オマエは「豚」だ・・・。
オマエは「豚」だ・・・。
オマエは「豚」だ・・・。
頭の中に響く声を、俺はもう言葉として認識できないでいた・・・。
頭がボーっとして何かを考えることも言葉を口にすることもろくにできない・・・。
俺に許されているのはただ「豚」のように愚鈍に鳴くことだけ・・・。
ただ毎日食べて寝て食前と食後に繰り返されるピストン運動に
身を任せているだけで、堪らなく幸せなのだ。
一体どうしてこんなことになってしまったのだろう・・・。
あれは今から1ヶ月ほど前のことだった。
俺は、なんとか大学を卒業したものの、在学中に内定をとることが出来ず
職探しをしながらだらだら過ごしていた。
そんなある日、バイト情報誌を読んでいると、妙な広告が目についた。
『体力に自信のある男性急募!新薬のモニターになりませんか?給与は最低100万〜(変動制あり。)詳しくはこちらまで!!(XX)-XXXX-XXXX』
「ひゃ、100万円!!??」
(・・・でも新薬のモニターかあ。たしか、もし体に異変があっても文句は言えないんだよなあ・・・。)
(それに100万円も出るということは、薬の副作用が出る確率が高いからだろうし・・・。)
散々悩んだ末、やはり100万円の魅力には勝てず、思い切って電話した。
早速面接の約束をして、明日の面接に遅刻しないよう寝ることにした。
次の日、面接場所の○○ビルの2階のカフェテリアに行ってみると
ガタイのデカイヒゲ面のおっさんが待っていた。
まさかとは思ったが、やはりこのヒゲ面のおっさんは面接官の武田さんだった。
最初は驚いたものの、話してみると意外と気さくな人でリラックスして話すことが出来た。
お互い挨拶を交わして、2,3簡単な質問に答えた後、軽い雑談をして面接は終了した。
面接の途中で話のところどころで武田さんの鼻が鳴るのが気になったが、
きっと鼻炎気味なんだろうと思い、あえて聞くことはしなかった。
(俺が中学は相撲部、高校と大学では柔道をやっていて体力に自信があることもアピール出来たし、これは受かるだろ♪)
滞りなく面接を終えた俺は晴れ晴れとした気持ちで帰宅した。
面接があった次の日、午前中に携帯に採用を伝える電話があり
見事新薬のモニターになることに成功した!
採用通知の電話で説明されたのだが、新薬の実験をしているという研究所に一週間は泊まることになるらしい。
しかも交通費やその間の食費は全て向こうが持ってくれるというんだからますます期待が高まった。
早速、着替えや生活用品を旅行カバンに詰め、研究所があるという○○県に向かった。
飛行機で○○県の○○航空へ移動し、そこからさらに相手に指定された駅へ電車で向かった。
駅に着くと、バイトの面接の時に面接官をしていた武田さんが車で迎えに来てくれていた。
初めての検体のバイトで内心不安だったのだが、気さくな武田さんのおかげで大分落ち着けた。
「おおっ猪獣院くん久しぶりだな!」
一応言っとくが、俺の名前は猪獣院光である。某タレントと同姓同名なのだ。
悲しいことに某タレントさんとは体型もよく似てるので、何度となくネタにされからかわれたものだ。
とにかく、そんなことはどうでもいい!まずは挨拶をしなくては。
「おはようございます。今回はどうぞ宜しくお願いします!」
「こちらこそよろしくな!さあ乗った乗った!しゅっぱ〜つ!!フゴッ」
武田さんはそう言うと、車を発進させた。
武田さんがまた鼻を鳴らしたので俺は思わずプッw!っと吹き出しかけた。
なぜなら武田さんは体型も丸々太っている上に、その顔もどことなく
"ある動物"を連想させるからだ。
「んーどうした?何か面白いことでも思い出したのか?ンゴッ」
「えっいやっなんでもありません。」
「そうか?ならいいけどな。それはそうと、そろそろ着くぞー!」
(何やってんだ俺!下手なことして100万円がパーになったらどうすんだ!)
改めて気を引き締めて気合いを入れ直してると、車が止まった。
「さあ着いたぞ!」
ふと、前を見るとこじんまりとした一軒家が目に入った。
(あれ?研究所じゃなかったのはずじゃ?)
