忍び込んで来たなら、とりあえず拘束するっしょ」  
「とりあえずでされてたまるかッ!!」  
私はついに怒鳴った。こ、……この男ッ……、こんな奴に負けたのかッ!?  
 
「あらら。怒られちったー」  
へらへらと笑う男に対して私は眩暈すら覚えた。  
「んじゃあ仕方無いなぁ」  
男はにんまりと笑ってこちらに近づいてくる。  
「何を……」  
「問題でーす。好みの女の子を拘束してさらにこの部屋は完全防音。更にココには誰も来ない。そして俺は健康な男性。さーて答えはなーんだ?」  
……こ、この男、まさかッ!?  
かあッと赤くなった私の顔を見て彼は笑う。  
「正解ー」  
「ば、やめろッ、何が正解だッ、変なコトするなッ」  
「いくらでも暴れていいけど、絶対止めねぇー」  
男は余裕しゃくしゃくに私の上に乗った。  
「わ、わかった、と、取引に応じるから」  
「あーりゃりゃー。ゴメン俺的にタイムアウト。今は君をいぢめる方向で脳内会議は満場一致ー」  
「ちょ、やめッ……」  
言いかけた次の瞬間、男の唇が私の唇に重なった。  
 
「ん、ーーッ!!」  
必死で顔を振る。男は仕方なく唇を離す。  
「何、キスはだめな宗教なの?」  
「ば、馬鹿かッ!?いいからやめッ」  
「それは無理」  
今度は首筋にキス。必死に頭を振るが、今度は片手で押さえられてしまう。  
「ちょ、やめッ、……んッ、や、めてッ」  
「断固拒否」  
そう言うと男の唇が首筋から上ってくる。ま、不味いッ、つまり……  
「ちょ、やめ……ぁあッ、あっ、ーーーんあッ……」  
耳を甘く噛まれ、更に舌が這い回る感覚。耳は、本当に弱い。  
「耳か。じゃあこんなのはどうかな」  
びちゃぴちゃという音が否応なしに響く。私の体は電気を流されたみたいに跳ね上がり、でも男の体で押さえられ、耳からじわじわと気持ちよさが全身に広がってしまう。  
 
「んー?どうしちゃったのかな?おとなしくなってきちゃって」  
男はにまにまと笑い、やっと耳を解放してくれた。  
「やめ、なさい……」  
「しつこいね。はやってんのソレ?」  
男は再度首筋にキス。先ほどならいざ知らず、今の私にはソレは強い刺激だ。  
「く、あはッ!!」  
思わず声が出る。男の手がその瞬間、胸元のジッパーを引き下げた。私のコンプレックスでもある大きな胸が、解放されてぶるんと震える。  
「ちょ、ほ、本当にやめてッ」  
「やっぱブラしてねえよなー」  
男は服の下に手を入れ、ゆっくりと胸を揉みはじめる。だが、中央には一切触れない。その間も首筋や耳は彼の唾液とキスでべとべとにされて行く。  
「あ、ぅあっ、は……ぅ、や、めて……」  
「まだ言うかね。じゃあこうだ」  
 
「は、ぅあっ!!」  
突然、今まで触れられなかった乳首に歯が軽く立てられる。のけぞる私に、男はにやりと笑い、舌と指で二つの胸を弄ぶようにしつこい愛撫を繰り返した。  
「あ、あ、あッ、…――あーッ、だ、駄目、やめっ……あ、あ、はあ、ああ!!」  
息も出来ない程の快感の嵐。確かに最近シてなかったけど、……こ、この男……  
「気持ちイイんだろ?素直に言っちまいなよ」  
……体が、跳ね回る。でも、拘束がソレを許さない。結果、逃がせない快感が体を駆け回る。そこには更に何倍もの快感が叩きこまれ続ける。  
「あ、はぅっ、あ、あ・あ・……ーーーッッああッ!!」  
もう、言葉になんかならない。  
胸をいじられているだけなのに、達してしまいそうだ。  
男はそれでも、許してくれない。甘美な拷問を続ける。  
 
