新たな陵辱の準備が、慌ただしくも着々と進められている。無防備な姿で放り出されたすず
那は、あちこちに仕掛けられているカメラの存在に気付き、顔をしかめた。全体を撮すように一
つ、すず那の表情をとらえるように一つ、下半身に焦点が当てられたものが一つ、すず那自身
はまったく気付いていないが、実は排泄の一部始終を撮すように肛門のすぐ間近に置かれて
いるものも一つあった。
(恥ずかしい……恥ずかしい……消えちゃいたい……)
だが、そんな感傷的な思考は、すぐさま進藤の事務的な声にうち消される。
「はい、準備できましたね」
学生達はそれぞれ1つずつ、注射器のようなものを持っている。太さははっきりしないが、長
さは大人の手の平よりもまだ大きいくらいだ。
(あれ……何……え……まさ、まさかお尻に……え、やだよ……あんなの)
その形状からすず那は沸き上がる『注射への恐怖』を表情に滲ませた。子供じみていると言
われようともしも、身動きができるなら、今すぐ逃げ出しただろう。彼らの持つそれが注射だっ
た場合、確かにありえない筈の大きさではあるのだが……。
「以前はこの丸まっている部位を、肛門に直接突き刺して液の注入をしていたこともありまし
たが、それでは患者が動いた時に先が折れてしまう危険がある、何より非衛生的であるといっ
た声があった為、当病院でも現在はこちらのチューブを肛門に挿入する方法をとっています」
淡々と平易な言葉で浣腸器に関する経緯を説明している。まるで、学生への講義ではなく、
素人のすず那に聞かせているように思える。現に進藤は、言葉をかみ砕きかみ砕き、ちらちら
とすず那の顔を見ている。
(あれ……を……お……しり……に)
進藤が手にしている飴色のゴムチューブの長さに、すず那は全身を強ばらせる。嫌悪とまだ
体験していない苦痛への困惑が混ざった複雑な表情だ。対照的に学生達は相変わらず真剣
そのもので、一心に進藤の説明に耳を傾けていた。
「それじゃあシリンジでの浣腸実習を行います。今回はあくまで『注入する』手技を身につける
のが目的ですから、我慢は考慮せずにどんどん行きましょう。1本150cc。苦痛を感じるか感じ
ないか、ぎりぎりの量で実験したいと思います。チューブを接続し潤滑剤を塗り肛門に挿入。液
を注入したらチューブを引き抜く。教科書の通りにやれば間違いない筈です。自信をもって挑戦
しましょうね。……あと、排泄介助は佐賀君。お願いね?」
「はい」
「では、順番にはじめて頂戴」
進藤の合図で佐賀がすず那の左脇腹の位置に立ち、ちらりとこちらを見る。しかし相変わらず
表情は動かない。すず那は唇を噛んでぷいとそっぽを向いた。
最初の学生が、すず那の肛門を指で押し広げチューブを挿入していく。先ほどの大量な排泄
のせいで、まったく抵抗なくそれは潜りこんでくる。ぬるりとした細長いものの侵入にすず那は思
わず悲鳴をあげた。
「やっ……!」
だが、次の瞬間には液体が逆流してくる感覚に息を呑まされ、そうしてゆっくりなま暖かい石け
ん水が直腸部分を満たしたと思う間もなく、チューブがずるりと引き抜かれた。
乱暴ではないが慌ただしく行われる立て続けの不快感に、すず那は息を荒げ何度もかぶりを
振る。
先ほどまでの薬液が与える苦痛と比較するならば、こちらの方がずっと楽な筈なのだが、冷
静に自分を省みることが出来る分、精神的には却ってすず那にとっての余裕の無さを与えてい
た。
(あぁ……いや……だ……もう。こんなこと……されて……こんな……ことを……)
そんな頭の中で密かに漏らしていた悲嘆の思いを打ち壊したのは、佐賀の機械じみた相変
わらず冷静で……無情な行為だった。
「うああああっぁ!」
−−ぷしゃああ
悲鳴と水音が同時に発せられる。佐賀が、すず那の下腹部を手の平でいきなり圧迫した為
だった。茶色い水流と不意の圧力に屈した便塊がすず那の肛門を押し広げどろりと受け皿に
落ちる。
「な、な、なに……する……ひぃ……ぃゃぁ……!」
−−ぶにゅぐにゅ
すず那の言葉を遮るように、更に力を込め手の平を押しつけられる。それにつれて、水っぽ
い便がすず那の肛門からどんどん押し出しされていく。
(やぁ……なに……?なんなの……?)
