さて、読者の皆さんは交通事故に遭ったことがあるだろうか?  
私事だが、作者はよりによってフネを沈めかけたことがあって――そのあと3日ほどは  
明らかに異常な精神状態だったし、今でも夢に出る。  
 
 しかし、平和な状況での事故と異なり、今のスーザン・パーカーの心の中に渦巻く感情  
は、敗北や挫折、屈辱と言ったものだった。  
元来がきわめて活発的である彼女にとって、これはまさに究極の挫折だったのだ。  
 彼女は以前にも撃墜されたことがある。  
しかしそれは、圧倒的なソヴィエト軍の奇襲に対する、英雄的とすら言える抗戦の果てに  
訪れたものであり、少なからぬ戦士が密かにあこがれる、栄光の敗戦だった。  
 
 今回は、完全に彼女のミスだった。  
命令を無視して先走り、敵の戦力を軽視したあげく、国王陛下の戦闘機を喪い、自らも  
虜囚の身となった。  
身の程知らずな正義感を膨らませたあげく、行き着く果てがこれだった。  
 
 すべての戦闘機パイロットと同様に、彼女も、捕虜になることを想定した訓練を、嫌に  
なるほど受けていた。  
しかし、どんな訓練も、この屈辱感までは再現できなかった。それがどれほど有害かと  
いうことは散々叩き込まれていたが、しかしどうすることもできなかった。とくに彼女の  
ように、人一倍自尊心の強い女にはなおさらである。  
 
「ファック」  
我知らず、彼女は短く悪態をついて、  
――その残酷なまでの皮肉に、危うく吹き出しかけた。  
これが彼女の強みだった。  
彼女が自分を笑えない女であったなら、とうの昔に、正気を失ったパイロットの名簿に  
名前をつらねていただろう。  
 
 しかし、彼女の置かれた状況は、笑い飛ばすにはあまりに深刻で、切迫していた。  
“准将閣下が…ご自身で尋問することを希望しておられる…”  
それを想像すると虫唾が走った。  
戦闘機乗りの通弊として、彼女は極めて自尊心が強い。汚されるくらいなら死ぬことを  
選びかねない。  
だがそれは、その自由があれば、の話である。今の彼女は、自らに対する凶器すら取り  
上げられた、無力な一人の女に過ぎない。  
 
 頭上の明り取りから落ちる月光が雲に遮られ、消えた。  
彼女は我が身をかたく抱き締めた。  
冷たく硬い壁の感触が背中に伝わってきた。  
 
 怖ろしくて、心細くてたまらなかった。  
夫の待つ家へ、その腕の中に帰りたかった。  
涙が流れそうになるのを必死でこらえた。  
(泣いてる兵隊なんか、誰も助けちゃくれないんだ…)  
そう自分に言い聞かせ、そして無力さを噛み締めた。  
(あたしを助けて――助けてよ、セルゲイ…!)  
 
 どれくらい、そのままでうずくまっていただろうか。  
獄舎の扉が開く音が唐突に響き、彼女はびくりと身を震わせた。  
足音が近づいてくる――複数、たぶん2人。  
そして、彼女の独房の前で止まった。  
彼女は立ち上がり、涙を拭って、拳を握った。  
ついに来るべきときが来たのだ。  
例えかなわないとしても、抗ってやろう。この体が動く限り。  
 
 
 耳障りな音を立てて鍵が解かれ、扉が開いた。  
入ってきた男たちには見覚えがなかった。  
しかし、その目には見覚えがあった。興奮に濁り、邪な喜びに輝いた目には。  
その一人が一歩踏み出した瞬間、彼女は声の限りに絶叫した。  
相手がひるんだ刹那、彼女は弾かれたような勢いで飛び出した。  
そいつの懐にまで入り込んで喉笛に拳を突き刺し、股間に膝を叩き込んだ。  
 
 先手必勝。それが彼女の目論見だった。持ちこたえられればアロンソ大尉が来るだろう。  
この連中の行動が彼の意図とは思えない。  
それには、まずは彼女が容易ならぬ相手であることを教えてやらねば――  
 
