(巧くんに会いたいな)  
 窓辺に腰掛けて、ため息をつきながら思う。  
 自分と由美のしていることがどんな意味を持つのか、考えるのが怖かった。だから考  
えるのは由美に任せている。  
 飲み慣れないアルコールであっという間につぶれてしまった由美は、「環ちゃんごめ  
んね」とひたすら謝って、環がトイレに行っている間も座椅子の背もたれに謝っていた。  
 それを見てまたため息をつき、泣き笑いの顔になる。  
 知り合ったばかりの頃、都と先に親しくなったのは環だった。  
 一目惚れだったなんて全く知らなかった環は、由美にまるで遠慮することなく都とじゃ  
れあって由美を泣かせた。でも、泣かせたことで由美の気持ちを知り、今までの三人の  
関係をつくってこれたのだと思う。  
(いや、最初接近するダシに使われたんだっけ)  
 自分の『変なところ』自慢のようなくだらない話がブームになったときに、都が持っ  
てきた変なCDの数々に仲間達が皆頭を抱え、由美だけが面白そうにそれを聞いていた。  
その中に、とある映画のサウンドトラックを見つけた由美が今度は皆を、変な映画に連  
れまわしてさらに頭を抱えさせた。  
 さすがの環もそのときばかりは気が変になりそうで、都に由美を取られたと、ちょっ  
とばかり悔しい思いをしたのだった。  
 
 そんな当時から四年以上経ってこんなことになるなんて、わかるわけがない。  
 ずっと由美は都の本音に遠慮していて、環が巧とふたりになろうとするその時を利用  
してやっと都に近付こうとして、そして絶望した。  
   
 四つも下の、はるかのクラスメイトと言われても違和感がなさそうなあどけない寝顔  
に、改めてそっと触れると、そのせいで起こしてしまった。  
「ん……」  
 バツが悪そうに起き上がる由美の側に寄った。  
「環ちゃん」  
「もっと飲む?」  
「いじわる……。私、ちょっとしか飲んでないのに、駄目だなぁ」  
 かわいいくしゃみをして上着を探す由美に、探し物を放ってやる。  
 環が風呂には別々に入りたがったせいで、由美はいろいろと遠慮がちだった。  
 身体の関係がどうとかいうことではなく、心を持っていかれるのが怖いのだ。  
 由美だけではなく、環もそれは同じだ。  
 絶対に持っていかれてはならない。  
(私は巧くんのいいなりになろう)  
 気持ちが変わってしまったらそんなことはできっこない。  
 今はまだ信頼に足る言葉を吐く力がないから、そんな自分に忠実に一言だけ、「明日  
帰る」と巧に伝えた。そして、  
 
「私、帰らなきゃ」  
「そだね。都ちゃんによろしくね」  
「巧くんに、でしょ、この場合」  
「ちぇっ」  
 由美は膨れる。まだ腹は立っているのだ。  
「由美はどうするの?」  
「もうちょっとひとりでヘコんでから帰る」  
 膨れたままで言うので、環はしょうがないな、と最後に抱きしめてやってから、手を  
振った。  
 今日のうちに絶対巧に会うのだ。  
   
 *  
   
 鍵をジーンズの縁に挟む。落とさないように強く挟む。  
 スピード、巧が立てた音に気付いて逃げようとしても絶対反撃に移れないくらい速く、  
巧は都の身体を押さえた。スキンのケースを取ってくるのを忘れた。でもいい。  
 左手を横にして、姉の両肩を固定した。右膝を腰骨の中心に乗せた。  
 少し身じろぎをした姉にドキッとして、力の配分を加減した。そのままゆっくりと体  
重をかけていく。だんだんと姉の匂いが近付いてくる。  
 女の匂い。くらくらする。そろそろ姉が目を覚ましてもおかしくない。  
 
「──」  
 胸をつぶされている感じのかすかな声を聞いて巧は上体にかけた体重を抜いた。  
 都はいまや目を覚ましていた。  
「巧……?」  
「じゃなかったらどうする?」  
「ありえないから、どうもしない」  
 抵抗もなにもなかった。姉はただ、変化を待っている。  
「俺だったら」  
「嬉しい」  
(なんだそりゃ……そうだろうけど、それにしたって)  
 馬鹿げている。  
 気持ちなんて知りたくないのだ。知りたいのは、自分のやっていることの障害になる  
のかならないのか、ということだけだ。  
「俺がなにをしてるか、知りたい?」  
 都は沈黙した。おそらくまだ姉は信じ切れていない。巧が自分から求めてくることは  
思いもよらない。だから、今度はどう束縛されるのかと思っているだろう。  
 ならば、今ならまだ後戻りができる。  
「服、脱がせるから、力抜いて。全身」  
 巧の言葉通りに、都は全身から力を抜いた。  
「力、入れないでね」  
 
