『奉仕特待生の桐生すず那さん、奉仕特待生の桐生すず那さん、ナースステーションまで』  
 昼食も終わり、ぼんやりと雑誌に目を落としてたすず那は、院内放送で自分の名前を盛大に呼  
ばれ、びくりと飛び上がりながら、部屋に備え付けられたスピーカーに目をやった。  
(な、なに……?)  
 ぽかんとしているすず那を責め立てるように、再度院内放送が響く。声は……進藤医師のもの  
だ。  
(い、行かなきゃ……)  
 慌てて部屋を飛び出す。自分の下半身が、どういう格好なのかは念頭にない。  
 あと少しでナースステーションだ、というあたりに来たときだった。  
「お姉ちゃん」  
 呼びかけられて振り向くと、一人の少女が不思議そうにこちらを見ている。  
「えっと……なに……かな?」  
 無視して歩き出す訳にもいかない。仕方なし、少し腰を突き出すようにして彼女と目線を合わせ  
る。恐らくは、まだ小学校入学前だろう。あどけない顔でこちらを見上げている。  
「オネエチャンモ、オモラシスルノ?」  
「……え?」  
 すず那は、尋ねられた言葉の意味を理解できずに、思わず首を傾げた。  
「だって、それ、おむつでしょ?」  
 指さされた先を目で追えば、そこには確かにおむつとおむつカバーにくるまれた自分自身の下半  
身に辿り着く。  
「そ……それは……あの……」  
「マイカちゃんもね、おしっこ我慢出来ないの。だからほら」  
 『ホラ』とまったく頓着せず、パジャマのズボンを降ろし小さなお尻をこちらにむけてくる。そこには  
「伊津巳舞花」と書かれたすず那と全く同じ色とデザインのおむつカバーが現れる。  
(う……そ……いや……なんで……)  
 ごくごく幼児でしかない少女と、全く同じものを身につけているという事実に、すず那の頬はさっと  
朱色に染まる。舞花の方は、そんなすず那の変化にも気付かず、己の失敗を語り続けていた。。  
 
「今日もね、マイカはおねしょしちゃったの。あ、今日もっていっても毎日するわけじゃないんだよ。  
 それでね……」  
 それ以上、舞花の言葉を聞きたくなくて、すず那はその言葉を遮った。  
「あの……ごめんね、おねえちゃん、看護師さんに呼ばれてるから……」  
「う……?そうなの?じゃあ、ご用事終わったら、遊ぼうね」  
 屈託なく微笑む舞花に、曖昧な笑みを返し、その場を離れようとするその背に……。  
「またねー、おむつのおねえちゃーん!」  
 病棟中に響き渡りそうな大声がかけられ、さっと、そこらにいた患者の視線が一斉にすず那へ集  
まった。今度は耳まで赤くして、すず那は足早にその場から立ち去った。  
 
「遅い!」  
 小さな少女からの不意打ちな羞恥責めから開放されて辿り着いたすず那を、待っていたのは進  
藤医師ではなく、佐賀だった。  
「すみ……ませ……ん。こども……に……声を……」  
「素直にわびることも出来ないのかい?」  
 にらみつけられ、すず那はびくりと身体を縮める。  
「ごめ……んなさい……」  
「罰を受けたくないなら、呼ばれたらすぐに来なさい。いいね?」  
「はい……申し訳ありませんでした……」  
 項垂れるすず那を、冷ややかに見つめる佐賀だが、自分の与えられた指示を思いだし、すず那  
についてくるよう促す。  
「進藤先生が処置室で待っている。来なさい」  
「はい……」  
 おむつの下半身を丸出しにしたまま、すず那は黙って佐賀の後に続いた。エレベーターを降り、  
大勢の人が好奇心一杯に見つめる外来を抜けると『特別処置棟』と書いたプレートのかかる扉をく  
ぐり抜ける。  
 
