「風物詩」  
 
 
「お帰りなさいませ」  
今日も、いつも通りに当家の主人であられる遠野武(とおのたける)様のご帰宅を使用人一同でお迎えします。  
「ただいま」  
車から降りられた武様のカバンを受け取るのはメイド長である私、北岡麻由(きたおかまゆ)のお役目。  
「これも頼むよ」  
右手のカバンと共に、左手にお持ちだった紙袋も差し出されて受け取りました。  
袋から覗くのは、見覚えのあるストロベリーピンクの色をした箱。  
「…かしこまりました」  
一気に、頬に血が昇るのを感じました。  
今年も、この季節がやってきたのですね…。  
 
 
この箱との出会いは、四年前のこの季節にさかのぼります。  
厳密に申し上げれば、その時まだ箱は無地の白でしたが…。  
武様がお父上である前社長のご逝去に伴い、ご卒業後まもなく会社を継がれてから一年ほど経った頃。  
私は当時、先代のメイド長の下でその他大勢のメイドたちと共にご奉公しておりました。  
(武様と男女の関係を持つようになったのはさらにこの三年前…でございますが、これはまた別のお話です。)  
ともかく当時、会社からお戻りになった武様がこの箱を私に託されました。  
「僕の部屋に置いといてくれたまえ」とのご指示に従い、私はお部屋へ赴き置いて参りました。  
ドアを閉め、持ち場へ戻ろうと廊下を歩いていた時、すれ違いざまにその夜のお誘いを受けたのでございます。  
「待っているからね」と念を押されてあまつさえ頬に口づけられ、私は大慌てで周囲を見渡しました。  
誰に見咎められるとも知れない廊下ですのに、堂々とこんなことをなさる武様を恨めしく思ったのを覚えております。  
 
 
その日、皆が仕事を終えて引き取り、邸内が静かになるのを待ってからお部屋へと参りました。  
「ああ、来たね」  
お風呂を済まされ、ガウンをお召しになった武様のお姿を見、胸が急に高鳴りはじめました。  
ソファを勧められ、向かい合って座ります。  
「ほら。さっきのなんだが…」  
武様がお示しになったのは、先ほど持ち帰られたあの箱。  
「開けてみなさい」  
促され、紙袋から出して箱のふたを開けた私は歓声を上げました。  
「まあ!」  
思わず満面の笑みを浮かべてしまった理由は、箱の中身にありました。  
女性なら、おそらく十中八九は私と同じ反応をしたでしょう。  
箱には、紅眩しく芳香薫る、美味しそうなイチゴが一杯に入っていたのですから。  
 
 
「麻由?」  
箱を開けた姿勢のまま、イチゴに目を奪われていた私に武様が呼びかけられました。  
「あっ、はい」  
慌てて姿勢を戻し、武様の方を向きます。  
「君がそんなに興味を示すとは、嬉しいね」  
「いえ、あの…」  
はしたない振る舞いをしてしまったことに漸く気付き、少し恥ずかしくなりました。  
「いいんだよ。むしろ、一般の女性の反応が見られて有意義だった」  
「えっ?」  
予想外のことを仰る武様のお顔をぽかんと見つめました。  
 
箱のふたを持ったまま、武様がご説明下さるのを聞きました。  
会社には、通信販売の部門があること。  
今回、業績の振るわないそこを大々的にリニューアルすることになり、有望な女性社員を移動させ、受け持たせたこと。  
その方がまず手始めに、「贅沢あらかると」という通信販売のシリーズを提案されたこと。  
「『贅沢あらかると』というのは、読んで字のごとく、高いものを少しずつ食べ比べ、楽しむというコンセプトらしい。  
見てもらうほうが早いと、今日サンプルを寄越されたんだ。これが、そうさ」  
指で示され、あらためて箱の中身を見つめました。  
よく見ると、箱が十区画に仕切られ、そのマス目一つにつき二つずつイチゴが納まっています。  
「これが『とよのか』。こっちが『さがほのか』で、そっちが『アスカルビー』だね」  
横に書かれた名前を見ながら、武様が解説して下さいました。  
全部で十種、合計二十個のイチゴ。  
どれも一様に美味しそうに見えるイチゴですが、こんなに種類があったなんて。  
スーパーや八百屋さんで見るものよりも赤味が濃くて大きくて、一目で上質であることが分かります。  
これをお食べになる方は、一体どんな上流階級の方なのでしょうか。  
 