必死に思考をまとめようとするが、そんな余裕もない。何故ならその残酷で強制的な排便の
、その一瞬の間をぬって次の学生がすず那に新たな石けん水を浣腸し始めたからだ。
「あっあぁ……いや……」
今出したばかりの場所に異物が入り込み、すぐさま新たな液体が注がれる。注がれて一息
つく間もなく、佐賀の手による強制排泄が行われまた、学生により浣腸が行われる。
一度目より二度目、二度目より三度目。回を重ねるごとにすず那の不快感はどんどん募っ
ていく。蓄積していくのは身体のではなく、心の不快感。
抜き差しされるチューブの感触。体内を逆流する液体。自らの意識に反して無理矢理排泄
させられる行為。
冷静さを取り戻す暇もなく、何度も何度も繰り返し、それらですず那の小さい身体は陵辱さ
れていく。それも『肛門』という、誰もが必死に押し隠している場所をだ。
「もうやめて……!やめてください……許して!いや……」
顔を涙でぐしゃぐしゃにして、必死に懇願する。誰に対しての言葉なのか、すず那にも分か
らない。冷酷な佐賀へなのか、学生達へなのか、指導している進藤医師へなのか、もしかし
たら意に反し続ける自らの身体へかもしれない。
すず那のこの叫び声は、処置棟中に響き渡っているだろう。さきほど自分が聞いた悲痛な
声の仲間入りを、期せずして果たしてしまっていた。
悲鳴は黙殺され、たたみかけるように、一連の行為は繰り返される。中には手際の悪い学
生もおり、そんな時は同じ学生が再度進藤の指導を受けてすず那にシリンジ浣腸の手技を
施す。うまく出来るまで繰り返しだ。
余りに何度も繰り返した為、弛緩した肛門はチューブを抜くだけですず那の腸液がまざった
石けん水を吐き出す。
だが、そんな状況になっていても佐賀は絶対に手を休めない。内臓を傷つけない範囲で、
それでもすず那にとっては充分苦痛を感じる強さで、その未発達の下腹部を圧迫し続けた。
『恥ずかしさ』というものを、今のすず那は忘れている。何故ならこれはすず那にとって理性
の及ばない『危機的状況』だからだ。立て続けの陵辱。そうして未体験の行為。すず那にとっ
て『命の危険』にも等しいひとときである。
殆ど声も枯れ果て、それでも涙と鼻水を流し続けるすず那。しかし、誰も声をかけない。こ
んな状態ではかけたところで無意味であっただろうが、今のすず那は『奉仕特待生』という名
前を冠した浣腸実習の為の【道具】なのである。道具が壊れないよう注意は払っても、道具に
気遣いを向けるものはいない。
すべての学生が進藤医師の納得する手際で浣腸を施し、その液体をすべて排泄したところ
で、ぐったりしているすず那に、声がかけられる。その声には明らかに『喜色』が混じっていた。
「あらあら、疲れた?まだ終わりじゃないから頑張ってね」
朦朧とした頭で、すず那は思う。
(まだ……終わりじゃ……な……い……?なに……が?)
