貧乏高校生の藤堂薫、彼が引っ越し先の家賃2万の部屋で見つけたのは、奇妙なハンドブ  
ックであった。  
 その名も「これであなたもモテキング! モテルギーで堕とせ」。  
 こんなタイトルのAVあったかもしれないと、ぼんやり手にとって眺めてみる。前の住人  
の忘れ物だろうか?  
 しかし、それにしては綺麗な装丁である。イラストも清潔感溢れる爽やかな青年が描かれ  
ており、タイトル以外はどこにも怪しさはない。今ちょうどスローセックスに関する本など  
が売れているが、その流れに無理矢理便乗したものであろうか。  
「……」  
 中身は、もっと怪しかった。  
 モテるエネルギー「モテルギー」を増大させる方法、モテルギーにより狙った女を落とす  
方法、遠隔送信でTVのアイドルも落とす……  
「……モテルギー……    ……アレルギー?」  
 まずい、何かリアルでいけないものを拾ってしまったと、少し怖くなる薫。  
 だいたいモテルギーとは何なのか。今まで見てきたどんなエロコンテンツにも、そのよう  
な人を小馬鹿にした単語は登場して来なかった。媚薬やそういう道具的なものを使わず女を  
落とすなど、都合が良いにも程がある。もう高校生になった俺を、バカにするのもいい加減  
にしろと言いたい。  
 と、思いつつも読み出してしまう童貞高校生。  
「えーと、『まず、自分がモテる妄想をすることが一番です。その次にその妄想をエネルギ  
ーへと、モテルギーへと変化させ、己の血肉とするのです』……」  
 年齢イコール彼女いない歴かつチェリーボーイ、オタクにもなれず金もなくただいやらし  
い妄想をするしか趣味がない薫にとって、それは特に問題ないものと思われた。なにせ物心  
ついた頃から常日頃理想の自分を妄想をしていたのだから、年季が違う。  
「『モテルギーは時間をかけ、日々たゆまずためていくものですから、ここが一番の難所で  
す。モテルギーさえあればターゲットの女性はもう、あなたの思いのまま……』」  
 次はどうやら、それを狙った女性にぶつけるステップのようであった。  
 ふと、動きが止まる薫。  
 おそらく十分すぎる程モテルギーなるものがたまっているであろう薫は、何となく、その  
次の行程を試したくなってしまった。  
 続きを見れば、至極簡単な動作である。  
「……」  
 二分後、薫は部屋を飛び出していった。  
 大通りに出て、夕焼けの駅前をふらふら歩いていく。この時間は帰宅途中の会社員や学生  
が多いので、一日の中で最も賑わう時間帯を迎えている。  
 到着する電車から、次々と降りていく人波。駅から出てくる人々を、薫はぼんやり眺め始  
めた。OLや女子高生、女子中学生とその目は女性ばかりを追っていく。  
 ふと、そんな薫の目が止まった人物がいた。  
「三井さん……か」  
 よくこの駅で見かける、OLの三井琴子である。  
 グレーのパンツスーツを着こなした、スタイリッシュなモデル風美女だ。すらりとした体型  
で、遠目でもわかるほど滑らかな白い肌が眩しい。日本人らしい凜とした美しさは、大企業の  
キャリアウーマンといった風格さえある。  
 近づきがたい程のこの美女を、薫は前々から気になっていた。  
 彼女は薫が住むアパートの近所に住んでおり、朝の通学時によく同じ電車にも乗るため、名  
前だけは知っていたのだ。  
(やってみるか……)  
 さっそく、薫は試してみることにした。幸い彼女は柱に寄りかかり、携帯電話に夢中になっ  
ている。  
 この時のために、部屋でモテルギーとやらを練っていたのだ。  
(……ていうか、何をどうしよう……?)  
 ハンドブックではモテルギーさえあれば、何もかも上手くいくとか書いてあったが……女性  
と付き合ったこともない薫には、かける言葉さえ浮かんでこないのが現実である。  
 為す術もなく、じっと見つめるしかない薫。と、その時。  
 