 念を押して、巧がジーンズの横から身体の前面に手を入れると、都は手足の先をビクッ  
と強張らせて慌ててまた力を抜いた。  
 眠る前に緩める意味で外してあったのだろう、一番厄介なはずの堅い前ボタンは外さ  
れていて、巧は姉の腰を持ち上げるようにしながらジッパーを一気に引き降ろし、さら  
にジーンズを引っぱり降ろしにかかる。当然簡単にはいかない。姉が下半身をくねらせ  
て自然と協力するのを見て見ぬふりをした。下半身だけの身体の動きがあまりに艶かし  
く、それだけで巧は股間のものを限界まで硬直させた。  
 『恋愛的』な手続きはハナからすっ飛ばしているが、『人間的』な手続きさえもすっ  
飛ばしてしまいそうになる。もう、そうなっているかもしれない。  
 倒錯に近い、背徳の匂い。  
 Tシャツを少しはだけさせると、レモンイエローのボディロックの全体が視界に広がっ  
た。鍵穴はこのお尻の上の方に、縦についている。  
 姉に気付かれないよう、息を必死に押し殺す。そうしながら目の前のエロチックな眺  
めを絶対に忘れまいと、シャッターを切るようなまばたきを繰り返した。  
 だが、まだ戻れるのだ。姉が巧の欲望に気付いていないうちは。  
 苦労の末にジーンズを完全に抜き取り、床に落とすと、左手のひらを姉のお尻のラバー  
の上に乗せて、  
「鍵、外して欲しい?」  
「巧、あの……、うん」  
 一秒と滞ることなく巧は鍵を差し入れ、斜めに倒した。そういう特殊な鍵だ。  
 
 チキ、と軽い音がして、同時に何ケ所かのひっかかりが外れて、そして、一気にその  
封印は解き放たれた。  
「は……」  
 おそらくたちまちのうちに都の下半身を襲った、予期せぬ解放感が都に声を上げさせ  
る。身体から抜き取ってそれも床に落とした。姉の顔は見えない。  
 巧の方を見ることなく、枕の中で震わせている。羞恥にわずかにお尻をよじらせて、  
それでも最初の姿勢を崩さずに巧の言葉をぎりぎり守っていた。  
 巧は覚悟を決めた。姉に完全に気付かせてやろうと思う。  
 姉の両足をぐっと広げた。つま先がベッドの縁にかかったところで足の間に入り、  
「姉ちゃん、セックスしたことある?」  
 生々しく、狂おしい光景を視界に収めながら、声が震えるのを抑えきれずに言った。  
 間違いなく都はその言葉に反応した。  
 姉はその機具に、感覚的にはもう身体の一部に近いものを感じていたはずだ。それが  
なくなってしまった頼りなさに下半身を持て余していた。それは多分に日常感覚的なも  
のであって、性感とは程遠いもので、事実姉のそこはまるで潤っておらず、多少蒸れた  
りしてはいても、触ってもそのものの感覚しかないだろうと思われた。  
 その都が、巧の言葉を聞いたその瞬間、急激に股間を濡らしていた。  
 そういう気持ちになったときはいつもそうだったに違いない。あの風呂上がりにずぶ  
濡れで襲われた時も、そこは溢れていたに違いないのだ。  
 今巧の目の前でうつぶせの下半身だけを剥き出しにして、足を大きく拡げられて、姉  
は完全に欲情していた。  
 
「巧……、巧……」  
 泣いているようなせっぱ詰まった声で呼ばれた。  
 伸ばしていた両手を堪らず枕に引き付けて顔を枕ごと包み隠していた。足は開いたま  
まで、奥からとめどなく液を溢れさせてシーツの染みを広げていく。  
 くぐもってはいても明らかに喘ぎとわかる声で、頭の中から切ない感情を追い出そう  
としている。そんなことはしなくてもいいのだ。  
「姉ちゃん、一分だけ待つから、その間にいなくなってくれ。そうしないと、どうなっ  
ても知らないから」  
 巧の声はどうしようもなくうわずっている。  
 それでも姉の一分のためにベッドを一旦降り、スキンケースを取りにいった。巧は都  
が逃げることはないという前提で行動していた。もう、巧の方からは止められない。絶  
対に止めない。巧自身の欲望がそれを許さない。言葉は都側に残されているチャンスを  
第三者的に指摘しているだけなのだ。  
 本棚に手をかけ、ステンレスの板に指を引っ掛ける。ケースを、軽くなりすぎている  
それを持ち上げて、開く前に中の状態を知った。  
(まさか姉ちゃんが、隠したのか?)  
 どこまでもとんでもない。  
 予期していたというよりは、あわよくば、という思いが常に姉に性急な行動をさせて  
いる。なにひとつ隔てることなく結びつきたいと考えた姉。  
 
 巧は『生』という下世話な単語で、そのめくるめく行為を想像した。  
 ありえない。環とだってやったことがない。  
 それとも子供が欲しいとでもいうのか。姉なのに。馬鹿なのだろうか。この期に及ん  
で余計なことをしている姉に、悪意のようなものさえ感じる。頭に来て、そんな感情が  
すべて欲望に上乗せされていく。巧の股間のものは引き攣れるまでになり、痛みを訴え  
てきていた。姉は、当然と言わんばかりに巧を待っていた。  
(そういうつもりなら、もう知らねえ)  
 これが最後の温情だ。  
「隠したもの、出せって言っても無駄だろうな。姉ちゃん──」  
 姉はテコでも動かない。  
「妊娠したらなにもかもおしまい。そんなことはとっくにわかってるんだよね」  
 姉の首筋に口を近付けて言った。本当に、環がそうなった場合とはわけがちがう。  
「救急箱に一個入ってるアレ、知ってる? ピンクの丸っこいやつ」  
 最後に姉の耳もとで直接囁きかけた。  
「アレで準備してきてよ。ソッチなら妊娠しないから」  
 脇に退いた巧の下から、都はふらふらと廊下に出ていって、ゆっくりと階段を下りる  
足音を立てていた。下半身が剥き出しのままだ。たぶんそこらじゅうにぽたぽたと雫を  
たらしながら、歩いているのだ。  
 最後のチャンスだ。洗濯機の中の汚れものでもなんでもいいから身につけて、そのま  
ま外へ逃げ出してくれればいい。鍵を外した今、姉は自由だ。  
 
