私はオッパイが嫌いではない  
いや、健全なる青少年として、当然の興味と関心も持ち合わせている  
しかし、この状態は我慢ならない  
「晶!  
いつもいつも乗せるなといってるだろうが  
慮外者め!」  
このアホたれは、学問に勤しむ私の神聖なる頭部を、あろうことか乳置きに使用してやがる  
「いいじゃんか  
彦の頭、ちょうどいい位置にあって楽なんだよ」  
全く悪びれず、後ろからしがみついたまま、私を離そうとしない  
すくすくと身体ばっかり無駄に育ちやがった奴は、ガキの思考のまま行動しくさる  
「重いし、揺れるし、邪魔なんだよね〜、コレ」  
 
「ブラジャーを着けろ  
横着者」  
男子たる我が身には、全く共感出来ようはずもない感想を、無視して冷たく突き放す  
ブルンッ  
「アンッ」  
まるで水枕のような、重く柔らかい感触  
一年前はほぼ平地だったはずが、あっという間に隆起したパーツ  
その異常な物体が、反作用で信じがたい揺れかたをした  
「イタイよ〜」  
涙目でうずくまる  
胸を押さえているだけだが、抱え込んでいるという表現が、妥当に思える質量  
引き付けられる視線を、無理矢理引きはがし、勉学に没と…  
「何をしている!!」  
何故ゆえに、服をたくしあげておるのだ  
 
注意深く視線を反らし、信じがたい行動をとる晶を、心中でキツク戒める  
バカめ  
バカめ  
バカめ…  
ここは男性の個室だぞ  
何をほうり出して……  
「ホラ!!  
擦れて、朱くなっちゃったじゃないかぁ〜」  
ウ〜〜〜〜!  
威嚇しているつもりであろう唸り声をあげながら、上目使いで睨んでいる、恐らくは……  
視界に入れる訳にはいかずとも、長い付き合い  
奴の表情など、容易に頭に浮かぶ  
……余計な物まで  
「ちゃんと見ろよ  
ほらっ!!」  
「見れる訳ないだろう!  
さっさとしまえ、バカタレが!!」  
極力、穏便かつ穏健な表現で優しく戒める私  
 
一切疚しいところは無い  
断固として無い  
無いのだが…  
「おばちゃんに言い付けてやる」  
等と、ほざきながら部屋を出ようとされた以上、止めざるをえなかった  
そりゃあ、いくら幼なじみとはいえ、息子の部屋から余所の娘さんが乳ほうり出して出て来たら、  
ましてや、無愛想な息子より、愛嬌たっぷりの隣家の女の子を溺愛している愚母である  
とりあえず、無条件で倅をぶん殴るだろう  
ある意味正しい行為ではあるが、身に覚えのない体罰を行使されるのは、極力避けたい  
頭一つ大きい晶の体を、視界から外しながらも、必死で取り押さえる  
 
「お前は一体、何がしたいのだ  
このバカタレが!!」  
「離せ〜  
バカってゆ〜ほ〜がバカだもん!!」  
ジタバタ暴れる晶  
ガキのように憤り、もはやわけが分からなくなっているようだ  
ドタバタと非常に馬鹿馬鹿しい攻防は、やがて終焉を迎えた  
「ウワッ!」  
「キャッ!」  
ドスン  
バランスを崩し、のしかかるように押し倒してしまった  
「わ、悪い」  
あまり悪くは無い筈だが、この状態で開き直れる程、太い神経を持ち合わせていない  
慌てて奴の上からおり、様子を伺う  
「晶?」  
晶は床に打った胸を押さえたまま、じっとうずくまっていた  
 
「アキラッ!  
大丈夫か!しっかりしろ!!」  
「……イタイ、イタイヨウ」  
微かな声で応えるが、痛みに呼吸もままならない様子だ  
「大丈夫か?  
なんなら、病院行くか?」  
尋常でない様子に、うろたえ醜態を晒す私  
「……ヤダ」  
痛みに顔をしかめながらも、晶は断固として拒否した  
「しかしだな……」  
「彦がみて」  
……をい  
「晶、オマエなぁ」  
「ひーちゃんがみてくれなきゃヤダ」  
常日頃、ひーちゃんと呼ぶなと言うておろうが  
しかし、そんな主張をしてる場合ではない  
嫁入り前の娘の胸に、傷でも残してしまったとしたら、一大事である  
 