 
「食通と呼ばれる人たちは、こういう『食べ比べ』を仲間内でするそうだよ。  
初夏には鮎、冬には牡蠣といった具合に、全国津々浦々から取り寄せ、どれが一番だと議論するらしい」  
「まあ」  
「そこまでいくと大変だが、これなら手軽に食通気分を味わえるという長所があるとその社員から力説されてね」  
なるほど、そうかも知れません。  
魚介類なら品質の他にも、調理法や料理の腕など、それだけで通人の議論の種になりそうなことが山積みです。  
イチゴなら、一切何もせずに届いたそのままで食べることができますもの。  
「気軽に楽しめて、いっぱしの通人の気分が味わえるというこの企画は絶対成功する!と押し切られてね」  
「押しの強い方なのですね」  
「ああ。『イチゴの嫌いな女性なんていません!周囲の女性にこの企画の話をして、反応を見てください!』とね。  
全く、こっちが口を挟むすきを与えないんだよ。参った」  
思い出されたのか、武様は苦笑なさいました。  
責任者の方が女性だというのを思い出し、私は面白くない気分です。  
私以外の女性について武様がお話になるのには、少し嫉妬してしまうのです。  
こんなことで、心が狭いと思われてしまうでしょうが…。  
 
 
「そんなわけでね、麻由の反応を見たかったんだ」  
武様がそう仰って、私は先程のことを思い出しました。  
「あんなに釘付けになってくれるとは思わなかったなぁ」  
さもおかしそうにそう言われてしまい、頬が染まるのが分かりました。  
食い意地が張っていると、武様にそう思われたのではないかと思って。  
 
 
「じゃあ、食べてみようか」  
「えっ?」  
武様のお言葉に、私はパッと顔を上げてしまいました。  
「またそんな、嬉しそうな目をして…」  
声を殺して笑われてしまい、私はもう一つ失敗したことに気が付きます。  
ますます、食い意地が張っていると思われたに違いありませんもの。  
「これほどのイチゴなら、食べ甲斐があるだろう。厨房へ行って、洗ってきてくれるかい?」  
「はい」  
内心の動揺を誤魔化すように、勢いよく立ち上がりました。  
「洗うときに、一緒くたにしないでおくれよ。ちゃんと品種ごとに箱の同じ場所に戻しておくれ。  
『食べ比べ』だからね。名と味が一致しないと意味がないと、きつく言われているんだ」  
「はい、かしこまりました」  
 
音を立てないように厨房へ向かい、イチゴを洗ってお部屋へと戻りました。  
二人分のフォーク、お皿、そして冷蔵庫から使いさしの練乳を取り出して一緒に持って行きます。  
あれほどのイチゴなら何もつけないでも十分でしょうが、念のためです。  
テーブルに箱を置き、お皿とフォークを並べました。  
「洗ってから戻すと、箱がヘタるね。これは改善の必要があるな」  
「はい」  
もっともらしく頷くのですが、私の目にはもうイチゴしか映りません。  
洗ったからでしょうか、残った雫がきらきら輝いて、さらに美味しそうに見えるのですもの。  
「じゃあ、どれから食べたい?」  
「ええと…」  
十種類を見渡し、私はそのまま固まりました。  
「決められないのかい?」  
「いえ!…では、この『女峰』から。宜しいですか?」  
「ああ、そうしよう」  
 
 
同じ種類のイチゴを一つずつ取り、同時に食べてゆきました。  
甘みが強いもの、酸味の勝っているもの。  
爽やかな後味のもの、濃厚で舌が蕩けそうなもの。  
中まで赤いもの、白いもの、中はベージュがかった色で香気の強いもの。  
口の中に瑞々しい果汁が迸り、一口ごとに身体の中から綺麗になれるような気がしてまいります。  
見るだけでは分かりませんでしたが、種類ごとにこうまで味が違うのかと目をみはりました。  
七品種食べ終わったところで、一度休憩します。  
私は「さちのか」が気に入りましたと申し上げ、武様は「アイベリー」が気に入ったと仰いました。  
 