 巧は扉を閉じて、姉のものでびしょ濡れになったシーツの上で悶えた。巧自身は爆発  
しそうになっていた。でも、本当に逃げて欲しかった。  
 自分でも最低なことを思い付いたと思う。だが、巧の言葉の意味をしっかり理解する  
姉も姉だ。どうかしている。放課後にそういう話をしたことがあるか思い出そうとして  
みるが、思い出せなかった。  
 とにかく巧は、環と同じことは姉にしたくなかった。これは『性欲処理』なのだ。  
   
 長かった。  
 時間の感覚が麻痺し、巧の全身を目眩のようなものが包んだ。たぶんほんの10分ほ  
どの時間だったのだろう、最初の目的のついでにシャワーを浴び、髪を濡らしているけ  
ど格好はさっきのそのまま、上半身のブラとシャツだけを身につけた都が扉を開き、そっ  
と巧の方を見つめた。  
「逃げなかったんだ?」  
「だって、巧が言ったのよ……言う通りにしてきた、から」  
「最後のチャンスだったのにな」  
「こんなこと……二度とないかもしれない」  
 都は、少し寂しげな微笑みを見せた。今まで見たことのない顔。とてつもなかった。  
それは巧の心臓をえぐってきた。それを見ることができただけで、もういいんじゃない  
か。だけど、巧はベッドの上に立ち上がって手招きした。  
「この右手の埋め合わせ、してもらうから」  
 
 都がまっすぐベッドに近付き、巧が場所をあけるのにあわせてまたうつぶせになった。  
姉のいないうちに、とシーツを急いで適当に取り換えたので、乱れたようになっている。  
そこにまたたくまに染みが広がった。染みは、シャワーで綺麗にしてきたはずの姉の、  
股間だけに広がっていく。  
 見ているだけではもうとても耐えられなかった。  
 巧は意識的に乱暴に都にのしかかった。身体を密着させた。厚いジーンズ越しだとい  
うのに姉の丸い尻はやたらと柔らかく、巧の股間にさらに痛みを走らせた。ちょっとだ  
け止まって感触に溺れ、すぐ身体を起こして乱雑に脱ぎ捨てた。下着もひとまとめにし  
て床に投げ落とした。『突っ込みたい』としか言い表せない激情で、姉の後ろの穴を突  
いた。  
 だが、蕾は固く閉じたまままるで開こうとせず、巧が力を込めると、肉棒の先端から  
泌み出した透明なものがその表面を潤すものの、なんど突いてもらちがあかなかった。  
 そうするうちに、先端からきつく送り込まれてきた姉の感触に巧は弾けた。  
 あっと言う間のことになすすべなく背中を駆け上る絶頂感を、身体を強張らせて耐え、  
受け止めた。そこで、(濡らしてほぐさないといけないんだっけ)となにかで読んでき  
たような知識に思い当たった。  
 アヌスを中心として、その穴のまわりはどろどろになってしまった。どうしたものか、  
困るゆとりもなかったので、巧はそれを使って穴を開きほぐそうとしはじめた。穴の周  
りの筋肉や、穴の表面の肉に塗り込めるようにじっくりと揉んでいく。シーツを濡らす  
だけだった姉のものもすくってきて、手伝わせる。  
 
 それでも普通には開きそうもなかった。まず、指を差し入れた。  
 都がその刺激に身体を硬直させる。吐息がだんだんと大きくなって荒い息に変わり、  
巧の心臓を激しく揺さぶった。  
 一切、他の愛撫を捨てていた。そもそも、アヌスに対するそれも愛撫ではない。少な  
くとも挿入できるように、姉を痛い目に合わせないように、処置をしているだけだ。た  
だ、それに対して姉が勝手に声を立てて身体をよじらせているだけだ。  
 最初はゆっくりと小指で浅く、出し入れが可能かどうかを試すようにしていたが、だ  
んだんと太い指に変え、強く大きい動きに変え、深く突き上げるように手のひらで押し  
上げていった。  
「巧……巧、た……」  
 姉の声は常に呼ぶ声で、飽きることなく自分自身の心を溶かそうとしているようだっ  
た。姉はそこで感じてなどいない。その調子を壊すには性感を与えてやらなければなら  
ないだろう。迷わず口を持っていった。  
「や……えっ……? や、巧、そんな……」  
 舌にピリッと刺激を感じながら、神経は都の身体のうねりと声に集中させていった。  
 温度の低い指とは全く違う、熱く柔らかく複雑な形状を成すものに舐め上げられ、姉  
は背中を反り返らせて、得体のしれないその感覚を必死に逃がした。  
 そうしてまた、指で強くえぐる。すぐに舌で舐める。唐突に取り換えられる異質な二  
つの刺激が都の身体の中を蛇のようにのたくった。  
「や、あっ! あっ、た……巧ッ」  
 