 だが彼女は所詮はパイロット、常人より訓練は受けているものの、近接戦闘の専門家で  
はない。そして彼女は万全の状態ではなかった。  
喉笛に鋭い一撃を食らった男がよろよろと後ずさり、彼女が体を回しかけた瞬間、  
降下時に傷つけた脛の痛みに、一瞬体勢が崩れた。  
その瞬間、もう一人の男の足が彼女の腹を捉えた。  
息がつまり、視界が暗くなった。  
「この売女が!」  
うずくまった彼女の背中に蹴りを入れる男に、最初の男も加わった。  
無抵抗なはずの女に噛み付かれ、怒りくるってはいたが、大してこたえているようには  
見えなかった。  
体重が軽い上に、傷つき疲労困憊した彼女の攻撃は、思った以上に効果が薄かったのだ。  
おしまいだ。彼女は目の前が真っ暗になった。  
しかし、それは所詮、はじまりに過ぎなかったのである。  
 
 一人が布きれを彼女の口に押し込み、上体を押さえ込んだ。手早く両手を頭の上で縛り  
上げ、コンバット・ナイフを抜いた。銀色の輝きに、彼女は凍りついた。  
「身の程を知りな、雌犬」  
男はにたっと笑い、そして、無造作にナイフを動かした。  
彼女ははっと息を呑み、大きな麻のシャツがはらりと落ちて、白い裸体が月光の下に晒された。  
「小せえな」  
彼らは彼女のバストに不満だったようで、乱暴に掴み、もみしだいた。  
ごつい手の感触と痛みに彼女は喘いだ。  
「おい、感じてやがるのか? この雌犬が」  
「白人女は淫乱ってのは本当だな、おい」  
そう言いながら、もうひとりもナイフを抜いてパンツに引っ掛けた。  
「嫌、やめろ、糞ったれ、やめなさいよ…!」  
彼女はわめいたが、あいにく口につめこまれた布切れのせいで言葉と聞こえない。  
さんざん暴れる足を、こともなげに掴んで押さえ込み、男はパンツの前を一気に切り裂いた。  
「おいおい、雰囲気ねえな、淫乱女のくせによ」  
男はその奥のスポーツ・パンティーの下に刃を通し、冷たい感触にスーザンは怯えた。  
彼女の最後の防壁は、しかし、あっけなく裂かれて床に落ち、彼女の金色の茂みは外気に  
晒された。  
彼女は必死で脚を閉じようとしたが、男の手が偶然に脛の傷を掴んで、激痛が走った隙に  
力が緩んでしまった。  
無様に脚を広げられて、彼女はますます激しく暴れだしたが、頬にあたる冷たい刃に  
動きを止めた。  
男は彼女の顔をのぞきこんで、下卑た笑いを浮かべた。  
「ずいぶん強気な目じゃないか。気に入ったぜ。  
だが、そのお上品なお顔に傷をつけられたくなけりゃ大人しくしてな。  
ここで首掻っ切ってもいいんだぜ」  
絶望が彼女を蝕んだ。  
確かに彼女がいくら暴れても、結果が変わることはないだろう。  
しかし…  
 
 涙をためて顔を背ける仕草に、男どもは嗜虐心を煽られた。  
「ノルウェー人のプッシーを見せてくれよ、白豚」  
大仰な仕草でのぞきこんで、ずいぶんな感想を漏らした。  
「ずいぶん茂らせてるじゃないか」  
そう言って、わざとらしく鼻をつっこんでひくつかせ、舌を出してぺろりと舐めた。  
生々しく、ざらりとした感触に、彼女は全身を強張らせた。  
彼はわざと音をたてて吸い付き、舐めまわし、それを聞くごとに彼女の屈辱は募り、涙が  
流れた。  
やがて満足したのか、  
「だいぶ濡れてきたし、そろそろ良いだろう?」  
「糞、やっぱりお前が先か」  
また暴れだした彼女の頬をナイフで引っぱたきながら、上体を押さえている男が言った。  
「こいつ頑固でよ、なかなか濡れやがらないんだ。こんだけ苦労したんだから先に  
やらせろよ」  
そう言いながら、彼はすっかり屹立した逸物を彼女の腟口に押し当てた。  
 
