昼でも光のあまり届かぬ程、深い森の中で。
2人の影が息を潜めて様子を窺っていた。
1人は青みがかった水色の髪を持つ15,6位の少年。
もう1人は20代半ば程の黒髪の青年だった。
2人は、人間ではなかった。少年と青年の背中に、蝙蝠を想わせる漆黒の翼が存在するから。そう、2人は、悪魔だった。
彼らは笑い声や話し声1つ立てずに、じっと息を潜めていた。
厚い雲が空を覆い、すぐにでも雨が降りそうな天気だった。
もっとも、雨が降ってくれた方がちょうど良いのかも知れない。足跡が消える。
「(そもそも、森の中で殺しをやれってのがどうかしてるぜ……)」
彼は小さく呟くと、軽く首を振る。
その俺の仕草に気付いたのか、近くにいた年上の悪魔が彼を振り向いた。
今回の仕事は彼のような若い悪魔が1人で出来る仕事では無いので彼は年上の補佐という事になる。
「お前、名前なんつったっけ?」
「ゼノンです」
「そうだ、ゼノンだった。悪ぃ、悪ぃ。俺は物忘れが激しくてなぁ」
そう言って年上の悪魔は頭を掻きつつ笑った。
そう言えばまだ彼の名前を聞いてなかった気がする。ゼノンが小さくため息をつくと、悪魔は再び口を開いた。
「ところでよー。ゼノン。お前、結構ガキらしいけど、こんな大事な仕事任せられるなんて腕はいいのか?」
「大事な仕事って……」
ゼノンはここでどう返すか迷った。
何せ、ゼノンは普段は仕事はしないで遊んでいるタイプの世代だ。
出生のせいか、同年代より多少力が有り余っているからかも知れないが、時々仕事を任せられる程度だ。
「大事な仕事って、ただの殺しじゃないんですか?」
「バカ野郎。俺達が殺す相手はな、天使のお偉いさん。噂にもなってるゼラートだよ」
その時、ゼノンはその場で引っ繰り返りかけた。
天使と言えば悪魔と何千年にも渡って戦い続けている宿敵だ。
1人1人なら大した事は無いが複数集まればトンでもない強さになる。いや、1人でも充分強いのがいる。
天使のお偉いさんなら相当な強さを誇るだろう。それを、たった2人で暗殺しろと?
無茶苦茶もいい所だ。
「ゼラートっつーと、穏健派じゃないでしたっけ? それなのに何で俺達が殺すんです?」
ゼノンが困ったように尋ねると、年上の悪魔は困ったように頭を掻いた。
「なに、この前よー、天使との融和策を打ち出したどっかの上級悪魔が粛正されただろ? それの影響だよ」
あまり面白い仕事じゃねぇけどな、と悪魔は付け加えた。
ゼノンはそれを聞いて少しだけ不安になったが、黙って仕事を行う事にした。
もっとも、ただ待ち続けるだけなのは辛いものがあったが。
天使達の住む領域に、天使との融和策を打ち出した上級悪魔達が粛正されたという情報が入ったのは数日前の事。
天使達にも穏健派と強硬派の両派に別れているせいか、この情報は強硬派の主張をますます強くした。
それ以来、上級の天使達は安全管理に気を配るか暗殺者に用心して目立たない道を選んで通るか、という選択を迫られるようになった。
最上位天使ゼラートは穏健派の1人で、安全管理に気を配って護衛だらけにするよりか暗殺に用心して、目立たない道を選んで通っていた。
そして今日もそれは変わらず、深い森の中を数人の護衛と共に進んでいた。
「シリル」
真ん中を歩いていたゼラートが、最後尾を歩いていたまだ幼さの残る、1番若い天使に声をかけた。
シリルと呼ばれた彼女は突然呼ばれた事に、少し驚いた顔をしてすぐに近づいた。
「はい、何でしょう? ゼラート様」
「この天気だと雨が降りそうです。シリルは傘を持っていますか?」
「はい。皆さんの分も、ちゃんと用意してます」
「そうですか、それは良い事です」
ゼラートとそこまで会話した後、会話は終わったのでシリルは再び最後尾に下がった。
そもそもまだ見習いからようやく下位に昇級したばかりの彼女が最上位天使の護衛に付いているにはワケがあった。
先日、最上位天使の1人が暗殺者に襲われた。
その際、暗殺者の1人が鬼神の如き強さで暴れ回り、上級天使の護衛を担う兵力に甚大な被害を与えたのだ。
100人斬りどころか300人斬りを許してしまい、それ以来、見習いより上ならとりあえず護衛として呼びだされる羽目になったのである。
人手不足の恐ろしさは悲しいものであった。
シリルがそんな事を考えていると同じく最後尾を歩く天使が1人、槍を携えたままシリルを振り向いた。