 
「ふう。さすがに、食べ応えがあるね」  
「はい」  
どれも味が濃く大粒のイチゴですから、そう仰るのも無理はありません。  
「ちょっと、気分を変えてみようかな」  
武様はそう仰り、練乳のチューブを手に取られました。  
イチゴの上にしぼり出し、白く糸を引いたようになったのを口に含まれました。  
あ、せっかく農家の方が丹精されたのに…と、少し残念な気持ちになります。  
「そのまま食べるのもいいが、やっぱり、これもまたいいな」  
口元を綻ばせてそう仰るのを見つめました。  
 
 
「麻由も食べてご覧」  
私の分のイチゴを手に取られ、武様が練乳を掛けてくださいました。  
「ほら、あーんして」  
ふざけた調子で仰って、口元に近付けられました。  
普通の恋人同士のようなその仕草に嬉しくなり、私も応えるべく口を開け、食べさせていただきます。  
「んっ…あ…」  
差し出されたそれを口に含んだ瞬間、練乳が滴り落ち、私の手の甲に付きました。  
「あぁ、勿体ない」  
食べさせて頂いたイチゴを飲み込んだあと、手に付いた練乳を舐め取りました。  
服に付かなくてよかったと胸をなで下ろしていた私は、その時、武様が急に沈黙なさったのに気が付かなかったのです。  
 
 
残ったイチゴはあと二種類。  
最後はやはり「あまおう」でしょうか。それとも「章姫(あきひめ)」?  
どちらにしようかと悩み、箱の中を見つめます。  
「麻由」  
「はい?…んっ」  
武様、次はどれにいたしましょう?  
そう言おうとして開いた口を、武様の唇で塞がれました。  
最初は、軽く口づけられては離れる、優しいキス。  
そして、微かにイチゴの味のする舌が入り込み、私のものと絡みました。  
うっとりして、されるがままになります。  
イチゴ味のキス。なんて、ロマンチックなんでしょう。  
 
唇が離れ、至近距離で見つめ合いました。  
いつの間にか、武様はソファのこちら側に回られていたのですね。  
イチゴに夢中で、全く気が付きませんでした。  
「さあ、麻由」  
「何でございましょう?」  
余韻冷めやらぬまま、夢見心地で返答します。  
「イチゴは、もういいかな。次は、麻由のことが食べたい」  
「えっ!」  
耳元で囁かれ、心臓が跳ねました。  
「いいだろう?」  
言葉を探している間に、有無を言わせずベッドへと運ばれてしまいました。  
その時、武様がガウンのポケットに、あるものを潜ませていらっしゃったこと。  
甘い空気に酔っていた私は、それにも全く気付かなかったのでございます。  
 
 
ベッドに相対して座り、着衣を脱がせ合いました。  
「今日も可愛いね、麻由」  
抱き締めてそう仰ってくださるのに、頬が染まりました。  
他の誰より、武様に褒めていただくのが一番嬉しいのですもの。  
幸福感に浸ったまま、武様に体重をかけられて二人ともベッドに沈み込みました。  
 
 
「ん…っん…」  
首筋や喉元に口づけが何度も降り注いでは、チュッという音を立てて離れました。  
まだイチゴの香りが周囲に漂っているようで、私はうっとりと目を閉じておりました。  
指を絡められていた手を片方外され、何やらがさごそと音がします。  
何かしら…と怪訝に思ったその時。  
「キャッ!」  
冷たい刺激が胸元に走り、私は飛び起きました。  
「こら。大人しくしていなさい」  
武様にたしなめられますが、それどころではないのです。  
何か液体のようなものが肌に付着し、とろりと流れ落ちる感触がしたのですから。  
 
 
腕を押さえられ、また組み敷かれました。  
「麻由の肌は、これに負けないくらい白いね」  
嬉しそうに仰る武様のお顔を、下から見上げました。  
「ほら」  
じゃーん、と効果音が付きそうなほど得意気に見せられたのは、さっきまでテーブルにあった練乳のチューブ。  
なぜそれが今ここにあるのか分からず、何度も瞬きをしました。  
言葉を失っている私をこれ幸いと、武様はお手にあるチューブを絞り、私の肌に練乳を垂らされました。  
「キャッ!」  
さっきと同じような刺激が身体を走ります。  
ああ、がさごそというさっきの音は、これをポケットかどこかから取り出されていた音だったのですか。  
…えっ、どうして?  
 
