素肌に直接あたるシートの感触に、すず那は身を固くして縮こまる。いや、縮こまりたいのにそう  
することも出来ず、ただもう、唯一動く首だけで、すず那を取り囲む病院関係者の視線からなんと  
か逃げだそうと努力している。  
 病院の廊下は意外に長い。羞恥と苦痛に満ちた廊下での診察をうけ歩く体力を消費したすず那は  
備え付けの車椅子に乗せられた。それからむき出しの両手両足を、それぞれ左右の金具に止めつ  
けられ、身動きのとれない状態で固定されてしまった。固定に使われているのは太めのマジックテー  
プが貼られた包帯のようなものだ。  
「抑制帯というのよ。落ちたら困るから、我慢してね」  
 進藤医師は、そうすず那に説明する。しかしそんな説明になんの意味があるだろう?すず那の身体  
には大きすぎたその車椅子。そのせいで両足は恥ずかしげもなく大きく割り広げられ無毛の割れ目を  
外気に晒している。思いのほかしっかりした作りの抑制帯はすず那の軽い抵抗ではびくともしない。  
 
 親切心や義務、必要性といったもので言葉をくるみながら、進藤医師はすず那をじわじわと追いつめ  
ている。すず那はまだ、その事実に気付かない。気付かぬまま従順な奉仕特待生になるのか、いつか  
芽生えるかもしれぬ反抗心で更に自分を追いつめていくのか、この段階ではまだ定まっていない『もし  
も』の世界であろう。佐賀のこんな独白にも気付かぬまま、すず那は動かぬ体を必死に縮こめようとし  
ている。  
 
「あらあら、危ないと言ってるでしょう?車椅子に慣れていない子は、バランスを崩して転んでしま  
うことがよくあるのよ。佐賀くん、上半身も固定してあげて」  
 進藤医師の指示に佐賀は当然のように「はい」と返事を返し、抑制帯の中で一番細くてしっかりし  
た作りのものを選びだすと、丁度たすきをはめる要領で左右の脇の下から通し、少しきつめに、す  
ず那の身体を縛り付けた。  
「くっうぅ……」  
 全裸に空腹に拘束。度重なる辱め。それらで限界のすず那は、苦痛に顔を歪めうっすら涙を浮か  
べる。  
「あらあら、泣くことないのよ。お部屋に着いたら、すぐに解いてあげるから」  
 進藤医師は、抑制帯のきつさを確かめふりで、すず那の胸に指を伝わせ、あるかないかの乳房の  
先をさりげなく刺激した。  
「ひっ…うっ……くっ」  
 すず那は顔を赤らめながら、見知らぬ刺激に戸惑いを浮かべ動かぬ体をもじもじさせている。  
「ほら、だから、動いちゃ駄目よ?佐賀くんにまた、お仕置きして貰う?」  
 びくっ。すず那は小さく震えると、慌てて首を左右に振り、どんな刺激を受けても絶対に動くまいと  
全身を緊張させてまさに『座り尽くしている』  
「そう、いい子ね」  
 進藤医師は満足そうな微笑みで、すず那の頭を軽くなで、学生の一人に指示をだし、すず那の車  
椅子を押させる。  
 
 そんな一連の出来事ののち、長い長い病院の廊下を全裸拘束状態で連れ回されるすず那。実際の  
時間は10分程のことだったのだが、すず那の立場にすれば果てしなく長い時間に感じられた。  
(奉仕特待生って……本当は一体なんなの?)  
 すず那は進藤医師から加えられた刺激によって不可思議な疼きを乳首と下半身の奥の方に感じて  
いた。それがなんであるか、精神的にも幼く守られて過ごしてきたすず那にはまだ分かりようもなかっ  
た。  
 
 辿り着いた病室で、やっとすず那は拘束を解かれた。羞恥よりも今は開放感が先立っている。『楽に  
なった』、それが何よりも一番すず那の心を占めている。  
「さ、食事をとってしまってね。それが終わったら看護師長からここでの生活についていろいろ説明が  
あるから」  
「……はい。いただきます」  
 すず那は頷くと目の前に用意された食事にとりかかる。真っ白な病室、事前に準備されていたすず那  
の私物、意外に美味しい食事、相変わらず実は裸のままのすず那。  
(……変な感じ。いつ、洋服に着替えていいと言って貰えるのかな……?)  
 ベッドの上で行儀良く正座をして、すず那は目の前の食事を片づける。  
 医師も研修医も学生も、すず那の様子をじっと眺めつつ相変わらず手元のメモと格闘していた。  
 
