陰陽は、古代中国の思想を始祖とする一つの哲学的概念である。
この世の森羅万象を陰と陽の二つにより捉える考え方であるが、それがなぜか、モテルギーの本
にも見つけることができた。
「『陰モテルギーは"体"を、陽モテルギーは"心"を現します……』」
一見哲学めいた内容にも読める、その一文。しかし、その実は単純なものであった。
「『陽モテルギーは精神的なモテ、陰モテルギーは肉体的なモテになります……肉体的とはつまり
性的なもので、使いようによってはどんな媚薬よりも強力な効果を……』」
要するに、陰陽二つのモテルギーによって心と体別々に効果を及ぼすができるらしい。どこまで
も反則的な能力に、薫は思わず呆れた声を出してしまう。
そういえば、確かに琴子といい奏といい、心だけでなく体も強く求めてきていたのは確かだ。こ
れはつまり、陰陽混ぜ合わせた状態でモテルギーをあてた結果によるものなのだろう。
「体と心を別々に……か」
ふと何かを思いついた薫は、さっそく陰陽モテルギーの制御方法を覚えることにした。
そして、三日後。
久しぶりに晴れ上がった休日、薫は街に繰り出そうとしていた。
あれから三日ほどかけて陰陽モテルギーの制御方法を一通り覚えたので、その効果を試そう
というのである。本のとおりなら、陰モテルギーを注入すれば薫にのみ体が反応するはずだ。
あれこれと想像しながら、満員電車のドア際で揺られる薫。と、
(おっ、可愛いな……)
ドアの方に向かってメールを打っている、オタク風の美少女がいた。
長めの髪を後ろにヘアピンでまとめ、前髪を二つにたらし厚い縁の眼鏡をかけている。細身のパッ
としない格好だが、顔は間違いなく美少女である。
しかも、シャツにはキャミソール下着を着けた乳房の形が、くっきりと浮いて見えている。大きす
ぎず、かなり形の良い美乳と言える。
(男と付き合うタイプじゃなさそうだけど……)
こんなオタク少女が欲情したらどうなるんだろう? ふと興味が湧き、薫はさっそく動いた。
「っと、すいません」
「……」
電車に揺れに乗じ、彼女に体全体で接触、陰モテルギー注入。思わずこっちに目を向けた拍子に、
間違いなく目も合った。
例の手応えがあったということは、成功したようだ。薫は高鳴る胸を抑え、そっと彼女に近寄る。
ここで慌てたら痴漢と間違われかねない。常に冷静さを失わないようにする。
「……」
「……」
反応がない。再びドアに向かい、携帯電話を見始めた。
だが、ここで動揺はしない。今までも最初の反応は鈍く、わかりづらいものだったのだ。と、
(んっ?)
後ろから覗いてみると、携帯電話を手にしているにも関わらず、手が止まっていた。文面を考え
ているようではなさそうだ。
「……」
ここで薫は、ひとつ試してみることにした。
自らも携帯を取り出し、おもむろにメールを作成し始める。タイトルと本文を手早く打ち終えると、
「あの、すいません」
そっと前に出した。
(気付くか……?)
タイトル:大丈夫ですか? 本文:調子悪いみたいですけど……
我ながら、何という度胸のなさなのか。
薫の精一杯のアプローチに対し、オタク美少女はすぐに気付いた。ちらっと見ると、凄まじい速さ
でメールを打ち始める。
タイトル:大丈ぶです 本文:何でもないんで
大丈ぶという、初歩的な打ち間違い。
これは間違いないと確信した薫は、すぐに次の手を打つことにした。陰モテルギーは効いてるはず
だから、後はオタク気質の彼女の気持ちを後押しするような、だめ押しが必要だ。
(ここで陽モテを使う、と……)
なるべく出力を抑え、今度は少しだけ陽モテルギーを注入する。方法は再び、
「……、っと」
「……」
偶然を装った、接触。
だが、彼女はこれでも全く反応した素振りも見せず、携帯電話も手提げバッグにしまい込んでしま
った。そのまま窓の外を流れる、街並みに目を向ける。が、
(! 何だ、効いてんじゃん)
車窓の彼女が、後ろに映る薫にチラチラ目を向けているのが見えた。その表情は明らかに熱っぽく、
痴漢を気にする類のものではない。
メイクっ気がなく、眉も細くないオタク少女の顔。だが、それを補ってあまりある元の良さが独特
の魅力を生み出している。薫は、このようなオタク美少女というべきタイプは初めてである。
(コミケとか行って、オタクに気に入られてんだろうな)
自身も同類に入る薫は、何となく彼女の境遇がわかるような気がした。
こうなれば、後はこちらから行くしかない。
「あの――」
「っ!」
「どこかで、休んだ方がいいですよ。良かったら付き添いますんで」
「……え、あ、あ…… はい」
うつむいたまま呟く彼女の胸元から、美乳の谷間が見えた。
「……ちょっと、近いかな」
「あー、そうですかね? 近、近いかぁ」
へらへらと薄ら笑いで薫に密着しているのは、電車内で見かけたオタク美少女小田島宮である。
媚薬を超えるという陰モテルギーの注入に成功した薫であったが、宮を誘うどころか、逆に彼女に
何処かへと連れ去られてしまった。
このようなタイプは当然、内気で口どもるようなイメージを持っていた薫であったが、完全に裏切
られてしまったようである。
(それにしても、気づいてないとでも思ってんのか?)
