「ここ最近聞いた話なんだがな」
「うん」
「モミの木を切り倒そうとした奴がいるらしいぞ!」
「ええ!? どこで?」
「おれにも詳しい場所はわからない………ネット上の噂のようだからな……
なんでも10人に1人ぐらいしかわからない場所だとか」
「それでどうなったの?」
「なんでも、そいつの幼なじみが必死に止めたらしい」
「……幼…なじみ」
「結構可愛い女の子らしいぞ。まあ、それはともかくとして………
んで、結局その騒動の最中どさくさに紛れて二人は想いを告白し合い結ばれたらしい」
「……………!!」
「おれがなんと言ってもムカつくところは、だな!
モミの木を切るという野望の話だったはずなのに、いつの間にかラブい話になってるところだ!」
「……ぁ、ぅ」
「なんたる腑抜け! 名前も知らんが、キサマそれでも日本男児か!!! 斬るッ!
だが、おれはそんな軟弱者とは違うッ! そいつに代わってモミを切り倒す!
あの忌々しいイルミネーションを消し去り、てっぺんの星を地の果てに投げ飛ばし!
そして全国の聖夜に怨嗟する亡者どもの悲願を達成するのだ!!」
「あ、あわわ……だ、ダメだよっ」
「止めるな! 山田ァァァァァァァァァァッッ!
おれは全てを越えてみせる!! おおおおおおおおおおーーーッ」
「ダメっ、直弘ちゃん!! だって……だって………!!」
「……ん?」
「わたしも直弘ちゃんのことが好きなんだもの……っ」
「…………ぉ」
「………………」(///)
「………ぉぁ」
「じゅ、15年前の時だって………」
――15年前。二人が幼稚園生だったとき。
「もみのきって、とってもたかいんだね」
「…………………あぁ」
子供の頃。もみの木は、とても高く見えた。黒く禍々しくも見えるそのもみの木は、
人々が楽しく集ったり願いを掛けたりするにしては不快だった。
クリスマスだけど嬉しくない。理由はもみの木だけではなかったけれど。
そんなとき、フト見上げていたもみの木のてっぺんが光った。
「お星さま………?」
ぼんやりとした明かりを持った星はひらひらと大きくなっていき……
「雪だ……!」
「うわぁ………」
「す、すげえっ! 雪だ!雪だぞひゃっほーーーい!!」
「うん……」
雪に浮かれる直弘を幼なじみはそっと見つめていた。
直弘は、この季節滅多に降らない雪に大はしゃぎ。降る雪をつかもうと辺りを走り回っていた。
「よかったね、なおひろちゃん……」
「ああ! こんなの滅多にないんだぜ!! すごい瞬間なんだぞ!お前も、もっと喜べよっ」
「う、うん……」
「……お、おい。どうしたんだ? どうして泣いてるんだ?」
幼なじみは、そっと涙を拭くと笑いながら言った。
「なおひろちゃん、ようやくわらってくれた……」
「え………?」
「なおひろちゃん今日すごくつまらなそうだった」
「うっ」
「わたし、なんとかわらってほしくて。だから、わたしうれしくて……」
今日一日。言いたいこともあったろう。愚痴の一つも言いたかったろう。しかし――
「なおひろちゃん、あのね……?」
「な、なんだよ」
「いまは、まだむりだとおもうけど……もし、もししょうらい、わたしのこと」
「……」
「す、すきになってくれたら――」
直弘は、ただひたすら声を出せずにいた。
「もみのきの前に、わたしをつれてってほしいの……!」
ぎゅっ、と目を瞑り胸の前で祈るように手を組む女の子を前にして直弘は気の利いたことも言えず
「そ、それって」
「うん……」
幼なじみは蚊の鳴くような小さな小さな声で「……しゅき」とだけ言った。
「あ、ああ。……わかったよ!」
雪は二人を冷ますにしては温かすぎる。
そして時を戻し、現在。
「あ。あーーうん。そうだな」
「………」
「あー、つまり、その。………と、いうわけだ!」
「な、なにがっ?」
「ぐっ………つまり……!」
「……」
「好きだ!!!」
「!!」
別に直弘はクリスマスが好きになったわけではない。
無闇に"特別な日"として盛り上がる世間や、わざわざデコレーションされるモミの木も好きではない。
今も黒々と枝を伸ばすモミの木に生理的な嫌悪感を覚えるのか
モミの木を見る直弘は、やっぱり何処か厳しい表情をしている。
でも今までと違う事は、だ。
その手を幼なじみと離れぬように、ぎゅっと絡めている事だ。
……と、こーして更にくっつく幼なじみカッポーが誕生し、うわさがうわさを呼び
「モミの木を倒しに行く筈が美談になっただと!? バカめ!ならば、おれがやってやる!!」
↓
「ダメ、○○! 私、私……ずっと………!」
↓
「なにぃ!?」
の連鎖がキレイに決まっていき、やがて気付けば………
全 国 の 幼 な じ み が く っ つ い た
のだった。
……そうなのか?