「夜這い」
今日も一日の仕事を終え、自室に戻ってお風呂に入り、寝る準備を整えました。
ベッドに横になり、読みかけの本をぱらぱらとめくります。
しばらく読んでいましたが、段々と眠気が襲ってきたので、本を置き、電気を消しました。
眠る前に考えるのは、当家のご主人様、武(たける)様のことです。
年度末でお忙しくなさっていますので、最近はお疲れのご様子。
厨房のコックは栄養のあるメニューを考えてくれておりますが……。
何か健康法などをお勧めしたほうが良いのかとも思います。
メイド長として、ご主人様の体調管理を真剣に考えねばなりません。
今度のお休みには、書店で何か健康本を見繕ってこよう。
そう決めて目を閉じました。
夢の中で私は、武様とベッドで睦み合っておりました。
後ろから抱き締められ、愛撫を受けているのです。
「んっ…武様…」
胸に生まれる疼きと、背に感じる温もりに甘えるような声が漏れます。
なんと心地良い、甘い夢でしょう。
「あぁ…はぁ…ん…」
「麻由……」
首筋に武様の吐息がかかり、身体が震えます。
……吐息?
まどろみから一気に覚醒し、私は飛び起きました。
枕元の照明をつけ、おそるおそる振り返ります。
「やあ」
爽やかに笑っておられる武様が、そこにはいらっしゃいました。
「あ、あのっ。どうして武様がここに…」
ドキドキする胸を押さえ、問いかけます。
「ん?君の顔が見たいから、来たんだ」
あくまでも爽やかにそう仰るさまに、私は頭痛がしてまいりました。
「ここは使用人棟ですよ?武様がいらっしゃる場所ではありません!」
腰に手を当てて怒りますが、武様はそんなことは気にならないご様子です。
「君が構ってくれないから、僕が来る羽目になったんじゃないか」
「えっ?」
「僕を避けていただろう?」
「……」
図星です。
年度末でお忙しいのですから、自重なさらないといけませんもの。
「それは、その…」
「メイド長としての話が終わるとすぐ去るから、個人的な話ができないし」
「……」
「用向きを聞くのは別のメイドばかりだから、顔すら見られないときもあるし」
「はあ…」
拗ねたようなお顔でそう仰る武様をきまり悪く見つめます。
「だから、忍んでくることにした。ここなら麻由に会えるからね」
「ですが、今日はもう遅いですから…。お休みになった方が宜しいと思います」
「何だって?」
「お話なら明日、ご出勤の前に伺いますから」
ご主人様が使用人棟におられるこの状況を、何とかしなくてはなりません。
私は武様を何とか宥めようと頑張ります。
「分かってないね、麻由」
「えっ?」
「僕は、夜這いをしに来たんだよ」
「夜這い…」
おうむ返しに呟き、あっけに取られてしまいました。
「知らないかい?夜這いというのは、男が女の人の寝ている所へ…」
「知っております!」
私はますます目を三角にして怒りました。
「夜這いなど、紳士がなさることではないでしょう!自重なさいませ!」
ああ、何ということでしょう。
ますます頭痛がしてまいりました。
「…仕方が無いじゃないか」
「えっ?」
武様は拗ねたようにそう呟かれました。
「君の顔が見たいから、こうして忍んで来ているんじゃないか。
僕を甘えさせてくれるのは麻由だけなのに、拒否されるんじゃどうしようもない」
「うっ…」
私は言葉に詰まりました。
確かに、この方は社長として日ごろ重責を担っていらっしゃいます。
誰かに甘えるということもおできにならないのでしょう。
「最近忙しくて、僕も少々疲れている。
だからこそ、麻由に癒されたいと思うのはそんなにいけないことなのか?」
「…」
ますます私は言葉を失くし、下を向きました。
「最初は、本当に顔を見るだけで帰るつもりだったんだ。
でも君の寝顔を見ているうちに、どうしても触れたくなってしまった。
そうしたら、君があんな反応をするから…」
先程のことを思い出し、一気に頬に血が昇ります。
「違います、私は夢を見ているんだと思って…」
「夢?」
言い訳をしようと一気に喋ったところで、はっと息を飲みました。
「僕とベッドにいる夢を見ていたのかい?」
「…はい」
一気に旗色が悪くなったのをひしひしと実感いたしました。
「夢の中の僕は、どんな風に君に触れていた?」
「えっ…それは」
「嫌がっているようには見えなかった。むしろ、起きていて僕に気付いて、反応してくれているものだとばかり思って」
