……煙草が切れかけてる。俺は舌打ちして部屋を出ると、階段を下る。  
「あら坊ちゃん、お出かけですか?」  
家政婦のババァは何度言っても坊ちゃんと呼ぶのを止めない。ぎろりと睨んで俺は無言で靴を履いた。  
「もう少しでご飯…」  
「いらねえ」  
俺は吐き捨てると外に出た。ガレージの片隅に止まるカタナにまたがり、メットを取り出す。  
「あ、キョウ」  
……声に反応して、手が止まる。  
視線の先には、栗原夏美(くりはら・なつみ)がいた。  
「あんたまた学校フケたっしょ?谷岡先生カンカンだったよ」  
「……どけよ、そこ」  
「何、ドコ行くの?」  
「関係ねぇだろ」  
「あたしも今から駅のほう行くんだ、乗っけてってよ」  
「…………」  
コイツは、本当に。  
「十分以内だ」  
そう言うと夏美はぱあっと明るくなり、三軒先の自宅にダッシュして行った。  
俺はポケットからマルボロを取り出し、火をつけた。  
 
俺は木原恭一(きはら・きょういち)。キハラと言えばまさかと思われるが、そのまさかであり、家電シェアの半分を占めるキハラグループの御曹司と言う奴だ。  
ガキの頃から、親父とお袋が大嫌いだった。家にいることの方が少ない両親は、たまに会うと奇妙に甘ったるい態度を取る。  
ガキながらそんな帳尻合わせにムカついて、俺は家に余りいなくなった。  
今ならまだしも、当時のオレに行くあてなんて無かった。そんな時、夏美は良く自分の家に引っ張って行き、夏美のお袋さんも飯を食わせてくれた。  
あの頃から、俺は未だに夏美に会うと引きずられている。  
「あー、コラ!!何煙草なんか吸ってんのよ!!」  
本当にダッシュしてきたらしく、夏美は息を切らせながら俺を咎めた。  
パーカーにジーンズ。いつもながら服に金とかかけねぇ女だ。  
「っせェな、オラ行くぞ」  
予備の半帽を夏美に放ると、奴は器用にも頭にすぽんとはめて受け取った。  
 
「……ねぇ」  
駅前と言われ送るだけの筈が、何故か買い物に付き合わされ、コーヒーショップで茶をしている。  
とことん俺はコイツに頭が上がらないらしい。  
「あン?」  
「あんたさ、何で学校サボるの?そりゃ、常に学年トップのアンタにとってつまんないかもしれないけどさ」  
自慢では無いが、俺は昔から勉強と喧嘩は負けしらずである。  
「くだらねーことに時間を使いたくねえだけだ」  
「んで、アンタさぼってそんなに有意義なことしてンの?」  
「……るせー」  
世話焼きなんだ、コイツは昔っから。  
その性格が災いして、昔から委員長だの役員だのを押しつけられている。  
今もクラス委員で生徒会書記だった筈だ。俺にしてみりゃ馬鹿としか思えない。  
「あれ?」  
突然、聞き慣れない声がした。  
「え?あ、ちょ、先輩!?」  
夏美の言葉に反応し、視線をやった先には、我が高校の期待の星、檜山武文(ひやま・たけふみ)がいた。  
 
「なんだ、栗原君デートか?」  
爽やかに言うその面が気に入らねぇ。  
「ち、違いますよこんなサルとっ」  
否定する夏美も気に入らねぇ。  
「そうそう、例の件、準備できたから。明日の会議の後にでも渡すよ」  
「あ、有り難うございますっ」  
仲良く話す二人が気にいらねぇ。  
「……俺もう行くから」  
ガキくせえのは百も承知で俺は席を立った。  
「ちょ、キョウ!?」  
「バスまだあんだろ。俺も用事あんだよ」  
用事なんか本当はカケラも無いが、俺はそう言うと夏美の言葉すら聞かず店を出た。  
 