 すでに、入り口は開きかけていた。一度放出していることで巧の欲望は一旦おさまり  
かけていて、そこでやめてしまったほうがよいのかもしれないという思いがかすめた。  
だけどもう、ここまでやってしまった意地で、行為を完遂するまでやりとおすためにリッ  
ミッターを外す。そうして奮い立たせていた。そうしないと気はすまない。  
(姉ちゃんが俺みたいなエロガキ、好きにならなきゃ)  
 あれこれいじりまわしているうちに、姉と自分の粘液が塗り広げられ、姉の尻はてか  
てかにいやらしく光っていた。  
 それで完全に巧は、再び痛いまでの硬直を取り戻した。  
 姉の愛液はとめどなく、シーツをぐしょぐしょにしている。そうやって姉の発する雌  
の匂いは、巧をくらくらさせて最終的な行為に誘っていた。  
 うつぶせだった姉の腰を起こさせ、四つん這いにする。素直に、とても自然に、高く  
掲げられてくる姉の白い尻が、恐るべき眺めを見せ始めていた。  
 恋人の環の尻ではないというだけで刺激的だった。しかも、これは血を分けた姉のも  
のだ。理性のひとかけらも、もう巧には残されていなかった。  
 高さは合っていた。  
 閉じていこうとするアヌスを指で何度もほぐしなおし、巧は肉棒をぴったりとそこに  
あてがった。暴発する心配はない。再び透明な液体でぬめった肉棒は、推進力を与えら  
れて今度こそ姉の後ろの穴に潜り込みはじめた。  
(姉ちゃんが悪いんだ)  
 
 巧は頭の中でそう繰り返している。理性の邪魔をされずに、思うがままに巧は身体を  
動かしていた。じりじりと傘の部分が隠れてしまうまで突き入れると、若干竿の所で締  
め付けが緩まった。より太い傘の侵入で最大限押し広げられていた入り口がその圧迫か  
ら抜け出したので、一瞬だけ解放されるようにそこで都が息を強く吐き、踏ん張ろうと  
する身体に力を入れた。それで竿にかかる締め付けもあっという間に激しくきついもの  
になった。  
(姉ちゃんが、……俺を)  
 姉の身体に取り込まれていくような陶酔感に、没頭した。奥へ差し入れようとするが、  
締め付けがきつすぎるのと、片手が自由にならないのとで進むこともろくにかなわなかっ  
たのだが、引こうとしても傘が激しく動きに逆らい、瞬間、痺れるような感触に巧はそ  
こで立ち往生した。  
(姉ちゃん、姉ちゃんの、中なんだ、中にいるんだ)  
 入りたい。もっと入りたい。  
 都は息を詰まらせて激しい息で耐えていた。たぶん気持ちよさなどどこにもないだろ  
う。ひたすら耐えている。そんなことにかまっていられない。姉に気を遣うことは、今  
はプライドが許さない。  
 姉の呼吸に合わせて、微妙に中の感触が動いている。  
 それを感じながら、とにかく一番奥を目指した。自分の腰が姉の尻に押し付けられる  
まで、どんなことをしてもそこまで行く。  
 左手で腰を押さえるのを諦め、上体を半ば重ねて、姉の首の前に手を回した。そのま  
ま垂直に引きつけると同時に、腰を進めていく。  
 
 ようやく、少しずつ肉棒本体が姉に潜り込みはじめた。あまりのじれったさに、右手  
のストラップを弾き飛ばし、ギプスのままで姉の腹の角度を固定させた。これなら大丈  
夫だろう。  
   
 *  
   
 背中に滴り落ちる汗と触れそうで触れない巧の胸の感触で都は激しく震えていた。  
 弟と繋がっているという圧倒的な思いがあって、腹の中を突き上げられる苦しさ、つ  
らさをまるで感じないかのように全身が陶酔していた。  
(巧が、中にいる、私の中に)  
 どこで繋がっているかなど、とてもささいな問題だ。  
 じりじりと巧は押し入ってくる。繋がっている部分がどんどん広くなる。広くなるほ  
どに心も満たされる。  
 目尻に涙を流した。後で思いっきり泣こう。今は巧にできるだけ喜んで欲しい。  
(はやく、完全に繋がらせて)  
 巧の腰を受け止めるのが待ち遠しい。いったいどこまで入ってくるのだろう。いや、  
どこまででも入ってきて欲しい、ひとつに混ざってしまえるくらい。  
 巧がふと動きを止めたと思うと、肩を捕えていた手にさらに強く力を込めた。  
 心が激しく震えた。今、完全に繋がる。  
 力を込めた動きが都の尻を捉え、入り口を太い部分でさらに押し広げられるのをかろ  
うじて受け止めた。  
 
 そこで感じているはずはない。だが、押し付けられ、こすり付けられた腰が自分のお  
尻にとてつもない疼きを与え、都は身体を支える両手で、堪えがたくシーツの表面を掻  
きむしった。  
   
 *  
   
 肉棒が完全に姉の中に埋まり、巧はそこで身体を震わせながら息を整えた。  
 根元の締め付けと密着した姉の尻のなめらかな感触はとても魅力的な女の子のそれで、  
加えて身体の奥の、締め付けるかわりにとめどなくやわやわと触ってくる粘膜の動きが  
脳をとろけさせてくるようだった。  
 息が整うとさっそく動こうとして、その困難さに気付いた。  
 腰を一往復させるのにどれだけのエネルギーがいるだろう。でも動かなければこれ以  
上の快楽は得られない。中の感触からして、このままでも時間をかければ果てることは  
できるだろう。それでは心が満足できない。  
「左手」  
 と姉を促し、後ろに回してきた姉の白く細い左手を捻るように取った。  
 都は合わせてバランスを取るように右手を重心の中央にずらしてやっと身体を支えた。  
 姉もわかっている。巧は姉の左手をその背中に押し付けて、取っ手代わりに腰の動き  
の支えにし、出し入れをやってみた。  
 
