検査室に入ると蛭田さんと田尾さん、そして大学生くらいの男女8人がいた。  
来た時と違って蛭田さんと田尾さんは白衣に着替えている。  
 
(え・・身体検査なのになんでこんなに人がたくさんいるんだろう・・?)  
私は皆の視線を一斉に浴びて不安になった。  
 
「はい、じゃあ紹介するわね」  
「今度、うちの病棟に学用患者で入院することになった瑞木菜穂ちゃんよ」  
「見ての通り、まだ○学生になったばかりの女の子だから優しく接してあげてね」  
蛭田さんが学生らしき人達に私を紹介した。  
 
「よろしくお願いします・・」  
私はお辞儀して挨拶した。  
 
「よろしく」「どうも・・」「こんにちは」  
何人かは返事してくれたが、半分以上の人達はまるで聞こえないかのように冷たい目で私を見ている。  
まるで物を見るかのようだった。  
 
「じゃあ、身体検査を始めましょう」  
蛭田さんが看護婦に指示する。  
看護婦は事務的に私の服を脱がしだした。  
 
「え・・え・・?」  
こんなたくさんの人達の前で裸になってしまうの・・・?  
私は慌てて服を手で押さえた。  
 
「大丈夫よ、菜穂ちゃん」  
「ここにいるのはみんなお医者さんなんだから・・あ、正確にはお医者さんになる学生ね」  
「だから恥ずかしがる必要は全然ないのよ」  
蛭田さんは当たり前のように言った。  
 
私は少しためらったが素直に服から手をどかした。  
すると看護婦によってあっという間に脱がされ、私は部屋の中で一人だけ真っ裸になってしまった。  
 
その後、体重と身長など体の様々な箇所のサイズを測られた。  
胸や股を手で隠そうとするとその度に看護婦に腕を掴まれて真っ直ぐの姿勢をとらされた。  
私は恥ずかしくて顔を真っ赤にしてうつむいている。  
 
せめてもの救いは学生たちは私の裸を見てもとくに反応せず  
黙々とメモを取ったりしている。  
なんだか自分だけが変に意識してバカみたいに感じた・・。  
 
「うーん・・身長も体重も年齢の平均以下ね」  
「とくに体重はもうちょっと欲しいわね・・」  
蛭田さんがカルテを見ながら言った。  
 
「もう少し増やしましょうか?」  
田尾さんが言う。  
 
「そうね・・もう3キロほど付けましょう」  
「じゃないと、この先体力がもたないわね・・・」  
 
「あ・・あの・・私、最近あまり食欲がなくて・・」  
事故以来、ご飯があまり食べれなくなっていた私は体重と聞いてつい口を開いた。  
 
「あ、菜穂ちゃんの食欲はなくても関係ないから大丈夫よ」  
蛭田さんは私に笑顔で言った。  
 
(え・・私が太るのに、なんで食欲とか関係ないんだろ・・)  
不思議に思った。  
 
「さて、外はこのくらいにして次は中のほうも見てみましょうか」  
 
私は看護婦に促され、歯医者さんで使うような形の椅子に座らされた。  
でも歯医者さんの椅子よりも大きくて頑丈に作ってあるみたいだ。  
大人用のサイズなので私に合わせてカチャカチャと手を置く場所や足を置く場所を看護婦が調整している。  
 
「え・・・?」  
気が付くと両足の足首と膝の部分をベルトで固定されていた。  
続いて手首と肘の部分もベルトで縛られる。  
 
(なんで・・どうしてこんなことされるんだろう・・?)  
私は急に怖くなった。  
 
ふいに頭を掴まれれると後ろに押さえつけられて両側からギュッとクッションで挟まれた。  
これで頭も全く動かせなってしまった。  
 
「先生、用意できました」  
看護婦が蛭田さんに言う。  
 
「はい、じゃあみんな周りに集まって」  
椅子に拘束された私のまわりを学生たちが取り囲む。  
 
「とりあえず今日は簡単にだけど、これから使う新品のサンプルだからよく細部まで観察しときなさいね」  
 
「はい」  
 
蛭田さんが椅子の横を操作すると電動の背もたれが後ろに倒れた。  
真っ直ぐ前しか向けない私は必死に目を左右にキョロキョロさせる。  
完全に横に倒され、カッと天井の照明がつけれられるとすごく眩しかった。  
まわりにはたくさんの頭の影が見える。  
 
