「優華ちゃん、シチューにルー入れて」
「はい」
12/24日午前11時。
優華と優祐は大井家の台所に立ち、クリスマスパーティの料理を作っていた。
何故こんな事になっているかと言えば、それは約2週間前の話になる。
「お兄ちゃん、お願いがあるんだけど」
その夜、桜は優祐の部屋に入ってくると、開口一番そう切り出した。
「ん?」
「24日にクリスマスパーティー、家でやっていい?」
「別にいいよ。母さんは?」
「優祐がいいならやってもいいよ。だって」
桜は顔色を窺うように優祐を見る。
「ならいいじゃん」
「ただ、料理とか作って貰いたいんだよね。でお母さん居ないから、お兄ちゃん作ってくれる?お願い」
桜は手を顔の前で合わせ、拝むようにする。
「別にいいけど……何人分?2〜3人?」
「私と優華と……女の子4人に男の子3人」
桜は指折り数え、人数を提示する。
「多いな〜」
予想に反し、結構な人数だった事に優祐は苦笑いを浮かべる。
「ダメ?」
桜は不安げな表情を浮かべる。
「いや、いいよ。やるよ。けど結構お金かかるよ?」
優祐は快諾する。
が食材の調達に頭を悩ませる。
実際食い盛りの食事7人分はかなりの量になるし、クリスマスなのだからケーキも有った方が良いだろう。
少なく見積もっても5000円は必要だ。
「あ、お金はお母さんがくれたよ。予算だって」
その悩みを払拭するかのように、桜は財布から福沢諭吉の肖像が書かれた紙を取り出す。
「こんなに?豪勢だなぁ」
それを見た優祐も驚きを隠さない。
たかが子供のパーティだと言うのに、さらっとこれを出せる母には凄いものがある。
優祐は自分の母の豪勢さに驚いていた。
勿論良い親には間違いないのだが……
「桜、かなり豪華にやれるぜ」
優祐は一万円札を受け取ると、自信あり気にそう言った。
「じゃあお兄ちゃん料理は頼んだよ。あと当日の朝から優華が手伝いに来てくれるからねっ」
こうして冒頭の場面に至ったのだ。
「優祐さん、次は何作るんですか?」
完璧にさん付けが定着してしまった優華は、今日も優祐をそう呼んでいた。
「ん?ホワイトシチューと鳥の唐揚げ、ローストビーフ、南瓜のグラタン、後サラダだから、次は南瓜を薄切りにして」
豊富な予算を貰ったこともあり、優祐はかなり力を入れて料理を作っていた。
当然ケーキもあるし、子ども用のシャンパンまである。
後者は安かったから買ってしまっただけであるが。
「二人共〜もうそろそろ皆来るよー」
桜はそう言ってキッチンを覗く。
「okこっちはもう殆ど出来てるよ。優華ちゃんも、もう大丈夫。自分の準備していいよ。」
「え、でも」
「優華ちゃんもパーティする側でしょ?」
「はい。ありがとうございます」
優華は大きく頷くとエプロンを取る。
今日の優華は、淡い緑色のワンピースに白のハイソックスという服装だった。
それは優祐の目にも非常に可愛らしく写っていた。
ドアのチャイムが鳴る。
ちょうどよく招待者達が来たらしい。
「失礼します」「お邪魔します」
皆口々に挨拶を述べ、玄関を上がってくる。
「いらっしゃーい」
優祐は台所から面子を見回していく。
チラホラと見知った顔も居ることに安心しつつ、料理を進めていくのだった。
宴は盛況だった。
皆料理に舌鼓を打ち、それを作ったのが優祐だと知ると驚き、桜は誇らしげに、優華は嬉しそうに笑った。
「優祐さん」
台所で一人ちびちびと残りもののシャンパンを飲みつつ、パーティを眺めていた優祐に話し掛ける。
「どうかした?」
「あの、この後プレゼント交換をするんですけど、あのピンク色のプレゼント分かります?」
そう言って指差した先には、皆の荷物の脇にピンク色のリボンで結ばれた袋があった。
「分かるよ」
「優祐さんの号令でプレゼント回すんですけど、あれを田中君の所で止めてほしいんです」
優祐はそれを聞くと不思議な気持ちになった。
わざわざそれを頼みに来ると言うことは、あの袋は優華のプレゼントだろう。
そして、そういうことを頼むと言う事は、当然優華は彼に少なからず想いを抱いてるのだろう。
それは、桜や文奈の想像が外れたという事であり、優祐としては安堵こそすれ、悲しむ事ではないはずだ。
しかし優祐は今不思議な気持ちを抱いていた。
決して心地よくない物……
「ふーん、優華ちゃんはあの子のことが好きなんだ」
そのせいか優祐の口から優華を野由する言葉が出ていた。
「え?ああ違いますよ、あのプレゼントは桜ちゃんのです。私はあれの隣の水色のやつです」
優華はそう言って笑う。
確かにピンク色のリボンが結ばれた袋の横に、水色の袋が有った。
「え、じゃあ桜が?」
「はい。あくまで私の勘ですが、多分当たってますよ」
「そうなんだ」
この時優祐には、桜にそういう相手がいたという驚きと、少なくとも2ヶ月前には絶対に抱かなかったであろう想いが去来していた。
「それに私には……そうだ、明日お暇ですか?」
「う、うん。いや、ごめん用事あるんだ」
「もう、どっちですか」
優華はそう言って頬を膨らませる。
「いや用事あるよ。午後からね」
それを聞いた優華はある提案する。
「じゃあ午前中だけでいいんで付き合ってもらえませんか?絶対に午前中だけなんで」
優華は勢いよく手を合わせて懇願する。
優祐もその勢いに押され、承諾してしまう。
「それじゃ明日の9時に駅前は」
優華は嬉しそうにそう言い残すと、皆の輪に戻って行ったのだった。