この大学、二年教室には俗に言う──「アイドル」がいる
水野 真樹・・・
少し大柄、気の強そうな顔立ち、綺麗な黒髪
体に似合った巨乳、それでいて体は引き締っている
文武両道、どちらも学校のトップクラス、しかもそれを自慢しない
誰からも好かれ、嫌われず、顔や体型など容姿もバツグン・・・と
どこを取っても完璧、正に理想のような女である
・・・しかし・・・欠点のようなものが一つあった
単に少し変わった性癖・・・と言えばそれまでなのだが・・・・・・
人に何かを痛めつけたり強要したりするのが何よりも好きなのだ
最も普段はそんな事は億尾にも出さない、出すわけが無い
しかし時に人は自己の欲を我慢しきれない時がある
彼女はそれをうまく処理する為、密かに誰かを痛めつけてきた
彼女なりにうまくやってきた、誰にもばれることは無かったのだから
━━今年四月までは━━
四月・・・国立の一流校のここには、
どこかエリート意識のようなものを持った奴等が集まる
その中に一人、似つかわしくない者がいた
石水 亮、普通の顔、メガネ以外に取り立てるようなところは何も無い
地味で冴えない凡骨人間と言った所か
真樹のターゲットになるのにそう時間はかからなかった
しかし・・・先に動いたのは石水だった
「何?こんな所に連れてきて・・・」
使われなくなった部室の裏、整備されず、まず人が来ることは確実に無い
「えっと〜・・・」
ニヤニヤしながら亮が写真を取り出す
「コレ・・・誰か分かります?」
普段のように真樹はズケズケと・・・もとい堂々と写真をふんだくる
「!!!」
写真を見た瞬間に体が硬直する
「な・・・な・・・これをどこで・・・・・・」
声には明らかな恐怖が含まれている
「まァ・・・色々ですよ」
その写真には、男がひざまづき、土下座をしている姿があった
向かいには偉そうに見下している女・・・自分が映っている
「なっ・・・何コレ!?」
写真の持ち主はニッコリと笑っている・・・・・・しかし目が笑っていない
「え?イヤァ、ただの写真ですよ、どうかしましたか?」
どうもしないわけがないだろう
「まだありますよ、見ますか?」
ポケットの中から封筒を取り出し、中にある写真をばらまく
「・・・・・・ッッッ!!」
─ 人につけた首輪の縄を持つ女 ─ 男を足蹴にする女 ─ 殴っている女 ─
全て自分だ・・・絶対人に見られないようにしていた場面が・・・
「さて・・・と」
この言葉で我に返る
目の前にいる男は笑っている・・・しかしどこか怖い笑顔だ
「この写真が他の人の目に触れたら・・・どうなるんでしょうかねぇ?」
脅しにかかっている・・・ありきたりな言葉が余計に恐怖を煽る
「何が言いたいか・・・分かりますよね」
うつむいたまま黙って言葉を聞く
何を言っても無駄だと分かるし、何が言いたいかも・・・・・・
「勿論この場で自分を暴力でヤっちゃう・・・って選択肢もありますがね」
確かに肉体的には勝てるだろう、相手は小柄な下級生だ・・・
しかしここで痛めつけても写真がバレるのが遅くなるだけ・・・
それ以前にここでヤれば下級生との暴力沙汰で退学になるだろう・・・
「じゃ・・・この写真のマスターデータを渡してもいいですが・・・」
です「が」・・・やはり何かあるようだ
「その為に『何でもする』なら、
この紙に書いている住所に、今日の午後9時に来て下さい」
何でもする、という所を強調し、名詞のようなものを渡して立ち去る
後には茫然自失とばかりに、暫く放心状態から抜けきれない真樹が残された