「メール、できれば返してくれると嬉しいかな」  
「忙しいけど、連絡くれれば予定空けるから」  
「それと……今度はちゃんと…ね」  
 
 名前さえわからない高級車で琴子に送ってもらった時には、既に辺りは暗くなっていた。灯り  
をつけ、必要最低限の物しかない部屋に座り込み、例の本を取り出してみる。  
(本物だったのか……)  
 「男と付き合うことに興味がない」と言い切るキャリアウーマンを、あそこまで媚びる女に堕と  
してしまった、モテルギーなる力。うれしさよりも、薫は驚きと戸惑いの方が勝っていた。  
(こりゃ、使い方が難しいな……)  
 モテルギーの発動、制御、応用……ページをめくっていけば、実に多様な内容が書かれている。  
ネット上のH小説でも、ここまで都合の良いものはそうそうないんじゃないか。  
 まず最初のターゲットとなった琴子は、視線を合わせるだけで初対面の自分に夢中になった。何  
のためらいもなくディープキス、フェラチオまでもしてくれた。気持ちだけでなく、体まで求める  
ようになったように見える。しかし、  
(あんましハマってもらっても、重い……よな)  
 恋人のような付き合いになれば、当然浮気は許さない。これから多くの女性をモノにしていこう  
というのに、嫉妬はあまりにも邪魔なものだ。  
(だったら、ハーレムみたいな感じでいいか)  
 ならば深い付き合いはせず、気軽に快楽を求め合う程度の関係が良い。どうせモテルギーという  
反則的な超能力による関係、まともに付き合おうというのが間違いだろう。おそらく、琴子に自分  
のどこが好きか聞いても、答えに詰まるに違いない。  
 肉体的な快楽の果ては、結局精神的なつながりを求めてしまいがちだ。後先考えずに妊娠、不倫、  
見知らぬ恋人からの略奪、そして向けられる恨み辛み妬み嫉みの目……  
 自分を見失い、欲望に走った先に決して未来はない。  
(……なんて、どっかのエロサイトの小説で読んだな)  
 妙にネガティブな気分になった薫は、その場にごろんと横になった。  
 しかし、それでもこんなに素晴らしい超能力はない。学校にはいくらでも美少女や美人教師はい  
るし、アイドルや女優を狙っても面白いだろう。  
 とりあえず、今はこの力の制御を覚えるのが先決だ。そしてくれぐれも、節度を守ること。色々  
な応用はその後でいい。  
 通っている学校の美少女・美人教師をあれこれ思い浮かべながら、宿題そっちのけでモテルギー  
の勉強に取りかかった。  
 
 
 そして、翌日。  
 自由に行動できる放課後を待って、薫は琴子の次なるターゲットを探すことにした。  
(ウチ結構、レベル高いからなぁ……)  
 そこそこの進学校であるこの学校、富通高校は女子生徒のレベルが高いことでも知られている。  
水泳部、弓道部、テニス部、演劇部……どの部活動をとっても、必ず一人は有名人が在籍していた  
りする。  
 薫にとってはどの生徒も雲の上の貴人レベルなのだが、ここはあえてその最たる人間を狙うこと  
にした。  
「向坂奏……か」  
 旧華族の流れを組むマンガのような名家のお嬢様、イギリス人のクウォーター向坂奏は同じ一年  
の有名人の一人である。  
 常に勝ち組であり続けた彼女はよく言えば聡明、悪く言えば性格破綻者といった変わり者で、有  
名人となっている。薫が聞いている噂では気に入らない人間を何人も闇に消しているとか、嫌いな  
教師を社会的抹殺しているとか、レズ趣味もあって何人か美少女を飼っているとか……この学校で  
彼女に刃向かうような人間は、まずいないと言っていい。  
 薫は美しさ、人脈、財力、あらゆるものを備えた彼女をモノにできれば、色々と都合が良くなる  
ことは間違いなさそうだと考えていた。  
「あ、いたいた」  
 と、玄関に張り込んでいるとそれらしき人物がやってきた。  
 真っ白い肌をした、長い髪の少女。華奢な体に似合わないその勝ち気そうな顔立ちはいかにも不  
機嫌そうだが、その現実離れした可憐さは、つい見とれてしまうほどである。  
 心なしかオーラが見えるほどの美少女にためらう気持ちを奮い立たせ、薫は意を決して彼女に近  
づいていった。  
 