答えはすぐさま、進藤医師の形の良い唇から零れた。
「さて、すず那ちゃんはすっかりダウン気味だけど、課題は待ってはくれないから最後に『イル
リガートル浣腸』の実習をします。これは別名『高圧浣腸』とも呼ばれ、ガラスもしくはプラスチ
ックの容器を高所につるし大量の浣腸を施すことを目的にしています。腸内の検査などで…
…」
(なに……あれ……)
彼女が手にしている、巨大なビーカーのようなもの。それを見て、すず那の脳にじわじわい
つもの『理性』が呼び覚まされる。それは透明で、メモリがついており進藤医師の顔と同じくら
いの長さがある。横幅もかなりのものだ。
(怖い……)
すず那の中に得体のしれない恐怖が沸き上がった。先ほどまで感じていたのとは、まったく
質の違うもっと生理的な恐怖だった。
拘束されながらも、青ざめ、がたがたと震えだしたすず那の頭を、静かに撫でる手があった。
思いの外ぬくもりのある手、それは佐賀の大きな手の平で……。
「……っ」
何か言いかけたすず那を静かな目が黙らせる。今、声を発してはいけないんだと……すず
那は悟り、大人しくその手のぬくもりを得る。先ほどまでの恐怖が引いて、その場にはそぐわ
ない安らぎを感じていた。
ふと見れば、進藤医師はこちらを見ていない。心の中ですず那は思う。
(佐賀先生……本当はどういう……人なの?酷いことをするくせに……こんな風に急に優しく
したりして……そう……進藤先生が……みんなが、見ていない時ばかり……どうして……?)
そんなことを考えていると、佐賀の手がすず那からすっとはずされる。その感覚を惜しいと
思いつつ、そう感じる自分に少しだけ驚愕してしまう。
(な、だって、こ、こんな意地悪な人なんて……そんな……)
しかし、白昼夢のようなそんな葛藤も、進藤医師の妖艶な声があっさりとうち消した。
「さ、すず那ちゃん?今度はこれでお腹にお湯を入れるわよ。さっきより沢山入っちゃうけど、
ただのお湯だから全然痛くないので身体の力を抜いてこちらに任せて頂戴ね。それから、ベ
ッドを平らにします。そうしないとお腹の奥までお湯が入っていかないのよ」
どうせ、『嫌だ』とは言えないのに、わざわざそんなことを語り掛けてくる美しい女医に対して
仕方なし、すず那は小さく頷く。それを満足そうに確認してから、彼女は自ら、すず那の股間
の間に立つ。先ほどまでの排泄物は、当然とうの昔に片づけられていた。
学生達がすず那の腰から下の方へわらわらと集まってくる。皆が進藤医師の一挙手一投
足を見逃すまいとしており、結果としてすず那の未発達な女性器や肛門が見つめられること
となった。
ベッドがゆっくりと降りていく。すず那の視線は天井だけを見る形になった。しかし、その足
は相変わらず大きく割り広げられたままで、先ほどまでより余程、残酷な姿勢を強いることと
なる。
「本当なら最初から1リットルくらい入れたいところなんだけれど……なにぶん、彼女はまだま
だ女性として未成熟なので、余り無茶なことは出来ないと思います。様子見も兼ねてまず500
。排泄させたら600と、100ccずつ増やしていき、最終的に1リットルを目指そうと思います」
「はい」
学生達が返事をしたのを確認して、進藤医師はその先端にある黒い刺管をすず那の肛門に
さしこんでいく。
散々嬲られたあとなので、まったく違和感がない。鈍磨してしまったのか、弛緩してしまった
故か、すず那自身には分かりようがない。
「はい、それじゃあお湯を入れますよ。熱くはないと思うけれど、おかしいと思ったらすぐ言っ
て頂戴ね?」
「は……い……」
蚊の鳴くような声で、返答すると進藤医師はハサミのようなものをチューブから外す。それを
合図に徐々に瓶の中に入っていた液体はその嵩を減らしていく。
(あぁ……なんだろう……とってもあったかい)
その日行われた実習の中で、唯一すず那にも、許容できる瞬間だった。