「…… っ!」  
(あれっ!?)  
 琴子と偶然、目が合ってしまった。同時に、感電の体に走る小さな衝撃。  
 さらに、彼女は薫の方を向いたまま、視線を外そうとしない。嫌悪感か、興味か、それとも  
他の感情か……とにかく、薫から目を離さなくなってしまったのだ。  
 こうなると、薫の方が困ってしまった。  
「やっ、やばいな……」  
 まさかこんな展開になるとは、思ってもいなかった。  
 慌てて目を反らしたが、相手はどう思っただろうか。もう向こうの方を向くこともできず、ただ  
その場に立ち尽くすことしかできない。  
 薫は何とか携帯電話のメールを見るフリをしながら、とりあえずその場をやり過ごすことに  
した。少ししてから相手の様子を見て、いなかったら大人しく帰ろう。  
 そう考えひとつ深呼吸をした時、彼に声をかける人物がいた。  
「あの――」  
「!!」  
 あろうことか、三井琴子その人だった。  
「今、ずっと私の方見てましたよね」  
「いや、あのほら、よく朝の電車とかで一緒になるじゃないですか!? それでつい、見てた  
っていうか」  
「見てたって、今だけじゃなくて前からってこと? それって……」  
 いかにも訝しげな目で、問いつめてくる琴子。一瞬の期待を打ち壊すかのような現実に、薫  
はしどろもどろになるしかない。  
「ちょっと、来て」  
「あの、ちょっ……!」  
 強引に薫の腕を取ると、そのまま琴子は歩き出してしまった。  
 この状況の行き先で考えられるのはひとつ。薫はひたすら後悔の言葉を心で呟きながら、為  
すがままに彼女に連れて行かれてしまった。  
 
 
「どうぞ」  
「あ、じ、じゃあ、いただきます……」  
 俺は一体ここで何をしているんだろう。  
 新築の高級マンションの部屋から見える夕暮れの景色は、また格別なものがある。昼と夜の  
狭間の一時、駅前商店街から聞こえる喧噪が、どこか感傷的な雰囲気を作り上げている。  
 そんな三井琴子の部屋で、薫はストレートティーを飲んでいた。  
「あ、あのー……」  
「何ですか」  
「いえ、何でもないっす」  
 あれから、なぜか琴子の部屋に連れて来られたのである。  
 琴子はジャケットを脱いだスーツ姿のまま、薫が座るテーブルの向かいの椅子に腰掛けてい  
る。広々としたリビングを見る限り、よほどいい暮らしをしているらしい。  
 彼女は紅茶を一口飲み、真面目な顔で言った。  
「正直に言って欲しいんですけど」  
「えっ?」  
「私に、何かしました?」  
 モテルギーなる神秘エネルギーを使って、俺にめろめろになるよう仕掛けました。それであわ  
よくば、色々といやらしいことをしようとしてました。  
 まさかこんなことは言えない。  
「いや、別に……さっきも行ったとおり、いつもの電車で見てたくらいです、けど」  
「……」  
 眉間に皺を寄せ、琴子は腕組みをして考え込んでしまった。  
 何を考え込んでいるのか、たまにこちらをチラチラと見つつ、黙っている。  
「すいません、何か悪いことしたなら、謝りますんで」  
「いや、悪いことっていうか」  
 ついには頬杖をついて、ため息をつかれてしまった。  
 こうなるともう、薫は一刻も早くこの場から逃れたくなってしまう。一体何が、彼女をそう  
させているのか。  
 と、琴子はふと不思議なことを言った。  
「……あの、ちょっと手、いいですか」  
「あっ、てっ、手ですか?」  
 