 きつく滑りながらやっと動けるようにはなる。だが自分の欲望のためにやっているの  
だ。これでは満足には程遠い。  
「つぶすよ、右手抜いて」  
 巧の言葉をすぐに理解して、都は力を抜く。右手が外れるのに合わせて腰を突き、繋  
がったままで押しつぶした。空気をかたまりで吐いて、都が身悶えた。  
 やっぱりこの姿勢が合った。本来の穴でするよりも、アヌスで繋がっているとそれ以  
上に交わり以外を楽しむ余裕が持てる。  
 目の前には姉の背中。  
 本当に綺麗な曲線を描いていて、感触もとてもなめらかで、ふたり分の汗を滑らせて  
手と唇で触っていくと都は激しく反応した。繋がったまま背中を貪り続けていると、そ  
の動きでアヌスの締め付けも色々に変化していく。たまらなく気持ちがいい。  
 ぴったりと身体を重ね合わせ、足からお尻と背中、首筋に至る隅々まで自分の肌で味  
わった。たまらなかった。このまま離れるのが惜しくなる。  
 ふとさっきの姉の反応に興味が出てきて、上体を離した。  
 姉が寂しげにこちらを伺うが、巧が舌で背中を舐め上げていくとたちまち枕に突っ伏  
してけたたましく嬌声を上げた。  
「んああっ、あ、巧ぃ、い、とめ、とめて、これ……、気持ち……イ……」  
 意地悪くその嘆願に逆らってさらに背中を責めた。都は手足をばたばたと暴れさせ、  
同時に体内の巧のものを激しく締め付けた。本来きつく閉じるようにできている穴がど  
んなに締めても広がったまま閉じないというのはどんな感覚だろうか。  
 
 姉の背中の異常な弱さに気付いた巧は、思う存分それを貪り尽くした。どれだけそう  
していたかわからない。残酷なまでに責め、ひたすらそれに終始した。だんだんと特別  
よく反応する場所を特定していって、そればかり責めていると、やがて大きく長く震え、  
果てたようだった。そこで思い出す。  
「姉ちゃん、処女なの?」  
 姉がビクと身体を強張らせて、無理矢理叩き起こされたような激しい動悸と共にしば  
らく固まっていて、  
「…………うん」  
 と小さくうなずいた。  
「そっか」  
 巧はなんとも言えない気持ちになり、  
「じゃあ、こんな風にイッたのも初めてだよね」  
「…………うん」  
 吐息を震わせながら言って、枕に顔を埋めた。その表情を見たくてしょうがなかった  
が、今の自分にふさわしくないと思ってそれ以上追いかけなかった。  
 その代わりにまた背中を責めはじめた。  
「んっ、…………巧……巧、…………巧」  
 縋り付くように呼び掛けてくる姉に、巧は答えずひたすら弱い部分を狙い打ちにして  
撫で擦り、ついばみ、吸い、舐め上げた。  
 この姿勢で都が巧に縋ることはできない。  
 
 手を時々後ろに持ってきて、巧の実体を手さぐりで求めた。巧は、応えない。ただ姉  
が自分の責めによってなすすべなく悶え、狂態をさらしているのが気持ちよかった。一  
方で、姉を喜ばせてやろうとしているわけではないので、腹も立った。それこそ『人の  
気も知らないで』と言いたくなる。  
 二度目に都が背中だけでイッたのを見て、巧は無理矢理動き始めた。  
 それなりに環に鍛えられた巧の肉棒は、アヌスの強烈な締め付けになんとか耐え続け  
ていた。うつぶせのままで、大分なじんできた入り口にスムーズな出し入れも可能になっ  
てくる。それとともに刺激的な摩擦が増して、巧に強い快感を送りはじめていた。  
(マジ気持ちいい……)  
 それだけを追求しようと、ひたすら姉をえぐった。果てしなく好きなように動いた。  
 都がのたうつように両手を左右させた。  
 苦痛に苛まれている。それでも止められない。  
「がまんして、姉ちゃん」  
 荒い息に乗せるように告げると、都は振り乱すようになんどもうなずいた。喘ぎ声と  
息づかいばかりで、言葉を出せない。  
 巧は、さすがに長時間締め付けられて痺れてきていた。  
 腰に疼きがどろどろと溜まってきて、やがて堪えがたいまでになった。その状態でな  
おも腰を送り続けて、姉の身体から得られる快感を最大限に受け取り、抱き潰す勢いで  
激しく何度か突き上げると、そこで身体の中身を全部ぶちまけるように射精した。  
 
 *  
   
 巧が、どくどくと脈打つものが収まるまで、きつく姉の身体を抱きしめ、都もまた弟  
のそんな愛しい行為に大きく息をついた。同時に、のしかかってくる巧の身体を背中と  
お尻全部で味わい、酔った。  
 巧が力を抜いて、ゆるゆると腰を回すように余韻を求めると、都は嬉しくなって自分  
からお尻を持ち上げて応えていた。  
 確かに初めのうちはきついと思ったが、背中を執拗に責められて意識を飛ばされそう  
になっていたので、むしろ弟の押し込んでくる圧迫感が都を支える芯となった。  
 その芯のまわりを快感がぐるぐると回るような、心から酔える悦楽となっていたのだ。  
 話に聞くように、アヌスによって快楽を得るようになったらいったいどういうことに  
なるのか、そのことの方が怖かった。  
 もちろん都はまだその前の段階が済んでいない。  
 それでも全然よかった。  
 抜かないで欲しいと願ったが、巧のものは小さくなりかけて、今にも都から離れてい  
きそうに思えた。捕まえたいと、締め付けた。  
「んくっ……」  
 と巧がそれに反応してわずかばかり硬さを取り戻したのを都は感じ、夢中でその動き  
を繰り返した。巧をその気にさせる力を自分が持っていると思えることが嬉しい。咎め  
るように巧が首筋を噛んできたが、それは痺れるような甘い痛みになり、お尻を引き締  
めてさらに巧を甦らせる動きになった。  
 
