通学途中も、都の感触は巧の頭から離れようとしなかった。  
 隣を澄まし顔で歩いている優等生の姉の外面は、本当、非のうち所がないと言ってよ  
く、巧がもし『俺この人のパンツの中に無理矢理手を突っ込まされたんです』とか訴え  
たとしても、大抵は信じてもらえないだろう。  
(屈辱だ)  
 プリーツスカートの中で見えないはずの姉の足が見えるような気がしてしまう。今朝  
見て感じた全てが透けて見えそうな危うい幻覚。  
 混乱を溶かす決定的な何かが欲しい。  
 それでも巧は、状況は自分に有利になっていると感じている。  
 あれ以上同じ手口がもう使えないのは、姉の方がよくわかっているだろう。  
(いやもう、最大限ダメージ計上しましたって)  
 だから今こそ決定的な何か。  
 校門をちょうど抜けるところで、巧の肩を環が叩いた。  
「おっはよ」  
「おはよ、環さん。校門で会うの、珍しーね」  
「『おはよ、由美さん』はぁ?」  
「ごいっしょで」  
「なあに、それ。──あ、おはよう都ちゃん」  
 
「うん」  
 都は少し由美に対して照れを見せている。表情は柔らかい。  
 環はそれから目を逸らし、  
「巧くん、ちょっと内緒話しようか」  
 こういうところが嫌みがなくて心地いい。  
 巧は姉と由美に手を振って、環と校舎の周りを歩いた。  
「明日試合なんだよね」  
「そ。だから、練習はちょっとだけでみんな早く帰んの」  
「会場に男子いないんでしょ? 俺、どうしようかなー、立場的にはサッカー部を優先  
しなきゃならないんだけど、行きたくないし」  
「巧くん」  
「なんでしょ?」  
「今日ウチに泊まりに来て」  
「えっ」  
 環の言い出したそれは、結構唐突な話だった。  
「親、温泉旅行だから」  
 巧は一瞬ちら、と環を見て、真意を窺う。願ってもないことだけど。  
 なんとか気を取り直して、  
「こんなときに俺が行っていいの? 行ったら俺、絶対襲っちゃうよ……」  
「たまたま取れたらしくってさ、二泊三日。でもま、こっちもピリピリしてるとこだか  
ら、ありがたいけどね」  
 
 環は巧の言葉をかき消すように言ってから、  
「私も……私もね、このままじゃ試合に集中できないから」  
 巧の首に腕を回して、にんまり笑う。  
「えっと……」  
 それには巧の方が赤くなった。こういうところはまだ巧は環に勝てない。  
「ひとり……なの?」  
「弟がいたりするけど」  
 環はまたにんまりと笑って、  
「無理矢理追い出した。ついて行かせた」  
 と言った。  
   
 とにかく、巧の頭には環の言葉が響いたままになって、巧をくらくらさせた。  
 一度帰ってから外でおちあって行くことにして、唇だけで軽くキスをして、別れた。  
 こうなると授業もまったく耳に入らない。  
 なんとか環と他のことをする妄想で相殺しようとするが、遊園地に遊びに行けば観覧  
車、海に泳ぎに行けば岩場の陰で水着のまま、とかエッチ方面にばかり働いて(しかも  
ベタだった)、ろくな想像にならない。  
 環はああ言っていたが。環は巧の『年頃の男の子の事情』に配慮したのではないか。  
 そんなことを思った。試合に集中できないのは、巧が不満を感じているから。  
 