「あの、さぁ」  
「?」  
「ごめん、ちょっといい?」  
「……」  
 声をかけたがちらっとこちらを一瞥しただけで、奏はさっさと行ってしまった。  
 ある程度予想はしていたものの、完全な無視である。あの不機嫌そうな感じからすると、次に声  
をかけたら大声でも出されそうだ。  
(じゃ、やってみますか)  
 ここで薫は、前回とは別のやり方を試すことにした。  
(視線を合わせんのは無理そうだから……)  
 モテルギーを相手に伝える方法は視線の他に接触や音声など、あらゆるコミュニケーションが可  
能らしい。  
 行ってしまった奏を追いかけると、昨夜練習したとおりの行動に出た。  
「あ、ま、待って」  
「……っ!」  
 大胆にも腕を掴み、接触によりモテルギーを伝えることを試みたのである。だが案の定、奏は吐き  
捨てるように拒絶し、薫の腕を強く振り払ってしまう。  
 が、薫はあの電撃のような、何かが伝わった手応えを感じた。  
「ちょっとごめん、話、聞いてもらいたいんだけどさ」  
「……」  
 ぎろりと睨んだその顔が、にわかに変化していく。  
 目を丸くしたかと思うと徐々に赤みが増し、戸惑うような、混乱するような表情に変わっていっ  
たのである。  
 確かな、手応え。  
「え、何、どうしたの」  
「……関係ない。で、何」  
「いや、今日の英語の宿題、何だったか教えてもらいたくてさ。居眠りしてて聞いて無くて……そ  
れてちょうど向坂が見えたから」  
「……」  
 苦しい言い訳をすると、奏はそっぽを向いてしまった。  
 今の表情は明らかに成功したはずだと、一気に焦りが走る薫。もしかして、失敗したのか?  
「あの、どうし…… おっ?」  
「……そんなにヒマじゃないから」  
 制服のすそをぎゅっと掴み、奏はスタスタと歩き出した。  
 
 
「結局私に、何したわけ?」  
 高級マンションの一室、制服姿の奏が、鋭く薫を睨み付けている。  
 宿題が何だったか教えて欲しいという無理矢理な誘いが成功したかに思われたが、彼女の視線は  
怒りのような、不快な色を滲ませている。  
「そ、その状態で言ってもあんま説得力ねーけど……」  
「はぁ?」  
 高級ソファに座る薫、奏はその股の間に座り、彼にもたれかかっていた。  
 その言葉と表情とは対照的に全身を預け、どう見ても甘えている体勢である。髪から香る匂いが  
鼻をくすぐり、彼女の体から伝わる女性特有の柔らかさが、薫の全身を刺激する。  
「別に何も、してないって」  
「じゃあなんでこんなことになってんの?」  
「そりゃ俺が聞きたいし」  
「まあ、別にいいけ……どっ!」  
「いでっ!」  
 言いながら、奏が彼の股間をギュッと握る。  
「要するにあれだろ、一目惚れっていうか、そういう感じ……頼むからそこはやめてくれ」  
 薫は両手を奏のシャツの下に差し入れ、薄めの胸を優しくまさぐっている。奏も手を緩め、すで  
に固いペニスの形に添って、撫で始めた。  
「そういう向坂だって、何でこんなことしてんだよ」  
「知らない」  
「は?」  
「別に理由なんていらないでしょ? ただ藤堂と、こうしたくなったんだから……ほら、口開けて」  
 