 都は泣き出しそうだった。  
 後ろ向きでいることに救われる。嬉しさに溺れ切って眠りたいが、いまはまだめくる  
めく時間の途中にいる。  
 しばらく首筋の責めに耐え、また背中への責めに狂いそうになったとき、弟が言った。  
「もう一回いくよ」  
 弟はいいか、とは問わない。都が拒まないからではない、宣言しただけだからだ。  
 都の意思がそこに入っていなくてもかまわない。巧の言う通りこれは『右手の埋め合  
わせ』だから。  
 完全に同じ大きさと硬さを取り戻したものが、大きく都の中を動き始めた。  
 せいいっぱいその動きに応えて、弟のために腰を絞る。  
「巧、そ……それ」  
 さりげなく、よかった気がする動きに言葉で応える。巧がそれをどう思うのか少し不  
安だ。が、驚くくらい早く、巧はその動きを都に再び与えてきた。  
「あ、う……ん、あ……」  
 背中の時のようないい気持ちだとは言えない。が、その動きが都の、巧が中で動いて  
いるという実感をとても味わえる動きなのだと、なんとか弟に伝えたかった。もし今日  
が終わってしまって二度と巧に抱いてもらえないのなら、今しか伝えられない。  
 都は声と身体を使って饒舌に快感を表した。  
 恥ずかしがるゆとりはなかった。  
 
 悠然と突き上げてくる弟のものが考えることを徐々に奪っていく。  
   
 *  
   
 姉が受け止め方を覚え、応えてくるようになったことが巧は少し気に入らなかった。  
 でも巧も繋がり方にコツを覚えはじめて、快感をだんだんうまく引き出せるようになっ  
てきた気がして、それを快く思いはじめた。  
 ふたりの息が合っていく。身体が合いはじめている。  
 もちろん普通に繋がるより難しい行為を続けているせいで、消耗も感じはじめていた。  
 きつくならないように早めに呼吸を落ち着け、動ける時は激しく姉の尻を貪っていく。  
 その間隔の取り方も姉は覚えようと懸命に腰を振っている。  
 巧が他の全ての愛撫をやめていたにも関わらず、姉はアヌスでの快感を得ているんじゃ  
ないかと思えるほどに、反応を見せていた。  
 アナルセックスの快楽は膣の性感帯を裏から刺激しているに過ぎないと巧は想像して  
いたのだが、そうでもないのかもしれない。  
 このまま姉のアヌスを開発してしまえるなら、こんな男としてくすぐられることはあ  
まりない。そう思ってしまって、思い直す。  
 自分は欲求さえ満たせればそれでいいのだ。美人を自分の肉棒で狂わせる、ただ男と  
して素直にそれを嬉しく思うだけだろう。  
 日が暮れようとしていた。  
 
 真っ暗闇になるまで繋がり続けていた。  
 姉はあまり嬌声はあげなくなり、お互いの息づかいだけが部屋に充満していた。都の  
尻に打ち付ける巧の腰がぴち、と音を立て、また、繋がっていないところから延々と吐  
き出されている蜜液が、ふたりの身体が擦れあうとき、にちゃりと鳴る。  
 終わったら果して立ち上がれるのだろうか、と巧は思った。  
「そろそろ出すよ」  
 巧が言葉と同時に激しく動き始めると、都は多少の苦悶を見せ、快感からは離されな  
がら、巧のものを身体の中に受け止める瞬間を待ち望んだ。  
「ちょうだい……巧の……」  
 そんな言葉を悩ましく言われて、巧は何も考えられなくなって、それでも姉を傷つけ  
ないようにまっすぐな出し入れを続けて、突き込んだままイッた。  
 イく瞬間にはやはり力まかせに姉を抱き潰し、一番奥に注ぎ込もうと懸命に腰を突き  
出した。ビクッビクッと送り出すたびに姉の身体の中と意識し、心が震える。  
「はあ、はあ、はあ……くそ、まだ……」  
 呼吸が整いにくくなってきたが、まだ空っぽになっていない。  
 性欲が空になるまで、姉の中にいるつもりだった。空にして、環が帰ってくるのをい  
つまでも根気よく待つ。  
 さすがに一度身体を休ませようと、腰を引いてぬるりと抜き出した。二度出したその  
中に浸かっていたものだ。どろどろになっているのをティッシュを取り出して拭い、姉  
の横にどさっと身体を落とした。息が整えばすぐにでもまた味わいたい身体と隣でひっ  
つきあっている。  
 