(うぬぼれてるか)  
 昼休みには、目だけで気持ちを交わし、別れた。  
 放課後までの長い時間をなんとか費やし、巧はしょうがなくサッカー部の部室を訪れ、  
試合前日の部員達の中に混ざった。巧が怪我で抜けた穴のことを散々皮肉られ、なんと  
かタイムスケジュールを確認して抜け出した。  
 同じ総合体育センターの運動場の設備を使うことになったので、両方に顔を出すこと  
が出来る。  
 男女両バスケチームのミーティングがちょうど終わったところで、そのそばに都と由  
美がいた。環は立場上まだ部員達に取り巻かれて忙しいようだったが、待ち合わせ場所  
はもう決めてある。  
「ほれ、帰ろ姉ちゃん」  
 少し方向の異なる由美と途中で別れ、巧は都と二人で家路についた。どうしても早足  
になってしまう。  
「どうしてそんなに急ぐの?」  
 姉に突っ込まれ、巧はとっさに言い淀んでしまったが。  
 これはチャンスだ。  
 決定的な何かをこれから姉に与える。  
「姉ちゃん、今日俺環さんとこ泊まるから。親父によろしく」  
 できるだけこともなげに言った。  
「そう」  
 
 都もそれに簡単に返しただけだった。  
「一旦帰ってから行くけど、メシはいいや」  
 それから出かけるまでの間、巧は姉の顔を見なかった。見ないようにした。  
   
 外岡(とのおか)家──環の家から数分の、待ち合わせていたコンビニで巧は環とお  
ちあい、指を絡ませあってその道程を楽しんだ。  
 と言っても、巧の頭の中はもうこの後のことでいっぱいだ。  
 環は黒のタンクトップを着ていて、胸の形がすごくよくわかった。それに肩から脇を  
大きく晒している。フレンチ袖のTシャツを着た巧とは二の腕をぴっちりと合わせるこ  
とができた。巧はまだ背が伸びている最中だ。こうやって同じ高さでじゃれ合えるのも  
今だけだと思い、積極的にその感触を求める。  
 息をはずませた環は顔を逸らしているものの、身体は巧の方に押し付けてくる。  
「なんか、遠いなー」  
 環が堪えきれないというように言った。  
   
 *  
   
 巧が出ていったすぐ後にはるかが帰宅し、都は二人で好きなだけいいものを食べよう  
と相談を始めた。  
「お兄ちゃんは?」  
 
「友達のところに泊まるって」  
 間違ったことは言っていない。環は自分の友達だ。  
「じゃあね、じゃあね、甘ーい酢豚とかがいーなー、山盛りで」  
 はるかは食事に関してだけは巧が天敵なので上機嫌だ。  
「巧がいるとき食べられないもの、ね」  
 以前酢豚と麻婆豆腐をセットでおかずにした時には、巧ははるかから麻婆豆腐を奪い、  
自分の酢豚をはるかに押し付けて知らん顔をしていた。そういう時はまだいいが、甘い  
ものに偏ると大変だ。都としては辛いものも甘いものもバランスよく楽しみたいのだが、  
巧とはるかの間で結構苦労する。  
 でもそういう喧嘩も楽しいものだ。  
 今日の所は平和に二人だけの食事をする。  
 お気に入りのドラマを見終わったはるかが風呂に入ると、都はしばらく一人でニュー  
ス番組を眺める。頭には入ってこない。別のことをずっと考えている。  
 はるかには、都と二人の時には見せない顔がある。真っ赤になって怒っている時の顔、  
からかわれてパニックになっている顔。都はそういう時のはるかの顔がたまらなくかわ  
いくて、巧を止めるべきなのに、じっと見ていたりすることがあった。  
 はるかにそういう顔を、自分はさせられない。巧にしかできない。同様に巧にもさせ  
ることはできなかった。それがたぶんできるのが親友の環だ。  
 ころんとソファに横になり、「巧」と口に出してみる。  
 自分でも重症だと思っている。  
 