「シリル、考え事よりも後ろの方に注意しておいてね」
「あ、す、すみません」
シリルより少し先輩の天使は小さく笑うと、すぐに言葉を続けた。
「まぁ、貴方はこの仕事は初めてだから解らなくはないけれどね」
先輩の天使の言葉にシリルは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
距離が徐々に狭まってくる。
片方は気付いていない。片方は完全に気付いている。
お互いの位置の、僅かな違い。僅かな分岐点。
「そういやさ、ゼノンっていったか? お前、まだガキっぽいのに何で暗殺業なんだ?」
ゼノンが息を潜めていると、先輩の悪魔が声をかけてきた。
実は、ゼノンのようにまだ少年の域を脱しない悪魔は暗殺業には殆ど関わらない。関わるのは成年してからが殆どだ。
一応、彼にも年上なりに年下のゼノンを心配してくれているのが少し嬉しく思った。そう、思うだけだ。
「いえ、まぁ、大した理由じゃないです。混血だから就職困難で」
悪魔というのは差別意識が強い。
純血至上主義とは良く言うもので、純血であれば例え悪魔じゃなくても仲間として認めている。
だが、混血になってしまうと半端者というだけあって、あまり良い顔をされない。
親に罪は無くとも子供に罪は出来てしまう。おかしな社会。
「ああ、混血なのか……最近増えたよな、天使と悪魔の混血って」
「いえ、俺は天使との混血じゃないです」
「じゃ、人間か?」
「親父が鬼人族の将軍だったか何かだそうです。会った事無いんで顔も知らないんですけど」
ゼノンの返答に、悪魔は目を丸くした。<br>
「鬼ってあれか。人を食ったりする奴か。悪魔でも人を食う奴はいるけど、俺はそんな奴の気が知れねぇ」
「らしいですね。でも、鬼が住んでる東の郷土料理って味付けが独特でなかなか面白いんですけど」
「ああ、時々そういう店あるな。ミソスープってのは俺も好きだわ」
ゼノンと先輩の悪魔はのん気にも東の郷土料理の店について散々話した後、ようやく自分達の仕事を思いだした。
「おっといけねぇ、そろそろゼラート様ご一行の到着だぜ」
「そうですか……んじゃ、俺も仕事をしますか」
先輩の悪魔とゼノンはそれぞれ長剣を掴むと、お互いに「武運を」と呟いた。
後はもう、相手にして戦うだけ。
暗殺の仕事をするのに、返り討ちはとうに覚悟している。
故に、この仕事はやめられないのだと。
「……おや」
ゼラートが、急に足を止めたので、最後尾を歩いていたシリルも、他の天使達もゼラートを注目した。
「………暗殺者だね」
ゼラートが呟くより先に、既に2人の悪魔は飛びだしていた。
黒髪の悪魔はゼラートただ1人を狙って。
ゼノンは、他の天使を狙って、お互いに長剣を抜いて疾走する。
シリルも、戦列に参加しようとした時、別の天使がそれを手で制した。
「シリルは来なくていいわ、大丈夫、すぐに撃退し」
彼女の言葉は最後まで続かなかった。
斬り込んできたゼノンが天使の首を一撃で両断していたのだ。
もう1人の悪魔は悪魔でゼラートと斬り結んでおり、それを阻止しようとした別の天使が再びゼノンに切り倒される。
「………あ……」
シリルはその時、自分が何もしていない事に気付いた。
自分が何をすればいいのか、何をしなければならないのか、解っているつもりでいた。
だけど、身体が動かない。
どうすれば、いい。
ゼノンが3人目の天使を斬り倒した時、戦闘に加わっていない天使がいる事に気付いた。
歳は15,6。彼女がシリルという名である事も、見習いから下位に昇格したばかりである事もゼノンは知らなかった。
ただ、天使にも自分と同い年位のがいるのだなと思っただけだった。
「(あと、ゼラートと、あそこにいるのと……護衛があと2人か)」
ゼラートの方には、年上の悪魔がずっと狙っているので、護衛2人と彼女を片づければいい。
ゼノンがシリルの方に1歩近づいた時、護衛2人がゼノンに凄い勢いで迫ってきた。
「させないっ!」
「ッ!?」
視界の外から、2人同時に攻撃を加える。思い掛けない攻撃に、ゼノンが一瞬引き気味になる。
「やああああああああああっ!!!!!!!!」
その隙に天使の1人が、槍を思いきりゼノンに突き刺す。
膝を折ったゼノンに、もう1人が、剣を振り上げる。
死ぬのか、と思った。
「(ふざけんな………)」
まだ、死ねない。
未だ会った事の無い父と、1度も訪れた事の無い父の故郷と。