「……ご馳走様でした」  
 すず那は行儀良く両手を合わせ、小さくお辞儀をする。  
 すると学生の一人が食べ終わったすず那の食事盆を持って廊下へ出ていった。しばらくして年輩  
の女性看護師を伴ってすず那の病室に戻ってくる。  
 
「はじめまして、桐生すず那さん、看護師長の津村です。よろしくね」  
「よ、よろしくお願いします」  
 母に近い年代と思われる津村師長になんとなく親近感を抱きつつ、すず那は頭を下げる。  
「さっそくだけど、一日の予定をこれから言いますね。ちゃんと紙に書いて来たから自由な時間が  
できたらよく見て流れを把握して頂戴」  
「はい」  
「朝は6時半起床。検温、採血、検尿、検便。検温は毎朝、採血は毎週月曜日の朝。検尿と検便  
は、三日おきに行います」  
(み、三日毎にまた……あれをされるの?)  
 青ざめるすず那にお構いなしで、師長は説明を続ける。  
「7時、朝食。7時半排泄他登校準備。8時15分登校。登校前には必ずナースステーションで一声  
かけて頂戴ね」  
「排泄……?」  
「細かいことは後で説明します。続けていいかしら?」  
「あ、はい……」  
 不承不承ながらも頷くすず那。津村は淡々と日程表を読み続けていく。  
「8時45分から12時半まで午前の授業。12時半から13時20分まで昼休み。昼休みは昼食と排泄時  
間です」  
(……また……排泄。なんで、わざわざ……?)  
「13時20分から15時15分までが午後の授業。あなたには申し訳ないけど奉仕活動によってはこの  
午後の授業に出席できないことがあるから理解してちょうだい。早退の必要がある時は、保健室か  
担任を通じてあなたに連絡がいくから、それも覚えておいてね」  
「……はい」  
 
「15時20分、下校。あなたは掃除やクラブ活動、部活などを免除されていますから授業とHR終了  
後、すぐ下校してください。下校後もナースステーションで報告。その時にその日の予定を担当者  
から伝えます」  
「はい……」  
 正座の足が痺れてきた。すず那は返事をしながら小さく身じろぎをする。佐賀はそんなすず那を  
窘(たしな)めるようにじっとこちらを見ていて、思わず視線をそらせてしまう。  
「それで、毎週月・水・金曜日は放課後が入浴の日です。この入浴も学生達の実習を兼ねていま  
すから、その都度入浴方法などが違います。入浴後に検査や処置などの奉仕活動が入ることも  
ありますし、入浴前になることもあります。これについては本当に毎日変わってくるのでナースス  
テーションでの指示はよく聞いておいて頂戴ね」  
「はい」  
「5時40分夕食。夕食後排泄、排泄後は自由時間です。宿題や予習復習、その他好きなことをし  
ても構いません。勿論、制限はいろいろありますが、基本的には一日で唯一自由な時間です。  
9時排泄後就寝。ちょっと早いかもしれませんけれど、ここは病院ですから、規則正しい生活だと  
思って頑張って休んで頂戴」  
「分かりました……」  
「一遍にいろいろ説明されて覚えきれないだろうけど、大切なことだから、よく把握するようにね」  
「はい、頑張って覚えます」  
 
「よろしい」  
津村師長は、すず那の返答に満足そうにそう頷くと、手元の書類をぱらり、と一枚めくる。それから  
改めて、とても真剣な眼差しで、すず那の顔を見つめたので、すず那も思わず居住まいを正した。  
「それでは先ほどからたびたび出てきた『排泄』について、説明しますね。進藤先生から既に説明が  
あったと思いますが、あなたに『排泄する自由』は有りません。あなたの排泄物もすべて貴重なサ  
ンプルです。朝の検尿や検便はあくまでも、あなたの健康状態を知る為に行うものです。排泄物も  
貴重なサンプルというのは、あなたの『排泄行為そのものもサンプルになる』ということです。いつか  
らいつまで、何をどれだけ出したか、どんな色であったか匂いであったか、そういうものもすべてデ  
ータとして記録されていく必要があります。自然な排泄、器具を利用した排泄、薬品を利用した排泄、  
その時々で方法は違いますが、すべてこちらでコントロールした結果あなたの排泄が起こりその排泄  
がこちらのデーターとされていく。それが一連の仕組みです。ここまではいいですね?」  
「……は、はい……」  
 まくし立てる津村の勢いに飲まれ、すず那はついつい頷いている。  
「とはいえ、常にあなたの排泄のたびに、私たちがサンプル回収に動くことは出来ません。勿論、全て  
観察下で排泄させる日もあるでしょう。ですが本来いつ起こるか分からないものに対して常に臨戦態勢  
を整えておいてはこちらの本来の業務に支障を来します」  
 そこで、津村師長は、ちらり、とその場でメモをとっていた進藤医師に視線を走らせる。まるで何かを  
確かめるような、ささやかな視線だ。それからおもむろにまた、すず那を見据え、言葉の続きを発する。  
「そこで……あなたには常時、これをつけてもらいます」  
 津村がそう言って、部屋の一隅にある段ボールから取り出したもの、それは……。  
 