「あ・・あの・・・」  
私は必死で何か喋ろうとした。  
 
「開口器」  
でも、蛭田さんは私の声は聞こえないかのように看護婦に指示する。  
 
看護婦から蛭田さんに何か金属製の器具が渡された。  
それを私の口の中にスッと差し込むとカチャカチャと操作しだした。  
器具によって次第に口が開いてきて言葉を喋ることが出来なくなった。  
 
(痛い・・痛い・・あごがはずれるよぉ・・・)  
私は「うー・・うー・・」と声を上げた。  
目一杯、口が開いたところで器具が固定された。  
 
薄目を開けると蛭田さんが先の尖った金属の棒を持って  
私の口の中に入れてきた。  
 
「綺麗な歯ね、並びも整っていて虫歯も一本も無いわね」  
「いい、みんな。健康状態っていうのは数値だけじゃなくてこういった歯や歯茎からも診ることができるの」  
「カルテを眺めるばかりじゃなくて、常にサンプルを直接見ることを忘れないように」  
蛭田さんは学生たちに色々説明しながら、口の中で棒をかき回すように動かした。  
 
学生たちは順々に私の口の中を覗きこんではメモを取っている。  
苦しそうにする私を見て、気の毒そうな表情を浮かべる学生もいるけど  
なかにはペンでよく見えるように私の唇をめくる人もいた。  
 
「こら!そんな物でやめなさい」  
「あ・・すみません、つい」  
学生は蛭田さんに注意される。  
 
いつの間にか口の中には涎が溜まってきて端から流れ出している。  
 
私は必死で早く終わってくれることを願った・・・。  
 
 
やっと口のから金属棒が抜かれた。  
 
(よかった・・終わったんだ・・)  
私はホッとした。  
 
ズズーズズー  
看護婦が私の口に何か機械を入れて涎を吸い込む。  
 
「同じように患者の健康状態を診るには舌も欠かせません」  
「菜穂ちゃん、ちょっと舌出してみて」  
蛭田さんが言った。  
 
終わったと思っていた私はドキッとした。  
仕方なく恐る恐ると舌を出す。  
 
「もっと出しなさい、見えないわよ」  
 
私は蛭田さんに言われて更に舌を伸ばす。  
 
「駄目ね・・もともと短めなのかしら」  
「舌も震えてるし見えにくいわね」  
「いいわ・・鉗子!」  
蛭田さんに看護婦が何かハサミのような物を渡した。  
それを私の口の中に入れてきた。  
 
「やめて・・」そう叫んだつもりだったが実際には「ううー」としか言えない。  
 
「ほら、怖がって舌を引っ込めないで」  
「菜穂ちゃんが言うこと聞かないからでしょ」  
 
舌の先をグッと挟まれる。  
冷たい金属の感触が舌に広がる。  
グググッ・・・舌がゆっくりと引っ張られていく。  
 
(い、痛い・・痛いよぉ・・)  
舌は自分からも先が見えるほど引き出された。  
先の挟まれた部分は痺れてる。  
舌の付け根は限界まで引っ張られて鈍い痛みがあった。  
 
「はい、みんな見て」  
「健康な状態の舌はこのように奥に行くにしたがって薄っすらと白い舌苔が付着してます」  
「疲労が溜まったりするとこの量が増えたりするから普段の対象の状態をよく覚えとくように」  
「この舌苔が黄ばんでたり全く付いてなかったりしたら検査が必要ね」  
蛭田さんは私を舌を上下左右色々な角度に引っ張りながら学生たちに説明する。  
 
「ついでだから、みんな触診してみなさい」  
 
「はい」  
 
蛭田さんに言われて学生たちは手袋をはめると順番に私の舌に手を伸ばしてきた。  
手触りや感触を確かめるように表面を撫でたり挟んだりする。  
 
(嫌・・やめて・・お願い・・)  
知らない人達に次々触られて私は鳥肌が立った・・・。  
私は目をつむって必死に耐えた。  
 
ギュウ・・・とたんに舌に激しい痛みが走る。  
見ると先ほどペンで私の唇をいじって蛭田さんに叱られてたメガネをかけた男の学生だった。  
学生は舌に指を立ててグリグリと挟んだり締めつけたりする。  
 