 声が裏返りながら、薫が要求に応える。  
 琴子は彼の手を取ると、人差し指と中指を上に向け、じっと見つめ始めた。ますます薫の理  
解が及ばなくなる、彼女の行動。  
 次の瞬間、彼が予想だにしなかったことが起きた。  
「っ……」  
「!!」  
 琴子が突然、その手を自らの頬に当てたのである。  
 吐息混じりに両手で包み込み、愛おしそうにすり寄せる。あまりに滑らかなその感触に、薫  
に震えが走った。  
「薫君、だったよね」  
「!」  
 憂いを帯びた上目使いに、薫は思わず見とれてしまった。  
 キリッとしたスーツ姿の美女からは、想像できないような色めきである。  
「勘違いしないで欲しいんだけど、私、こんなことするような人じゃないから」  
「え? は、はぁ」  
「えーーーっと、何て言うか……            大好き」  
「は……あっ!?」  
 ぐいっと腕を引かれたと思うと、琴子のしなやかな両腕が首に回っていた。  
 髪の良い匂いとやわらかな二の腕、そしてスーツ越しの胸の感触が薫を包み込んできた。耳  
元では明らかに乱れた、彼女の吐息が聞こえてくる。  
 抱きつかれた状態からゆっくり離れると、上気した顔でうっとりと見つめる、琴子の顔があ  
った。  
「何か、もぅ……」  
「〜〜〜」  
 そのまま目が合った状態で、十秒ほど時が止まる。  
 薫は嬉しいというよりも、何がどうなっているのかわからず混乱するばかりである。  
「あぁ、駄目だ」  
「んっ!?」  
「好き……」  
 顔が近づいたかと思うと、唇を舌でぺろっと舐められる。そして目を明けたまま、ちゅっと  
音をさせて柔らかな唇が触れた。  
「向こうの、ソファ行こ」  
 また先程のように強引に手を引かれ、向こうにある大きめのソファに座らされた薫。さらに  
琴子は彼の首に腕を回し、いわゆる「お姫様だっこ」の状態で体を預けてきた。  
 白いシャツ越しに伝わる、胸と女性の柔らかい感触。いつも見るだけであった極上の美女が、  
左の首筋のあたりに顔を埋め、まるで子猫のように甘えている。  
「あ……良い匂い……」  
「え、あ、そ、その」  
 官能に溺れたような、笑みを浮かべたその表情。  
 先程からじっと薫の目を見つめ、視線を外そうともしない。後頭部に回った手が、優しくな  
で続けている。  
「本当に私、男の人はそんなに興味ないし」  
「は、はい、そうですよね」  
「甘えるようなタイプじゃないけど……」  
 その肌が、真っ赤に染まった。もじもじとためらってから、琴子は振り絞るように耳元で呟  
く。  
「……口、開いて?」  
「く、くちって……あっ」  
 彼女の方を向いた瞬間、我慢できなくなった琴子に唇でふさがれてしまった。  
 すぐに彼女の舌が割り入って、薫の口を犯し始める。経験がないのか荒々しく舌を絡め、吸  
い、何度も音をさせながら触れるだけのキスを重ねる。  
「んちゅ、ちゅ」  
「こ、琴子さ……うむっ!」  
「んむぅん……可愛い……」  
 さらに震える薫の手を取ると、琴子は自らの胸に押し当てた。  
 大きいと言えるサイズではないが、その感触は薫の十数年の人生の中で、ずっと追い求めて  
いた感触である。遠慮しがちに、揉み回し始める。  
「うんっ……あ、そこいぃ……」  
 乳首をシャツ越しに指で触れると、裏返るような声で琴子が鳴いた。  
 髪の良い匂いと乳房の柔らかさ、そして目の前の清廉な美女から漏れる、卑猥な色の声。  
 
「え? ちょっ、そ、そこはまずいっすよ」  
 いつの間にか彼女の手がズボンに入り、下着越しに薫のペニスに触れた。  
 既にいきりたっているそれを包み込むようにして、琴子の手が愛撫し始める。未知の快感に、  
腰が抜けるような波が走った。  
「これって……いいんでしょ?」  
「そう、っすね」  
「じ、じゃあ」  
 琴子はソファにもたれている薫の前に跪くと、おもむろに彼のジーンズのジッパーに手をか  
けた。  
「こんなことされても、嫌わないで……」  
 とろんとした目でジーンズとトランクスを下げると、苦しそうに立ったペニスが姿を現した。  
 一瞬、驚いたような表情となった後、琴子はゆっくりと顔を近づけていった。  
「……はぁむ」  
「〜〜〜〜〜!」  
 暖かくぬめぬめとした感覚に、薫は再び腰が抜けそうになった。  
 滑らか過ぎるほどの唇と口が包み込み、舌でちろちろと舐めていく。薫がイメージするような  
根本まで咥えこんで顔をピストンさせるようなものではないが、十分すぎる程の快感が、下半身  
に走る。  
「んふ……んっ、んっ、んっ」  
 ちゅ、ちゅと音をさせ、亀頭の部分だけを口と舌でしごいていく。自らの股間に跪きフェラチ  
オに夢中になる琴子を見下ろし、薫はようやく確信を持つことができた。  
 ペニスを咥えながら、うっとりた目で見上げる琴子。  
「やべっ……琴子さん、顔離してください」  
「うん……?」  
「!? えっ!? ちょっ……」  
 薫が何を言おうとしたのかわからない琴子ではないはずだが、彼女は話すどころか両側の大腿  
を掴み、音を立てて吸い始めた。  
 これにはたまらず、薫にすぐ絶頂が訪れた。  
「っ……!!」  
「ん……」  
 薫は琴子の頭を掴み、その口内へ思い切り精を放った。  
 出ている最中も彼女は舌で舐めつき、後始末をするようにペニスを余すところなく舌で綺麗に  
していく。  
「薫君……」  
 と、唾液で光る亀頭に口づけて、吐息混じりに呟く。  
「また、会ってくれる?」  
 口端から白濁液を垂らしながら、琴子がうっすらと笑った。  
 
 

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