困惑している俺をよそ目に武田さんは一軒家に向かって歩き始めていた。
「さあ行こうか」
「ちょっ!ちょっと待って下さい武田さん!」
困惑した俺は、何も問題ないかのように振舞う武田さんを呼び止めた。
「本当にここであってるんですか?」
「あってるよ?とりあえず中に入ろう。そうすればわかるよ」
渋々中に入ると、そこは・・・・・・ただの一軒家だった。
「って見たまんまじゃないですか!」
「フゴッ!まあ見てなさい」
武田さんは鼻を鳴らして笑うと、ポケットからリモコンのようなものを取り出して操作し始めた。
操作が終わると同時に本棚が動き始め、本棚が完全に動き終えるとそこにはドアがあった。
「なっ!?」
「さあさあもう行くよ」
ドアを開け中に入ると道が続いていて、奥にはエレベーターが止まっていた。
さっそく乗り込むと、エレベーターは地下に降り始めた。
「あの・・・これって一体・・・?」
「ああ、これはね。別の企業からのスパイ対策なのさ。研究内容が漏れたりしないようにね。」
「なるほど。そういうことですか。それでこんな大掛かりなんですね。」
「そうなんだ。うちの会社は情報漏えいには大変厳しいからね。もし破ったりしたら・・・。ブヒッ」
武田さんはその大きな体を震わせた。
「破ったりしたらどうなるんですか・・・?」
「それは怖ろしくて私の口からはとても・・・。ンゴッ!」
やめさせられるだけじゃなく、訴訟を起こされて大金をとられたりとか・・・?
まさか最悪、見せしめとして殺されたりとか!?
俺の顔が青くなってるのを見て武田さんはまた深く鼻を鳴らして笑った。
「・・・なんてねっ!フゴッ!冗談だよ冗談」
「おどろかさないで下さいよw」
「ただ、情報漏えいに関して厳しいというのはホントのことだ。」
「これから仕事の前に渡される契約書にも書いてあるだろうが、それは肝に銘じておいてくれ。」
「わかりました」
そうこうしてるうちに、エレベーターが止まった。どうやら目的の階に着いたようだ。
エレベーターが開くとそこには・・・・・・いかにも研究所!といった感じの白い部屋があった。
部屋を見渡してみると、部屋にあるガラスのドアの奥に人が集まっているのが見えた。
「じゃあ私は仕事があるので、一旦失礼するよ。バイトがんばってね。ブヒッ!」
「はい。がんばります!ありがとうございました。」
武田さんは、最後まで鼻を鳴らしながら笑って、見送ってくれた。
武田さんがいなくなったので意を決して中に入ることにした。
ドキドキしながら中に入ると、俺と似たような体型の男や筋肉ムキムキの男が集まっていた。
よく見るとその中に細っこい人たちや普通の体型の人もいるのだが、巨体に隠されて見えなかった。
「皆様長旅大変ご苦労様でした。私は研究班長の牛尾と申します。さて、さっそく今から皆さんにしていただく有償ボランティアの説明をさせていただきます。」
「この有償ボランティアというのは・・・・・・・・・・・・。」
〜〜5分後〜〜
「・・・・・・というわけでひとまず説明を終わりにします。」
「今から契約書をお配りします。何かわからないことがあれば私に質問をして下さい。」
さっそく全員に契約書が配られた。
1枚目を要約すると、大体こんな感じだ。
1.最低10日間はこの施設に拘束されることを認める。
2.一旦仕事が始まったら文句は言わない。
3.仕事の後、何が起こっても企業に文句は言わない。
4.報酬は最低でも10日間のプログラムをやり遂げないと支払われない。
1の『最低』という部分が気になったので質問することにした。
「すいません。この最低10日間というのはどういうことでしょうか?場合によっては長引くということですか?」
「ああこれはですね。まず10日間やり遂げていただければ確実に報酬が支払われます。10日間という期限をこちらが延ばすということはありません。」
「ただし、規定の10日間を過ごした後さらに仕事を続けていただけるのであれば報酬に上乗せという形で、1日につき10万円お支払いいたします。」
「10万円!?」
俺だけでなく、周りの人間もどよめいた。
「契約書の3枚目にも記載しております。信じられないようであればご確認くださいませ。」
俺は急いで契約書を確認した。
・・・どうやら本当らしい。ということは上手くいけば一ヶ月居座れば300万にはなるのか!
「皆様、契約書はご確認いただけたでしょうか?了承していただけるのであれば契約書にサインして下さい。」
ここまで来た時点でみんなある程度の覚悟はしてきたはずなのだ。
こんな美味しい条件で誰が断るのだろうか。こんな美味い話に食いつくに決まってる!