イライラしながら俺はゲーセンに居た。別にやりたくもないパチンコの機械に百円を突っ込み、煙草をふかす。  
……夏美の奴、檜山に惚れてるんだろうか。  
ふっとよぎったその考えはあながち妄想とは言えまい。檜山は一コ上だが、生徒会長を勤め、さらにその爽やかなルックスと性格は学校中の女子の人気を集める。  
トドメに檜山はヒヤマ食品と言う、ウチに負けず劣らず馬鹿でかい企業の一人息子、時期社長。  
「……くそッたれ」  
思わず言葉が口から出る。  
そう、俺は夏美に惚れている。自分でも呆れるくらいに一途な片思い。たぶんガキの頃からずっと。  
「……檜山ごときに」  
取られてたまるかよ……。  
 
「どこに行ってた?」  
……最悪だ。帰ってみれば親父がいる。月に数日しかいない癖に、したり顔でまた説教か?  
「……まあいい。お前、明後日の夜、空けておけ」  
「はぁ?何で」  
「檜山さんとこで懇親会のパーティーがある。檜山さんの息子さんもお前と一緒の学校だろう?」  
……輪をかけて最悪だ。何で檜山の家のパーティーなんざ……。  
「先方もお前に会いたいそうなんでな。とりあえずその奇妙な頭だけでも何とかしろ」  
親父はそう言うと書斎に戻っていった。  
「……チッ」  
ゴチャゴチャ話をするだけ面倒だ。当日のメシ代が浮いたと思えば良い。親父とは今更何も話したくは無い。  
「…………」  
脳裏に檜山と夏美が一瞬浮かび、俺はまた舌打ちした。  
 
「……キョウ、きょーおー!!」  
夏美に無理矢理学校に連れて来られ、昼休み。飯は屋上の貯水タンクの辺りで俺はいつもとる。なぜか夏美が「話があるから」と言うので屋上にいると言い残し、奴にはジュースを命じ、俺は購買での激戦を終え一服していた。  
そう。まさに激戦であった。最近久しく購買を利用していなかったからだが、あれ程に強烈な光景が平成の世の中にもまだ残っているとは。  
「おう、こっちだ」  
軽く手を上げると、夏美は小走りによってきた。  
「はい、てーか何よウーロンとコーヒー二本って?」  
「ウーロンはメシ用だ。コーヒーは食後だ」  
「……もう一本は?」  
「次の時間が山岡の古文だからな」  
「……だから何よ」  
「さて飯にするか」  
適当にあしらい、タバコをコンクリに押しつけてから携帯灰皿にいれ、俺はビニールをがさがさやり始めた。  
 
「んで?相談て何だ」  
カツサンド(と言えば聞こえは良いが、駄菓子のカツを挟んだような珍妙なパン)を開きながら言うと、夏美はちょこんと座りながらレモンティーを啜った。……こいつは、普段は全然そんな風に感じさせないのに、時々こうやって強烈に女を意識させやがる。  
「あのね、……私が女の子っぽい格好したら変かな?」  
「あ?」  
思わず飯を食う手が止まる。何を言い出すかと思えば……。  
「そらまあ。お前は普段もジーンズばっかだしなぁ」  
「うんうん」  
「制服以外にスカートなんかはかねえだろ」  
「うんうん」  
「化粧やアクセサリーの類も縁が無い」  
「うん……」  
「……そんなお前が何で今更女の子っぽい格好とか言い出したんだ?」  
「う、うん、そのね」  
少し顔を赤らめる。  
……強烈に嫌な予感がした。  
 
「あのね、先輩が」  
聞きたく無かった。  
だから聞かなかった。俺はすぐにその場を立ち、背後から聞こえる夏美の言葉を振り切り、学校から早足で抜け出した。  
 
「……髪を何とかしろと言っただろう」  
「るせー」  
親父とお袋と俺。三人が一同に会した事など、今年に入ってから何度あったろうか。  
一応パーティーと言う事で、俺もスーツは身につけている。しかしネクタイなんて物はしめる気がしないので、今日の会場で間違いなく一番俺が異端者だろう。  
知った事ではない。  
俺は親父に無理矢理連れていかれるだけなのだ。せいぜいバカ檜山のタダ飯を楽しむだけだ。  
「……チッ」  
檜山という単語でまた夏美がよぎった。  
あいつの赤らんだ顔が甦り、俺は再度舌打ちをした。  
 