 消毒液に混じって何かの異臭が漂う。そうしてうめき声や鳴き声、時には叫び声まで聞こえ、す  
ず那は思わず耳を塞ぐ。  
「歩くときは、きちんと気を付けをして背を伸ばしなさい」  
 佐賀は、容赦なくすず那にそう告げる。  
「はい……」  
 仕方なく言われたとおりに長い廊下を歩く。時々意味のある言葉が聞こえ、胸の潰れそうな気分  
がすず那を襲った。  
 『それは嫌』『もう許して』『痛いよママ』『助けて、助けて』。そんな、まるで拷問でも受けているのか  
と取れるような切れ切れの声に、すず那の内心は穏やかでない。  
(ここ……なに……?なんなの……?)  
「さぁ、着いたよ。入りなさい」  
 促され、恐る恐る踏み入れたすず那を、進藤医師のいつもの妖艶な笑みが迎える。  
「こんにちは、すず那ちゃん。体調はどう?」  
「……あ、こん……にちは。元気……です」  
「そう……本当に?」  
 尋ねられたことの意味が分からず、すず那は首を傾げる。  
「まあいいわ……それじゃあ、あそこに横になって頂戴」  
 指し示されたものを見て、すず那は一瞬自分の目を疑った。  
「これ……なんですか?」  
「診察用のベッドよ。ほら早く」  
 仕方なし、もたもたとそこに近寄るが、どこからどう乗って良いのか、すず那にはさっぱり分から  
ない。それはそうだろう。そのベッドと呼ばれたものはいわゆる産婦人科の開脚ベッドで、知識の  
ない人間にはただただ未知の存在でしかない。  
「あ……の……どうやって……」  
 おどおどと、あたりを伺うすず那を、佐賀が溜息を吐きながら横抱きに抱え上げた。  
「きゃ……」  
 不意のことに驚いて悲鳴をあげるすず那に構わず、佐賀はさっさと無機質な物体の上に横たえ  
てしまう。  
「次の時は自分でのぼりなさい。いいね?」  
 耳元に囁かれおそるおそる頷くすず那。だが、驚きも羞恥もこれからが本当の始まりであった。  
 
「腕を上にあげて」  
 言われた通りにすると、抑制帯が取り出され両手をひとまとめにして付属の手すりに結わえ付け  
られる。  
「ひっ……な、なに……あの……」  
「……落ちては困るでしょ?」  
 すず那の動揺など相変わらず構いつけず、進藤医師は待機していた学生に次の指示を出す。学  
生はすず那の胸のあたりをぐるりと抑制帯で寝台部分に結わえる。それは丁度、すず那のあるか  
無しかの乳房を上下に挟む形だった。  
「う……」  
「苦しい?」  
「いえ……あの、大丈夫です……」  
 身体の苦痛より、これからの事態への不安と恐怖が勝っていた。  
「……さて、ちょっと動くわよ。怖いことはないから暴れないようにね」  
 進藤医師がそう告げて何かのボタンを押すと、ベッドは機械音を立てて高さを上げていく。それに  
伴いすず那の足が乗っている部分が徐々に左右に開かれていく。  
「や……やだ……」  
 足を閉じようとしたすず那だが、その時には手早く足もそれぞれの受け台に固定され、身動きも適  
わない。  
 完全に身体の自由を奪われた状態のすず那に向かって、進藤医師は宣言した。  
「桐生すず那さん。昨夜も今日も未だ排便がないと看護師からの報告を受けました。奉仕特待生は  
常に健全な状態を保たなくてはいけません。ですから基本的な排便習慣を取り戻す第一歩として、  
これから浣腸を施行します」  
「……かん……ちょ……うって……う、そですよね、先生……?」  
「医者が嘘をついてどうするの?さ、おむつを外しますからじっとしていて……って動けないわね、そ  
の格好じゃ」  
 進藤医師は一瞬ささやかに笑いを含んだ声を出すが、目だけで佐賀に合図する。佐賀は心得た  
ようにすず那のおむつをてきぱきと全部脱がせる。押し広げられたすず那の無毛の股間に、処置室  
の冷ややかな空気が当たる。午後の排尿はまだしていないので、おむつはさらさらと綺麗なままだ。  
「あら、おしっこしてないのね?うーん、薬液はともかく、尿がまざるのは……。  
 しょうがない……すず那ちゃん?」  
 進藤は、うっすらと笑いを含みつつ柔らかい声で語り掛ける。  
 