「巧、やだ、やめないで」  
 都は終わりにされるのを怖れてか、巧に向いて首にすがった。  
 初めて前を向いた都の裸は、疲れを吹き飛ばして余りあった。片方の胸を押し付けら  
れ、巧は頭に血が昇る。  
「すげーよ、本当に前も後ろも女の身体なんだな、姉ちゃんなのに」  
 うわずった声で認め、考える前に左手で胸を揉んでいた。さほど大きくはないが、綺  
麗にまとまった形をしていて、中央にイチゴのように突き出した小さな蕾も巧の琴線に  
触れ、感触を確かめようと何度も指を使って揉みしだいた。  
 いつまででも揉んでいたいという欲望になんとか歯止めをかけ、かわりに唇で追いか  
けた。うまく口に含めずにぷるんと横に逃げたそれを狂おしく追い詰めた。舌で押さえ  
てから吸い付いていく。  
   
 *  
   
 都はいまだ欲情している弟をピリピリと感じ取っていた。  
 惚れた相手に女と認識されている喜び、根源的な幸福に胸を詰まらせる。  
(本当に、どうなってもかまわない)  
 もう身体のあちこちが痛くなっていたけれど、それもかまわない。巧のくれる快楽は  
変わらない。揉まれている胸のあまりの気持ちよさに吐息がこぼれ、知らず身体を巧に  
押し付けていってしまう。自分の手となにがそんなに違うのかわからない。巧の手は都  
のどこに触れてもそこを性感帯にしてしまうみたいだった。  
 
 罪深さに押しつぶされそうだった病院でのくちづけ以来、初めてその罪に見合うだけ  
の快楽を手に入れられた気がする。  
 巧の手は胸だけに止まらず、都の身体中を這っていた。その後を唇と舌が追ってきて、  
都に狂わんばかりの快感をもたらした。  
 巧が自分のことを気遣わず、ひたすら巧自身の欲望を満たすために都の身体を貪って  
いるのが、奇妙に嬉しかった。  
(巧は、満ち足りたらいなくなる? それともいてくれるの?)  
 もうそんなことはどうでもいいのかもしれない。  
 今弟に抱かれているのは自分であり、それは現実だ。  
「もう一回」という巧の宣言を受け入れ、身体を開いた。何度も身体の向きを変えさせ  
られ、巧の望むままに欲しいものを与えていく。そして自分も与えられる。  
 初めて仰向けで巧の体重を受けた。  
 胸を熱く吸われながら巧の背中に拙く両手を這わせる。  
 暗闇の中で見えないはずの巧のものが見えたような気がして、ぞくっと身体を震わせ  
た。でも、前からなんて入れられるものだろうか。  
 巧の身体が都の上から退き、かすかに不安になったとき、両足が抱え上げられ、巧の  
両肩にそれぞれ乗せられたのに気付いた。そのまままた進んできた弟の身体が、自分の  
太腿の裏側にぴったりとくっつくのを、痺れて受け止めた。  
 
 見えないのにとても恥ずかしい思いをしている。そういえばここまで一度も恥ずかし  
いと思わなかった、とおかしくなる。  
 巧が指で入り口を探るのを感じ、期待にまた痺れた。  
 たった一度だけ、濡れそぼったもうひとつの入り口を触られた。その感触を、切ない  
思いをしながら封じ込めた。それを求めてはいけない。やがて、巧のものがアヌスにぬ  
るっと押し付けられた。弟のそれは激しく濡れている。  
 足を上に押し上げられて股間を弟の方に向けているという、絶対に見られたくない姿  
勢のままで、再び侵入してくる弟に歯を食いしばって耐えた。  
(〜〜〜っ!!)  
 さっきまであれだけ中で動かされて、都自身も受け入れていたのに、また圧迫感が甦っ  
ている。最初の傘の部分を過ぎると多少楽になるが、一度抜かれたせいでまた元に戻っ  
てしまったようだった。広がっていくそこを、少し怖くなりながらも待ち焦がれた出来  
事として、愛おしむ。  
 挿入が深まっていくのにあわせて、お尻は大きく持ち上げられ、背中がしなって悲鳴  
を上げる。広げた両手で踏ん張るようにシーツをきつくつかんだ。  
 下半身の不安定さが感覚に揺らぎを生み、だんだんとさっきのようなやるせない感じ  
に変わってきた。いや、さっきよりも早く奇妙な感覚に巻き込まれていく。  
 弟のものはもうさっきより確実に都の奥の奥までを満たし、灼けるような性感を生み  
出しはじめていた。  
 
 *  
   
 姉を何度も裏返し、こころゆくまで感触に溺れる。  
 とにかく気持ちよくなりたいのだという気持ち。  
 気持ちよくなりたいから、できるだけそれ向きの女の身体を自然と求める。  
 エロチックでさえあればこのさい姉でもかまわない。そういうレベルまで認識力が落  
ち込んでいての蛮行であれば、後で一人前に落ち込んで土下座して謝って、そんな決ま  
りごとのようなルートが用意されている。それを望むかどうかは別として。  
 自分はどうなのだ。  
 姉を犯せるのならもうなんでもいいのだという気持ち。  
 最初に心のどこかにあった仕返ししたい気持ちはきれいさっぱり消え失せた。  
 過剰な暴力をふるってきた姉を組み伏せ、抗えない快楽に悶えさせて思い通りに扱う、  
そんな快感は、いざ実現してみるとまったく違った感慨を巧の中に生み、惑わせている。  
 あと一回出したら終わりだと思って、限界まで姉を折り曲げた。  
 そうして手さぐりで穴の位置をつきとめて、間違わないようにゆっくりと腰を進めて  
いき、挿入した。  
 姉が声にならない声で苦痛を訴えるが、気付かないふりで動きに専念した。  
 激しく突き上げる。  
 ほぐしたときの余韻を残していたアヌスが徐々にまた巧の肉棒を力強く締め付けはじ  
め、出し入れの動きに加わる快感を高めた。  
 