会場は檜山グループの持つホテルだった。  
親父は無論顔パスでさっさと入る。俺はタバコを吸ってから入ると言い、また親父と一悶着起こしていた。  
「チッ……」  
イライラして、ジッポがうまくつかない。と、目の前にシュッとマッチが擦って出された。  
「あ、どもすいませ……」  
ん、を飲み込んだ。  
マッチを持って笑っていたのは、檜山だったからだ。  
「……何の用だ」  
「用だってのは酷いな。君はお客様、僕は主催者側だよ?」  
そういうと檜山はポケットからジタンを取り出し火をつけた。  
「……アンタ、煙草吸うのか」  
「ん?うん。あ、何吸ってんのさ」  
「マルボロだ」  
「へえ」  
会話は止まる。  
「……そう言えば君は羨ましいな」  
「何がだよ」  
「夏美ちゃんさ」  
ピクッとこめかみが動いたのがわかった。  
 
「……あ?」  
「夏美ちゃんと幼なじみなんだろ?あんな可愛い子とってのは実にうらやましい」  
「……テメエ、何が言いたいんだよ」  
「負け戦ってのは、したくないよね……」  
かちんときた。コイツ、まさかもう夏美を……!?  
「お、来たね」  
その言葉に襟を掴もうとした手が止まる。  
そして檜山の視線の先には、  
 
 
ドレスアップした、夏美がいた。  
 
 
心臓が止まるかと思った。  
惚れた女の服が違うだけの話なのに、  
そこにいる夏美は何十倍も輝いて見えた。  
「え……キョウ……?」  
夏美も固まっている。  
パーティー会場の外で、俺らはカカシみたいに突っ立っていた。  
 
「な……お前、何でココに……」  
「きょ、キョウ、え、私は先輩に誘われて……」  
俺は反射的に檜山を見る。奴は心底楽しそうに笑いながら言う。  
「おやおや、お互い知らなかったのかい?おぉ!?いけない、もうこんな時間じゃないか。僕はいろいろしなくちゃいけないんだ、すまないが木原君、エスコートを頼むよ?じゃあ、ああもう始まってしまう!!早く会場に入ってくれたまえ」  
……高速で喋りたい事を喋ると、奴は奥の方に走って行ってしまった。  
「と、とりあえず……入るか」  
「う、うん」  
真っ赤な顔をした夏美の手を引いて、俺はパーティー会場へと入った。  
ドレスなんて普段まず見ないものを身に纏った夏美は、何て言うか、とても、  
 
綺麗に見えた。  
 
会場はさすがに豪華なモノであった。料理・食器・人・サービス、どれも極めて一流である。  
「オイ、何が食べたいんだ?」  
俺の言葉に、夏美はビクッと反応する。  
「え!?へっ!?」  
「へっ、じゃねえよ。取ってきて食べるんだって」  
「あ、ああー、私全然わかんないから……」  
照れたように笑い、夏美はグラスの水を飲んだ。  
「しゃあねえなぁ、ちょい待ってろよ」  
俺は近くのウェィターを捕まえ、適当に頼むと席に戻る。  
「さ、さすがにキョウは慣れてるねー」  
「あんなモンバーガー屋と一緒だ」  
照れくさくて、そっぽを向きながら答える。  
「シャンパンはいかがですか?」  
近くのウェイターの言葉に、慌てふためく夏美。俺は二つを取り、夏美に一つを渡した。  
「おら」  
「あ、ありがと……」  
真っ赤になりながら、夏美はくいっと行く。  
「!!こ、これ、お酒じゃない!!」  
「シャンパンは酒だ馬鹿者。お子様用のなんて置いてるわけねえだろ」  
俺は呆れながらくいっと行く。  
「あ、どうも……ホラ、料理来たから食べろよ」  
そう言いながら俺は夏美をひょいと見やった。  
 