(嫌だ、嫌、嫌、嫌、やめろ!)  
しかし彼女の声は声にならず、無情にも、男は彼女の腰を掴んで一気に貫いた。  
「おいおい、中はぜんぜん濡れてねえじゃねえか。つまらん女だな」  
「白人とヤれるってのに、贅沢言ってるんじゃねえよ」  
「それもそうだな」  
そう言って笑いながらも、彼は腰を動かすのをやめなかった。  
そしてそのたびに、彼女ははらわたを抉られるような激痛に身を焼かれ、悶えた。  
粘膜は痛々しく裂かれ、自らを守るために粘液を絞り出した。  
「やっと濡れてきたぜ。乱暴にされないと感じないなんて、ほんと淫乱な女だぜ」  
そう言って、身を震わせた。  
「おお、良いぞ…」  
それを聞いて、彼女は今度こそ死に物狂いで暴れはじめた。  
しかしもう一人ががっちりと押さえ込んでいて、何より、撃墜に降下、拷問に強姦と  
無理を重ねた彼女の体はもう限界だった。  
男は溜まりにたまった精液を、ありったけ彼女の胎内に注ぎ込んだ。  
 
 さしあたり満足して男が離れても、彼女は動くことすら出来なかった。  
またしてもこの汚らわしい犯罪が自分の身に降りかかったことへの怒りすら沸かず、  
ただ虚脱していた。  
乱暴に押し入られた腟口から、白濁液が一筋垂れた。  
「しかし、乗りが悪い女だ」  
「アレを使うか」  
そう言って、彼女の頭上の男が注射器を取り出してきた。  
それを見て、彼女の瞳に光が戻った。  
(それは、まさか――)  
「おう、気づいたか?   
こいつは軍医ドノから巻き上げた魔法の薬、どんな女でもよがり狂うというシロモノよ」  
「あんた達…!」  
ようやく口の中のものを吐き出すことに成功して、彼女は吼えた。  
 
 彼女は以前にもこのような経験をしている。そしてそのときにも、彼女に無理やり麻薬  
を打った男がいたのだ。その絶望が彼女を駆り立てた。  
 
「あんたら殺してやる…ぶっ殺してやる…!」  
「あんたみたいな女に殺されてみたいもんだぜ」と男は笑った。  
 
「あら、そう? ならば死ね!」  
唐突に割り込んできた、聞きなれぬ女の声に、男はぎょっとして振り向いた。  
消音機が装着された、黒く冷徹な銃口が、彼が見た最後のものだった。  
 
 ゴドウィン軍曹は機関拳銃を男の額に密着させ、冷酷に引き金を絞った。  
10発の4.6ミリ高速弾が男の後頭部を吹き飛ばし、血しぶきが壁に散った。  
死体がゆっくりとスーザンの上に倒れこんだ。  
後頭部を失った頭から噴き出す血をまともに受けて、彼女は動けないままに目を見開いた。  
 
「待て、糞、おい、待てよ!」  
慌てて身を起こした男に、浅網が銃を突きつけた。  
男は観念したようにナイフを捨てた。  
浅網は黙ったままで、銃をさらに押し付けた。  
「おい、俺は武器を捨てたんだ、そんなのを撃つのか!?」  
「あいにくだな。我々に捕虜を取る余裕はないし、お前を生かしておく理由もない。  
お前の神に自分の行いをゆっくり言い訳しろ」  
そして彼は弾倉の残りを一気に叩き込み、その男の命が失われていくのを冷徹に見守った。  
 
 その間にも、ゴドウィンはスーザンの手当てにかかっていた。ベルゲンからキットと  
簡単な着替えを取り出した。  
フラッシュ・ライトで照らされて、スーザンは腕で顔をかばった。  
「パーカー中佐、王立ノルウェー空軍のスーザン・S・パーカー中佐ですね!?」  
スーザンはすっかり呆然自失の態で、答えを得るには何度も問いかけねばならなかった。  
「――あなたたちは…?」  
「女王陛下の海兵隊員です。助けに来ました!  
中佐、国に帰りましょう!」  
 
 その光景に背を向け、浅網はドアから外を狙いつつ、送信した。  
「シックスより各員、対象者を確保。生命に支障なし」  
『ライフルよりシックス、急げ。敵が動きはじめた』  
『グリネードよりシックス、敵兵2名が接近中。回避不能と判断。交戦する』  
一瞬の中断ののち、レシュカが送信してきた。  
『アシスト、敵1名射殺』  
『グリネード、敵1名射殺』  
「シックスより各員、なお現在地を固守せよ。  
メディック、急げ」  
「もう少し待ってください。中佐、ほら、腕を通して――  
オーケイ、大丈夫です!」  
「彼女は動けるか?」  
「中佐、歩けますか?」  
「…大丈夫、いけるわ」  
「オーライ、野郎ども、引き潮だ。  
ライフル、退路を偵察。  
メディック、中佐をエスコート。先行しろ。  
アシスト、グリネード、退路を確保せよ」  
「メディック了解」  
『ライフル了解』  
『アシスト了解』  
『グリネード了解』  
『ライフルよりシックス、ポイント・デルタまでに障害見えない』  
「シックス了解。行け、行け、行け!」  
「さあ、中佐、行きましょう!」  
まだ足元がおぼつかないスーザンに肩を貸してゴドウィンが歩き出し、油断なく機関拳銃  
を構えた浅網が続いた。  
廊下では、異変をかぎつけた他の囚人たちが扉を叩いて騒いでいたが、彼らに構っている  
余裕はない。  
 