「いいえ、夢ですわ」
「じゃあ、どういう夢だったのか説明できるね?」
詰問されるのに、私はたじたじとなってしまいます。
「説明と申しましても…」
「実際の僕が我慢しているのに、夢に出た僕が楽しんでいたのかと思うと悔しい。
そんな夢を見た麻由には説明責任があると思うんだが、どうだ?」
勢い込んでそう仰り、顔を近付けられました。
私は言うべきか言わざるべきかと考え、動かない頭を必死で働かせようとします。
「説明しだいでは、麻由の言うとおりにするから」
武様が促され、私はしぶしぶ口を開きました。
「…あの。二人でベッドに横になっておりまして」
「うん」
「武様が背後から私を抱き締めて下さっていて」
「うん」
「それで、その。手を…」
「手が、どうしたって?」
説明していると、先程の夢を思い出し、再び頬に血が昇りました。
「手を…動かされて。その…」
あちらを向き、消えそうなほど小さい声でそう申し上げました。
フッと黙られた武様に見つめられているのが分かり、身の置き場がありません。
「…麻由は、拒否しなかったんだね?」
「はい」
「そうか」
頷かれる武様のお声が何だか嬉しそうに聞こえます。
そっと視線を戻し、お顔を伺うと微笑を浮かべておいででした。
「実際は僕のことを避けていても、夢の中では素直に求めていたんだね」
「…はい」
「よかった。僕はてっきり、麻由に嫌われてしまったのかと思って…」
「まあ、何てことをおっしゃるんです!」
そんなことは絶対ありえませんのに。
「嫌いになったわけじゃないんだね」
「もちろんですわ。お慕いしていますもの」
身体ごと武様のほうを向き、大きく頷いて申し上げました。
「じゃあ、構わないだろう?」
武様が距離を詰められ、私の肩に手を掛けられました。
「えっ?」
「僕も麻由のことが大好きだ。一緒にいたい」
…嫌な予感がします。
「せっかく久しぶりに二人でいるんだから、ね」
パジャマのボタンに手を掛けられ、するすると外されてしまいました。
「いけません!お疲れなのですから」
胸元を掻き合わせ、お手から逃げようとします。
しかし、それより早く引き寄せられてしまいました。
「知らないかい?男は、疲れるとしたくなるものなんだ」
その言葉に私は固まりました。
男性とは、そういうものなのでしょうか…本当に?
「だから…言うことを聞いてくれるね?」
「っ!」
耳元で囁かれ、熱いその息に悲鳴を上げそうになりました。
あれよあれよという間に、私はパジャマを脱がされてしまいました。
本格的に危険を感じて布団に潜り、身体に巻きつけて抵抗します。
ミノムシみたいで滑稽でしょうが、この際しょうがありません。
「…麻由、あくまでも拒否するつもりかい?」
武様の声が低くなり、何だか怖いです。
布団に顔を埋め、必死で首を振って意思を伝えるのですが…。
「前に、僕が求めた時は拒否しないと約束したじゃないか」
「…」
「あの約束を破るということは、それなりの覚悟があってのことなんだろうね」
武様の言葉に、あの時のことが蘇りました(冬の雨 参照)。
二人の関係を終わらせようとして、私は武様を傷つける言葉を言って…。
思い出すだけで胸が詰まり、息が苦しくなります。
布団を握り締めた手を離し、胸を押さえて息を整えました。
「隙あり!」
「きゃあっ!?」
いきなり布団が思い切り引っ張られ、身体から外されてしまいました。
奪われた布団は足元に放られて、私は下着姿で呆然とします。
声を殺して笑われている武様の肩が震えているのが見えました。
「甘いね、麻由。拒否するならもっと強い意志を持たないと」
「…」
「そんなことでは、この先も僕に騙され続ける羽目になるよ?」
「だ、騙され…」
まさか、まさか。
昔の話を持ち出されたのは、私の心を乱して隙を作るための手段だったのでしょうか。
あっけにとられたまま横になっている私の上に、武様が圧し掛かられ、進退窮まりました。
「あ、あの…」
「さあ。この期に及んで、何か言っても無駄だよ」
「んっ!」
武様の唇が私の胸元を吸い上げられ、ピリッと痛みが走りました。
場所を変えて何度も吸い付かれ、そのたびに声が漏れてしまいます。
「麻由のこの声を聞くのは久しぶりだね」
嬉しそうに仰って、武様は次々に痕をつけられました。
唇と吐息の熱さと、身体の上で動く武様のお手と。