そして、自分の手で愛せる人がいないまま、死ねるか。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
その時、彼の中の、鬼は目覚めた。
トドメを刺せる、とシリルは思っていた。
先輩達が2人がかりで、年下の悪魔を仕留められると思っていた。
だが、絶叫と共に、悪魔は変貌した。
筋肉の量が突然倍増した腕で、振り下ろされた剣を打ち砕いた。
呆気に取られた1人の首を掴み、そのまま力強くへし折る。
「う……うああああああ!!!!!!!!!」
もう1人が槍をやたらと振り回したが、それでも鬼人の力を解放したゼノンにとっては遅く見える。
悪魔と鬼人。悪魔の魔力と素早さ。鬼人の力強さと眼力。
混血とは、時として恐ろしい怪物に等しいものを産み出す。その証明が、彼だった。
ゼノンは腕の1振りで槍を持った天使ごと吹っ飛ばした。
天使は地面に叩き付けられた所を、距離を詰めたゼノンの拳の一撃で顔面を打ち砕かれて絶命した。
「…………フー……」
ゼノンが息を吐く。
その容姿が、徐々に鬼から悪魔へと戻っていく。
「………くそ、これって疲れる……」
ゼノンが落ちていた剣を拾った時、まだ年上の悪魔は戦闘中で。
シリルは、ゼノンに剣を突き付けていた。
「………こ、降参して下さい。首を、落としますよ……」
シリルが震える声でそう告げた時、ゼノンはいつの間に彼女は距離を詰めたのだろうと思っていた。
だがしかし、彼女の震える腕でゼノンの首を落とそうとは無理な話だ。
「(俺、今すぐコイツの首をへし折れるな)」
そんな事を考える位に余裕があった。そして、目線を背後に向けられる位の隙もあった。
ちょうど、ゼラートの身体が、年上の悪魔の長剣に貫かれるのが見えた。
「あっ………」
シリルは、ちょうどゼノンが視線を背後に向けるのと同じように、ゼノンの肩越しにゼラートの姿を見ていた。
そして、殺される瞬間も、見ていた。見てしまった。
「あ……あ………」
シリルは、その時になって今や自分を守る天使も、味方も1人もいない事に気付いた。
自分1人でこの2人を倒せるかと聞かれると間違いなく無理だ。
1人はこの場で倒せても、もう1人はきっと倒せない。そして、逃げようにも2対1では追い付かれるだろう。
ならば、どうすればいいか。答えは、1つ。
「っ………覚悟なさい!」
シリルは覚悟を決めた。戦えるだけ、戦おうという。
シリルが手にした剣を振り上げ、それをゼノンに振り下ろそうとした時―――――。
シリルの手から剣が飛び、そのままシリルは地面に押し倒された。
「…………」
目の前に、自分と同い年位の悪魔の顔があった。
さて、どうしたのだろう。ゼノンはまずそう思った。
シリルがゼノンに首を落とそうと剣を振り上げた。だからゼノンはそれより早くシリルの剣をたたき落としたに過ぎない。
だがしかし、押し倒す必要などまったく無かった。別に武器を落とすだけで良かったのだ。
「(何をやってるんだよ、俺)」
シリルを組み伏せたまま、ゼノンは自分自身に呆れた。
ゼノンは、押し倒しているシリルをもう1度見る。
年齢と体格は大体自分と同じ位だろう。胸もそこそこ、というより自分の掌にちょうどフィットしそうだ。
混血、という理由のせいか、ゼノンの同い年の悪魔はそうそうゼノンに付きあってなどうれなかった。
そこらを歩く淫魔共は混血よりも純血の方がお好みらしい。
そして、淫魔とは違う、聖の魔力を持つ天使を、今押し倒しているこの状況。
ゼノンにとって、彼女は堪らなく魅力的に見えた。
そして、自分は混血とはいえ半分は悪魔の血が入っていて。
「…………ん……」
「……んっ!? んんっ…!?」
ゼノンは、シリルの唇を、強引に塞いだ。
唇を強引に塞がれるという感覚に、シリルは一瞬だけ驚愕を覚えた。
いったい何をするのだろう、いっそすぐに殺してしまえば良いのに、と思いもした。
だがしかし、ゼノンの舌がシリルの口に突っ込まれ、何度となく口の中をなめ回す。
「ん……んんっ……」
拒否しようにも、身体がなかなか動かない。
「……なぁ」
ゼノンが口を開き、シリルが目を開いた時、ゼノンは視線を僅かにそらしていた。
「……何を……するんですか……」
「お前、初めてか?」
ゼノンが、シリルのショーツに手を掛けようとしながら、ゆっくりと口を開いた。
「…………!」