「…………オイ、何してんだよ。食わねーのか」  
「な、ナイフとかフォークって外から使うんだっけ?」  
「……はい?いや、こーゆーのは良いんだよ。そんな形式ばった奴じゃ無いから」  
俺はとりあえず適当にフォークでつつき出す。夏美もようやく慣れたようで、目をキラキラさせながら食べ始めた。  
「…………」  
くすっ、と笑いがこぼれた。  
「む、な、何よ」  
「いやー、ビッグマックに齧りつくお前とは余りにもギャップがあってよ」  
「な、う、うるさいなっ」  
夏美は真っ赤になる。……やべえ、凄い可愛い。  
「き、木原さん!!」  
そんな俺の幸せをブチ壊すかのように、そんな言葉が響いた。  
 
「……またかよ」  
親父はトコトン酒に弱い。弱いクセに飲む。そしてすぐに倒れる。この手のパーティーで親父が倒れなかった事が無い。  
「糞親父……いい加減懲りろよ」  
呟いて、夏美をソコに待たせて俺は席を立った。  
 
結局、ホテルに部屋を借りて親父とお袋は泊まる事になった。  
死ぬべきだ、あの親父は。  
そして俺は夏美を迎えに会場へ戻り、唖然とした。  
 
酔っ払い二号誕生。  
おそらくは会場で薦められるままに酒を飲んだのであろう、フラフラして真っ赤な夏美がぺたりと擦り寄ってきた。  
「な、夏美……こ、この馬鹿」  
「き、きょーおー……?あは、あははー……眠……い……」  
「ば、馬鹿、寝るなよ」  
うれしいがどうしたものかと困る俺に、にやにやしながら檜山が近づいてきた。  
「おやおや、これは大変だ。休んでもらったほうが良さそうだね?」  
 
……休む?  
 
「……野郎」  
俺はぼそりと呟いた。結局、フラフラになった夏美を抱き抱え(死ぬ程恥ずかしかった)、檜山が渡したキーの部屋に入ったが、  
 
どう見てもこれはまともじゃ無ぇ。  
ていうか、ベッドがダブルで一つしか無い。  
風呂が妙に広い。  
「カップルというか、これは……」  
新婚用じゃねえのか。  
「野郎……」  
再び俺は呟いて、とりあえず夏美をベッドに降ろした。  
胸元や鎖骨に目が行く度に、俺は全力で自制心を働かせなければいけなかった。  
とりあえず、俺は夏美を寝かせ、ベッドに腰掛けテレビをつけ、冷蔵庫を開き、  
「野郎ッ!!」  
三度吠えた。  
冷蔵庫の中には、あからさまに奴が仕込んだ赤まむしドリンクとコンドームが置いてあったのだ。  
 
「ん……」  
夏美が気づいたらしく、慌てて冷蔵庫を閉めた。  
「おう、気づいたんか?」  
夏美に声をかけると、しばらくきょとんとしてから、がばっと起き上がって夏美は真っ赤になった。  
「な、な、何ココ!?え、あ、アタシ!?き、キョウ、あんた……」  
「黙れ酔っ払い。何を考えたんだか知らんが礼を言われても罵倒される言われは無えぞ」  
「へ、え……あ、そうか、あたし……あ、ありがとう」  
真っ赤になって俯いている夏美は、  
もう、何というか。  
「悪ィ、夏美、謝っとくわ」  
「へ?な、何が?」  
「すまん、限界だ。……勘弁な」  
「きょ、キョウ?」  
次の瞬間、俺は夏美にキスをして、  
「!?」  
そのまま押し倒していた。  
 
「ん、んーッ……!?」  
夏美が驚きと抗議の混じった声を上げるが、もはやそんなモノは俺に届かない。  
片手で夏美の両腕を押さえるようにして、体で体を押さえーーー  
「……が……」  
一言うめくと俺はずるり、と夏美の上に崩れ落ちる。  
……こ、こいつ、……ひ、膝をブチ込んできやがった……俺のナニに……  
「が……はぁ……」  
「な、何考えてんのよこの馬鹿ッ!!」  
罵倒に対し反応したくとも、今は体が全く動かない。  
「あ、アンタねぇっ、……馬鹿ッ!!」  
「うがぁっ」  
更にベッドから突き飛ばされる。  
床に転がった拍子に、俺はサイドテーブルに強かに頭を打ちつけ、上下の痛みで尺取り虫のように跳ね回った。  
「て、てめェ……」  
「何考えてるのよこの馬鹿ッ!!色魔ッ!!レイプ犯ッ!!」  
……ムカつくが、全く以て言われる通りだ。  
 