だが、至福ともいえる一時はそう長く続かない。段々と高まる圧迫感に我知らず息が荒くなる。
「はぁ……あぁ……んぅ……せんせい……苦しい……です……」
「あらもう?まだ半分くらいだから、辛抱してちょうだい」
熱いとか痛いとは言わないので、進藤医師はまったく意に介さない。その間にも吊るされた瓶
のメモリは徐々に減っていき、恐らくあと100くらいのところまで下がっている。
「あぁ……や…先生、だめ、だめです……」
切迫した声をあげるすず那に、訝しそうに進藤が尋ねる。
「ん?なぁに?何がだめなの?」
「あ、あの……でちゃ……でちゃう……。でちゃい……ます」
「あら、何が?」
その声は、相変わらず面白がっている。切迫しているすず那にすら分かるのだから、学生達
も当然分かっている筈で……。忍び笑いが漏れ聞こえる。
「そ……その……入れていただいてる……お、お湯が……」
「あら、それだけ?本当に?」
進藤医師お得意の、畳みかけるような言葉嬲りである。すず那は耳まで真っ赤にして結局
その問いに答えることができない。
「……ふふ、随分余裕が出てきたわね?恥ずかしいの?顔が赤いわ。だけど嫌だとか止めて
と言わなくなった分、『奉仕特待生』としての自覚が出てきたってことかしら?」
満足そうにそう語り掛けているうちに、500cc入っていた瓶は、殻になる。
「はい、出していいわよ」
進藤医師がそう声をかけ、すず那が肛門の力を緩めるのと、最初の浣腸で出させられたサ
ンプルを持って消えていた学生が現れるのは同時だった。
入口に立ちつくし、学生はまじまじとすず那の肛門からあふれ出る茶色い水流を凝視する。
自分が進藤医師に伝言を携えてきたということも、一瞬失念している。
「どうしたの、そんなところで。お使いご苦労様。中に入って実習の続きに参加しなさい」
進藤医師に声をかけられて、学生ははたっと我に返る。
「あ、はい、すみません。あ、そうだ進藤先生」
学生はやっと自分の役目を思いだし、進藤医師の耳元にその伝言を伝えた。
「……そう。ちょっと待って貰って。いいの……が……とれ……」
進藤医師も、囁くように学生に指示を与える。学生は頷くと一旦廊下に行き、すぐにまた、処
置室の中に戻ってきて、何食わぬ顔で実習に参加した。実習とは言ってもすでに見るだけの
ものになっていたが……。
「さ、二回目。今また少しお腹の中が綺麗になったから、さっきより量が増えるけどきっとずっ
と楽な筈よ?頑張ろうね、すず那ちゃん」
進藤医師が微笑みを浮かべる時には、何か裏があるのだと、どこかワンテンポずれてしまう
すず那も、そろそろ学習し始めた。
(……先生、今度は私に何をするつもりですか……?)
言葉には出さず、そう思う。そんなすず那の気持を知ってか知らずか、進藤は更に笑みを
深くする。
600cc、700ccは、進藤の言うとおり、最初より全然楽であった。
だが、800ccになるとさすがにすず那の身体の方で限界に近づいてくるらしく、温かい柔ら
かいお湯ではあっても、鈍い苦痛を与えずにはおかない。そのうえ、900ccになったところで、
見るからにはっきりと腹部が盛り上がっているのが自分でも分かる。横になった自分が自覚
できるのだから、周囲から見ている学生達にはもっと顕著に見えているだろう。
900ccの排泄をビニール袋の中にし終わり、最後、ついに1リットルのお湯がすず那の中に
ゆっくりと落ちていく。
(あんなに……本当に入る?)
たかが100しか先ほどと違わない。だけれどそれは決して「たかが」な量でないだろうと、無
知なすず那なりになんとなく感じていた。
「さて、じゃあ、入って貰って」
「分かりました」
進藤医師の科白に、学生が廊下へ向かう。途中参加する羽目になった学生だ。そうして連
れられて中に入ってきたのは、本格的なカメラやマイク、レフ板などといった、どう考えてもテ
レビ局の取材かなにかしか思えない出で立ちの一団だった。