「は……い……先生……」  
 魅入られたように進藤を見つめるすず那に、告げられたのは残酷な言葉だった。  
「いくら健康状態を一定にする為の浣腸とはいえ、やはりあなたの本分は奉仕特待生なの。昨日  
も言った通り、すべてがサンプルである……ということはもう飲み込めたわよね?だから……今回  
のあなたのうんちに、おしっこがまざってはとても困るの。だけどね、浣腸をするとおしっこを漏らし  
ちゃう困った子が時々いるのよね。だから……そうならないように……最初に導尿をします」  
(……どう……にょう……って……き、昨日の……!)  
 衝撃を受け幼い顔を引きつらせ、小さく震えながら、すず那は必死に懇願した。  
「やめ、やめてください。お願いします。ちゃんと我慢しますから。失敗しません……だから、あれ  
は……あれは許してください……お願いです……」  
「……ごめんなさいね。どれほど頼まれてもそれは飲めない相談だわ。何故ってあなたは『奉仕  
特待生』で、そこに拒否権なんてものは存在しないから。でも……そうね、大丈夫、痛くないようよ  
くよく注意してやるから……。いいわね?佐賀くん?」  
 すず那は、二つの絶望に一瞬呆然として言葉がなくなる。一つは、進藤がこうと決めてしまった  
らどれほど頼んでもそれはゆるがないのだということ。もう一つは実際にすず那に手をくだすのが、  
進藤ではなく佐賀であるということ……。  
「いや……いやです。先生……進藤先生……おと……おとこの人に……そんな……」  
 無駄なのだと、悟った筈なのにそれでもすず那は、涙ながらに訴えた。すず那にしては随分と大  
きな声である。無論、昨日の導尿であげた声と比較すると可愛らしいものであったが。  
「あら?昨日は散々、いろんな男の先生に身体を見て頂いたじゃない?佐賀くんにはおしっこの介  
助をもう何度もして貰ってるのだから、何も心配いらないでしょ?」  
 進藤は意に介さず、佐賀は着々と導尿の準備を始める。  
「バルーンカテーテルを使いますか?」  
「そうね、ちょっと太いけれど、留置しておく方が確実でしょ?」  
「はい」  
 滅菌された手袋をはめ、すず那の陰部を消毒する。細く透明な管に何かゼリー状のものを塗り、  
静かにすず那の陰部を押し広げる。  
−−つぷっ  
 その先端が入った途端……すず那は悲鳴をあげた。  
 
「いや、いやいや……怖い……怖い……いやです!やめて、やめてください、佐賀先生!お願い  
……ゆる……し……うあああああああ」  
 すず那の言葉は、最後まで意味のあるものを紡ぐことが出来なかった。佐賀が容赦なく尿道に  
その細長い凶器を押し進めたからだ。  
「いやぁ!いやぁ!いやぁ!ゆる…し……もう……ああああ痛い……いやだぁ……いや……い……  
ぁぁぁ」  
 侵入したチューブの逆の先から、ちょろちょろと水音が迸る。佐賀は慌てることなくその先端を蓄尿  
パックと繋ぎ、小さなシリンジでカテーテルの別の口に精製水を注入した。確かめるように小さく手前  
に引き、手応えを感じると納得したように頷いて進藤を見る。進藤も小さく頷いて佐賀の手際の良さを  
称賛した。  
「お見事」  
 その間、すず那は泣き叫び続け、既に息も絶え絶えになっている。  
「ほらほら、終わったわよ。はい、深呼吸して落ち着いて。痛かったわね。よく頑張った。良い子ね……  
よしよし」  
 甘やかすようにすず那の頭を何度も撫で、その気持を落ち着けさせようとする。  
「ふ……あ……えぐ……ひっく……うぅ……」  
 徐々にすず那の涙は引いていき、痛みではなく違和感にとって変わったことでやっと落ち着きを見せ  
始める。  
「よしよし、ダイジョブかなー?ん?涙止まった?もう痛くないでしょ?」  
 なだめ、すがめ、進藤はすず那をあやす。やっと落ち着いたであろうことを見極めると、改めて学生や  
研修医たちを見た。  
「さ、それじゃあ、本来の浣腸処置を行いましょう。昨日の尿検査同様、あなたたちが直接実際の患者さ  
んに施行することは稀ですが、看護師への指示や患者さんへの注意事項を学ぶためにも、よく見聞きし  
て実践して手順を覚えてください、いいですね?」  
「はい」  
 