それに翻弄され、私は段々と抵抗する気力を失くしていきました。
背中に手を回され、ホックを外して下着が取り除かれたところで漸く正気に戻ります。
「やっ!」
抵抗する私の手を抑え込み、武様は胸に口付けられました。
「は、っ…あ…」
頂の周辺をなぞるように舌で愛撫され、胸を揉まれました。
「だめです、声が聞こえてしまいますから…」
気力を振り絞って武様のお手を掴み、静止しようと頑張ります。
ここは他のメイド達の部屋とは別の階ですが、もしもということもありますから。
「さっきからあんなに怒って大声を出していたのに、今更じゃないか」
「それは…」
武様は聞き入れて下さらず、尚も胸元に唇を寄せられたままで。
「じゃあ、今から一切声を出さなければいいんじゃないか?」
「えっ?そんな…」
無理です、と言おうとした私の唇を奪われ、味わわれた後に武様は微笑まれました。
「だって、聞こえてしまったら…。皆にばれてしまうではありませんか」
「ああ。だが、もう皆知ってるかもしれないよ?」
「えっ!」
「僕達はもう5年以上もこうやっているんだ。みんな気付いていて、知らない振りをしてくれているだけなのかも」
私は武様の言葉に青ざめました。
そうなのでしょうか、もしかしたら他のメイド達も執事の山村さんも、コックさん達も…。
あれこれ想像し、穴があったら入りたい気分になりました。
明日から、皆の顔がまともに見られなくなりそうです。
武様のお手が再び身体を辿り、その刺激に肌が粟立ちます。
「いつもは『声を我慢しちゃいけない』と言うが、今日は我慢しても構わないから」
目を合わせ、にっこりと笑ってそう言われてしまいました。
無性に悔しくなり、意地でも声を出すものかときつく唇を噛みます。
「いいね、そそられる」
涙目で見上げる私を見て、武様はますます楽しそうにそう仰いました。
「んっ…ん…んっ…」
胸に顔を埋め、武様が愛撫されます。
私は必死で声を殺し、唇を閉じました。
武様が立てられる水音と、私が息を飲む音だけが部屋に響いておりました。
「ん…あ、っ…」
時折、どうしても声が漏れてしまいます。
私は、手で口をしっかりと押さえました。
「そこまでしなくてもいいのに」
胸から顔を上げて、武様が仰います。
口に手を当てたまま首を振る私を見て、苦笑されてしまいました。
「そんな風にされると、『じゃあ、麻由がその手をどけて喘ぐほどに責めたてよう』という気になるんだよ?」
「!」
胸の頂に口づけられ、啜るように唇で触れられます。
柔らかい刺激に、身体が勝手にピクピクと反応しました。
「っは…あ…」
声を我慢するストレスが、身体の中から熱を生じさせ、広がってゆくのを感じました。
武様から与えられる外からの刺激と、身体に広がる熱の内側からの高まりと。
二つが相乗効果を生み、私はどんどんと追い詰められてゆきました。
「ん…や…っん…」
言葉で静止しようとすれば、口を開いた途端に喘ぎが零れてしまいそうで。
私は必死で首を振り、武様のお背に手を回して爪を立てました。
「っ…手をどけたね、麻由」
少し顔をしかめながら、武様がそう仰いました。
触れるのを止めて頂けない状況に、頭に危険信号がともります。
「んむっ!」
武様の指が私の唇を辿り、そっと口腔内に差し入れられました。
「これで、口を閉じられないね」
笑みを浮かべてそう仰るのに、私は悲鳴を上げそうになりました。
声を我慢してもいいとさっき仰ったばかりなのに。
全く反対のことをされて、しかもそれを楽しむようになさるなんて。
口の中にある武様の指を押し返すべく、舌を使って頑張りました。
しかし、指は後退するどころか、逆に舌を弄ぶように動くばかりなのです。
「ん…っん…」
チュッと音を立てて指が引き抜かれ、また差し込まれました。
上顎を指先で撫でられ、喉が震えます。
身体を包む熱を逃がすように、何度も身を捩りました。
しかし、それが腰の辺りに切なさを生み、余計に追い詰められるのです。
「ん…っは…あ、ん…んっ!」
まだ触れられてもいない下腹部に熱が集まり、キュッと収縮するのを感じました。
それに気付かれるのが恥ずかしくて、肘を突っ張って必死に武様と自分の身体の間に距離を作ります。
「余裕が無いようだね」
楽しげにそう言われますが、もう返答する気力など残っておりませんでした。