 ごまかさずにはっきり告げていったところに都は、巧の強い意志を感じた。  
 この一週間、都は幸せだった。もちろんあわよくば、ということを考えなかったわけ  
ではない。今でもほんの少し可能性はあると思っている。それ以上に巧に触れていた時  
間、その腕の中で本当に深く眠ったあの時間、それだけで都は幸せだった。  
 そのために生きているのだ。疑いなく。  
 時計を見るともう22時だった。巧が今頃何をしているのか、少し考えただけで胸が  
締め付けられていく。都には巧以外の相手など、ありえない。想像できないというので  
はない。いないのだ、本当に。巧以外に。それは巧が弟だからだ。彼が生まれてからの  
全てを見守り続けてきた。それこそが弟だ。  
 痛い。とても痛い。  
 巧を引き止めなかった自分に対し、後悔が激しくこみ上げた。  
 どう言って引き止められたというのか。方法などない。だけど、引き止めなかったか  
ら、心が痛みに悲鳴を上げている。  
 この痛みは朝になったら終わるだろうか。それともまた巧に触れられれば終わるのだ  
ろうか。巧に愛されない限り終わらないだろうか。  
   
 *  
   
 外岡家の門をくぐると巧は、急に緊張した。  
 玄関を上がって別の家の生活感というものを目の前にして、リアルさが胸に染み込ん  
できた。  
 
 それはやはり他の家族にことわりなく他人が中に足を踏み入れるという罪悪感による  
ものだろうと思う。そして自分はこの家の娘と身体の関係がある。そういう気負いが拭  
えなかったところを、環に突き飛ばされていきなりリビングに転がり込んだ。  
「ひでー、かんべんしてよ、環さん」  
「気持ちはわかるけどね、しっかりしろっ、タ・ク・ミ」  
 そのまま、頭を両手で押さえられ、唇を奪われた。またたくまに痺れさせられる。  
「いきなりっすか」  
「さすがに早く寝ないといけないからね。でもとりあえずお茶しよ?」  
 環の部屋に通され、環が台所に行っている間、巧は部屋中をゆっくり見渡した。  
(さすがにいい匂いするな、女の子の部屋)  
 机の上のボードに、環と由美のツーショット写真、そして都を入れた三人の写真がピ  
ンで止められている。  
(ああっ、隅っこに超ちっさく俺が写ってる!)  
 そういう写真を選んで貼った環の気持ちをふと想う。それとも、そんなに考えて貼っ  
たわけでもないのだろうか。  
 環が入って来て、しばらく紅茶でくつろぐ。  
「その写真最高でしょ? しかも巧くんちょっとむっとしてんの、コレ」  
「えー、そんなのわかんの、これで」  
「わからないわけないでしょ、愛しい恋人の顔だもん」  
 
 そういう環の目は悪戯っぽいが、潤んでいる。  
「じゃあ愛させてくれー」  
 と巧が甘ったるくねだると、環はそれに答える代わりに、一足飛びに巧のシャツを引っ  
張り上げた。  
「ごめん、もどかしいよね」  
 右腕を楽に通すために、巧はフレンチ袖を好んで着るようになっていた。もちろんも  
どかしいのはそのことではない。  
 脱がせ合いながら、お互い隙あらば相手の肌に吸い付いている。だが巧は十分に応え  
ることができない。  
「はやく環さんを、ちゃんと両手で抱きしめたいな」  
 荒い息で環に訴える。  
 姉につけられた傷が、二人の完全なる抱擁を阻んでいる。  
 ギプスがまるで、巧を諦めようとしない都の執念そのもののようだった。  
 どちらからともなく、環が上になるように動いて、結ばれた。  
「巧くん……あうっ!」  
 環が上体をぴったりと巧に押し付けると、結合した部分がきつくしなって巧を痺れさ  
せた。  
 上で身悶える環を左手だけで懸命にかき抱く。  
「環さんの動き、エロすぎ」  
「な、なによぉ」  
 
