武様の婚約者を選ぶパーティーはその後も何度か行われました。  
何人かの候補の方がいらっしゃったようですが、とうとう決まらないままになってしまいました。  
お父上、先代の旦那様がお亡くなりになったからでございます。  
翌年奥様も後を追うようにお亡くなりになり、屋敷は火が消えたようになってしまいました。  
武様に好意を寄せ、パーティー以外でも私的に訪問されていた子女の方々もぱったりと来られなくなりました。  
いかに将来有望な美青年とはいえ、あまりにも若い武様が社長になれば会社も家も傾くからに違いないと屋敷の皆は申しました。  
何てことを言うのかと腹が立ちましたが、旦那様や奥様付きだった使用人が幾人か辞めることになり、出て行く彼らを見送る時には淋しさと共に不安を覚えたことも事実でございます。  
でも、私は一度として辞めようと思ったことはありませんでした。  
最後の一人になっても、武様のお傍にいようと決めていたのです。  
 
勿論、優秀な武様は口さがない者たちが申すようにみすみす家を傾けるようなことはなさいませんでした。  
ほとんど休みもとられずに社長業をこなし、むしろ先代の社長の頃よりも会社を大きくなさいました。  
深夜お疲れになった武様をお迎えするには胸が痛みましたが、同時に、何があっても私はこちらを辞めまいとの決意を新たにいたしました。  
そして武様と私が25歳を迎える年、遠野家の行く末を案じて留まっていたメイド長が安心したのか引退を申し出ました。  
彼女が辞めたあとの一番の古株は私で、固辞したのですが武様直々に命じられて私が次のメイド長になりました。  
厳しいばかりで苦手だと想っていたメイド長と同じ立場に自分が置かれて、初めてその偉大さに気づいたのもその時でございます。  
以後、彼女ほどでもありませんが、私も若いメイドたちには厳しく仕事を仕込んでおります。  
この地方では学校を卒業して数年間メイドとして名のあるお家に奉公に上がり、適齢期になるとお嫁に行くというのがよく見られる女性の道でございます。  
お嫁入りしたあとに「遠野家のメイドは・・・」と言われないためにも厳しく、と思っております。  
 
教育のためには、まず私がメイド長として皆の見本にならなければいけません。  
ご主人様と男女の関係を持つはしたない身の程知らずだとばれるなど、とんでもないことです。  
二十歳のあの日より後も武様は私を度々お部屋に呼ばれ、お抱きになります。  
私に断れればよいのですが、お慕いする方に求められていると思うとどうしても決意より喜びが先に立ってその勇気が出ないのです。  
それでも以前、皆の目を盗んで男女の関係を持つというスリルに少し疲れを感じたときがありました。  
珍しく武様がお休みの時に決意してお断りしたのですが、その後にベッドに運ばれ散々啼かされた挙句に「僕が求めたら麻由は拒否しないこと」と約束をさせられてしまいました。  
 
 
メイド長としての矜持と女としての欲求、どうすれば折り合いが取れるか考えました。  
そして、武様と二人でとあるサインを決めたのでございます。  
お帰りになった時、私に右手で鞄を渡されたら「今晩待っている」。左手だったら「今日は一人で眠る」。  
右手の時は武様がお夕飯とお風呂を済まされる間に私もメイドとしての仕事を終え、慌しくシャワーを浴びてからそっと二階のお部屋へ参ります。  
 
左手の時は、そのままお部屋で着替えを手伝い、キスと抱擁を受けてからメイドの仕事を終えて自室に引き上げます。  
ご一緒した朝は早めに起き、お部屋を辞して朝からの仕事につきます。  
屋敷で一番早く起きるのは大抵私なので、多分皆にはばれてはいない・・・と思います。  
抱き合ったまま日が昇るまで眠りたいという願望をはしたなくも持つ時もありますが・・・・。  
 
 
 
そっとノックをしてお部屋のドアを開けます。  
お風呂上りの武様は、濡れた髪をタオルで拭っていらっしゃるところでした。  
「ああ、来たね。」  
微笑んでタオルを頭に掛けたまま、こちらへいらっしゃいます。  
「武様、きちんと拭いていただかないとお風邪を召しますわ。」  
私を抱きしめようとなさるお手をすり抜け、傍らのソファへ座っていただいて頭に乗せられたタオルを手に取ります。  
このように武様は私に世話を焼かれるのがお好きなようで、二人の時は縦のものを横にもなさいません。  
私もお世話をするのは大好きなので、しょうがない方と思いながらも心を躍らせて手を動かします。  
「お疲れになったでしょう?」  
 