「ああ、そんな顔するって事は初めてなのか。気にするな、俺もなんだ」
ゼノンがそう答えた時、シリルの右手がゼノンを突き飛ばそうとして。
突き飛ばせなかった。
「………悪ぃ。アンタの身体、俺に捧げてくれ」
ゼノンのその宣言の後、ゼノンの手が、ゆっくりとシリルの衣服を剥ぎ取り始めた。
上衣、下着、その下のブラとショーツと、順に外されていく。
抵抗する気力も失せた。シリルが目を閉じた時、ゼノンの両手がシリルの乳房を掴んだ。
「あ……は………ん……」
ゼノンがシリルの乳房を揉む毎に、シリルが小さな声をあげる。
天使がこんなに甘い声を出すのか、とゼノンは笑いたくなって自分が女の子を抱く事が初めてである事を思いだした。
「………」
ゼノンはシリルの乳房に顔を近づけ、揉まれて堅くなってきたその先端を舐める。
「ひゃっ!? あはっ……それは……やめてっ……」
シリルが可愛い悲鳴をあげたが、それを無視してゼノンは乳首を舐め続ける。
子供のように、何度となく舐める。
森の中、死体が幾つも転がる脇で、まだ若い悪魔と鬼の混血児と、まだ幼い天使の享楽は終わらない。
「あ……はぁ………」
ゼノンがようやく乳首を舐めるのをやめた時、シリルは荒い息をついていた。
シリルの乳房は最早ゼノンの唾液塗れとなっていたが、それを拭う元気もないのか、シリルは横たわったままだ。
「…………」
ゼノンの視線が上から、下へと移る。
すっかり愛液に濡れたその秘所を見つめ、ゼノンはとうとうそそり立った自分のソレを取りだした。
「え……ああ………」
ゼノンがソレを取りだしたのに気付いたシリルが視線を向ける。
「……入れるぞ?」
「…………私、は……」
シリルが呟いた時、ゼノンはもうソレを入れる直前の体勢になっていた。
「陵辱、されるんですね」
シリルが呟いた直後。ソレは、入れられた。
「んんっ……!」
小さくプチプチという音がして、シリルの秘所から赤い液体が僅かに漏れた。
彼女は確かに処女だった。
「………キツくないんだな、意外と………」
ゼノンは意外とすんなり入った事に少しだけ驚きながら、すっと身体を動かし始めた。
「あ……はぁんっ……やめて……動かさ、ない、でっ…………」
「悪いそれは無理だぜ………」
「あ……ああ………」
シリルの声をよそに、ゼノンは身体を動かし、シリルの膣の奥へと突き続けた。
自分の精液が吐きだされると解っている。天使にそんな事をしていいのかとも思う。
だがしかし、自分が♂であるが故に。
自分がまだ、童貞である事を思いだして。
そして、遂に。シリルの膣に、白濁が吐きだされた。
「は、はあああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」
強くはない。だけど、決して弱いとも思わない悲鳴があがった。
その直後、シリルの身体は草むらに倒れた。
2回程出した所で、ゼノンはようやく身体をシリルから離し、服を着た。
シリルはまだ靴と靴下を残して裸身のままだ。
「おい、ゼノン。その子と犯るのは家に帰ってからでも良かったんじゃねぇか?」
年上の悪魔がゼノンに近づきながら、そう告げたがゼノンは振り返りもせずに答えた。
「いえ、俺、童貞だったんで」
「いや、そりゃ関係ないだろ」
「それより、俺にも解るぐらい血の匂い撒き散らさないで下さいよ。ゼラートの生首、せめて何かに包んで下さい」
暗殺の証拠として、相手の首を持っていくのは最早常識だ。
先輩の悪魔はちゃんとそれを解っていたが、生首のままはいただけない。
仕方なく、ゼノンが引き裂いたシリルの衣服で包む事にした。
「じゃ、俺はこれ持ってく。後で金は持ってくぜ」
年上の悪魔がそう告げて去った後、ゼノンは眠ったままのシリルを見て、近くの天使の死体から衣服を引っぺがすと、着せてやった。
とうとう、犯してしまった。
生き残りが彼女だけで、しかも悪魔に陵辱されたとあればきっと、彼女は天使達に相手にされないだろう。
純血主義なのは悪魔も天使も似たようなものだ。
だから、ゼノンは彼女を連れていこうと思った。
どうせ1度交わしてしまったのだ。
せっかくだから最後まで責任をとってやろう。
彼女が目を覚ましたら、一緒に帰ってみるのもいいかも知れない。
その時はその時で文句を言われそうだが、ゼノンは何故か我慢出来ると思った。
雨は降らないで、森の中で星がよく出る夜を迎えようとしていた。