クチュッという音と共に、武様が私の肌に吸いつかれました。  
「ん…あ…」  
そのまま、舌を広範囲に使って舐め上げられ、肌が粟立ちました。  
なんだか、違うのです。  
いつもよりももっと粘着質で、背筋に震えが走るような感触が…。  
初めてのことに、私は身を捩りました。  
「ああ、甘いね」  
熱を帯びた声で武様に囁かれ、我に返りました。  
「おやめ下さいませ、このようなこと…」  
練乳はイチゴやカキ氷のためのもので、肌につけるものではありません。  
食べ物をおもちゃにするのは、教育上よくありませんし。  
いえ、別に教育はこの際関係ないですが。  
「君が、僕を誘うようなことをするのがいけない」  
「えっ?私がいつそんな…」  
「手に付いた練乳を舐めただろう?あの時さ」  
そう言われても、さっぱり分かりません。  
私がそうしたことが、なぜこれに繋がるのでしょう。  
 
 
武様の舌から逃げようとしますが、がっちりと押さえ込まれているので身動きができません。  
じたばたしている間にも、何度も練乳が肌に落ち、武様に舐め取られました。  
「なんだか、舐めた後の肌がしっとりしているようだよ?」  
練乳が落ちたところとそうでないところ、それぞれに指が這い、確かめるように撫でられました。  
肌を滑る指の感触にまた感じてしまい、慌てて声を抑えます。  
甘いミルクの香りが濃厚に漂っているのが、自分でも分かりました。  
 
 
「キャッ!やぁ…」  
突然、胸の頂に冷たい感触が走りました。  
その正体が何なのかは、申し上げるまでもないでしょう。  
「ほら、麻由。ここが赤く尖っているから、これを垂らしたらぴったりだ」  
指先で頂をくるくると撫でながら、武様が仰いました。  
思わず下方へと視線を遣り、私はまた固まってしまいました。  
ぷっくりと立ち上がり、充血した胸の頂にかかる、白い液体。  
それがとても卑猥に見えたのです。  
「あ…んんっ…」  
重みのある液体が胸の先に絡み、何とも言えない刺激を生みました。  
武様の指で捏ね上げられ、切ない疼きが走って腰が浮き上がります。  
「や…だめ…ですっ…」  
身動きが取れませんから、せめて精一杯お顔を見上げて抗議しました。  
 
 
「そうか、駄目か…」  
「はい!」  
珍しく素直に聞き入れて下さる素振りを見て、勢い込んで返事をしました。  
うむ、と頷かれて動きを止められた武様に、必死でアピールを試みたのです。  
「じゃあ、垂らした分を綺麗にしないとね」  
「え……あんっ!」  
端正なお顔でにやりと微笑まれたかと思うと、武様は私の胸に吸いつかれました。  
「や…あん…ひぁん…ん…」  
先ほどの指の動きを再現するかのように、舌で胸の先を転がして弄ばれました。  
ああ、なんてこと。  
先ほど見せられたしおらしい素振りは、こうなさる為の伏線だったのでしょう。  
見事に引っかかった自分の浅はかさに、しみじみと情けなくなりました。  
「ん…。何だか、すごくいけないことをしている気分だよ」  
チュッと音を立てて口を離された武様が、胸の先に唇の触れる距離で仰います。  
その微かな刺激にさえ感じてしまい、私は何度も高い声を上げました。  
 
抵抗する力を失ったまま、同じようにして反対側の胸も武様に可愛がられました。  
悔しいのですが、粘りのある練乳が舐め取られて肌の上から消えると、妙に心地が良いのです。  
多めに搾り出され、肌の上に乗ったときなどは特にそう感じました。  
べっとりとした感触の心地悪さに、そこから救って下さる武様の舌を待つ自分がいて…。  
こうなることも、武様の計算のうちだったのでしょうか。  
悔しいのですが、周囲に立ち込めるミルクの甘い香りがますます強くなり、私から思考を奪ってゆきました。  
 
 
いきなり両脚を持ち上げられ、驚いて息を飲みました。  
そのままグッとお尻まで上がり、赤ちゃんがおしめを替えられる時のような体勢にされてしまって。  
「えっ?何をなさるんですか!」  
慌てて抗議します。  
こんな格好を取らされるなど、あんまりです。  
「大人しくしなさい」  
膝裏をがっちりと押さえ込み、武様がぴしゃりとそう仰いました。  
「嫌です!こんな…っ!」  
羞恥に耐えられず、お手を押し返そうと試みました。  
武様も抵抗され、しばらく無言の攻防が続きました。  
 