タオルドライが済み、洗濯物入れの籐籠にタオルを入れて武様の肩をお揉みします。  
じっと目を閉じてされるがままの武様のお顔を見ると、今自分がこの方を独占しているという喜びに胸が震えます。  
「疲れたけどね。麻由の顔が見たいからできるだけ早くに戻ってきたんだ。」  
涙が出そうなほど有難いお言葉。  
「ありがとう。もういいよ。」  
そう言って肩にあった私の手を取られ、そっとキスをされます。  
立ち上がって私の手を引き、ベッドの傍へ誘われました。  
 
 
 
 
「ん・・・、ふっ・・・・」  
手早く服を脱がされ、一糸まとわぬ姿になった私は武様に組み敷かれておりました。  
唇、首筋、鎖骨とキスが下りていき、その気持ちよさに身震いします。  
「あっ!」  
胸元に強く吸い付かれ、その刺激に思わず高い声が漏れてしまいます。  
見えるところにはキスマークをつけないで下さいと強くお願いしているので、武様は大抵この辺りにつけられます。  
こうしておけば麻由は他の男に取られないだろう、とお笑いになるのです。  
そんなことなさらなくても、私の心も体も全て武様だけのものですのに。  
 
でも一人の夜は、この唇の痕を見て次に抱いて頂く時に思いを馳せてしまう辺り、私もこうされるのを望んでいるのだと思います。  
私の両手を拘束していた武様のお手が急に離れます。  
「麻由、僕を脱がしてくれるかい?」  
いたずらっぽく微笑まれる武様のガウンに手を掛け、夢うつつのまま腰紐を解きます。  
ガウンを脱がせ終わり、次はパジャマに手を掛けるのですがボタンを外す手が震えて、なかなかうまく外せません。  
何も身に着けていない姿を武様にじっと見つめられていると思うと余計に・・・・。  
格闘している私の頬に、武様はそっとキスされて「早くしてくれないか?」と囁かれます。  
どうしてこんなに余裕でいらっしゃるのでしょうか。  
初めての時は二人ともガチガチで、同じくらい緊張していたのに。  
ようやくボタンを外し終わり、袖を引いて上衣をお脱がせします。  
それで自分の胸元を隠しながらズボンに手を掛けると、上衣を掴まれてスッと抜き取られます。  
「!」  
胸の先に上衣がこすれ、その刺激に息を飲みます。  
「隠しちゃダメだ。」  
小さい子に言い含めるような言い方をされ、つい「申し訳ありません。」と謝ってしまいます。  
 
ズボンを脱がせ、下着に手を掛けたところでやんわりと手を掴まれました。  
「これで十分だ。まずは麻由を思い切り可愛がらないと。」  
素敵に微笑まれる武様のお顔を間近で見、これから味わう気の遠くなるような快感を思ってまた体が疼きました。  
 
 
「いや・・・あ・・・武様ぁ・・・・んんっ・・・・・・」  
まだ少し湿っている武様の髪に指を絡め、イヤイヤをしますが聞き入れてはもらえません。  
私の脚はがっちりと拘束され、その中心には武様が顔を埋めていらっしゃいます。  
もうやめて下さいと先程から何度も頼んでいるのに。  
脚の間から愛液が後から後から溢れ、武様の舌に絡まってぴちゃぴちゃと音を立てています。  
「やっぱり二日以上家を空けると駄目だね。昨日からこうしたくてたまらなかった・・・・」  
そう仰る武様の吐息が太股にかかり、それさえ私を追い詰めます。  
体を重ねるようになってしばらくすると、武様はここを舐めることに異様に固執されるようになりました。  
「麻由の可愛い声が聞きたいんだ!!」と力説されると、私に拒む術などありません。  
脚を押さえていた手をずらし、指で私のそこをグッと押し開いて敏感な芽に舌が届きました。  
「ああぁんっ・・・・・」  
はしたない声が漏れ、腰が跳ねてしまいます。  
「そうだ、その声が聞きたかったんだ・・・・」  
熱っぽい声で呟かれ、さらにそこを舐められます。  
私が声をあげればあげるほどますます熱心に責められるのです。  
最初の頃の、私に恐る恐る触れておられた武様と本当に同一人物なのでしょうか。  
 
 
 
