数年ぶりに帰省する俺――佐野宏明を迎えに来てくれたのは、親父でもお袋でも、  
姉貴でもなく、数年ぶりに再会する幼馴染だった。  
 その事自体は、事前に親父から電話で聞いて知っていたんだが……。  
 ホームを出て、改札を抜け、駅の入り口に重い荷物を担いで辿り着くと、そこに彼女はいた。  
「やっほー! おっ久だね、ヒロ君っ!」  
 そう言って手を振る彼女の姿に、俺は思わず見惚れていた。  
 輝かんばかりの笑顔に、あどけなさの抜けた表情。  
 いつも俺がからかうと頬を不満げに膨らましていた"可愛くないアイツ"は、  
この数年間の間にすっかりと"綺麗な彼女"に変身を遂げていた。  
 "彼女"は、本当に、"アイツ"なのか……?  
「……なによぉ。久しぶりに再会した幼馴染に、挨拶の一つも無いわけですかぁ?」  
 あの頃と同じように、不満そうに頬を膨らませる"彼女"。  
 違えようが無い。"彼女"は、"アイツ"……歌乃(かの)だ。  
「あ、すまんすまん。……歌乃があんまり綺麗になってたから、見惚れてた」  
 紛れも無い本音の言葉。  
「はははっ、お世辞が上手くなったねぇ。このこのー」  
 口をついてからしまったと思ったが、歌乃はどうやら真に受けてはいないようで、  
ホッとしつつもどこか悲しい。  
「やめ……突くなよっ!」  
「あははー、ごめごめ。んじゃいこっか?」  
「お、おぅ」  
 軽やかなターン。踵を返し、歩き始める彼女の後ろ姿に、俺はまた見惚れた。  
 何というか、こう……いいスタイルになったなぁ、と。  
 吐く息が白くなる寒さ。それを防ぐだけの厚着の上からでも、彼女のボディラインは  
はっきりとわかった。昔は、無い胸無い尻筋肉質、だったような気がするんだが……。  
「……なぁに?」  
 そんな、少しばかり下心が入った視線に気づいたか、彼女は振り返る。  
 俺は慌てて視線を逸らし、空を見上げた。  
「いや……雪、降りそうだな、と思って」  
 慌てて言い訳したが、実際空は灰色の雲に覆われていて、今にも雪が舞い降りてきそうだった。  
「うーん、そだねー……今日降るよりは、あともう少ししてから降ってもらいたいけどなぁ」  
「……なんで?」  
「だって、もうそろそろクリスマスだし」  
 そう言って、歌乃は微笑んだ。  
「あー、ホワイトクリスマス」  
「そ。その方が嬉しいでしょ?」  
 
「……俺にゃよくわからん。独りもんだしな」  
「あれ? 彼女とか、向こうでいるんじゃないの?」  
「いたらこんな時期に帰省するかっての」  
「あはは、そりゃそうだねー」  
「悲しくなるから納得するなっ!」  
「そっかー……いないんだぁ……そっかぁ」  
「お前の方はどうなんだよ」  
「えっ、私? ……そりゃあ、まあね。ヒロ君の知らない間に、私も成長しているのでありまして……」  
「いないだろ」  
「い、いるよっ! そりゃもう両手で数え切れないくらいキープしててさぁ……」  
「嘘だろ」  
「はーい、嘘でーす。はぁ……彼氏がいたら、こんな時期にヒロ君のお迎えを  
 おおせつかったりしないよー。今頃二人でデートとか? しちゃったり? えへへー」  
「ま、妄想を広げるのは程ほどにな」  
「妄想って……空想の翼と言って欲しいなっ!」  
「似たようなもんだろ」  
「ぶー」  
 頬を膨らませる歌乃。  
 俺は、昔のように歌乃と言い合える事に、酷くホッとし――そして、同時に一欠片の  
物足りなさも、感じた。  
「……変わったけど、変わらないな、歌乃は」  
 何となく、俺の口をついて出たそんな言葉に、歌乃は眉間にしわをよせた。  
「なにそれ?? むぅ……褒めてるのか貶してるのか、どっちなんだろう……」  
「褒めてるんだが」  
「何だか褒められた気がしないなー」  
「む、気づかれたか」  
「やっぱ貶してるんじゃないのっ!」  
「冗談だよ、冗談」  
「ぶー」  
 頬を膨らませる歌乃。  
 綺麗になったのに、こういう所は変わらない。本当に……変わったけど、変わらない。  
「そんな事ばっかり言ってたら、乗せてってあげないんだから!」  
「おっ、免許取ったんだ?」  
「うん、この前合宿でね。今日は練習も兼ねて、お父さんの車借りて来たの」  
「……大丈夫か?」  
「まっかせなさーい!」  
「……微妙に不安だ」  
「ぶー」  
「ま、しっかり頼むよ、運転手さん」  
「まっかせなさーい! ぱーとつー! ……あ」  
「お」  
 俺たちは、頬に感じた冷たさに、同時に空を見上げた。  
「……降ってきた、か」  
「……降ってきた、ね」  
 雪が、降り始めた。  
 俺と、歌乃の、再会を祝福するように。  
 俺と、歌乃の、再開を祝福するように。  
 ――雪が、降り始めた――  
 

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