 
「あっ!」  
頭を下げられた武様が、私の秘所に舌で触れられました。  
「や…あ…んっ…」  
輪郭をなぞるように舐め上げられ、身体が震えました。  
手の力が抜けてしまい、悔しさに唇を噛みます。  
急速に嫌な予感が高まります、高まっ…。  
「!」  
秘所に先ほどと同じ、冷たい感触が落ちました。  
絞り落とされたそれを粘膜に塗り広げるかのように舌が動き、心地悪さに鳥肌の立つような思いがします。  
敏感な場所を圧迫するような、どろりと重い質感の液体を乗せられて。  
雨に濡れた服が肌にべっとりと貼り付くような、そんな類の不快感でした。  
 
 
早くこの心地悪さから逃れたくて、身を捩りました。  
武様に押さえ込まれていますので、こんなことでは足しにならないのですが、せずにはいられないのです。  
「やぁ…」  
涙目になりながら、空しく動きました。  
「麻由?」  
この原因を作られた張本人が、脚の間で私のことを見ておられます。  
ますます恥ずかしさが募り、いたたまれなくなりました。  
 
 
膝裏を押さえる手の力が強くなり、武様の舌が再び秘所に届きました。  
「ああ…」  
粘っこい液体を舐め取られるのが気持ち良くて、大きく息を吐きました。  
決して、愛撫をねだっているわけではないのに…。  
こんな格好で秘所を舐められているのを肯定してしまっている自分が嫌いになりそうです。  
「頭が痺れるほど甘いな」  
一旦口を離された武様のお声が下方から聞こえます。  
こんなことをなさるのも、全て、この練乳のせいなのでしょう。  
秘所に塗りつけられたこれが粘膜から染み込んでいくような心地がし、身体ごと甘くなっていくような予感にとらわれました。  
 
 
粘り気のある液体が肌の上から消え、ホッと息をつきました。  
でもおかしいのです、何だか、その辺りが熱を持っているような…。  
「何だか、別のもので麻由のここが濡れてきたようだよ?」  
「あっ…ん…」  
そこを指で開かれ、敏感な突起に武様の舌が触れました。  
「やぁ…あ…ああん…」  
秘所に絡み付いていた液体が無くなったことで、舌で舐められる生々しい感触が鮮烈に伝わりました。  
「あっ!」  
チュッと音を立てて敏感な突起に吸いつかれ、身体が大きく跳ねました。  
腰の辺りにもやもやとしたものが溜まり、はけ口を求めてうねっているようです。  
「あっ…あ…ん…はんっ…あぁん…」  
押さえつけられた格好のままで、口から出るのは短い喘ぎだけ。  
「んぅ…あんっ…や…武様、もう…もうっ…」  
頭がカッと熱くなり、めまいがするほどの快感が駆け上ってきます。  
「いや…あ、ダメ……あああっ!」  
ガクガクと腰を震わせ、私は達してしまいました。  
武様はそれを見届けられた後、脚をそっと離して下さいました。  
 
 
余韻に震えながらも、急速に湧いてきた罪悪感のようなものに、私は小さくなっておりました。  
「麻由?」  
横に寝転がられ、髪を撫でてくださる武様に呼ばれても、視線を合わせる気になれなかったのです。  
「…んっ」  
顔を覗き込まれましたが、恥ずかしくて目を逸らしてしまいました。  
食べ物を使ってあんな風にされてしまったこと、変な格好で秘所に触れられたこと。  
この二つがぐるぐると頭を巡り、居たたまれない気持ちになりました。  
 
 
「良くなかったのかい?」  
「えっ…」  
問われる武様のお声が沈んだ調子に聞こえ、私は顔を上げました。  
良くなかった…わけではないのです、達してしまったのですから。  
そうあからさまに言うのは躊躇われ、どう言おうかと他の言葉を探しました。  
「あの…練乳の感触が…気持ち悪くて、その…」  
この際、命持たざる物のせいにすることにします。  
「そうなのかい?」  
「ええ。なんだかベタッとしていて、肌に貼り付くようで…」  
「そんなに不快だったのかい?」  
「…はい」  
迷いましたが、正直に返答いたしました。  
「僕には分からないな」  
「はあ…」  
「本当は、とても良かったんじゃないのかい?」  
顔を覗き込んでそう仰った武様のお言葉に、私はカッとなりました。  
「良いなんて、そんな!武様も、同じ目に会ってみられればきっとお分かりになると思います!」  
一気にそう申し上げ、肩で息をしながらお顔を正面から見返しました。  
 