「はっ…あ…んっ…」
頭の中がぐるぐると回り、喉の奥が痺れたようになりました。
「あっ…んんっ!」
一際身体が大きく震え、私は達してしまいました。
荒い息を整えながら、呆然とします。
胸を触られただけでこんなことになるなんて。
「麻由、もしかして…」
武様の驚いたようなお声に、身の置き場の無い気持ちになります。
身体を縮め、手で顔を覆いました。
「イったんだね、麻由」
口内にあった指を抜いて、息が掛かるほど近い位置でそう言われてしまいました。
首を振るのですが、逆にそれがイったことを認めているようで、泣きたい気分になりました。
「麻由がイく時は、背中が反って身体全体が震えるからね。隠しても無駄だよ」
意地悪くそう仰り、戯れにまた胸の頂を弾かれました。
「あっ!」
思わず声を上げてしまい、また赤面しました。
「声を我慢するんじゃなかったのかい?」
茶化すように言われ、唇を噛みました。
スッと脚を撫で上げられ、小さく声が漏れました。
「さて、今度は僕も楽しませて貰わなければね」
武様のお指が身体の中心へ向かい、くるくると円を描きながら登ってくるのが分かります。
焦らされるような動きをかわそうと、身を捩っても効果は無く。
ただ、声を立てないようにと唇に力を込めるしかできないのです。
下着を取り去られ、大きく脚を開かされる格好になりました。
武様のお顔が秘所に近付き、恥ずかしさに身体が竦みました。
「胸を触っただけなのに、もうこんなに濡れているね」
嬉しそうに仰り、そっと指で触れられました。
襞を撫でられ、浅く差し込まれるたびに水音がし、羞恥心が刺激されました。
「ん…んっ…」
せめて腰を引こうとしても、引いた分だけ武様のお指が前進して、距離が取れません。
「本当はもっと麻由を可愛がってからにしたいが…僕も限界だ」
脚の間にいらっしゃった武様の気配が離れ、ベッドの脇で衣擦れの音がします。
服を脱ぎ、準備を整えられた武様が、再び私の上に覆い被さられました。
「いいね?」
耳元で囁かれ、ゆっくりと武様のものが差し入れられます。
その熱と徐々に高まる圧迫感に、私の口から切ない溜息が漏れました。
「凄いね…絡み付いてくるようだ」
ほうっと息を吐き、武様が仰います。
「まだ入れただけなのに。麻由のここは、貪欲だね」
頬に口づけられ、微笑んでそう言われてしまいました。
私の身体をこんな風にされたのは武様なのに。
自分がとんでもなく淫らな女になったような気がして、いたたまれなくなってギュッと目を瞑りました。
髪を優しく撫でられ、そっと目を開けました。
「そんなに必死に我慢しなくてもいい」
目元に滲んだ涙に口づけられ、武様が仰いました。
「だって、武様…。武様が…」
「ん?」
「私を嬲るようなことばかり仰って、余裕が無くなって。私、私…」
こんな時に泣きたくないのに、涙が勝手に溢れました。
「…悪かった。泣かないでくれ」
嗚咽を漏らす私の上で、武様が仰いました。
「麻由とこうするのは久しぶりだから、つい一人で盛り上がってしまったんだ。
僕の悪い癖だね。泣かせてしまって、済まない」
宥めるように額や頬に何度も口づけられ、謝られます。
それに絆されるように、気持ちがゆっくりと凪いでいくのを感じました。
涙を拭い、唇を緩めて微笑んで見せます。
「麻由…」
目を細められた武様が、唇を重ねられました。
差し入れられた舌を迎え入れ、絡め合いました。
チュッと音を立てて唇が離れ、見つめ合いました。
「…いいかい?」
頷くと、武様がゆっくりと腰を動かし始められました。
その圧迫感と、もたらされる快感に私の腰も次第に揺れ始めました。
「はっ…ん…はっ…」
浅い息を何度も繰り返し、熱い快感を逃がそうとします。
両手を捉えられ、みぞおちの辺りで交差させられて胸を突き出すような格好にさせられました。
それをじっと見られた武様が、そこにお顔を埋められます。
「ああ、癒される…」
胸に頬擦りをして、うっとりとそう仰いました。
膨らみに口づけ、質感を楽しむように唇で甘噛みなさいました。
胸を責めたてるのではなく、じゃれておられるようなその行動に心が温かくなりました。
お仕事第一と私が考え、二人きりになるのを避けていたのがお寂しかったのかも知れません。
申し訳なくなり、私はそっと両手を外し、お背に回して抱き締めました。
「武様…」