 姉の太腿を左手に抱き込むと、やわらかさにうちのめされた。その胸も、背中も、足  
も、しなやかでやわらかなすべて自分が汚している。  
 姉が下から懸命に両手を伸ばしてきて、巧が腰を押し込むのに合わせて引き付けよう  
とし始めた。自ら自由にならない股間を巧に合うように傾ける。本当に懸命に。  
 そうだ、そうやって俺の望むままに動け、と動きを加速させた。  
 上体をさらに突っ込ませて、姉の太腿を胸元にまで押し付けて突き続けた。深く潜り  
込ませるたび、気の遠くなりそうなくらいに気持ちがよかった。  
 でもまだ余裕がある。  
 その余力を全て使って姉の後ろの性感を呼び起こしたい。無理でもその欲求のために  
動きたくて、姉の反応に注意を向けた。  
(姉ちゃんは俺にしか許さない。そして、俺だけが姉ちゃんをイカせるんだ)  
 男は女をイカせてなんぼ、というのはあくまで男にとってのステータス基準だ。愛し  
あって与えあうというのとは違う一方的な欲望。だから今の自分にはふさわしい。  
 腰の動きに合わせて胸を揉みしだいた。  
 さらに、目の前にある姉のすねを唇と舌で舐め上げる。  
 こだわってこなかった姉の二の腕や頬、頭にも手をのばして指の腹を滑らせる。そう  
やって全体を高めてやればかなりの手助けになるんじゃないかと考える。  
 そのせいかどうかはともかく姉は、巧が一番奥に突き上げると妖しい声を上げるよう  
になり、絶え間なく全身を責め続けていくと、首を振り乱してなにかに耐えるような仕  
草を見せ始めたようだった。  
 
(ひょっとしたらひょっとするのか)  
 たぶん一番求めていたものを手に入れられる予感が、巧に起こった。  
 どんなイレギュラーな形であれ、姉を絶頂に追い上げて快楽に泣かせることができる  
なら、巧の今日の行動は、行為全部が意味をなすのだ。  
 そこから、巧が愛撫をやめて接合に集中しても姉の激しい反応は衰えなかった。髪が  
シーツの上に乱れ、泣きじゃくるような切迫した表情をおそらく見せているだろう。見  
えなくても闇の中に感じることが出来る。  
 巧はこの時今日最もきつく肉棒を硬直させていた。これ以上血が流れ込んだら破裂し  
てしまいそうなくらい膨れ上がり、欲望の面積を増やしていたのだ。  
 最も姉の反応の乱れる角度と深さをここだ、と確信して狙いをつけた。  
(イけ……イけ!! 姉ちゃん)  
 イかない姉を責めるように攻めた。  
 狂おしいものがいつものように背中を駆け上がってきた。その波の大きさだけがけた  
外れだった。  
 それ以上の努力はいらなかった。姉が叫び声をあげるように激しく巧を抱き寄せよう  
として、抱き寄せられなくて、暴れていた。間に自分の足があるのだ、無理だ。  
(イかせた……のか)  
 巧は、限界まで姉の中に突き上げ、強烈な締め付けを根元に味わいながら、最後の一  
撃を姉の中に叩き込んだ。  
 姉の身体の奥底に、何度も何度も、最後の一滴まで吹き上げた。  
 
   
 都が服を身につけたのを確認をとって、巧は部屋の電気をつけた。自分ももう普段着  
の格好に戻っている。  
 振り返って姉の目を見ることなどできなかった。  
 なのに強引に前に回り込まれ、都に優しく覗き込まれてしまった。  
 どちらもなにも言わない。  
 物心がついてからこっち、姉のこんなにも幸せそうな顔は見たことがない、と思った。  
 なにか取り返しのつかないことをした、それだけはわかって、巧はその場に座り込ん  
でしまった。駄目だ、泣いてしまう。  
(これじゃ……環さんに顔向けできないよ)  
 抗う間もなく涙がボタボタと床に散った。  
 絶対見てはいけない顔だった。たったそれだけで巧は絶望した。  
 一生忘れられない。  
 胸がつぶれてしまいそうになり、呻いて転がった。姉のこともなにもかも意識から放  
り出してしまって、心が圧壊する。  
   
 *  
   
 巧は、夜だというのにどこかに出かけてしまっていた。  
 残された都は微睡みの中で不思議な夢を見る。  
 
 小さな子供を抱いている自分、誰もいない寂しいところで暮らしている、風のない静  
かな静かな場所、そのうち耳が聞こえていないことに気付き、外に出てまぶしさに目を  
閉じると目も見えなくなる、音も光もない、でもまったく不安も渇望もない真なる静寂。  
 玄関のベルが鳴った気がして、都は気だるく身体を起こした。立ち上がろうとして、  
身体の中心に走る激痛に全身を強張らせて崩れ落ちた。  
 ベルがもう一度、鳴った。  
 なんとか部屋の入り口まで歩いて、階段もひょこひょこ奇妙な歩き方になりながら、  
なんとか降りていった。痛みがおさまらなかった。  
 誰が来たのかはわかる。  
 誰かが応対するまで待っているだろう。少し身体を落ち着けてからでも大丈夫だと思っ  
たが、都は力をつくして玄関に降り、ドアを開ける。  
「こんばん、わ……」  
 うつ向き加減の環が照れくさそうに都を見た。  
 
 
 

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