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 敷居をまたぐと、都はベッドの掛布団の上に、うつ伏せで枕に顔をうずめていた。  
 はだけたブラウスとスカートの下は素足で、靴下が床の上に適当に脱ぎ捨てられてい  
る。投げ出された身体が、暗やみの中で、ぼんやり光って見えた。  
 巧が近づくと、都の両手が縮こまるように枕を抱え込んだ。  
 長い髪が大きく広がっている。まるで今交わっているようだ。そのときの姉の姿その  
ものだ。まだ手も触れていないけど、都はすでに巧に抱かれているのだ。  
 環の奇襲で吸われてしまったが、巧はすでに鉄柱だった。  
 二人まとめて「もうだめ」と言わせて、まだお釣りがきそうなぐらい鉄柱だった。そ  
のエネルギーを全部使って姉を抱けるのだ。  
 頂点の夜の記憶は薄らいでもいない。巧は、あの姉にもう一度腕の中で出会えるとい  
う期待に震えた。一瞬。昔巧たちの前で、中学校の制服を初めて着てみせた、恥ずかし  
そうな姉が、視界によぎった。  
 心の余裕がないというのは正にこういうことだろう。巧は、いきなり姉のスカートを  
めくって、舌先でその部分を捉えた。  
 にちゃりと透明な音がして、瞬間くぐもった嬌声が空気を裂いた。  
 環がそれに反応したような気がした。  
 
 都は巧の舌に恐ろしいまでの反応を見せていた。巧の脳裏に、さっきのあふれていた  
環の股間が蘇る。同時に二つの女の身体を狂わせる興奮。巧は、のたうつ姉のブラウス  
の背中を両手で押さえると、舌先に全神経を集中して姉の内側をえぐった。息のできな  
い、無理のある体勢をすぐに諦めて、お尻だけを持ち上げて前に押した。都の背中がい  
っぱいに反る。巧は舌だけで姉の股間を押していた。  
「んうっっっっ〜っ!!」  
 都の、可聴域を越えた高音を含む叫びが、巧の身体をも灼いた。  
 さすがに攣りそうになった舌の代わりに、巧は口全体で姉の股間を吸った。  
 そのまま両腕全体で姉の尻を抱え込んで、徐々に吸引と舌を使ったしつこい責めに変  
えていく。姉の性感を休ませるつもりはなかった。  
 余裕のできた片手は背中に這わせ、もう一方を都の下腹部の茂みへ忍ばせる。吸うの  
をやめて舌の腹で念入りに襞を擦りとった。  
 
 姉の腰が崩れそうになると、また両手を戻して支え上げる。そしてまた責めを分散さ  
せる。手を入れ替え、刺激に緩急を加えて予測の外を行き続けた。  
 都はことごとくに全身で反応した。  
「んん、んっ!」  
 都が自ら腰を持ち上げ始めると、刺激を太股や尻の丸みに逃がす。そして腰を引きか  
けたところへまた刺激を擦り込んで行く。都はそのひとつひとつに震えて耐える。かと  
思うと動物的に大きく跳ねる。淫らな下半身の動きは、巧をただ酔わせた。  
「んうっ、ん! うんん……」  
 都の声を聞きながら、ころあいを見て、巧はまずシャツを脱いだ。  
「ふ、ん、ん、ぁん、んっ」  
 闇に慣れた巧の目は、カーテンの隙間からのわずかな光で、姉のすべてを捉えていた。  
青白く浮かび上がった背中のラインが、一定のリズムでうねる。  
「はっ、あ、……あっ、う、んっ」  
 感覚に余裕があるときには、都は頭を浮かせて荒い息づかいを巧に聞かせる。そして  
それがまた巧の次の責めの呼び水になる。  
「んあっ!」  
 何度か上げかけた声は、すぐにくぐもった喘ぎに変わった。  
「んっ、うんんっっ」  
 巧は姉が催促するのを待っていた。  
 
 そして、巧が弱めた刺激を追いかけるように、姉の白い尻肉がもどかしく左右にくね  
るのを巧は確認した。  
 巧はもう初心者ではなく、今自分がやっていることをしっかり意識していた。姉の腰  
を押して布団に落とし、うつ伏せの尻の上に体重を乗せていく。経験で知った、最高の  
快楽を得るための姿勢。そこから巧は姉の背中を責めた。  
『弱点』を這い回る熱い舌に、都が上体をのけ反らせる。それでも枕を離さない。巧は  
快楽のつぼを掘り続ける。刺激が、今まで無刺激だった上体へ集中したことで、都の身  
体は混乱に陥る。  
 背中だけでイケる姉を、巧は丹念に舐めあげた。巧が舌を離す度に都は震えた。  
 