 
「同じ目、か」  
呟かれた武様のお声に、ギクッとしました。  
感情に任せて言ってしまいましたが、同じというのはつまり、私がこれを使って…。  
何てことを言ってしまったのかと、サーッと血の気が引きました。  
「あの、訂正い…」  
「じゃあ、麻由の身にもなってみることにしよう」  
「え…」  
練乳のチューブを手に取られた武様が、私にそれを押し付けられました。  
反射的に受け取ってしまい、胸に抱えて呆然とします。  
「それを使って、僕を同じ目に会わせておくれ」  
 
身体を起こしてベッドに腰掛けられた武様に、振り返って見つめられました。  
「あ、あの…」  
ピンチに陥ったことに、今更ながら気付きます。  
「どうしたんだい?同じ目に会えば分かると言ったのは君だよ」  
「……」  
この場を切り抜ける方法が見つからないまま、私はのろのろと身体を起こしました。  
ベッドから降り、武様の前に膝を付いてしゃがみ込みます。  
一体どうしたら…。  
「ほら」  
武様が私の手を取られ、ご自身のものに触れさせられました。  
「っ!」  
思わず手を引こうとしますが、武様が私の手ごと握り込まれ、離すことが出来ません。  
「存分にやってくれたまえ、麻由」  
…また、武様の弄された策に引っ掛かってしまった自分の浅はかさを恨みました。  
 
 
残り少なくなっていたチューブを傾け、中身を搾り出しました。  
武様のものに練乳がとろとろと絡み、低い方へと流れていきます。  
床のじゅうたんの上に落ちる前にと、舌を出してそっと舐め取りました。  
「あ…」  
武様が息を飲まれたのを感じ、お顔を見上げます。  
これが肌に付着する心地悪さを、ご自分でもお感じになれば宜しいのです。  
「麻由、もっと…」  
後頭部を抱えられ、ねだられました。  
持っていたチューブを奪われ、武様がご自分でそこに練乳を垂らされます。  
高い位置から滴下したそのままの状態で一瞬止まり、その後にとろりと形を失くす白い液体が、何だか色っぽく見えて参りました。  
引き込まれるように、私は唇を近づけて武様のものを咥えました。  
「んっ…ん…」  
ミルクの香りが鼻に抜け、甘い味が頭の奥まで染み込んでくるようです。  
その粘り気で口が動かしづらいような、そうでもないような…。  
ぎゅっと口を引き結び、目を閉じられている武様のお顔を見上げながらご奉仕をいたしました。  
 
 
何度か引き抜かれ、武様が練乳を垂らされてまた改めて口内に迎え入れる。  
この行為を幾度か繰り返し、武様の吐息が段々と荒くなっていくのを感じました。  
ご自身も一段と大きく、固くなって参りました。  
私もこうしているうちに気分が高まり、目が潤んでいるのが自分でも分かりました。  
「あ、」  
口から武様のものが引き抜かれ、またチューブが搾られます。  
しかし、今度は一、二滴ほどしか出ず、あとは空気ばかりが出る虚しい音がしました。  
「無くなったようだね」  
「はい」  
指で拭われ、それを口に含まされました。  
チューブがベッドサイドに置かれ、ころりと転がるのを見つめます。  
「最後は、麻由の中を味わいたいな」  
「…はい」  
 
 
ベッドににじり上がり、武様が準備をなさるのをお待ちしました。  
「今日は、どうしたい?」  
何を、と問い返そうとしたところで、武様のご意図に気付きました。  
首を傾げ、しばらく考えます。  
いつものようになら、また足を抱え上げられて先程のひっくり返ったカエルのような姿勢にされてしまうかも知れません。  
ベッドに関しての武様を、ご信頼申し上げることはできませんもの。  
「あの、こう…」  
座って向かい合う姿勢になり、お膝の上へにじり上がりました。  
「そうか」  
頬に口づけられ、私達は一つになりました。  
 