小さく囁き、髪をそっと撫でました。
お気が済んだのか、武様は顔を上げられ、また見つめ合いました。
「ありがとう、麻由」
耳元で囁かれ、くすぐったさに身じろぎします。
「んっ!」
また力強く動かれ始め、息が早くなります。
「あ、あ…」
私はもう唇を噛まず、声が出るに任せました。
脚を抱えられ、繋がりが深くされました。
「あっ…やぁ…んっ…」
強くなった圧迫感に耐え切れず、手に力が入りました。
「…もっとかい?」
武様はそう誤解なさり、動きを激しくされます。
ベッドのスプリングがきしみ、ギシギシと音を立てました。
「あっ!あんっ!ち、違…」
訂正しようとしても、もう声になりませんでした。
「やんっ…あ、ああ…武様ぁ…」
強くなった快感に翻弄され、どんどんと呼吸が荒くなっていきます。
「麻由っ!」
声さえ逃すまいとするように、また唇を重ねられました。
先程のように、逃げ場を失った快感が体中を狂ったように駆け巡り、頭が真っ白になりました。
「んっ…あふっ…ん…」
息が苦しくなり、顔をずらして酸素を求めます。
すぐにまた唇を絡め取られ、吸い上げられました。
ああ、もう駄目。
武様!と心で叫び、お背に爪を立てて私は達しました。
余韻に震える私をさらに何度か突き上げられ、武様も少し遅れて絶頂を迎えられました。
抱き締められたまま身体を反転させられ、私は武様の上に乗る格好になりました。
まだ秘所がヒクヒクとして、武様のものに絡んでいるのを感じて恥ずかしくなります。
「ん…麻由…」
上になった私の胸にまた頬擦りされ、武様は微笑まれました。
「よかった。癒されたよ、麻由」
「…はい」
満ち足りた表情で仰るその様子に、私も胸が一杯になりました。
武様のものが抜かれ、喪失感にふと寂しくなります。
後始末を終えられてからまたギュッと抱き締めて下さったので、すぐ元通りになりましたが…。
武様も横になられ、足元に放られたままの布団を掛けてくださいました。
「また、夜這いをかけてもいいかい?」
「えっ?だめです!」
私は大きく何度も首を振り、拒否しました。
「そんなに必死にならなくてもいいじゃないか」
苦笑いされ、きまりが悪くなって下を向きました。
「ここでスリルを味わうのも悪くないが、麻由が嫌がるならやめた方がいいかな」
「…ええ」
「じゃあ、僕の部屋へ今まで通りにおいで」
「はい」
やはりその方がいいようです。また夜這いなどされたら困りますもの。
「でも、最近はお忙しいですから…」
「構わないよ。それに、疲れたらしたくなると言っただろう?」
「はあ…」
体調を考えて自重するといった選択肢は、武様の中には無いのでしょうか。
「そんな顔をしないでおくれ。無理に君を抱くようなことはしないから」
「…本当でございますか?」
お顔を見上げ、問い掛けました。
「自分の体調を鑑みて、大丈夫だと思えば誘いをかける。それならいいだろう?」
「はい」
「でも、それだと誘う前に麻由に逃げられる可能性があるな…」
小さく呟き、武様は考え込まれます。
「屋敷に帰ってきたときに何かサインを決めておけばいいね。
じゃあ、出迎えの時に僕が右手でカバンを渡したら、誘いの合図だということにしようか」
「合図、でございますか?」
「ああ。左手だったら、今日は一人で眠るというサインだと決めよう。覚えておきなさい」
「…かしこまりました」
「世の中にはYES・NO枕というものがあるらしいが、まさかそれを使うわけにはいかないからね」
「イエスノー・枕、でございますか?」
「ああ。枕の表裏に○と×が描いてあって、どちらの面を向けるかで、今日の夜どうするかを知らせるらしい。
それがいいなら、手配しようと思うが?」
武様にそう言われ、頬が染まるのを感じました。
そんな枕、他のメイド達に見られたらどうなるか、考えたくもありません。
「結構でございますっ。カバンを渡す手のサインで十分ですから…」
「そうかい?じゃあ、メイド長。宜しく頼んだよ」
そう仰って微笑まれ、武様はまた軽い口づけを下さいました。
「今日はこのままここで休むよ。明日、早めに起こしてくれればこっそり帰るから」
「はい」
返事をし、武様に身体をすり寄せました。
武様のお部屋の広いベッドとは違う、自室の狭いベッドの上で並んで眠る。
これも幸せというものかもしれないと思いながら、私は目を閉じました。
──終わり──