「クリスマスは最低だ、生涯独り身の俺には特にな」
「いやいや……クリスマスってのはやっぱ良いなぁ……俺もさ、あいつとしちまったぜ」
「認識こそが自分の世界を作る。なら……今この瞬間に俺が童貞だと言う記憶を、俺から消す。つまり俺は、童貞ではない」
「はぁ?」
「そして、お前は童貞だ」
「いやいやいや」
「お前は童貞だ」
「違うって言ってんだろ」
「証拠はあるのか」
「だから、昨日の夜に遠音と……」
「そうか……もしもし、トォか?」
『……なに?』
「昨日の夜、おまえ何してた」
『なっ、なっ、なにも……!』
「じゃあ、誰といたんだ?」
『一人……』
「本当だな?」
『……うん……』
「よし。ありがとう。さて……証拠、無くなったな」
「な、何を……俺はたしかに……」
「自分の供述が証拠になるなら、世界に犯罪者なんていなくなるよ」
「じゃあ……どうすれば……」
「他の証拠を出せば良い。俺はお前の真実を見付け出してやりたいだけなんだ……」
「他に証拠なんて……」
「なら、お前は童貞だ! 自分の寂しさや情欲に負けて、妄想と現実が裏返ったみっともない男だよ!
現実を見ろよ、女も男も何を考えてるかわからない、肝心な時には助けてくれない、ぬくもりをくれない……二次元と何が違う」
「……でも、遠音は……」
「トォ、か……遠音は、おまえに童貞じゃないと、そう騙していた女だぞ? 騙されて、それでも信じて、また騙されるのか? それで良いのか……?
もしかしたら幼馴染みだという事すらトォの騙りかもしれんのだぞ?」
「よく……ない……」
「なら、どうしたら良いかわかるな」
「……別れる」
「そうだ、それで良い。いつかきっと、おまえを騙さない奴が出てくるさ……俺はおまえの味方だからな。
それまではほら、このスレを見ながらもみの木をどうやって切り落とすか考えようぜ?
クリスマスだからな、多分すんげぇぞ?」
「……ああ!」
「いや……待て待て、いくらなんでもアレだ、無理があるぞ」
「何が無理だ、現実から目を背け、素晴らしく甘美なこの桃源郷を共に目指そうじゃないか」
「だいたい、遠音が嘘を吐いてたと決まった訳じゃ……」
「仮におまえの話が本当だとしたら、トォが俺に嘘を吐いている……そんな女を信じるのか!?」
「いや、まあ……うん」
「なっ、友情なんて外来記念日の前には紙クズ同然なのか!?」
「そうは言わないけど……はい?」
『あ、もしもし? 昨日の事誰かに話した?』
「ん? いや、別に」
『そう……へへ、良かった』
「なあ……あのさ」
『なぁに?』
「俺達ってさ、幼馴染みだよな?」
『はぁ? 当たり前でしょ』
「証拠とかさ、その……あるかな?」
『バカな事言って……昔写真取ったでしょ』
「え、あ、マジだ」
『保育園が同じで、卒園の時のも色々残ってるでしょ?』
「うん……あの時、おまえは将来お母さんのお嫁さんになるって言ってな」
『あはは、なつかし〜。今じゃ……』
「そうだ、今から会えるか?」
『大丈夫だけど、明日も会うじゃない?』
「今、会いたいんだ」
『わかった。待ってる』
「それと……好きだよ」
『はいはい、私もよ』
「……じゃ、行ってくる」
「へいへい。……俺はちょっともみの木切ってくるよ」
彼がもみの木を前にした時、奇跡が起きたのだが……それはまた別の話。