「…わ……り……」  
「ふざけんなッ!!あ、アンタ、だけ、はッ、そういう事、しない、ッてッ、思って、た、のにッ……」  
……な、ま、まさか。夏美が、……泣いてる?しかし床で未だ蹲る俺にはベッドの上の夏美が見えない。  
「あっ、アンタは、酔った、馬鹿な女をっ、ヤッちゃっても平気とっ、思ってるかもしんないけどっ、わっ、私は、そんな、安い女でも都合の良い女でもっ、無いッ!!」  
安い?都合の良い?  
……違う、それだけは絶対に、違うッ!!  
「か、帰るッ!!」  
夏美がそう言ってベッドから降り、靴を履いている間に、俺はようやくノロノロと立ち上がった。  
「な、夏美、違う、話を……」  
「今更何の話があるってのよこのスケベ!!」  
……本気で、夏美は怒っている。だが、本気って事なら、こっちだってずっと本気で惚れてたんだ。  
そうそう、簡単に引けるわけ無い。  
 
「……頼む、聞いてくれよ」  
フラつきながらも俺は何とか立ち上がる。  
「はっ、安心しなさいよ、誰にも言いやしないわよこんな事!!」  
かちん、と来た。  
「そ、んな事言ってるんじゃねえ!!」  
「はん!!そりゃ、天下のキハラのお坊ちゃんにとっちゃ一般人の私なんか一山幾らーー」  
本気に腹が立ち。俺は夏美の腕を捕まえると、思い切り頬を張っていた。そしてバランスを崩してしまった俺達は、床の上に見事に転ぶ。  
「いったあ!!何するーーー」  
「好きなんだよお前がッ!!」  
 
 
 
あーぁ。言っちまった。絶対言わないつもりだったのに。  
恥ずかしい。何年前のドラマだよ。ほら、夏美も呆れて何も言わなーーー  
「……嘘」  
夏美はぽかーん、としながらもそれだけ言う。  
「嘘じゃ無ぇ」  
反射的に返す。  
「嘘」  
「嘘じゃ無ぇって」  
「うそーーーんっ!!」  
懲りない馬鹿と言われりゃ返す言葉も無いが、俺はまた夏美の唇を奪っていた。  
 
「んっー、んっ、んーッ!!」  
暴れる夏美を、今度は蹴られないように巧みに体を乗せる。長いキスが終わって、ぷはって息を吸いながら、俺はもう一度言った。  
「……嘘じゃ、無ぇ」  
 
「んっ、あっ、あっ、んんっ、……くぁ……」  
首筋に。耳に。鎖骨に。キスする。その度に夏美が声を上げる。ゾクゾクする。  
重ねた体が。夏美の体の柔らかさを伝える。五感をフルに使って目の前の女を愛する。  
「んッ、あッ、……キョ……うっ……」  
切な気な声が官能的で、俺をヒートさせる。  
手を、ゆっくりと胸の膨らみに持っていく。  
「や、ちょ、駄目……んっ、あっ、きょ、キョウ……っ!!」  
信じられないくらい、柔らかい。胸を揉む。キスを至るところに。その間に左手は背中にまわり、背中のジッパーを下げる。  
「きょ、キョウ……や……」  
少しおびえた夏美の声は、抑止どころか加速剤だ。  
 