「……もう、駄目……い、イッ、……キそうっ……」  
思わずもらした本音に、男は乳首をひねるようにつまむ。  
「あ、あ、あああ!!」  
全身が痙攣する。私はなす術なく達してしまった。  
と、次の瞬間、男は私のズボンを下ろす。  
「や、やぁっ、やめっ」  
「……イッちゃったばっかりだろう?今ココいじられたらどうなっちゃうんだろうな?」  
にやりと笑うと、ショーツごしに彼の指があたる。  
「、ーーーーッ!!」  
声が出ない。ショーツはびしょびしょになってしまい、既に下着としての用を果たさない。しかしそれでも、布ごしなのに、  
撫でられているだけなのに、  
ものすごい快感が、  
走り、  
抜ける。  
「また、イッちゃいそうだな?」  
「あ、ああ、は、あっ、だ、めぇ、やめっ、あぅぁ、は……ぁぁっ、い、あ、イッ、イクっ、……っちゃうっ、イッ……ちゃうっ……!!」  
「イキなよ」  
男が布ごしにつまみあげた瞬間、二度目の絶頂が私に刻まれた。  
 
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、……あ、あ!?ちょ、駄目、あっ、ああァっ!?」  
二度の絶頂。  
体中が触れられただけで跳ね上がりそうな状態。そこへ男は休まず愛撫を加える。  
「ゆっ、許して、あぁあ、あ、あーーーッ!!だ、駄目っ、ほ、本当にどうにかなっちゃうッ……」  
「まだ本番もシてないのに終われますかっつーの。うは、……すげえな」  
「っあ、あ、あぁあっ!!」  
男の指先が、ついに私のショーツの中に入ってきた。  
 
入り口を引っ掻かれる。じわじわとむずがゆいソレが今の私には呼吸も厳しい程の快感の嵐だ。  
「……っあ、あぁあ、や……う、んッ、あぁあっ……」  
男はついに指先を挿入して来る。体の中に入る感覚が、今の私にはそれだけで達しかねない。  
「ぐっちゃぐちゃだな……そんなに良かったか?」  
「そ、んな、は、あぁっ、ぅアぁっ、やめっ、動かさなぃでッ、あ、あぁあっ……」  
膣の中を這い回る指。その本数が増え、同時に乳首は指で潰されたり捻られる。そして、絡む舌と舌。  
最初の私ならその舌を噛むくらいはしただろうが、今はもはやだらしなく相手にされるがままだ。  
 
「最初のお願い、聞いてやろうか?」  
突然男は私に囁く。  
「んッ、あっ、お、お願……いッて?」  
「ヤメてやろうか?ココで」  
男はからかうように言う。  
「そ、んなッ……や、やめてちょうだい」  
嘘だ。身体は完全にトロけきっている。今やめられたらたまらなくなってしまう。だが妙な意地を張って私はそう言った。  
「へぇー……」  
男は私の言葉に従い、ぴたりと手を止めた。  
そのまま時が過ぎるが、十秒ともたず、私は身体がヒクつくのを感じた。  
「ん?どーしたんだ?」  
「な、何が……」  
憎ったらしい男だ。わかっていて敢えて止め、そして聞く。  
「ずいぶんと何かシてほしそうに見えるけど?」  
にやにや笑い。  
「ば、馬鹿じゃない……んあああッ!!」  
再び男の指が挿入された瞬間、私はあられもない声をあげてしまった。  
 
 
675 名前:続投下4 投稿日:04/06/14 23:19 ID:9JRd0gY0 
しかも今度は一切の手加減無しに指が、手が動き回る。  
「あああ、あああああッ!!」  
「素直になりなよ?んー?」  
その後も、休めては聞き、休めては聞きと男は繰り返す。  
私はと言えば、昇り詰めそうになっては引き戻され、もう身体に力も入らない。そして、3度目の絶頂を欲し、私はついに折れた。  
「……シて……」  
「ん?」  
これ以上無いくらいニコニコした顔で(畜生、ムカつくっ)男は聞き直す。  
「お願いします、……続きをして下さい……」  
そう言う私の顔は真っ赤だった。  
「へへ、素直が一番可愛いな。俺もそろそろ限界だったからよ」  
そう言うと、男は私の拘束を解いた。無論私は彼が見越した通り、逃げることももはや考えない。  
 
「挿入るぜ」  
男のソレは、既にガチガチだった。私はこくんと頷く。そして……指とは似て非なるモノが入ってきた。  
「あ、あーっ、ンっ、んあっ、あああっ……」  
イキそうになり、彼の身体に抱きついて耐える。しかし彼はその状態から腰を打ちつけてきた。  
「だッ、駄目、イッちゃうからッ、またイッちゃうから……ァっ!!」  
「いいよイッちまいな、おらっ!!」  
ひときわ強力な突きに、私は声もなく気をやった。全身が激しく震える。……と、そのまま男はバックに態勢を入れ替える。  
「ちょ、う、嘘でしょっ!?休ませてっ」  
「俺まだ一回もイッてないしなー」  
どこかトボけた口調のまま、男は胸を掴み、もう片方の手でクリトリスをいじりまわしながら腰を動かしはじめた。  
 