『ライフルよりシックス、そちらの現在地よりポイント・チャーリーまでに障害見えない』  
「了解」  
前進したレシュカ伍長とヘイボア軍曹がハンドシグナルを送るのを確認し、浅網たちも  
小走りで進んだ。  
オランダ人たちと合流したとき、レシュカ伍長が浅網の肩を叩き、指を3本立てて、指差  
した。  
角のところを3人の敵兵が回ってくるところだった。  
浅網がレシュカの頭を軽く小突き、彼女は機関拳銃を構えて、立て続けに短い連射を放った。  
最初の発砲で2人を同時に倒したが、残る1人は腕をかすめただけに終わった。  
その男はパニックに陥ってでたらめに連射しはじめたが、ヘイボア軍曹と浅網が同時に  
発砲して倒した。  
「アシスト、敵、2名射殺」  
「グリネード、敵、1名射殺」  
「すみません。奴ら、気づきましたかね?」  
「気にするな。どうか分からんが、潮時だな」と言って、浅網がマイクのスイッチを  
入れた。  
「シックスよりポイント、爆破に備えよ。繰り返す。爆破の準備をせよ」  
『了解』  
「よし」  
そう言って、浅網はマイクのスイッチから手を離した。  
「行け!」  
ヘイボア軍曹とレシュカ伍長が飛び出した。浅網とゴドウィンは片膝ついて機関拳銃を  
構え、援護した。  
 2人のオランダ人は、鉄条網の穴までたどり着くと周囲を手早く観察し、脅威がないと  
見てとるや、手招きした。  
そこは、彼らが最初に歩哨を殺した場所だったが、既に死体は隠され、地面の血痕が  
その痕跡を留めるのみである。  
浅網たちもたどりつくと、浅網は短く送信した。  
「シックスよりポイント、爆破せよ。やれ!」  
『ポイント了解。みんな、備えろ。  
3――2――1――爆破!』  
ニコルズが爆破装置のスイッチを押し込み――  
大地が揺れ、すさまじい火球が夜空に立ち上り、辺りを赤く染め上げた。  
「弾薬集積場を掩蔽したのは、奴らにしちゃいい思いつきだが、燃料も同じように隠して  
おくべきだったな」  
とゴドウィンが独りごちた。  
 
「敵襲!」  
誰かがわめきながら走り去った。次の瞬間、地鳴りが響いた。  
「敵襲!?」  
アロンソ大尉はがばっとはねおきて、あわててズボンに飛び込んだ。  
長い尋問ののち、報告を書いてからやっと仮眠に入って、30分足らずでこれだった。  
「どうした!?」  
AKSを抱えて飛び出し、辺りを駆け回っている兵士をつかまえたが、どうも要領を  
得ない。  
民兵どもが! と彼は歯噛みした。  
ちょうどキャンプの指揮官であるベイリー大尉が走ってきたので、つかまえてまくし立てた。  
「奴らだ――国連だ! パーカー中佐を奪い返しに来たのだ」  
しかし、さすがにベイリー大尉は冷静だった。  
「国連部隊はこの近辺にはいないし、オランダの敗残兵にしては兵力が大きすぎる。  
あらかたS族の民兵だろう」  
ニコルズ軍曹は、燃料庫に爆弾をしかけるついでに、遅延装置つきの指向性地雷やら何  
やら、各種のブービー・トラップを正門前に仕掛けてきたのだった。  
「我々はメインゲート前の敵を掃討してくる。君も来てくれるか? 正規の将校がいて  
くれれば心強い」  
「よしきた」  
アロンソ大尉は嬉々として小銃小隊を率いて見当違いの方向に突撃し、かくして、  
スーザンが連れ去られたことは、さしあたって知られずに終わったのである。  
 

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