「や、あ……んうっ!!」  
少し固くなった乳首を口に含み、舌で転がす。右手は胸をいじり、左手はドレスを剥ぐ。  
「あ、ぁあ……ッ、や、キョ、きょ……うッ……」  
可愛い。愛しい。陳腐なセリフが脳を焼いて、俺はまた優しく、そして念入りに愛撫していく。  
「あっ、あっー……ッ、だ、め……キョウ、あッ、くゥ……んァっ」  
ドレスを脱がし、夏美が今身につけているのは肘まである手袋とショーツだけ。ストッキングも靴も脱がし、その間も念入りに愛撫していた。  
……酷くエロい。上気した肌。潤んだ瞳。光る汗。荒い呼吸。  
ショーツの上から、ゆっくりと撫でる。ぴちゃりとした感触。  
「ひ、あっ……駄目、キョウ……そこ、はっ、んッ、んむうッ……」  
舌を絡ませるキス。トロンとした夏美に、唾液を送り、そして夏美の口の中を舌が這い回り、その間に俺はショーツを脱がしてしまう。  
「んんッ、んッ、むゥッ、んんッ」  
何か言いたそうだが、舌を絡められてて発音は出来ない。  
そして俺は、夏美の中に指を入れる。  
 
「あ、あッ……ん、ぁあァっ、いっ、んァッ、……〜〜〜ッぁぁアっ……」  
頭が、爆発しそうに興奮する。夏美が、俺の指で、キスで、喘ぎ、悶え、感じてくれている。  
「夏美、俺、もう……我慢できねぇ」  
耳元で囁くと、夏美は一瞬体を強ばらせ。そして、こくんと。顔を真っ赤にして頷いた。  
「きょ、キョウ……」  
「ん?」  
「あた、あたし、は、初めて……だから……」  
「俺もだ、馬鹿」  
俺はズボンを脱ぎ、シャツを脱ぎ、全裸になると、何度も確かめながら夏美の中にず・ずっと俺自身を沈めた。  
「いっ、……くゥっ、あつッ、いた……いッ……」  
切れ切れに夏美が呻く。目尻には涙。俺は少しでも夏美が痛みを忘れられるよう、必死で愛撫を続けた。  
 
……それは、稚拙だったろう。テクニックも何も無い、ただのセックス。だが、俺は本能の命じるまま、愛撫し、そして腰を打ちつける。  
「んあッ、あンっ、ふぅッ、あゥっ、いッ、ああっ、キョウっ、あたし、……ちゃうッ、イッ……あ、あああッ!!」  
何も考えられぬまま。俺は夏美の中に放ち、そしてそのまま、夏美を抱き締め、倒れ込んだ。  
 
「……悪ィ」  
落ち着いてから、俺は夏美に謝りっぱなしだった。  
レイプまがいの行為。  
中出し。  
ナンボ謝っても許されることでは無い。  
だが俺はひたすら謝った。  
「……キョウ、あのさ」  
「ん」  
「……たしも、キョウの事……」  
「ん?」  
「……あたしも、……好き、だよ」  
顔を真っ赤にして、胸に顔を埋めながら、夏美が言う。  
 
「……マジ??」  
俺の言葉に、真っ赤になりながらも夏美は頷く。  
「……ねぇ」  
「ん?」  
「ベッド、行こう?」  
……その言葉で気がつく。俺らは、床でシていたのだ。何でベッドが(しかもダブル)あるへやの床でヤッてるんだか、俺らは……。  
苦笑しながら、俺は夏美を抱き上げ、ベッドへ向かった。  
 
 
 
「きょーうー、キョウ!!」  
昼飯時。夏美が小走りによってくる。  
「オウ、サンクス」  
「あんたまたサボる気でしょ」  
ウーロンと、コーヒー二本。と、夏美が持っているジュースは、その他にもレモンティーとオレンジジュース。  
「……オレンジなんざ頼んでねえぞ」  
「コレはあたしの分」  
「あ?」  
「次の時間、井手先生のリスニングだしー」  
「……この馬鹿」  
呟いて、俺はにんまりと笑い、  
「オウ、なら行くぜ」  
「へっ?ど、どこへよ」  
「どーせサボんだろ?もっとイイところに行って食おうぜ」  
「ん、うん!!」  
夏美と二人、学校を抜け出した。  
 
 
 
完  
 

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