「火の始末はちゃんとするのよ? ・・・・・・心配だわ、やっぱりお母さんいくのやめようかしら」
「大丈夫だって。信用してよ。お父さん一人で年越しなんて可哀想じゃん。早く行って上げたら?」
心配そうなママに、あたしは大丈夫と笑って背中を押した。
でも、と渋り振り返るママを玄関のドアまで笑顔で見送る。
ドアが閉まって、あたしはふうと息をついた。
今日は12月28日。単身赴任のパパのところにママが行くのは毎年恒例のこと。
いつもこれをチャンスに彼氏とお泊り計画をするんだけど、今年は――。
思い出したらまたイライラしてきた。数日の前のクリスマスは全く最悪以外にいいようがなかった。
要するに、あたしは二股かけられてて、もう一人が妊娠したため振られたのだ。
「あんの似非エリートが」
イライラを沈めるように吐き捨てた。しかし、思い出したが最後そんなのに夢中になってた自分にさえも怒りがこみ上げてきてしまう。
そんなわけで、今年は年末年始何にも予定がないのだ。友達は彼氏と出かけちゃうし。
せっかく親がいなくて羽が伸ばせるのに、全くつまらない。
とりあえず、コーヒーでも飲もうとキッチンへ行くと、ぼろぼろのシャツにぼさぼさ頭が視界に入ってさらにげんなりした。
「・・・・・・あんた、何してんの? ママがあんたも今日から出かけるからってあたしに言ったけど?」
聞こえているはずなのに、目の前のぼさぼさダサ男はあたしに顔も向けない。
こいつは一応あたしの兄だ。正隆という。こんなダサオタにもったいない名前だと思う。
あたしはこいつが大嫌いだった。もう何年もまともに口なんてきいてない。
大学行く以外は部屋に引きこもって、ボサボサの不潔な格好のまま。
いつごろか、食事も部屋で取るようになったときには心の中で万歳した。
こいつと兄弟だって考えただけで虫唾が走るくらい、大嫌いだった。
ただでさえ機嫌が良くないのに、こんな態度をこいつに取られて、あたしは頭に血が上ってしまった。
「何とか言いなさいよ、ダサオタ! あんたごときが無視とかしていいと思ってんの? 同じ空気を吸うのも嫌なんだから、早く家でていきなさいよっ」
根暗で気弱でオタクのくせに、あたしと同じ場所にいる自体おこがましい。
そこまで言って一息つく。怒りで興奮したせいか、息が荒くなってしまった。こんなやつに話しかけたことさえもありがたいと思えと思う。
飲みかけのペットボトルを冷蔵庫にしまったあと、ようやく正隆があたしの方に顔を向けた。ふいに肩が揺れる。正隆から漏れてくるのは、くぐもった嗤い声だった。
「・・・・・・男に振られたくせに・・・」
心臓が大きく脈打った。
怒りで目の前が真っ赤だ。気がつけば、ぶつかるように正隆へ走っていた。
ぼろぼろのTシャツを掴みあげる。嘲るような表情をした正隆に、平手をお見舞いしようと上げた手は、思わぬ力で止められ、ねじり上げられた。
「っ・・・・・・いったいっ・・・・・・! 放しなさいよこのオタクっ」
ぎりと正隆を見上げると、見下すような視線で見下ろされた。
許せない。あたしにこんな無礼を働くなんて。根暗でオタクなくせに。
「あたしにこんなことして済むと思ってんのっ」
腕をねじり上げられながらも、睨み付ける。おどおどして気弱なくせに。絶対に許さないんだから。
そんなあたしを正隆は面白いものでも見るように見つめる。
「・・・・・・なあ、みちる。お前はかわいいけど、本当にバカな女だな」
「はぁっ?! あんたごときがあたしに何言ってんのよ。早く放しなさいよ、バカっ」
手がダメならと足をばたばたと思い切り暴れさせる。
舌打ちをする正隆の向こう脛にうまいことけりが入った。
「!・・・っ」
正隆の力が緩む。腕を力の限り振り払って正隆から逃げ出した。
何だかんだ言って力ではかないそうもないからだ。
ひょろっとした正隆の体のどこにこんな力があったのか。
「逃がすかよっ・・・!」
次の瞬間、がくんと頭が後ろにひっぱられた。髪の毛を掴まれたのだ。
ロングにしてるんじゃなかったと後悔してももう遅い。
そのまま床に引き倒されてしまった。
「ったぁ・・・・・・っ」
床に強く腰を打ち付けて、痛みに一瞬身体が強張る。
仰向けに転がったあたしの上に正隆が馬乗りになった。
太ももを膝で押さえつけられ、両手は頭の上で一つに拘束されてしまう。
「・・・・・・痛いってっ! どいてよ、もうっ」
文句を言う声が自分でもわかるほど震えている。
――怖かった。あたしは、正隆がどうしようもなく、怖くなっていた。