「はぁん・・・・んっ・・・・武様・・・・・・」  
「気持ちいいかい?」  
嬉しそうなお声で尋ねられると、嘘をつくなんてできなくなってしまいます。  
「気持ち・・・いいです・・・・あっ!」  
息を切らしながら返事するとまたそこを可愛がられ、私はますます堪らなくなります。  
すでにさっきイかされているのに。体は二度目に向かってますます快感を求めています。  
あともう少しというところで、武様は急に舌を離されてしまいました。  
「武様・・・?」  
濡れた部分が外気でひんやりとするのを感じながら、おそるおそる問いかけます。  
あとちょっとだったのに、と脚がわななくのを止めることができません。  
「これからどうされたい?」  
私の両脇に手をついて顔を覗き込まれた武様が意地悪く問いかけられます。  
それを、口にして言ってみろと仰るのでしょうか。  
 
武様のもので早く満たされたいという思いと、言葉にする恥ずかしさとがせめぎ合って困ってしまいます。  
「ん?」  
さっき上衣に擦れて以来触れられていなかった胸の先を指で撫でられ、急かされます。  
いたずらなその手を掴んで涙目で見上げるのですが、武様はただ私の答えを待っていらっしゃるだけ。  
「・・・・・・イかせて下さいませ。」  
とうとう私は観念し、小さな声でお願い致しました。  
フッと微笑まれた武様は、はいていた下着を脱がれ、準備を整えられてからそっと私の中に入って来られました。  
「あっ・・・・ああ・・・・・」  
待ち望んでいたものに体中が快感を訴え、私は武様の首に手を回してしがみつきます。  
「麻由・・・・・麻由っ・・・・」  
何度も名を呼んでくださることが、嬉しくてしょうがありません。  
武様のものが何度も私の中を往復し、甘い刺激が体を支配してもう何も考えられない。  
ただもっと触れ合っていたいと、私は両脚を武様のお体に絡めて密着します。  
「ん・・・・っ・・・・あぁ!・・・いい・・・・武様・・・・・はぁんっ・・・・・ぅん・・・・」  
擦れ合うその部分から湿ったいやらしい音がします。  
 
もっと触って欲しいと頂を硬くしている胸を揉まれ、吸われます。  
その刺激に私のそこはキュッと締まり、武様が顔をしかめられます。  
「そろそろいいかい?麻由・・・・」  
限界が近くなった武様が耳元で囁かれます。  
私はしがみつく力を強くし、頷きました。  
武様の動きが一層激しくなります。  
「あぁ!・・・あぁん・・・・ぁん!・・・も、ダメぇ・・・・」  
私が唇をギュッと噛み締めてイったのを見届けられてから、武様は「クッ・・・・」と息を飲まれたのと同時に達されました。  
ヒクヒクと収縮する中をそのままに一層強く武様に抱きつくと、ギュッと抱きしめ返してくださいました。  
 
 
 
しばらく抱き合って、体の熱が少し冷めるとお風呂へ向かいます。  
お屋敷には湯船のある大浴場の他に、主寝室と武様のお部屋、ゲストルームには家族風呂ほどの大きさのお風呂があります。  
大浴場だけでなくてよかったと、武様と体を重ねるたびに思います。  
私の足が立たなくなるほど激しく愛された後は、武様が手ずから私を洗ってくださることもあります。  
そのままお風呂場でもう一回・・・・ということも何べんもありましたが・・・・・。  
 
通常は私が先にお風呂を使わせていただき、替わって武様が体を流していらっしゃる間にベッドを整えます。  
そしてお風呂上りの武様をお迎えし、抱き合ったまましばらく眠ります。  
朝方に武様を起こさないようにそっとベッドを抜け、取り替えたシーツなどをまとめて部屋を辞します。  
それらを片付けた頃に他のメイドや使用人たちが起き出し、朝食後に仕事を始めます。  
そしてその後に武様がご起床になり、別のメイドがシーツを交換します。  
 
 
お仕事の具合によってベッドを共にする頻度は変わりますが、ご一緒する時はだいたいこのようなな感じです。  
初めての時、私が「この上で武様はいずれ他の方と・・・」と切なく見つめたベッドにはあれから私以外誰も上がっておりません。  
それを思うと、私は幸福感で一杯になるのです。  
私も今年で27歳。  
二十歳そこそこの新米メイドたちを見ると自分が年を重ねたことを感じることが多くなりました。  
しかし武様は彼女たちには平等に微笑まれるだけ。  
女として愛してくださるのは私ただ一人のみ。  
このまま可愛がってくださる限り、いえ仮にベッドを共にすることはなくなっても私はずっとこのお屋敷で御奉公する。  
何度となく繰り返した決意ですが、日々それを新たにするのでございます。  
 
 
さて、そろそろ本当に眠くなって参りました。  
一度だけ経験した武様との二人きりの旅行のこと、初めての『ご奉仕』のこと、武様の誤解・嫉妬事件はまたの機会に致しましょう。  
お休みなさいませ。  
 
 
 

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