「あ…あ…」  
武様のものがゆっくりと私の中を往復します。  
いつもより引っ掛かると申しますか、吸い付く感じが強いようで…。  
先程の練乳が、まだ私の中に残っているのでしょうか。  
「ん…あん…ふっ…ん…」  
武様にギュッと抱きつき、体を支えながら動きます。  
「麻由…っ…」  
腰を支えられ、さらに密着しました。  
ぶれていた体が安定して、先程よりも大きく動けるようになりました。  
「あぁ…武様…んっ…ん…」  
お腹に力を入れ、下から湧き上がってくる快感を堪えます。  
「あ…あん…くっ…ん…ん…あっ!」  
急に力強く突き上げられ、息を飲みました。  
「ふぁっ…あ…んんっ!やんっ!」  
腕を突っ張って身を浮かし、快感を逃して息を整えようとします。  
「駄目だ」  
「キャッ!」  
武様のお手が私の背に回り、身体を引き落とすように距離を戻されました。  
繋がりが深くなり、喉から呻きにも似た声が漏れました。  
 
 
抱えられたまま、背中からベッドへ倒されました。  
「やぁ…あんっ…ああ!」  
特に気持ちの良い所を責められ、すぐにも達してしまいそうになります。  
まだいけません、武様と一緒でないと…。  
だから堪えなければと必死になり、唇を噛みました。  
「麻由…」  
武様が優しいキスを下さり、少しだけ口元の力が緩みます。  
そのまま舌をこじ入れられ、私のものと絡みました。  
 
 
快感を堪える術を失い、ますます追い詰められます。  
チュッと音を立てて武様の唇が離れた時には、もう声を抑えることができませんでした。  
「あんっ!…や…あ…あぁ!…武様、もう…あ…あぁん!」  
身体が頂点へと向かって一直線に駆け上っていきます。  
「やっ…ん…あ…ダメ、ああああっ!」  
大きく身体が震えて、私は達してしまいました。  
「麻由…んっ…」  
武様が顔をしかめられ、さらに動かれます。  
達した後に更に刺激を与えられ、私はもう息をするのもやっとでした。  
「はっ…あ…んくっ…」  
「…くぅっ!」  
一際深く貫かれたその時、武様が絶頂を迎えられたのが分かりました。  
何度か緩く腰を使われ、全てを吐き出された後、またしっとりと口づけられました。  
 
 
余韻に十分浸った後にお風呂場に運ばれ、武様が手ずから私の身体を洗って下さいました。  
ボディーソープの泡を流されて、やっとすっきりすることができまして。  
ホッと息をつき、忍び寄ってきた眠気と戦います。  
「素材そのままを味わうのもいいね」  
「あんっ…」  
武様のお顔が近付いて再び胸に与えられた快感に、身体がまたその気になりそうです。  
でも、今日はもう…。  
「ふざけ過ぎたようだね。今日はもうしないよ」  
表情を曇らせた私をご覧になり、武様はお手を離されました。  
脱衣所へ移動してバスタオルで拭っていただき、再びベッドへと運ばれます。  
横たえられ、武様に抱き締められました。  
 
顔を向こうへ逸らし、小さく欠伸をしました。  
「それで、麻由。あのイチゴの食べ比べセットに対してどう思った?」  
いきなり問い掛けられ、目を少し見開きました。  
「『身の回りの女性に感想を聞いてみる』というのが、本来の目的だったからね。担当者に感想はどうでしたと尋ねられるかも」  
本当に。感想を求められるだけのはずだったのに、なぜこんなことになってしまったのでしょう。  
それもこれも、武様が私の仕草をご覧になって、想像をたくましくされたのがいけないのです。  
拗ねて返答しないでおきたい気分ですが、社長の周囲の女性は役立たずだとあの責任者の女性に思われても困ります。  
「あの、箱のことについてなのですが」  
「うん」  
「白地というのは、少し寂しい感じがするのです。もう少し色味のある方が良いのではと想うのですが」  
「なるほど、そうだね。何色がいいかなあ」  
「あまりきつい色ではイチゴの存在感が減りますし…。  
そうだわ、ピンク色なんてどうでしょう?」  
「ピンク?」  
「ええ。少女趣味かも知れませんけれど、そちらの方がロマンチックですもの」  
「確かに、目を引きそうだね。白い箱ならカタログの背景と同化するからね」  
「あっ!」  
名案が思い浮かび、私は武様のお手を握り締めました。  
「ストロベリーピンクがいいです!」  
「ほう」  
「それだとちょっと濃すぎる気も致しますが。ともかく、『ストロベリーピンク』っぽい色がいいと思います!」  
「ストロベリーピンクか…」  
顎に手を遣られた武様は、少し考え込まれました。  
 