今まで碌に口も聞かなかった、兄。
いつしか兄だとも思わず、ただの厄介者だと、オタクで、社会不適合者だと蔑んで笑っていた。
その兄が、正隆が、あろうことか自分を組み敷いて、しかも楽しそうに笑っているのだ。あり得ないことの連続であたしはパニック寸前だった。
「ああ、みちる、かわいいな」
べろりと頬を舐められた。首を振って抵抗しても、空いている片手で顎を掴まれ動かすことも出来なくなった。
じわりと涙が滲んでくる。それを楽しそうに正隆が舐め取った。
「俺が、怖い?」
「・・・・・・誰が、あんたなんか、」
正隆がくっと笑った。
「だからバカだっていうんだよ、お前は。男の怖さ、知らないんだろう?」
「あんたが、男?」
馬鹿にするような口調で返してやった。
「俺が、男かわからないんなら、お前の体にわかるまで教えてやるよ、みちる」
正隆はこれ以上ないほど優しい声で、言った。
スカートについていたベルトリボンを解かれる。
頭上の手をそのまま、固定するように結ばれた。
その先をダイニングテーブルにくくられ、一層身動きできない状態になってしまう。
「何、する、つもりなのっ」
「ここまで来てもそんなことしか言えないのか?」
正隆は楽しげにニットのジッパーを下ろしていく。
今日に限ってこんなに脱がせやすい服を着ている自分が情けない。
前をはだけられ、正隆に素肌を見られるなんて。
切羽詰ったあたしは叫んでいた。
「やめてよっ」
「なぜ?」
ブラを乱暴に上に押し上げられた。思わず目を瞑った。
こんな、こんなことって、嘘。
涙が後から後からあふれてくる。それを正隆が舌で舐め取っていく。
「かわいい、みちる。昔から泣いてるお前が一番かわいかったな」
胸をもみしだかれ、乳首を親指でこねられる。
「やぁっ」
両手で両乳首を擦られ、抓られた。嫌なのに、吐息が漏れる。
次にきたのは、生暖かい感触。柔らかな舌でなぶられ、押し殺した声が出てしまった。
「みちる、気持ちいい?」
薄く笑んだまま、聞いてくる正隆が、心底憎らしい。
胸をなぶられながら、正隆を睨み付ける。下から見上げると正隆の顔が良く見えた。
切れ長の目とすっきりした目鼻立ちは、今までみたことないくらい、楽しそうで、
身なりさえ整えれば、こいつもあたしの兄なんだからそれなりにもてるだろうに。
妹にこんな変態なことをしなくても、彼女くらい出来たはずだ。
「・・・っあんた、妹にこんなことして、オタクの上に、変態なんて」
するりと太ももをさすられた。
「兄とも思ってないくせに。
それにこんな短いスカートで、人を煽っておいてよく言うよ。
オタクがいるってわかってるくせに、ミニスカートにニーハイなんて
セレクトして。お前が一番こうなりたかったんじゃないのか?」
揶揄するように言って、正隆は太ももの奥に手を差し入れた。
「ああぁっ」
下着の上から割れ目を何度も撫でられる。
むずがゆいような刺激が、腰の奥で生まれて螺旋を描き出した。
「気持ちいいだろう?」
正隆が体を下にずらす。スカートをまくりあげ、下着を一気に下まで押し下げた。
下着を引き抜きながら、両足を開かされる。
「やぁぁぁっ」
あたしは目を瞑ったまま、叫んだ。
助けて、だれか。だれか、だれか、だれか。
「ほらみちる、嫌だ嫌だ言ってるわりにこんなに濡れてるじゃないか。
お前は兄に触られて濡れる淫乱で、変態なんだよ」
あたしのプライドはもはや粉々に砕け散った。あられもなく涙をながして、正隆に懇願した。
「も、もうやめて、お、兄ちゃん・・・あたし、あたしが悪い子だったから、
ごめんなさいするから、ゆるして・・・・・・」
泣きじゃくりながら、謝罪を繰り返す。もう、もうこんなのは耐えられない。
「みちる、みちる」
正隆が興奮したように、顔中を舐めまわしてきた。
「みちる、お兄ちゃんは怒ってないぞ。また、昔みたいに仲良く遊ぼう」
陶然とした口調で正隆が言う。許されたのかと、そろそろと目を開けた先には悪夢が待っていた。
ぬるりと、割れ目を開いて辿る暖かさ。クリトリスを弾いて、奥をかき回していく。
あたしの体の中心で、あたしを追い詰めていく、正隆の舌。
股間に頭をうずめ、ぴちゃりと水音を聞かせるようにさせる正隆にあたしは絶望した。
「いや、いや、いや、お兄ちゃんやだぁああっ」
泣いて、叫んだ。
下半身から立ち上る快感を認めることは出来なくて、でも奥からはとろとろと
流れ出ていく。
高まる身体は、正隆の愛撫を求めて、精神は拒絶しているのに、快感の波に
いとも簡単に飲み込まれていた。