「よろしい。では、最初はイチジク浣腸。これは普通に薬局に売ってるものですがサイズには……」  
 滔々と進藤が説明を続ける。皆は熱心にメモをとり、頷き囁き一言も聞き漏らすまいと真剣な顔を  
して聞き入っている。  
「今日は手順を踏みつつすべての浣腸を実践するつもりでいます。ですから各自この10ccの小児  
用を順に注入するところから始めましょう。さ、佐賀くんお手本を頼んでいいかしら?」  
 佐賀は、目を真っ赤に腫らしているすず那をちらと見る。それからてきぱきとすず那の肛門を手袋  
をはめた手で揉み始める。  
「ひっ……」  
 怖気るような感覚に、すず那の全身に鳥肌がたつ。しかし、なんとか自制心を節絞ってじっと佐賀  
の辱めに耐える。  
 佐賀はそんなすず那の様子に一瞬満足そうな笑みを浮かべ、さらに指で執拗に肛門のマッサー  
ジをする。  
「そう、最初に異物を差し入れる前には、念入りなマッサージが必要です。肛門が傷ついたり、直腸  
に傷をつけたりしないよう……」  
 何度も何度もすず那の肛門はほぐされ時には指が浅く潜り込むほどになった。  
「その辺でいいわ。注入をして頂戴」  
「はい」  
 佐賀は頷き、小さな容器の蓋を外し微かに開くすず那の肛門にその先端を差し入れた。  
「うあぁ……」  
 先ほどと同じ気持ち悪さに、すず那は溜まらず声をあげる。しかしそれでは終わらない。何かが  
すず那の内臓を逆流して入り込んでくる。  
「ひあぁ……や……」  
 首だけで拒否を示す。勿論、あっさりと無視されるだけなのだが。  
 
 佐賀が薬液を注ぎ終え、先端を引き抜くと一瞬とろりと液が零れおちる。がそこは周到な佐賀の  
ことである。さっとティッシュでそれをふさぎ、僅かな流失に止める。  
「さ、どんどんやってちょうだいね」  
 進藤の声を合図に、次々同じ行為がすず那の身に繰り返された。差し込まれ注入され引き抜か  
れ押さえられ……。全員が入れ終わる前に、すず那の腸が不気味な煽動をその音で示し始めた。  
「ん……せん……せい……もう……だめです……し……したい……の」  
「何がしたいの?」  
「あ……」  
 尋ねられ、答えられず、すず那は絶句する。  
(いえ……ない……そんなこと……)  
 しかしすず那の羞恥心などお構いなしで、ぐるぐるごろごろとはしたない音が部屋を満たす。お構  
いなしで彼らはすず那の肛門を浣腸という行為で陵辱する。  
「ひ……も、もう……むり……あぁ……やだ……入れないで……くだ……」  
 全員で一五人はいただろうか。全てが終わると進藤医師がそっとすず那の足の間にたつ。  
「これはおまけよ」  
 学生達が注入したのより僅かに多い……大人用の30ccの浣腸がすず那の内臓の奥へと吸い込  
まれていった。  
「く……やだ……いやです……もう……だ……させて……トイレ……に」  
「あらあら。トイレは使えないと、何度も説明したでしょ?ここでちゃんと排泄の様子も記録して排泄  
物もサンプルにして何もかもさらけだしてしまわなくてはいけないのよ。だってあなたは『奉仕特待生』  
だもの。まあ、どっちにしてもまだ……出してはだめ。一〇分は我慢しなきゃね」  
 実際のところ、最初の佐賀の注入から既に一五分は経過している。本来ならばとっくに限界を迎えて  
いる筈なのに、すず那の羞恥心がそれを阻んで……そうして尚更に自分を追いつめていた。  
 