 言われるがままに開くと、頬が手で挟まれ、柔らかな唇が覆ってきた。  
 そのまま舌が交わり、しずかに水音だけが響く。強い言葉とは裏腹に、どこまでも優しく、慈し  
むようなキス。  
 唇を吸いながら、光る糸を残して唇が離れた。  
「付き合うとか付き合わないとか嫌いだし、やりたいことやれる関係?」  
「そ、それって、俺とそういう関係になりたいってこと?」  
「ふん」  
 冷たく、呆れるような顔が近づく。息がかかる程の距離までくると、奏はくすりと笑った。  
「んー」  
「んー、って」  
「私がこうしたら、同じようにキスするの」  
「ん、んー……」  
 まるで恋人同士のようにアヒル口のキスを二秒ほど交わし、ちゅっと音をさせて離れる。  
「とりあえず、あんたと遊ぶの嫌いじゃないみたいだから」  
 と、薫をまたぐように膝で立つと、奏はスカートを穿いたまま下着を脱ぎ始めた。  
 薄いピンクのレース付きショーツが、後ろへ投げ捨てられる。そのまま薫をソファに寝かせ、そこ  
にゆっくりと重なった。  
 まだ成長途中の美麗な少女の肢体は、どこまでも柔らかく、しとやかに絡みついてくる。あまりに  
滑らかな感触に、薫はそれだけで達してしまいそうな心持ちになった。  
「藤堂って、童貞なんでしょ」  
「ま、まあね」  
「あたしも処女だから、お互いロストバージンじゃん」  
「……え?」  
「えっと……スカートは穿いたままでいっか……よっ、と」  
「む〜〜!?」  
 驚く薫の目の前に、既に愛液で濡れた薄い茂みと、まだ汚れを知らないヴァギナが迫ってきた。  
そのまま座るようにして、奏が薫の顔にまたがってしまう。  
 独特の感触に、奏の下半身が震えた。  
「これ……好きかも、しんない」  
「む〜〜」  
「あっ、喋るとすご、響く……」  
 頭を抑え、細かく腰を振りだす奏。薫も何とか舌を延ばし、視界を覆い尽くす彼女の会陰部を刺  
激していく。  
「あ……んっ、んっ、んっ」  
 ざらついた舌で刺激される度に喘ぎが漏れ、その勝ち気な顔が快感で歪んでいく。  
「藤堂、聞こえる? そこ、クリトリ…… あんっ……」  
 そろそろ息が苦しくなってきた薫は、何とかクリトリスを探り当て、音を立てるようにして吸っ  
た。動きが止まり、体に緊張が走り、小ぶりな尻に震えが走る。  
 そして、少しの間の後、体を離した。  
「あ、今すげー表情してた」  
「何それ? それより……」  
 ここで奏は取り出したコンドームを着け、いよいよペニスを自らのヴァギナへあてがった。ため  
らってしまうのか、中腰の状態で動きがとまる。  
「だ、大丈夫か?」  
「うっさい」  
 やがて、ゆっくりと騎乗位に状態で挿入していった。  
 薫のペニスを、未知の肉感が、強い圧力が包み込んでいく。  
「いっ……!」  
 うつむいたまま、ふるるっと、奏の肩が震える。が、  
「痛……くない」  
「えっ?」  
「はぁ何コレ、全然痛くないじゃん。あ、血は出てるけど……  んっ」  
 先程の様子が嘘のように、奏は激しく腰を振り始めた。  
 薫にすがりつくように抱きつきながらも、腰だけが別の生き物のように動いている。処女の圧力が  
加わりながらの激しいピストンに、薫は早くも限界が近づいていた。  
 ふるふると小ぶりな胸が揺れ、どこまでも完璧な素肌に汗が滲んでいた。薫の両腕にあまる尻の感  
触は、十代特有の弾けるような若さに溢れている。  
 
「なんか頭に来るんだけど、藤堂って私と体の相性いいかもしんない」  
 それでも、語りかけるその口調は、この状況でも冷静そのものである。  
「なんでそれが、っ……! ムカつくんだよ」  
「いきなり特上大トロ喰わされたみたいで腹立つの。趣味はどうせ違うだろうけど……って」  
 と、腰の動きが一層激しくなった。これにはさすがに、薫も声をあげる。  
「ほら、イキそうでしょ?」  
「お、おっしゃる通り……お前本当に処女かよ」  
「まぁね。じゃ、ラ、ラスト……んっ、スパート」  
「う、くぅっ……」  
「あっ、あっ、あっ、ふぁ、あん、はぁっ……!」  
 薫をソファに倒し、強く抱き合う形でピストンが加速する。と、二人の動きが止まったかと思うと、  
奏の体がビクッ、ビクッと小さく痙攣するような動きを見せた。  
「〜〜〜!」  
 薫の首に腕を回し、必死に抱きついていく。と、動きが止まった。  
「む、向坂?」  
「…… はぁぁ……」  
 奏は大きく息を吐くと、脱力したように薫から離れた。  
 まだ息は荒く、まだ乳首が硬く立ったままの胸が大きく上下している。  
「おーい、大丈夫かー?」  
「……ねぇ」  
「え?」  
 むくりと起きあがって髪を直すと、いつもの表情で奏は言った。  
「言っとくけど、藤堂とは付き合う気無いから」  
「……」  
「付き合いはしないけど、愛人に認定してあげる」  
「あ、愛人っておい」  
「私がそれなりの気分だったら、いつでもエロいことしていいからさ。その代わり」  
 その言葉に、薫は一抹の不安を感じた。  
 今のセックスは少女のような可愛いらしさがあったとはいえ、相手はあの向坂家の令嬢である。  
「あんたも私が誘った時には、ちゃんと付き合うこと。オッケ?」  
「あ、ああ、オッケー」  
「まあ安心していいよ。一応、対等に付き合ってあげるってんだから。藤堂で『遊ぶ』気はないし」  
「……」  
 いまひとつ不安はぬぐえないが、薫は二人目の女をその手にしたのだった。  
 

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