彼女が休憩したいと薫を連れてきたのは、街中に立つゲームセンターである。
ゲームをすれば癒されるんですということで言われるがままついてきた薫であったが、既に、宮に
よる性的アプローチが始まっていた。
「好きっぽいすねぇ、レトロゲーム」
「まあ、ドット絵好きだから」
「うちは昔からシューティングで……」
90年代初頭にヒットした横スクロールアクションゲームをプレイしている薫の首の後ろあたりに、
宮は明らかに、自身の乳房を押し付けている。さらに両肩に手を乗せ、チラチラと薫の横顔を見てい
るのである。
聞けば同じ学校の生徒ということで、早くも薫は敬語をやめていた。
「あーくそ、やられた」
「じゃあ、あそこ、行きますか」
「あそこ? プリクラ……」
そう彼女が指を差す店の奥には、最新型のプリクラがあった。
女性客が少ないせいか、機械の周囲には人がいない。しかも使用者が完全に仕切りに隠れるように
なっており、ある種独特の空気が漂っている。
(ここで抱いてってか……)
二人の極上レベルの美女を抱いてきているとはいえ、所詮は薫である。このような場所でのプレイ
には、いささか抵抗を隠せない。しかし、このまま宮に押されっぱなしもどうかと思う。
二人はさっそく、機械の前に立った。
「へー、意外と広いんだ……つか」
「へっ?」
そっと手を引き、彼女と向かい合わせになった。狭い空間で密着する格好となり、巨乳が胸のあた
りでつぶれた。現在放送中の深夜アニメのシャツが、歪んでいる。
「さっき、思い切り乳あててたでしょ?」
「え、あ、あー……んー……」
意外にも驚くこともなく、照れくさそうに頭をかく宮。まいったねといった表情に、薫は呆れる思
いになる。最近のオタクの女の子は、男に積極的なのか?
「あ、あんましね、こんなことしないってか、インランとかじゃないですよ、うちは」
「はぁ……」
「で、で、もしよければ同じガッコだし、こんな女で良ければどうかなー、と。……引いちゃってます?」
目を合わせずしゃべり続ける宮の髪の生え際から、ぴょんぴょんと飛び出している髪が揺れている。
かなり欲情しているのか、先程から薫の手を握り、指を絡ませている。さらにぐっと密着すると、
再び乳房を胸の押し付け始めた。
「あ、あててんのよ、なんて……」
(……まあ、いっか)
いやらしい雰囲気のかけらもないが、女性としては文句なしに美少女である。
「じゃあ、俺に教えてくれないかな」
「な、何をでしょう?」
「……ぶっちゃけ、性感帯ってどこ?」
こういうタイプはSとして接するに限る。薫は、彼女を色々と弄り倒してやろうと思った。
小田島宮は、俺のオモチャにしよう。
「…… その、あんましわからない、ですねぇ」
「へー。ここは?」
「あっ……と」
シャツの上から乳房を掴み、乳首のあたりをを人差し指で細かく弾いた。その肩がこわばり、そこから
伝わる刺激にじっと耐えるのがわかる。
しばらく続けていると、早くも感じているらしい。顔が赤く、せつない表情になってきた。
「こうやってじらされるぽいのって、どう?」
「うー…… ん、……んぅ」
今度は爪を立てて乳房を撫で回し、そのまま脇、太腿、尻と体全体をまさぐっていく。子供っぽい横縞の
ショーツ越しの尻は小さく締まっており、手のひらに伝わる感触は、柔らかい弾力に富んでいる。
「焦らしは、いやだけど……嫌いじゃないかもです」
宮は、律儀に質問に答えた。
「じゃ、逆にこういうのは?」
薫はシャツの下に右手を差し入れると、直にその乳房に手をあてがった。そして、固くなった小さな乳首を
二本の指で摘みあげる。
「んっ……! あ、そ、それ……ヤバいで……すぅ」
優しく転がし始めると、いよいよアニメ声の喘ぎが漏れてきた。
さらに左手でスカートの中に入れ、ショーツ越しにヴァギナへの愛撫を開始する。筋をなぞるようにして
手早く動かし始めると、乳首とヴァギナから伝わる快感に、身をよじらせ始めた。
「ヤバいっすか?」
「ヤバ……いんっ、です……」
「なるほどね」
「…… あ」
本格的に感じてきた所で、薫は手を止めてしまった。
思わず、あっけに取られる顔になる宮。
「ここじゃさすがに、これ以上はまずいよね。やめといた方がいいわ」
「あー、あいたたたw」
(こいつ……ここは残念そうな顔だろがよ)
「あ、じ、じゃあここは一つ…… ほ、ホテルなどはどうで……あん♪」
「……」
「あぅ……いきなりは卑怯……ぅん、あ、ん、んふぅ……♪」
ヴァギナへの指責めを加速させつつ、薫は色々と厄介なものに手を出してしまったかもしれないと思った。