917 名前:860 投稿日:2007/12/05(水) 05:45:22 ID:9D8nYwap
やはり、誰一人として帰るものはおらず、全員の契約書が集められた。
「では皆様、契約完了ということでよろしいですね?」
「これより皆様にはグループごとに別れていただきます。呼ばれたら返事をして前に出てきてください。」
「○○さん」
「ハイッ!」
「あなたたちはGと書かれた部屋に行って下さい。担当は八木さんです。」
細っこい人たちがまとめて呼ばれて行った。
「○○さん」
「はいっ!」
今度は、毛深い人たちがまとめて呼ばれた。
「あなたたちはSと書かれた部屋に行って下さい。担当は辻さんです。」
「○○さん」
「ハイ!」
今度は見た目は弱そうなくせに口が達者で軽薄そうな感じの人たちが呼ばれた。
俺の嫌いなタイプだ。
「あなたたちはCと書かれた部屋に行って下さい。担当は丹羽さんです。」
「○○さん」
「ハイ!」
太め・・・というより丸々太った人たちが呼ばれていく。
「猪獣院さん」
やっと俺の名前が呼ばれた。
「はい!!」
「あなたたちはPと書かれた部屋に行って下さい。担当は・・・武田さんです。」
やった!武田さんなら安心して身を任せることが出来るぞ。
残ったのは筋肉ムキムキで大柄な人たちだ。
「残った人たちはBという部屋に来て下さい。担当は私、牛尾です。」
全員の点呼が終わり、各々は自分が呼ばれた部屋へと移動を始めた。
デブ組の俺たちはさっそくPという部屋に向かった。
案内役の研究員を先頭に、ずんずん進んで行くと
デカデカと「P」の文字が書かれた扉の前についた。
「こちらの部屋がPルームでございます。では私はこれで失礼いたします」
俺たちは研究員に軽くお辞儀を返すと、さっそく扉を開けた。
"おおっ・・・"
俺のイメージでは、研究部屋なんてのは怪しげな機械やコードなどで
ゴチャゴチャしてるものだと思っていたが、見事にそのイメージは砕かれた。
中はかなり広く、基本的にシンプルだった。行ったことないけど一流ホテルのスイートルームのようだ。
といっても、この部屋にもよく分からないけど高そうな機械はあるし、他にも部屋がたくさんあるようなのでこれが全てってわけじゃないだろうが。
俺たちがおのぼりさんのようにキョロキョロしていると、ニコニコしながら武田さんがやってきた。
「はい、みなさんこっちに注目!」
「今回みなさんを担当することになります武田といいます。よろしく!」
気さくな武田さんの挨拶によって俺たちの間のピリピリした空気が見事に無くなった。
(つくづく武田さんは人をリラックスさせるのが上手いなあ。人の扱い方に長けてるんだな。)
「では、本日のスケジュールを発表します。」
「まず、こちらの部屋で全員の身体データを取らせていただきます。その時に今回使う試験薬を採取してもらいます。」
「その後、2人1組になってもらってあなたたちが泊まる部屋に一度入ってもらいます。食事の時間になりましたらお呼びしますので声がかかるまでは部屋で休んでいてください。」
「基本的には10日間これの繰り返しです。退屈に感じられるかもしれませんが我慢していただきたいと思います。」
(なんだ・・・こんなの楽勝じゃん。メチャクチャきつい運動とかさせられるかと思ってたけどこれならいけるな!)
スケジュールを聞いただけで、俺はもう100万ゲットした気になっていた。
それが甘い罠だとも知らずに・・・・・。
「はい、みなさんいいですか!早速ですが、これより身体データを取らせていただきますので 服を脱いで裸になって下さい。」
(えっ!?裸にならんといけないのか!?)
他の参加者も驚いたのか武田さんに質問が飛んだ。
「あの・・・パンツも脱ぐんですか?」
「ハイ、そうです。申し訳ありませんが全裸になって下さい。」
「全部脱ぐ必要があるんですか?」
「もちろんです。危険がないように初めにみなさんの完全なデータを取らないと意味がありませんので。」
そう言われたらしかたない。全員抵抗する気が失せたようで、しぶしぶ裸になった。
赤の他人の前で裸になるってのはかなり羞恥心が刺激されるものだ。
それに、こういうところで裸になるのは、銭湯で裸になるのとはワケが違う。
しかも俺たちのようにぶくぶく太ってるタイプの人間は体を見られるのが恥ずかしい。
「準備が出来ましたら順番に並んで1人ずつ入室をして下さい。前の人が終わったら次の人が入って下さい。」
全員が手で股間を隠しながら列に並んだ。全員が手で隠せるサイズというのがなぜか悲しかった・・・。
しかも脱ぐのが遅かった俺は列の最後尾に着いてしまった。
(ああっ!早く順番来い!!)