(痛い・・痛いよぉ・・助けて・・)  
蛭田さんに止めてもらおうと目を開けると  
いつの間にか鉗子を持っているのは看護婦に代わっていた。  
蛭田さんは田尾さんと離れたところで何か書類を見ながら話している。  
 
メガネの学生はそのまま指を私の口の中にまで差し込んできた。  
まるで何かを探すように奥まで入れて弄りながら指を動かす。  
 
(き・・気持ち悪い・・)  
喉の奥まで指を入れられて激しい吐き気に襲われる。  
「ご・・ご・・」  
私は何度もえずいた。  
 
「ちょっと、林くん。やり過ぎじゃない?」  
見かねた女の学生が声を掛けた。  
 
「何言ってんだよ、せっかくの学用患者じゃないか」  
「遠慮してたら勉強にならないだろ」  
「なかなか、こんな風に意識のある状態で自由に触診する機会なんてないからね」  
「ほら、こんな細かな痙攣だってよく分かる」  
林と呼ばれた学生は女の学生の言うことなど気にしないかのように続ける。  
 
「けど・・学用患者といっても、まだこんな女の子なのよ」  
「解剖用の献体じゃあるまいし、そんな乱暴にしなくてもいいじゃない・・」  
「見てよ・・こんなに苦しそうにして泣いてるわよ」  
 
私の頭の上で2人は言い合いを始めた。  
看護婦は傍観者を決めこんで止めには入らない。  
 
「おいおい・・だいたいこの患者は頭がイカれてるんだろ」  
「そんなことまで気にする必要はないんじゃないか?」  
 
「だって・・・それは・・アレだから、名目上のことでしょ・・」  
女の学生は急にしどろもどろになった。  
 
「ふ・・名目上だろうと何だろうと、カルテに書かれてることが外から見たら事実なんだよ」  
「お前も一端の研究者になりたかったら半端な情は捨てたらどうだ?」  
 
口論しながらも林の手は止まらない。  
更に喉の奥まで押し込んでくる。  
 
私は2人が何を言ってるのか分からず、ただ込み上げる吐き気を我慢していた。  
 
「はい、そこまで」  
蛭田さんが2人の間に割って入ってきた。  
林はやっと私の口から指を引き抜いた。  
 
「けほ・・けほ・・」  
私は口の端から涎をこぼしながら咳き込む。  
 
「あらあら・・こんなにしちゃって」  
「林君・・こんなとこまで診ろとは言ってなかったでしょ?」  
 
「はい、すみません。つい」  
林は全く反省してない態度で言った。  
 
「まあ、話の内容は耳に入ってきてたわ・・」  
「林君もたしかに調子に乗り過ぎだけど、研究者としてはその探究心は必要よ」  
蛭田さんが林のほうを向いて言う。  
林は当然といった顔だ。  
 
「小野さん・・あなたはまだこのケースの学用患者は初めてだったわね」  
 
「はい・・」  
 
「林君の言い方も乱暴ではあるけど、ある意味正しいのよ」  
「余計な情はここでは邪魔になるだけ」  
 
「は、はい・・」  
小野と呼ばれた女の学生はうつむいている。  
 
「いいわ、良い機会だから小野さんと林君にはこの患者の世話係をお願いします」  
「すでに林君は何度か経験があるから、小野さんは林君に色々教わりなさい」  
 
「え・・あ、はい・・わかりました・・」  
小野さんは戸惑いながら返事をした。  
 
「お願いね、林君」  
 
「任せてください」  
林は表情を全く崩さず答えた。  
 
「はい、じゃあ今日はここまでね」  
「林君のお陰で患者に余計な負担が掛かっちゃったから、少し休ませないと」  
「続きは明日」  
 
集まっていた学生たちは興味を失ったように部屋から出て行った。  
 
看護婦が椅子のベルトを外して私に降りるように言う。  
息もまだ荒くグッタリした私は足元がふらついて倒れそうになった。  
とっさに小野さんが肩を貸してくれた。  
 
「大丈夫・・?」  
心配そうに私を見ている。  
 
「す・・すみません・・」  
私は蚊の泣くような声で礼を言う。  
 
「おい、グズグズするなよ」  
「病室に行くぞ」  
林は冷たく言葉を浴びせてきた。  
 
(続く)  
 

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