(まだ……10分も……うそ……ぜ、絶対……むり……)  
 荒い息を吐きながら、耐えるすず那を見て、ふと進藤が何か思いついたような顔をする。  
「すず那ちゃん、つらい?して、しまいたい……?」  
 言葉もなく、何度も何度もすず那は頷く。  
「そう……ならば、お願いして頂戴。ここにいるみんなに」  
「お……ねがい……?」  
「ええ『すず那にお浣腸してくださって、ありがとうございました。お腹が辛くて苦しいので……うん  
ちをさせてください』そう……お願いできたら出しても構わないわ」  
(……そんなの……)  
「い、言えません……」  
「なら、あと10分、しっかり我慢しましょうね。お願いもせずに10分よりまえに出したら……佐賀くん  
にお尻をぶって貰うわよ?」  
(そ、それは……いや……あんな……はずかしい……こと。でも……)  
「が、我慢……します……」  
 すず那は、唇を噛み締めそう宣言する。  
「あら……意外といじっぱりさんね。良いわ。あと10分我慢してみせて頂戴」  
 面白そうに微笑むと、進藤は背を向けて何やら書類を書き始める。佐賀はすず那のまたのあいだ  
に大きな容器を設置する。そうしながらごくごく小さな声でそっとすず那にささやきかけた。  
「今、意地をはっても意味なんかないよ」  
 佐賀が言ったのだとは信じられないくらい、かすかだけれど優しい声色であった。  
(ど、どういう……)  
 意味だと問いかけようとした時には、彼はさっさとその場を離れてしまっていた。すず那は必死に  
肛門に力をいれる。我慢しなくてはならない、自分にそう言い聞かせて……。  
 
(……あぁあぁ……おなか……痛い……)  
 時計を見るとまだ五分しか過ぎていない。余りのことに進藤が要求した言葉を告げてしまおうか  
などと、一瞬すず那は誘惑を覚える。  
(だめ……だよ……なんでか分からないけど……それだけは……言っちゃだめだ……だめ……あ  
あ、でももう……)  
 あと、あと2分…いや1分というところで、ついにすず那は限界に達してしまった。  
「ああぁ……ごめ、ごめんなさい……もう……もうだめ……」  
 言葉は排泄音にかき消される。最初にぷしゃーと注入された液が流れ出てそこにガスが混ざる。  
少女達は間違っても人前でさらさないだろう音がしっかりと大勢に聞かれ、更にころころとした便塊  
が弛緩した肛門を押し広げていくつも転がり落ち、先に零れた薬液にはね、ぱしゃん、ぱしゃんと音  
を立てている。  
「や……ん……おし……り……いた……いたい……」  
 一番大きな塊がほとんど無理矢理なくらい吐き出された瞬間、我を忘れているすず那は無意識に  
そう口走っていた。そのあとは殆ど一気に泥のような便が生み出され、辺り一面に独特の臭気をまき  
散らしている。  
 完全に弛緩した身体と頭で、ふとすず那は思う。  
(あぁ……さっきの匂い……うんち……の……臭いだったんだ……)  
 途端にすず那に『羞恥心』が沸き上がってきた。  
「あああ、いや、いや、見ないで、見ないでください。だめ……いや」  
 言葉とは裏腹に、排泄は止まらない。この小さな身体のどこに入っていたのかと思うほど大量の  
便が、器一杯にたまる。  
「あらあら……凄いわね。どう?もう出ない?」  
「……はい……」  
 答えた途端、ぶぴっ……という音と共に新たな排泄が行われ、すず那は顔を真っ赤に染めた。  
 
「おやまぁ……。未だ一杯出そうだけど……器がもう溢れそうだから……」  
 進藤医師はそう言って、ティッシュですず那の肛門をぐいっと押さえ込んだ。排泄を途切れさせら  
れ、複雑な顔ですず那は息を吐いた。  
 その隙に佐賀が新しい容器と取り替え一人の学生はすず那の便が溜まった容器をビニールでパ  
ッケージングして何処かへと持ち去る。  
「さ、次はシリンジ浣腸の実習をしましょう。液は……そうね、グリセリンではなくて石けん水にしまし  
ょうか」  
 進藤医師はすず那の排泄が、一旦収束したのを確認すると残っている者たちに涼やかな声でそ  
う告げる。  
(う……そ……あんなにしたのに……まだ……?嘘でしょ……?)  
 呆然とするすず那にお構いなしで、新たな魔手が着々と準備されていく。  
「だから、意味はないと言ったのに」  
 先ほどのような甘い声では無かったけれど、佐賀はまた周りに聞こえないくらいかすかな声です  
ず那に囁いた。  
(……我慢するだけ苦しいのが長引くから……意味はないんだって……そういう意味……?恥ずか  
しいのなんか……忘れちゃえっていうの?……そんなの……そんなの……)  
 『無理に決まっているじゃない』その言葉をすず那は辛うじて飲み込んだ。実際にそれですず那の  
心情の何が変わるというわけでは全くなかったのだが……。  
 
 

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