「あっ! あ、はっ、んんっ」  
 漏れ出る声の大きさが巧にはたまらない。姉の背中にのめり込む。しつこく、何度も  
姉の上で働いた。  
 ついに都はダイレクトに鳴いた。  
「あ、あ、ああっ、いやっ! んあ、い、いっ!」  
 その呼吸は荒く、全身で感覚の急上昇を訴え始めていた。ここからイクまでの都を見  
てからそこに溺れたいと巧は思う。首を打ち振る都の髪は激しく乱れ、巧はなんどもそ  
れをかき上げた。背中を責めながら、初めて指を秘裂に送り込んだ。  
 熱した泥流の渦。そこへゆっくりと中指を差し入れ、引き抜く。ゆっくりと差し入れ、  
引き抜く。もう内側を軽く擦るだけでよかった。  
 イキはじめた都の身体は、押さえつける巧の下で暴れ、巧はそれに耐えて姉を責め続  
けた。  
 寸前の叫びが消失したときが、頂点の瞬間だった。  
 突っ張った両足と縮めた両手を完全に硬直させている姉を見て、巧はすかさずベッド  
サイドの膨らみすぎの箱に手を伸ばした。無理やり詰め込まれたのを一つだけ取り出す  
のに難儀し、力任せに引っ張るとばらばらと散らばってしまった。なぜかミシン目が全  
部切り離されているのだ。考えるのは明日の朝にして、巧は裸になると、迅速に『儀式  
』を終わらせた。すぐさま姉の、硬直が解けたばかりのところへ埋め込んでいった。  
 
 §  
 
 これに都が上体を跳ね上げた。  
 やや身体を傾けていて、うつ伏せの身体のお尻と背中に弟の肌触りを感じるや、いき  
なり股間に膨れ上がる圧迫感に跳ね上がった。瞬く間に全身を突き上げる快感に、都は  
身をよじっていた。  
 巧はある意味幸福の絶頂にあった。それは姉を、環を抱く度に訪れるものだったが、  
飛び抜けていた。理由を考えるまでもなく環の扇情的な立ち姿が浮かんだ。  
 硬さを測る方法があるなら、数値を記録に残したいくらい硬いのがわかる。  
(モース硬度とかで測れるのかな?)  
 それを姉に与えられるのが誇らしい。馬鹿みたいだが、そういうものだ。  
 
 巧は姉に絡めとられるままに肉体を委ねていた。イッたばかりの姉の全身の火照りが  
心地いい。軽く抱きしめながら形を確かめる腕の中で、熱く、柔らかく、都の身体は巧  
の望むままの肉感を与えている。  
 巧の剥き出しの感覚すべてが、姉を味わうことに酔っていた。律動による即物的な快  
楽を忘れてしまうほどに、肌がなじんだ。  
 
「どうして動かないの」  
 姉の咎めるような声を聞いたとき巧の中でセーフティが外れた。溜め込んでいたもの  
が一斉に腹の底から突き上げてくる。  
「なんでだと思う?」  
 巧は意識的にはっきりと声に出した。満足に動かせないのを承知で、その位置から奥  
へ腰を押し込む。髪を緩くかき分けて首筋に軽く口付けると、そのまま脇から前に腕を  
回していった。姉を両手に抱え込んで、力を込めていく。全身を押しつけると、せり上  
がった姉のお尻の肉が、余すことなく巧の下腹に密着する。  
 どちらかというと浅い挿入だったが、都は巧の体重を完全に受け止めていた。足を閉  
じた都の下半身は、巧のものを根元まで、しっかりと包み込んでいた。  
 さらに都が催促をした。  
「動いて」  
 巧は、姉が締めつけてきたのに気付いた。気付くどころか、気を抜いたらそれだけで  
持っていかれそうな、たまらない肉壁の感触だった。都はすでにそれが弟に対して武器  
になることを知っている。だが、巧はまだ姉に溺れずにいた。  
 巧は、どことなく張り詰めた空気の中に、環の視線を感じている。  
 見られているわけではない。  
 熱い息を吐く姉は、今巧を虜にしようとしていたが、それ以上に、恋人を辱める興奮  
が巧にあった。それが、姉に対する直接的な行為とは違うベクトルで、巧をつき動かし  
ていたのだ。  
「動いて」  
 お尻を振ったり、締めつけに強弱を加えたり、都は満たされない快楽のために恥を忘  
れて巧に訴えかけた。それに応えるのは簡単なことかもしれない。姉と環への二つの欲  
情が、巧の中でせめぎあう。  
 
(早く突きたい。姉を狂わせたい。姉の身体にぶちまけたい)  
 その欲求には嘘偽りがなく、だからこそ巧は今、姉の身体を使って環を抱くことがで  
きると思った。環のすぐそばで環を忘れる。姉に溺れなければ、それは成し得ない。  
 そして――  
 巧はその時確かに、環の微かな息遣いを聞いた。  
「始めるよ」  
 環に言った。都の身体が、巧の腕の中で熱く踊った。  
 