大体、数年前迄は一緒に風呂に入っていたのだ  
多少、形態の変化があったところで、うろたえることは無い  
我ながら、詭弁をろうしてると思うが、そうでもしないと、割り切れるものではない  
「わかった、診せてみろ」  
極力、冷静に告げる  
「えっ」  
聞き返すな、バカタレ  
「診てやるから、胸を出せと言っている」  
「う、うん」  
ペタンと床に尻を付けた、女の子座りで体をこちらに向ける  
意外そうにポカンと見つめる顔  
口を閉じんか  
全く、何も考えていない、警戒心のかけらも見えない表情  
見慣れた筈の顔を、正視出来ないのは何故だろう  
 
他の部分に、目が釘付けになってるからである  
真っ黒に日焼けした愛らしい顔でも、意外に細い首や肩でもない  
引き締まった腰や、薄く浮き出た肋骨でもない  
全体的に成長しきっていない、薄めの肉付きの身体のなかで唯一、たっぷりと膨らむ部分  
夏の日差しにしっかり染め上げられ、真っ黒に焼けた顔や手と対称的に、新雪のような白さを保つ胸  
その雪山の頂点に咲く、淡い桜のごとき乳首が、最高のアクセントとなる  
突如顕れた、完璧な造形美に、私は完全に魂を抜きとられた  
「ひーちゃん?」  
凍りついた私に、不思議そうに話し掛ける晶  
 
「晶の胸、おかしいのかな?」  
不安げに問う晶の声で、私はようやく、正気を取り戻した  
「そっ、そんな事はないぞ  
立派な胸だ」  
……取り戻してないかもしれん  
イラン事まで口走ってしまったが、晶は気にしてないようだ  
「……でっ、痛いのはどこなのだ」  
アホな発言をごまかす為に、問診を開始する  
あくまでも「診る」のが目的あって、「見る」ではないのだ  
「うん、あのね  
こことここ……」  
晶は、ボリュームたっぷりの乳房を持ち上げるようにして、下乳の辺りを指し示す  
目視してみるが、外見上特に変化はない  
「異常はないようだが」  
 
「そんなことないよ  
ホラッ」  
グイッ  
晶によって誘導された、私の双方の掌は、左掌右掌が左乳房右乳房を、おのおの保持するにいたった  
掌に伝わる重量は、おそらくキロの単位に達しているだろう  
触感は、きめ細かさを感じさせながらも、しっとり掌に馴染む  
触感は、軟式のテニスボールが近いだろうか  
……フニフニ  
いや、弾力の戻りに違和感が……  
……フユフユ  
寧ろ、水風船  
いやいや、表面の柔らかさが似つかわしくない  
……ポヨポヨ  
スポンジでもないし、ゴムでもない  
……クニクニ  
高分子ウレタンの枕も違うし……  
……タユタユ  
 
「あの、ひーちゃん」  
「何だね」  
……コネコネ  
「チョット、くすぐったいな」  
「何が」  
……プルプル  
「その、オッパイが」  
「胸がどうかしたか」  
……モミモミ  
「ひ、ひーちゃんってば〜」  
「だから何だね  
質問は明確にしろ」  
……プニプニ  
「ひーちゃぁん、オッパイ壊れちゃうよお」  
ギュウッ!  
全力で診断していた私の視界が、突如暗闇に包まれた何事だ!!  
一瞬慌てたが、直ぐに事態を悟った  
私の頭部は何か柔らかい物に挟まれ、押さえ込まれていた  
ぎゅうぎゅうと、後頭部から圧力がかかる  
頬に伝わる柔らかな感触が堪らない  
 
良い香りがする  
甘く痺れるような芳香  
身近な、それでいてどこか懐かしい  
もっと香を確かめたかった  
しかし、顔面に密着する圧力に邪魔される  
そもそも呼吸にすら、差し支えがあるのだが、私の不満は嗅覚に対してのみであった  
精神が、いくらのぼせ上がり気付かなくなっていても、肉体は当然、科学的に悲鳴を上げる  
酸欠とそれ以上の理由により、私の意識は呆気なく、現実から逃亡を果たした  
両手とも未練がましく、柔らかい物を放してはいなかったが……  
 
 
続く  
 

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