「ふぁうッ、いぅッ、あッ、あっ、アぁっ」  
鼻にかかったような、半分泣いたような声をあげながら、ベッドの上で私は必死にパイプを掴んで耐える。  
「く……うッ、凄ェイィな、……あんた最高だ」  
「あっ、あっ、あっ、……んーーーーッ、駄目っ、また、またイッちゃう、またイッちゃうッ……」  
立て続けに三回の絶頂、そして今4回目が急スピードで迫っていた。もはや何も考えられず、ただ身体が打ち震えるのみ。  
「ヤベっ、俺もイキそうだ……」  
「あ、ああッ、イクっ、イクっ、イクっ、イクっ……あ、あーーッ!!」  
達した瞬間、彼のモノをきゅっと締め付けたのがわかった。  
「うあっ、お、おぅッ……」  
同時に男もぶるぶると身体を震わせながら私の中に放つ。どくっ、どくっと注がれるのがわかるたび、私は小さな絶頂を味わった……。  
 
……その後にまた三回もイカされて、ぴくりとも動けなくなった私を残して、彼は「ヤボ用をすましてくる」と部屋を出て行った。  
私は、霞がかかったような頭のまま、ベッドに倒れ込んでいた。  
暫くして、やっと動ける程度に回復したので、のろのろとだが服を身につける。水を飲み、顔を洗ったので、ようやく私はまともに動けるようになった。  
「任務は、果たさなきゃ」  
私の目的は、この組織の生命線の麻薬ルートを記したデータの入手だ。それを果たし、帰りつくだけならまだ何とかやれるかもしれない。  
そして部屋の外に出た私は唖然とした。  
 
構成員が、至るところで気を失っている。  
たまに死体もあった。  
とにかく累々たる構成員の山を抜け、私はどうにかボスの部屋とおぼしきところへ辿り着く。と、会話が聞こえた。  
 
「な、なんで私を裏切るッ!?」  
引き攣った声はこの組織の首領だろう。  
「ん?いやー、ちょっと良い女がいて、ココを潰したがってるらしいからねー」  
「ふ、ふざけるなッ!!」  
「マジマジ。だもんで悪いけど死んでね」  
……間違いない。この声はあいつだ。  
「き、貴様、……イーブル・アイともあろう男が、依頼主を裏切るのかッ!?」  
 
 
 
イーブル・アイ?  
……まさか。  
聞き間違い?  
あり得ない。  
 
「だって俺、麻薬は嫌いっつったのに隠してたのそっちじゃん」  
「こ、この……」  
「オーイ!!そこの可愛い子猫ちゃーん」  
こ、子猫って……私かッ!?  
「なんだよ冷たいなー、さっきまであんなに甘えてくれて」  
「やかましい喋るなッ!!」  
私は耐え切れず物陰から飛び出した。  
 
「そんなワケでー」  
ぱぁんと一発。よそ見しながらも彼はボスを一撃で殺した。  
「はい解決。さ、またシよっか」  
「ば、馬鹿かッ!!いや、それより、イーブル・アイだと!?」  
それは伝説のスパイ。まるっきり漫画みたいなヒーローの名前。  
私のあこがれ。  
「二代目だけどね」  
「に、二代目!?」  
「おう。いやー、パチスロとかいうのにハマって日本で所持金無くなっちゃったからこんなショボい仕事したんだけど、いやーラッキー、君みたいな最高にツボなタイプに会えるなんてなー」  
……だ、駄目人間だ。とびきりの大馬鹿だ。コレがイーブル・アイ?  
「嘘でしょ……」  
呆然と呟くと、彼は突然近寄り、ひょいと私を抱き上げた。  
「わっ!?馬鹿、何すっ」  
「爆発まであと三十秒ー♪」  
ばく、はつ?  
彼のさっきまでいた場所には、プラスチック爆弾が置いてあった。  
 
 
 
すさまじい爆風と爆音を背に受けながら、私は彼にしがみついていた。  
「ヒャッホー、いやぁやっぱり爆発は定番だよなッ!!」  
「死になさいいっぺん、この馬鹿ッ!!」  
地上30メートルをロープ一本で飛びながら、私は彼に悪態をついた。  
 
 
完  
 

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