 §  
 
 隣の都のベッドが一度大きく軋む音を聞いて、環は反転して、布団の中でうつ伏せに  
なった。  
 両手両脚を開いた。脚を開くとき、シーツの上に熱いものが、どうしようもなく広が  
っていくのを感じた。  
(明日はまず洗濯だー……)  
 どれだけのものを洗うことになるのか、まだわからない。  
 環に出来るのは、巧の言いつけを聞くことだけだった。  
 やがて、くぐもった微かな声を聞いた。  
 それが親友のよがり声であることは疑いがなく、環は初めて接する都の本当の姿に胸  
を熱くした。だが、それ以上のことは全くわからなかった。  
 欲情したまま、自分で慰めることも出来ない環には、気を紛らわせる方法はない。む  
しろ環は、巧の教えてくれるものにもっと向き合いたかった。  
 ベッドの軋みも、衣擦れの音も、息遣いも、すべて洩らさず感じ取ろうとした。  
 裸のままの身体がシーツに触れる新鮮な感覚にも助けられ、神経が研ぎ澄まされる。  
暗闇では音は雄弁だ。足りない情報が記憶に補完されて、環の身体は、都とシンクロす  
るように巧の『愛撫』に震えた。  
 両手でシーツを握り締めて、都の声を聞いた。不器用で乱暴者で意地っ張りで、でも  
誰よりも美しい同級生。彼女が今、巧に狂わされているのが、はっきりとわかる。  
 巧がシャツを脱ぎ捨てる。都の身体を押しつける。わかるときにははっきりとわかっ  
た。そして脳裏に再現する情景が、環の胸を灼く。そして、  
 
「始めるよ」  
 突然、そう聞こえた。  
 
「あ……うあ、ああ……ん、あ、あ! あ! ……あ!」  
 都が鮮烈に鳴いた声は、環をも狂わせた。  
 リズミカルに肉を叩く音。後ろから巧が都を貫いている音。  
 チュッ、チュッ、とついばむ音。巧が都の首筋を吸い上げる音。  
 呼吸を整える、愛しい巧の息遣い。  
 嬌声は、ときに悩ましい口づけに取って変わる。  
「んっ、んっ、んっ、んっ」  
 抉られながら、唇は吸いあう。  
 お互いを呼びあうのも一度や二度ではない。  
 ギシリとベッドのスプリングが鳴って、二人の体位が変わるのを教えた。  
 すぐに都が声を上げ始めた。  
 肉を叩く音よりも交接する二人の水音がよく響く。  
 さらにベッドが軋んで、そのままギシギシと大きく軋みはじめた。  
 強く弱く、都は弾けた。  
 
 壁を挟んで向こうにいる巧に、環は犯されていた。記憶の中の巧のオスが、環の脳内  
で膨れ上がった。声も出さず、何にも触れられもせず、環は巧に応える。環の代わりに  
都が嬌声を上げさせられ、環の代わりに都が巧に貫かれている。  
(して、して、して、奥がいい、一番奥、入口の上と、後ろからも、横からも)  
 都の声を触媒にして、巧はうつ伏せで耐えるだけの環を犯し抜いていた。  
(奥、奥、全部、もっと……)  
 隣の動きが速くなると、環の呼吸も苦しくなった。だが、やはりイクことはできそう  
になかった。入れて欲しいと言うことはできない。  
 堪えて、二人の声を聞き届けようとした。  
「は、う、あ、あ、いやっっ!」  
「姉ちゃん、ほらっ」  
 巧の声が心臓に届く。「イッていいよっ、ほら、イッて、…………イッて!」  
 
 巧がそんなことを言うのか。  
 巧の声の強さに環は震えた。イケないはずの身体がマグマを吹き出した。巧の言葉に、  
一番奥を激しく抉られていた。  
「放さないで、放さないで! 巧、私っ、私っ、い、いやっ、イク……い、いやっ、あ、  
……あ! …………っあ!!」  
 都の絶頂の声を、環は、魂を震わせて聞いていた。  
(――巧くんがまだイッてない)  
 環の身体はシーツから糸を引いて、浮き上がった。  
 その瞬間、オスの満足感を含んだシンプルな声が、環を貫いた。  
「い、いく……」  
 都が余韻の中で追随するのを、環は認識できなかった。すでにめくるめく陶酔の中に  
放り出されていたからだ。  
 
 §  
 
 環は、かつて味わったことのない特別な幸福の中にいた。何が起こったのか、自分が  
どうなっているのかわからない。イッたのかどうかもわからない。ただ自分が幸せだと  
それだけは思う。なぜ思うのだろう。自分は今涙を流しているというのに。  
 そこで泣いている自分に気付いた。  
 理由は全くわからない。嬉しいというのと、何かが違う。でも、これだけははっきり  
している。身体の一番底に刻みつけられた感覚を、環は反芻した。  
(もう絶対、巧くんから離れられない)  
 
 だが、まだ早かった。  
 環はこれで解放されるわけではなかった。  
 隣で、またギシリとベッドが鳴る。環の耳に入ってくるのは、巧が都をいたわってい  
るというような音ではない。  
 環に判別できるのは、愛撫の水音。期待を含んだ都の甘い吐息。そしてピリ、とスキ  
ンの袋を破る音。  
「始めるよ」という巧の声が聞こえる。  
 
 

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