 
「分かった。担当者にそう伝えておこう」  
「はい」  
「僕の案じゃないのは丸分かりだな。誰に言われたのかと、通販部門の人間に尋ねられるかもね」  
「えっ…」  
「その時には、そうだな『僕の大事な人だ』とでも答えるさ」  
優しく微笑んで下さった武様のお顔を見て、心が温かくなりました。  
大事な人。  
武様にそう思われていることがとても幸せだったのです。  
「さあ、もう寝よう。明日、部屋を出るときに残りのイチゴを食べてしまって、片付けておくれ」  
「えっ?」  
あと二種、四個残っていたイチゴ。あれを独り占めできるのでしょうか?  
「またそんなに嬉しそうな顔をして…」  
だって、実際本当に嬉しいのですもの、仕方がありません。  
「お休み、麻由」  
「お休みなさいませ」  
 
 
翌朝、テーブルに残っていたイチゴを食べてしまい、お皿やごみを片付けました。  
昨日食べたものと合わせて十種、どれが一番美味しかったかを考えながら、朝食を済ませて仕事につきました。  
そしてその日の夕方のこと。  
「あれ、おかしいなあ」  
「どうなさったんです?」  
厨房を通りがかった時、料理長が首を傾げているところに出くわしました。  
「今日のデザートに、イチゴを出すつもりなんだけどね。練乳が見当たらないんだ」  
「え?」  
昨日のことが一気に思い出され、一気に血圧が上がるのを感じました。  
武様のお部屋を出るとき、あのチューブは、見つからぬようこっそりと処分していたのでございます。  
空のまま冷蔵庫には戻せませんもの。  
「麻由ちゃんは知らない、よねぇ?」  
「ええ、し、しし知りません!」  
声が裏返り、ものすごく不自然な返答になってしまいます。  
「うーん、あったと思ったんだが。私の思い違いかも知れないね、多分」  
料理長が冷蔵庫を閉めてあちらへ歩いていかれるのを、私は顔から火の出るような思いで見送りました。  
 
これが、この箱との出会いに関するあらましでございます。  
翌年、「贅沢あらかると」は世の女性達を中心に人気を博し、会社の定番商品となりました。  
イチゴだけではなく、季節に応じて柑橘類やぶどうなどの食べ比べセットも発売されたそうです。  
上質のものを探すため、これを企画された例の女性社員は現在も日本全国を飛び回っておられます。  
カタログを見せていただいた時、企画開発者としてこの方の顔写真が出ておりました。  
「種類をただ集めただけでは『詰め合わせ』になってしまいます。  
『食べ比べ』に適する食材選びを今後も頑張って参ります」とのコメント付きで。  
社内恋愛で結婚し、現在は三児の母として家庭に仕事に頑張っておられるとプロフィール欄に説明がありました。  
これを読んだことで、仄かに感じておりましたこの方への嫉妬は解消されたのでございます。  
 
 
私が述べました意見を採用して頂き、箱の色は白からストロベリーピンクになりました。  
練乳もあった方が良い、と武様がご意見なさったこともあり、セットで届けられることに決まったのです。  
しかし、二十個のイチゴに対し、練乳のチューブ一本は多いような気が致します。  
それを申し上げると「この量がいいんだよ、分かるだろう?」と言われてしまい、私はヤブヘビになったと慌てました。  
あの時から、毎年一回、この季節には武様がこれを会社から持ち帰られます。  
そして、二人で深夜のデザートを楽しむというのがそれから慣例になったのでございます。  
旬のイチゴを堪能し、そしてその後、私はあの時と同じように、武様に…。  
あの時から何度か重ねた濃密な時間を思い、甘い予感に身体が震えました。  
 
 
皆様。食べ物で遊んではいけませんというのは、昔からのれっきとした日本の教えです。  
どうしてもというのなら、遊んでそのままにはせず、最後にはきちんと食べてしまうことを約束して下さいませ。  
「いえ違います、『私を食べて』という意味ではありません!武様っ!」  
 
 
──終わり──   
 

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