俺の願いが通じたのか、スムーズに検査は進んでいるようだ。
ふと、後ろに目をやると俺たちが着ていた服が消えていた。
「あれ!?」
わけがわからないので近くにいた研究員に服の行方を聞いてみることにした。
「あの、僕たちが着ていた服はどうなったんでしょうか・・・?」
「こちらで回収させていただきました。仕事が終了した時に返却いたします。」
「ということはこのまま素っ裸で生活しなければならないということですか!?」
「申し訳ありませんが、そういった質問は武田主任にして下さい。今回の指揮は全てあの人によるものですから。」
「はあ・・・わかりました。じゃあ武田さんに聞いてみます。」
そんなことを研究員と話している間に、俺の順番になっていた。
部屋に入ると、武田さんが機械の前で準備して待っていた。
「おっ!最後は猪獣院くんか!それじゃ、このボードに横になってくれ。」
言われるがままに横になると、ボードが動き出してカプセルのような機械に吸い込まれた。
1分もしないうちに再びボードが動き出して最初の位置に戻った。
「よし、もう起きていいぞ。」
「ずいぶん早いけど検査ってこれで終わりなんですか?」
「ああ。うちのコンピューターは最新のものだからな。後は薬を注射して終わりだ。」
うへえ。俺は注射が苦手なのだ。気を紛らわすために武田さんに質問しまくることにした。
「薬って何の薬なのか教えてもらえるんですか?」
「もちろんだ!今回みんなに使う薬はダイエットのための薬だ。」
「それで俺も含めて参加者が全員太ってるんですね。お金貰って痩せて帰れるなんて最高ですね!」
「まあそういうことだw。だが、食欲抑制というよりいくら食べても太らないようにするためのものだから、痩せるんじゃなくて体重はキープして帰ることになるかもしれないけどね」
「あ、それと俺たちの服が回収されたみたいなんですけど、どういうことか教えてもらえますか?」
「それは、この部屋を出てから説明するよ。みんな待ってるだろうからもう行こうか」
いつの間にか注射は終わっていたようだ。痛いと思う間もなく打つとは!なんて早業だろう・・・!
感心しながら部屋をでると、参加者たちが待っていた。・・・裸のままで。
俺が参加者の集まっている場所に着くと、説明が始められた。
「全員の検査が終わったので、これから守ってもらわなければならない規則を言います。心して聞いて下さい。」
「まず第一に、皆さんは着衣無しで裸のままで10日間過ごしてもらいます。これは、皆さんの体に異変が起こった時我々がすぐに対応できるようにするためです。」
「第二に、この10日間は自慰行為・・・一般にいうオナニーなどは絶対しないで下さい。その行為によってタンパク質などが出てしまうと、人によって薬の効果がバラバラになってしまうからです。」
「第三に、運動など体を動かす行為も禁止させていただきます。運動などをされてしまうと薬が効いているのか分からなくなりますので。」
「第四に、10日間終わるまでこのPルームからは出られません。ちなみに喉が渇いたりお腹が空いたときは私か研究員に言っていただければ用意しますので安心して下さい。」
「最後に、これらの規則を破った人は強制的に退出してもらいます。もちろん報酬も支払われません。ですから、これらのことは絶対に守っていただきたい。」
「ちなみにもし、みなさんがこれらの規則を破っている人に気づいたらすぐに報告して下さいね。」
「以上、理解していただけたでしょうか?それでは次に進みます。」
「まずは2人1組になって貰います。組み合わせはすでにこちらで決めてますのでご心配なく。」
「それでは呼ばれたら前に出て、このカフスを受け取って耳につけて下さい。それから研究員が案内する部屋に移動して下さい。部屋に着いたら食事が始まるまでは自由に過ごしていただいて結構です。」
「では始めます。○○さんと○○さん!こちらにどうぞ」
どんどん人が呼ばれて組が出来上がっている。
「猪獣院さんと太田さん」
俺の名前が呼ばれた。相手はどんな人だろう?と思い、ちらっと横を見た。
俺と同じように太った冴えないおっさんだった。
これがもし美女だったら・・・と思うと切なかった。多分向こうも同じこと考えてるんだろうな。
耳にカフスをつけ終わると部屋に案内された。
「何か用事がありましたらここのボタンを押してください。それではごゆっくりどうぞ。」
と言って研究員は言ってしまった。
部屋は意外と広かったが、中には木製のベッドが2つあるだけだった。
一応トイレもあるようだが、残念なことに和式だった。和式じゃウォシュレットが使えないのである。
ようやく始まったバイトだったが、これは思ったよりかなりきついかもしれない・・・と俺は思いはじめていた。