「これは、紙おむつです。あなたに排泄の自由はなくトイレを使用することは出来ず、かといって常に  
私たちが側にいるわけにはいかない。ですからあなたにはこの紙おむつを利用して貰います。横漏  
れなんていうサンプルとしては勿体ないことこのうえない事態がおきないよう、常にこの密着性に富ん  
だ旧式のおむつカバーを当ててもらいます。本来なら紙ではなく布を利用した方が経済的なのですが、  
手が足りそうもないから紙おむつを使って貰うのに洗濯に何時間も費やすわけにはいきません。勿論  
先生の指示などによっては布おむつを使用して過ごす必要も出てくるかもしれませんが、日常的には  
この紙おむつで生活してください。分かりましたね、すず那さん?」  
 津村は呆然としているすず那の顔をのぞき込む。  
「だ、って……私もう、高校生です……そんな、おむつなんて……赤ちゃんじゃ……ないから……」  
「……嫌なの?」  
「……はい。嫌です……」  
 すず那は、顔を赤らめ、泣きそうな表情を浮かべて否定の言葉を吐く。  
「……そう。それなら、留置バルーンを入れますよ?それもとても太い奴」  
 無情に切り捨てるように、津村師長はそう告げる。  
「りゅうち……ばるーん?……?」  
 聞き慣れない言葉に、すず那は首を傾げる。つい先日まで、病院などと無縁に過ごしてきた健康  
体のすず那であれば、当然の反応だろう。  
「廊下で、カテーテル排尿、させられたでしょう?凄い声で泣き叫んでいた、って報告を受けていま  
すよ。あれのことです。それも常時膀胱内にとどめておくことができる仕組みになってるもののこと  
を、まあ便宜的に『留置バルーン』と私たちは呼んでいるんですけどね」  
 すず那は、その言葉に、思わず手で股間を隠す。すっかり忘れていた痛みがまざまざと甦る。  
 
「そうね……さきほどされたものなんか全然、比べ者にならない痛みでしょうね。留置する為には  
それなりに頑丈さが必要だし……本当にかなり、大の大人の男の人が悲鳴をあげるくらい……」  
「……そ、そんな……それは……」  
 すず那は身震いする。あれだけでも充分辛かったのにあれより太いものが自分の身体に入って  
くるなんて……と。  
「あと、排便の方にしても常に漏れないように栓をして、決められた時間に摘便といってこう、指で便  
を掻き出して出させる形になりますね。それがいいなら今からそちらに変更しますよ。問題ないです  
よね、進藤先生?」  
 処置をうけるすず那ではなく、当然のように進藤医師に伺いをたてる津村師長。  
「ええ、どちらでも、私は構わないわ。他の先生方も気になさらないと思う」  
 婉然と……進藤医師にはその言葉がよく当てはまる、無関係なものがそう思うような妖しい笑みを  
浮かべ、彼女は師長の言葉に同意する。  
「……そんな……そんなの……」  
 ぽろぽろと、新たな涙をこぼすすず那に、追い打ちをかけるのは佐賀の冷徹な言葉。  
「君は、奉仕特待生だから、先生が何度も仰るように、自分の立場をよくわきまえないといけないよ」  
 救いの欠片もない言葉に、すず那は両手を握りしめ、じっと俯く。  
「私たちは、どちらでもいいのよ、すず那ちゃん?折角だから、自分で選びましょうか。痛いのを頑張  
るか、恥ずかしいのを頑張るか……どうする?」  
 俯くすず那の頬を両手で挟み込んで、進藤医師が上を向かせる。目を逸らすことも出来ず、喘ぐ  
ようにすず那は声を絞り出した。  
「……痛いのは……いや……です。おむつを使わせて……ください……」  
 ようやっと紡いだその言葉が合図のように、すず那は小さな子供のように泣きじゃくり始めた。  
 

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