 環が締め付けながらやけに恥ずかしげな声を出すので、巧はすぐに堪えきれなくなっ  
てしまって、  
「もう一個持ってきてるからっ」  
 と数回激しく動いて一回目を放出した。  
「くぁー、もう、なんていうか、環さんの中ってたまらないです」  
 まだ途中の環は、巧の言葉に悶え、言葉もなく荒い息で巧の唇を貪った。巧はそこか  
らゆっくり、環の身体に触れながら次の準備をした。  
 一週間前よりもやはり余裕を持って環に接することができている。それが嬉しい。そ  
のうち、一回目から環をイカせてやるのだ。  
「なんか、右手下にしたほうが意外と楽みたい、俺」  
 そう気がついてから、巧は環の頭を抱え込んで横に向いた。  
 自由な左手で環の身体のラインを丹念になぞる。動きに合わせて環の身体がうねり、  
貪慾に愛撫を求めてくる。唇は重ねたまま、とろけるようなくちづけを繰り返し、その  
間にも指で環の身体を探っていく。  
 そうしながら、巧は片足を環の足の間に入れて股間を擦り上げていった。たちまちあ  
ふれてきたもので巧の太腿がぬるぬるになった。  
「環さん、楽にしててね」  
「うん」  
 環は薄く微笑む。  
 余分な消耗をさせられない。だから巧は無理をする。身体を起こして、自分の下に環  
の両足を押し広げさせていく。右腕が悲鳴を上げるが、挿入するまでの我慢だ。  
 
 仰向けでたわむ胸を名残惜しく舌で吸ってから、一度上体を落とした。すると環は、  
「これがたまらないんだ」  
 と巧の体重を愛おしげに受け止める。今の巧にはありがたい。そのまま濡れそぼった  
入り口に左手で誘導し、ゆっくりと差し入れていった。  
「んっ……は……あ…………ん」  
 感慨深げな環のその声も巧には狂おしかった。巧が奥までたどりつくと、環はぶるっ  
と大きく身体を震わせ、それから激しく巧を抱きしめた。  
「ちょっと待ってね」  
 と巧を押しとどめ、足を巧の腰にからめてくる。それで環の中が蠢いて、巧はまた身  
体の中心を痺れさせた。巧は環に肉棒の感触を確かめられている気がして、恥ずかしく  
て堪らなくなった。だが、目をちゃんと開いてみて、自分が組み敷いている女の身体の  
美しさといやらしさといったらなかった。  
「あんっ! やだ……巧くん」  
 環が顎を上げて応えてくれた。その肢体の見事さに刺激されて、巧が肉棒をさらに大  
きくしたのを感じてくれたのだ。  
「環さん、イッてね」  
 環が吐息で答えると、静止状態での悩ましい感触に別れを告げ、巧は前後に動き始め  
た。環の膣内の吸い込まれそうな動きに抗い、効果的な動作に勤める。それがお互いの  
快感を高めていくのがわかるから、惜しみなく力を注ぐ。  
 
「あっ、あっ、あっ、あっ、ああっ、ああっ!」  
 リズミカルな動きで反応する環の声は、途中から一気に大きくなり、巧をさらに急き  
たてた。  
 早く、もう待てない、と言う代わりに搾り取るような渦巻き状の締め付けが巧の肉棒  
を襲う。  
 巧はまだいける。重く深く、環を押し広げた。  
「だ、だめっ、やあっ! んああああっ!!」  
 痙攣に近い動きが混ざって、環が昇り詰めていく。我慢する理由はなかった。一緒に  
イキたい。巧も動きを本能にゆだね、  
「イク、イクッ、イアアア、や、あああっっ!!!」  
 弾けていく環に引き込まれるように、解き放った。  
 何もかも忘れてしまいそうな、絶頂の感覚だった。  
 お互い脱力し、唇で余韻を与えあいながら、巧が環から抜け出す頃には、環はそのま  
ま眠りに吸い込まれつつあるようだった。  
 巧は環を精いっぱい綺麗にしてやって、パジャマらしきものを着せてやってから自分  
も環の横になった。食事すらしていなかったことを思い出すが、この分だと早起きがで  
きてたっぷり準備の時間が取れるだろうと思う。巧は環の頬にキスしたまま、泥のよう  
に眠った。  
 翌日の一回戦は、好調を維持する環中心の組み立てで、余裕を持って桐高女子バスケ  
部は二回戦に進出する。  
 
 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル