「夜の勉強」  
 
二人きりの旅行から帰ってきて、数日経ちました。  
夢のようだったその時間を反芻しては、仕事中に笑みを抑えられないでいます。  
武(たける)様に膝枕をしたこと、お揃いの浴衣を着てお酌をしたこと、外で手を繋いで頂いたこと。  
そして、二度も一緒に露天風呂に入れたこと。  
そこでされてしまったことは、今思い出しても頬に血が昇ってしまいます。  
拒否しきれなかったのは、やはり、旅先だということで気分が開放的になっていたからなのでしょうか。  
 
 
二月も半ばとなり、寒いながらも毎日頑張ってお勤めをしています。  
昼間、武様とすれ違った時に夜のお誘いを受け、今日も足音を忍ばせてお部屋へと参りました。  
小さく3回ノックをし、ドアを開けて入室します。  
「ああ、来たね」  
待ちかねたように立ち上がり、迎えてくださる愛しい方のお姿に胸がきゅんと高鳴ります。  
お傍まで行くと、引き寄せられて優しく啄ばむような口づけを受けました。  
「早く夜にならないかと思っていた」  
耳元で囁かれ、私と同じことを思って下さっていたことに嬉しくなりました。  
ソファを勧められ、言われるままに腰掛けて。  
夜、お部屋へ伺ってすぐベッドへ…というわけではなく、大抵はこうやってまずお話をするのです。  
武様の大学のこと、お屋敷内で今日あったこと。  
立場の違う私達ですから、その隙間を埋めるためにという武様のお心遣いなのでしょう。  
 
 
「あの櫛は、使ってくれているかい?」  
私を座らせたあと、武様はいつもならテーブルを挟んで対面に座られます。  
しかし、今日はなぜかソファに並んで腰掛けられました。  
「いえ、勿体無くて…」  
使うのが惜しくて、あれ以来手を触れるどころか、箱を開けてさえおりません。  
本当なら、金庫にでもしまっておきたいくらいなのです。  
「大げさだなあ、麻由は」  
「せっかく下さった物なのですもの、もし割ってしまったりしたら…」  
それこそ、落ち込んだまましばらくは立ち直れそうにありません。  
「うん。まあ、そこまで大事に思ってくれるのなら無理して使えとは言わないよ」  
武様はクスクスとお笑いになり、纏めた私の髪をそっと撫でて下さいました。  
肩にもたれさせて頂き、お互いに何も言わない時がしばらく流れました。  
こうしていると、ご主人様とメイドという立場の違いを忘れ、本当の恋人同士のように思えます。  
 
 
「あら、それは何かの御本ですか?」  
書店名入りのカバーが掛かった本がテーブルの隅においてあるのに気付き、尋ねました。  
「ん?ああ、君が来るまで読んでいたんだ」  
「大学のお勉強の本ですか?」  
「いや、そうじゃないんだが…」  
言葉を濁されたのが、なぜか気になりました。  
「読みたいなら、読んでみるといい」  
「宜しいのですか?」  
「ああ」  
以前も同じようなことがあり、手に取って開いてみるとびっしりと英語だけが書かれた本でした。  
今回もどうせ歯が立たないでしょうが、武様と同じものが読んでみたいのです。  
私は手を伸ばして本に触れ、えいっとページを開きました。  
 
思いに反し、開いたそのページに載っていたのは挿絵でした。  
日本髪を結った女性と、町人髷の男性の二人。  
何か同じ方向を見ているような形で、寄り添っている構図でした。  
それにしても、何だか着物の柄が地味なような気がします。  
白い帷子(かたびら)でも着ているのでしょうか、でも襟元の線が描かれていません。  
まるで全身タイツを着ているかのような…。  
「えっ!」  
心臓が跳ね、挿絵を凝視しました。  
まさか、これは…。  
「やっと分かったかい?」  
「あ、あの……」  
なぜでしょう、嫌な予感がして武様のお顔を見ることができません。  
「それは、春画だよ」  
「春画…」  
おうむ返しに呟き、あっけに取られてしまいました。  
 
 
そのままの姿勢で呆けていた私の手から、武様が本を取られました。  
「始めに言っておくが、僕がこれを自分で買ってきたわけじゃないよ」  
「はあ…」  
「麻由と旅行に行く前、僕はゼミの仲間と京都に行ったと言っただろう?」  
「はい」  
「一日目の夜にビンゴ大会があってね。僕は三等だったんだ」  
「ビンゴ大会の、景品というわけですか?」  
「そうだ。一等がメンズシェーバー、二等が図書カード五千円分。で、これが三等」  
「三等…」  
一等も二等もまともな品物なのに、なんでこれが三等なのでしょう。  
景品を見繕われた方のセンスを小一時間問い詰めたい気分です。  
「たぶん、オチのつもりなんじゃないかな」  
表情から私の思ったことを読まれたのか、武様がそう仰いました。  
 
 
脱力したまま、武様のお話を聞きました。  
「三等から後は、何かやらされたんだよ。  
皆の前で一曲うなるとか、二人羽織をやった奴もいたかな。  
最後の方は、大学に帰ってから教授の部屋を掃除するとか、下級生に三日間敬語で喋るとか、大変そうなことだった」  
「それじゃあ、ビンゴしても嬉しくありませんね」  
「ああ。でも、最後になるほど悪いことが起こるのは分かっていたから、皆必死だったんだ」  
思い出されたのか、おかしそうに笑いながらそう仰いました。  
「じゃあ、武様は三等でよかったと?」  
「うーん、まあ、そういうことになるかな」  
「…そうですか」  
私なら、こんなに恥ずかしいものを貰うより、芸でも披露したほうがましに思えます。  
「でも、ゲームが終わった後にあれこれ言われてね」  
「ゼミの皆様にですか?」  
「ああ。ビンゴするのが遅くて、変な罰ゲームを食らった奴にね」  
「それはそうでしょうね」  
「『お前がそんなの貰って、宝の持ち腐れじゃないか』とか」  
「まあ」  
「『やってみたいなら、いい店を紹介するよ』と言ってくれた先輩もいた」  
何てことを。男所帯のゼミというのは、そういうものなのでしょうか?  
武様に変なことを吹き込まないでほしいものです。  
 
「多分、僕がまだ女性を知らないと思っているんだろうね」  
「……」  
「まあ、猥談にも参加しないし、学内を連れ立って歩いたりしないから、しょうがないんだが」  
「ええ」  
確かに、武様がそんなお話をなさっている姿など想像できません。  
学内を他の方と歩かれないというのも…正直ホッと致しました。  
私の知らない女性と、大学で会われているのでは…という懸念をすることもありましたから。  
「僕が猥談に参加したら、麻由のことを思い出して顔が赤くなってしまうからね」  
「えっ?」  
「皆の話を、自分と麻由に置き換えて、けしからぬ想像をするだろうから」  
「…」  
何も言えず、私は俯きました。  
もし私も女友達とそういう話になったら、きっと武様とのことを思うのでしょうから。  
 
 
「僕がそんな風に言われるなんて、君としては悔しくは無いかい?」  
「えっ?」  
「こんなに可愛い恋人がいるのに、そうは思われていないなんて、さ」  
頬に触れられた武様が、芝居がかったきざな科(しな)を作って仰いました。  
「か、可愛いだなんて…」  
顔から火が出たように熱くなり、私はまた下を向いてしまいました。  
そんなふうにからかわれるなんて、武様も人が悪くなられたものです。  
照れたまま俯いていると、急に腰に手を回され、グッと引き寄せられました。  
「あ、あの…」  
驚いて、私は武様のお顔を見上げました。  
まさか、今日はここで、このまま…。  
抵抗しようかやめようかと、頭の中がぐるぐるとしました。  
 
 
「読んでみないか」  
「?」  
葛藤している私の斜め上から、武様のお声が聞こえました。  
「せっかく景品で貰ったんだから、全く使わないのも勿体無い。  
皆の鼻を明かしてやる為にも、ね?」  
首を傾げてそう頼まれるのに、私が異を唱えられるはずがありません。  
あの挿絵です、文章も何を書いてあるのか想像が付きそうなものなのに。  
私は断ることができず、本を受け取ってしまったのです。  
 
 
最初は、性風俗というのでしょうか、そういったものの時代による変遷が書かれていました。  
通い婚の時代、戦国時代の正室側室のこと、吉原や大奥のこと。  
江戸時代のことが特に詳しく書かれており、先程の挿絵も町人文化の一端である春画の参考資料だったのです。  
思ったより真面目な内容で、安心しました。  
テーマについては一言も二言も申し上げたいですが…。  
江戸時代以降については、端折られていました。  
これなら、二人で読んでも問題は無いようです。  
しかし、章が変わり、その扉ページを武様がめくられた瞬間。  
私は危うく悲鳴を上げそうになりました。  
 
再び先程のような挿絵が両ページ共に描かれていたのです。  
様々な形で交わっている男女が、その…。  
高速でページを繰りますが、次々と絵が変わるだけで、文が殆どありません。  
これをビンゴゲームの景品に選ばれた方を、もう小一時間ほど問い詰めたい気分になりました。  
「ああ、これは四十八手だね」  
「えっ?」  
この時に聞き流せばよかったのにと気付けなかったのが、私の愚かさでございます。  
いわゆる「スルースキル」が、私にはきっと足りなかったのでしょう。  
「二人で楽しむときに、どういう形を取ればいいのかの一覧表みたいなものだ」  
「…そうですか」  
「せっかくだし、見てみようよ」  
「えっ!」  
これを、武様と一緒に?  
「ね、いいだろう?」  
頼み込まれ、私はまたしぶしぶ頷く羽目になりました。  
 
 
挿絵の下に、その形の名前と特色が注釈で書かれています。  
ア行から順番に、一ページに一つずつ。  
身の置き場の無い心地で、本に見入ることになってしまいました。  
「岩清水」「浮橋」「(立ち)花菱」「千鳥」  
その名は麗しいのに、挿絵が妙に生々しく、正視することができませんでした。  
「ふむ。もうやってしまったのもあるね」  
武様が仰った言葉に、思わず挿絵を凝視してしまいました。  
確かに、覚えのある形が絵になっています。  
伝統にのっとった形を知らぬ間になぞっているのでしょうか。  
でも、全く見たことも聞いたことも無い挿絵もありました。  
「菊一文字」や「立ち松葉」など。  
見ただけで身体の筋や関節があちこち痛くなりそうで、無意識にその辺りを抑えました。  
 
 
「こういうのは、いいね。季節感がある」  
あるページに差し掛かった時、武様が私の手を止めさせて仰いました。  
「コタツかがり」  
男性の膝の上で女性が座っている、さほど生々しくは無い絵でした。  
勿論、絵の男女は一糸まとわぬ姿なのですが…。  
「ちょっとやってみようよ」  
「えっ…」  
「そのままでいいからさ、気分だけでも」  
「はあ…」  
服を着たままなら、大丈夫かも知れません。  
「ほら、おいで。たまにはいちゃいちゃするのもいいさ」  
姿勢を直された武様が、自分のお膝をぱたぱたと叩いて促されました。  
…「いちゃいちゃ」するのは、やぶさかではありません。  
「失礼します」  
一旦立ち上がり、お膝の上にあちら向きに座りました。  
小さい頃、父の膝の上で絵本を読んでもらった時のようなこの体勢。  
少し懐かしくなりました。  
「重くありませんか?」  
「いや、軽いよ」  
全く気にならないという調子で仰って、安心しました。  
体重を全て預ける形になって、心配でしたから。  
 
「じゃあ、麻由はこの続きを読みなさい」  
「えっ!」  
私は思わず振り返りました。  
「実は、僕はもう一度読破しているんだ。君と泊まった日に、新幹線の中でね」  
「……」  
これを座席で読まれたというのでしょうか?  
カバーはかかっていますが、この絵を覗き込まれたりしなかったのでしょうか。  
「二人とも全く同じ条件だったのに、僕だけがこれを読んで君を追い抜かすのは不公平だろう?」  
「はあ…」  
これは、初めてのとき以降も、私に操を立てて頂いていると喜ぶべきなのでしょうか。  
「知識は、共有すべきだからね。特に、こういったものは」  
悪びれないお顔でそう仰るのを聞いて、そういうものかと頷きました。  
 
 
刹那、お尻の下を支えるものがなくなり、私は十センチほど垂直落下しました。  
「キャッ!」  
すぐ下のソファに着地し、少しバウンドします。  
「ほら、こうすれば安定するだろう?温かいし」  
武様が腰に手を回され、抱き締めて下さいました。  
脚をお開きになって、その間に私のお尻が納まる形になって。  
密着度が高まり、気恥ずかしくなります。  
開いた脚を閉じられ、お尻から腿にかけてを挟まれては逃げることができませんもの。  
この時、恥ずかしさに気を取られていた私は、背後を取られた自分の迂闊さに気付けなかったのです。  
 
 
後ろの武様になるべく意識をやらないようにしながら、私は本を読み進めました。  
覚えのある形が挿絵に出てくると、正視することができません。  
目を逸らすと、武様が後ろからくすぐられたりするので、困りました。  
「ちゃんと読みなさい」と指示され、私が本に顔を戻すまでやめて下さらないのです。  
その項をどうにか読み終え、ホッと息をつきました。  
これで解放されるでしょうか。  
「麻由、その次の章を見てみなさい」  
「はあ…」  
また挿絵なのかと気が進みませんが、言いつけに逆らうことはできません。  
ぱらりとページをめくると、思いに反して挿絵はありませんでした。  
しかし。  
「対面男性上位」「対面座位」「後背側位」  
生々しいその文字に、私はまた叫びそうになりました。  
「『背面女性上位』というところがあるだろう?」  
「え…」  
見たくないと思いながらも、そう言われると目で探してしまうのが悲しいところです。  
「はい」  
「そこを、読んでみなさい」  
「えっ?」  
「忘れてしまったんだ。思い出すから読んでおくれ」  
 
───女性が、座った男性の上に同じ方向を向いて腰を下ろし、抱きかかえられる体位。  
電車で子供を膝に座らせる時と同じような体勢です。下半身を責めながら、胸への愛撫も同時にできるという利点があります。  
女性の体重がかかるので抽送の速度を保つことはできませんが、逆にその体重を利用して深く貫くことが可能です───  
 
これを読めと仰るのでしょうか。これを…。  
目で追ったものの、とても口に出すことなどできません。  
固まってしまった私を、武様が急かされました。  
「ほら、読んでくれないとまたくすぐるよ?」  
「キャッ!」  
お手が身体の上を這い、さわさわと動くのから逃れようと身を捩りました。  
「あ…やっ…」  
脇腹を撫でられ、妙な声が出てしまいます。  
「ほら」  
尚も促され、私はくすぐり責めから逃れたい一心で頷きました。  
「じ、女性が、座っ………」  
読んでいる間もくすぐられ続け、つっかえながら言葉にする羽目になりました。  
たった四行を読むだけなのに、永遠に等しいくらいに長く感じました。  
 
 
「ありがとう、思い出したよ」  
読み終えたところで武様が白々しく仰いました。  
利発であられるこの方が、一度読まれたことをお忘れになるはずがないのです。  
私をからかって恥ずかしがらせるために、こうなさったのに違いありません。  
「もう、宜しいでしょう?離して下さいませ」  
いやいやをするように、武様の脚の間で身を捩りました。  
「離して欲しいのかい?」  
「はい」  
「『背面女性上位』の形を取っているのに?」  
「え…」  
先程読み上げた文章が、頭の中で反復再生されました。  
女性が、座った男性の上に同じ方向を向いて…。  
「!」  
私は、何とはしたないことをしているのでしょう。  
武様のお膝に座るとは、こういうことだったのです。  
「いえ、ですから、もう降りようと…」  
「この形は、嫌いかい?」  
「そうではありません、あの…」  
「じゃあ、もっと適した形を探すべきだね」  
そう仰ったのと同時に、エプロンの腰紐を解かれ、あっけなく奪われてしまいました。  
「何をなさいます!」  
ソファの背もたれに掛けられたエプロンを見詰めながら、抗議いたしました。  
「うーん、何をすると言われてもね。これからするんだけどな」  
悪びれずにそう仰るのを聞いて、いよいよ危機感が募りました。  
 
 
パチンと音がして、ブラのホックが外されました。  
「あ…」  
胸元が一気に心許なくなり、慌てて押さえました。  
「さあ、いよいよ困ったことになったね」  
楽しそうに仰って、武様は私の腰を抱えたまま立ち上がられました。  
このまま、ベッドへと連行されるのでしょうか?  
ソファよりは、まだそちらのほうがましでございますが…。  
だまし討ちされたようで、釈然としないのです。  
胸を押さえていた手を片方下ろし、腰に巻きついている武様のお手をそっとつねりました。  
 
二人でくっ付いたまま、幼児のようなよちよち歩きでソファを後にして。  
ベッドの方ではなく、なぜか壁際へと連れて来られてしまいました。  
「あ、あの…」  
「ん?」  
「ベッドは、あちらですが…?」  
「そうだね」  
要領を得ないお答えに、頭の中に疑問符が飛び交います。  
「ええと、どこだったかな…」  
ぱらぱらという音がして、武様が本のページをめくられているのを背後に感じました。  
ソファからここまで持っていらしたのでしょうか、さっきの本を。  
「ああ、これだ」  
お声と共に、本が眼前に突き出されます。  
「ここを、読んでみなさい」  
指差された箇所に目を遣った私は、驚きで固まりました。  
 
───女性を立たせた状態で、背後から挿入します。  
不安定な体勢なので、柱や壁など、女性が手を付いて身体を支えられるものがあれば良いでしょう。  
野外、オフィスの空き部屋など、ベッドの無い場所でも楽しめます。  
男性主導の責めを与えられること、着衣の乱れが少ないことなどが利点です───  
 
武様が示されたのは「後背立位」に関する注釈でした。  
立った状態で、前には壁、背後には武様。  
自分が本の文章と全く同じ環境にあることに気付き、冷や汗が流れました。  
背後を取られるということは、こんなにも危険なことだったのです。  
「理解したかい?」  
腰に回されていたお手が身体を這い上り、胸にたどり着きました。  
服の上からブラを持ち上げられ、膨らみを武様のお手が包み込みました。  
「あ…」  
その熱さをワンピース1枚隔てて感じ、胸が騒ぎます。  
たぷたぷと揺らされ、重みを楽しむようにお手の中で愛でられました。  
「麻由、胸が大きくなったような気がするが…」  
「えっ?」  
「最初の時より、さ。ほら、僕の手の中で弾んでいる」  
確かに、初めて抱いて頂いた二十歳の頃よりは、ブラのサイズは上がりました。  
触っただけで、知られてしまうものなんでしょうか。  
「あ…んっ…」  
胸の先が指で挟まれ、くにくにと捏ねるように刺激されました。  
「ほら、もう固くなった」  
嬉しそうに言われ、顔から火の出る思いでした。  
「見てごらんよ、麻由」  
ご主人様のお言葉に、反射的に従ってしまうのがメイドの悲しい習性でございます。  
壁を見ていた視線が自然に下がり、自分の胸へとたどり着きました。  
ワンピースを隔てても分かるほど、頂がぷっくりと立ち上がり、布を押し上げています。  
まるで、さらなる愛撫を求めているかのようで…。  
ほんの二年弱前には、まだ何も知らなかったのに。  
こんなに敏感な身体にさせられてしまった自分が悲しくなりました。  
 
武様の指が、尚も胸の頂を刺激しました。  
指先を当てて上下に擦られたり、円を描くように周囲を撫でられたり。  
羽毛で撫でられるようなあくまでも軽いタッチに、もどかしさを感じます。  
もう少し、力を入れられても大丈夫なのに。  
いいえ…もっと強い刺激が欲しいのに。  
普段のように、お舐めになったり、軽く噛んだりもして欲しい。  
触れられるたびに小さく声を上げ、腰を跳ねさせながらそう考えておりました。  
「あ…んっ!ああ…」  
胸に触れるお手を掴み、ぐっと押し付けました。  
「どうした?」  
「……もっと…触って下さいませ」  
「分かった」  
「ああっ!」  
指先に力が込められ、胸の先を摘まれました。  
もどかしさに悶えていた身体に与えられた、強めの刺激に叫び声を上げました。  
 
 
武様のもう片方のお手が、後ろからスカートをゆっくりとめくり上げました。  
「あ…」  
脚が外気に触れ、冷やりとします。  
お手が脚のラインをなぞり上がり、下着に触れました。  
「やぁ…ん…」  
下着の上から秘所に触れられ、ぐりぐりと圧迫されました。  
胸のときと同じで、隔てるものがあるのが何とももどかしく。  
もっと触ってと、地団駄を踏みそうになりました。  
「この上からでも、濡れているのが分かるよ?」  
武様の嬉しそうなお言葉に羞恥心が湧きますが、行為を止めてとはもう言えません。  
「んっ…武様…?」  
「何だい?」  
「あの、直接…触って頂きたいのですが…」  
「下着の上からじゃなく?」  
「…はい」  
「仕方ないなあ」  
含み笑いをされた後、お手が下着を引き下ろしました。  
触って欲しいと自分からねだるなど、普段からはありえないことです。  
いつもは武様のリードに身を任せているうち、いつの間にか脱がされているのですから。  
それなのに、今日はこんな風にされて、自分からお願いをする羽目になってしまって…。  
大学のゼミのお仲間は、揃って目が節穴なのでしょう。  
こんな風に私を煽って、求めさせてしまう武様のどこが「女性を知らない」ように見えるのか。  
良家のご子息であり、将来の社長様になられる方たちが多いというのに、そんなことで大丈夫なのでしょうか。  
完全な八つ当たりなのですが、恥ずかしさと直面したくない私は彼らに怒りを向けました。  
 
 
クチュッと音を立てて、お指が秘所へと直接届きました。  
「やっぱり、とろとろになってるね」  
無邪気に感心なさっている武様の呟きが耳に痛いです。  
「熱くて、柔らかくって。ずっと触っていたいな」  
「んっ…」  
お指が溝を何度も往復し、溢れた蜜と絡んで動きます。  
時折、ごく浅く指先が突き入れられ、期待感が胸に湧き上がりました。  
なのに、肝心な所には直接触れて下さらないのです。  
先程下着の上から少し刺激されただけの、敏感な突起が上にあるというのに。  
そこを避けてでもいるかのような指遣いに溜息がこぼれました。  
もう少し上まで指を動かして下されば、鮮烈な快感が得られるのに。  
願い通りに直接触れて下さっているのに、最後の最後でお預けをされている中途半端なこの状態に。  
私の身体は不満を訴えて、堪えようとする理性と衝突しました。  
 
ジジジと小さな音を立てて、ワンピースのファスナーが下ろされるのを感じました。  
開いた身頃とブラが一緒に引き下ろされ、上半身を覆う物が無くなってしまいました。  
「いつ見ても、麻由の身体は綺麗だね」  
褒めて下さるのが、何だか恥ずかしくって。  
お手が外れたのを幸いに、私は胸を抱え込んで隠しました。  
「それで、逃げたつもりかい?」  
「キャッ!」  
再び腰を引き寄せられて、武様のお身体とぶつかりました。  
「あ…」  
熱を持った武様のものを押し付けられ、息を飲みました。  
パジャマを隔ててなお感じられる、その存在感に。  
頭にカッと血が昇り、身体が勝手に震えました。  
「やぁ…ん…」  
押し当てられた武様のものが、角度を変えて何度も私のお尻とぶつかります。  
それが納まる場所を探していらっしゃるのか、位置を合わせるように服の上から刺激されて。  
淫らな期待感が胸に生まれ、思考を侵していきました。  
早く、武様と一つに繋がりたくって。  
私の中を満たして欲しくて。  
堪えきれなくなった私は、胸を隠していた手を片方下ろしました。  
後ろへと回し、押し付けられている武様のものにそっと触れたのです。  
 
 
力を入れないようにして、指先で何度か擦り上げました。  
先程、服の上から胸に触れられた時のことを思い出して。  
物足りないほどの触れ方をすれば、「もっと」と武様も思ってくださるかも知れません。  
そうすれば、多分きっと……。  
自分の望むようになると思ったのでございます。  
「誘っているのかい?」  
どこか楽しそうなお声で武様が尋ねられました。  
その余裕のあるご様子に、悔しくて唇を噛みました。  
私はもう我慢ができないのに、この方はまだこんなに…。  
ですが「早く欲しい」と言葉にすることが、どうしてもできないのです。  
そんなはしたない言葉を、女子がみだりに口に出すものではありませんもの。  
どうにか言葉に出さずに、武様にその気になって頂きたくて。  
祈るような気持ちで、武様のものに指を這わせ続けました。  
 
 
しばらく後、一旦元に戻されていたスカートが、再びたくし上げられました。  
ああ、やっと。  
望むものを得られるという安堵が胸に湧きました。  
「ん…あ、なんで…」  
しかし、意に反して秘所に届いたのは武様の指だったのです。  
先程のように、襞を辿り、時折浅く突き入れられるだけのじれったい刺激。  
それは、もうさっき済ませたではありませんか。  
お手で触れてくださるのは、もういいのです。  
私が欲しいのは……。  
いいえ、駄目です。どうしても言えません。  
最後の最後まで、羞恥心から逃れることができないのです。  
 
「!」  
突然、前触れも無く敏感な突起に武様の指が触れました。  
熱を持て余していた身体に響いた、鮮烈な快感に。  
ひとりでに背中が反り、足の指がギュッと握り込まれました。  
「ん…あん…ああん…や…んっ…」  
気持ちが良くって、どうにかなってしまいそうでした。  
「あっ…あ…もっと…ああんっ!」  
さらにと求めれば、武様がそれに応えるように指に力を込めて下さって。  
私はもう開いた口を閉じることができず、ただ喘ぎ続けました。  
体中の血液が秘所へと集まるような、強く蕩けるような快感に浸って。  
意識がフッと飛びそうになり、絶頂が手の届く所に降りてきたのを感じました。  
「あっ!…あ…武様っ…もう……っ…」  
イく、と言おうとしたその瞬間。  
武様のお手が急に止まり、秘所から指が外されてしまいました。  
 
 
何が起こったのか分かりませんでした。  
濡れそぼった秘所から武様のお手が離れて、寒さを感じたところで我に返ります。  
「いや…どうしてそんな…」  
残り数センチの所まで近寄っていた絶頂が、どんどんとまた遠くなっていってしまいます。  
あまりに酷い「お預け」に。  
目からは涙がこぼれ、頬をつうっと流れ落ちました。  
「済まない、僕ももう限界なんだ」  
囁かれた武様が、身体を離されました。  
衣擦れの音と、あれの封を切るピッという小さな音。  
その二つが耳に届いたかと思うと、私は再び腰を抱えられ、熱く逞しいものを押し当てられました。  
 
 
「あ…んっ…」  
私の中へと、力強く分け入ってくる武様のものに息を飲みました。  
イく寸前で止まっていた身体が、新しい刺激に震えます。  
武様のものを根元まで飲み込んだ時には、私は壁に爪を立てておりました。  
揺り動かされるまでもなく、繋がっただけで十分に気持ちが良かったのです。  
「んっ…はぁん…」  
「欲しい」と思ってから、こうなるまでどれだけ待ったでしょう。  
大きく息を吐き、秘所に意識を集中させて武様のものを感じました。  
「麻由、動いてもいいかい?」  
「…はい」  
律儀に尋ねて下さってから、武様がゆっくりと腰を使われ始めます。  
突き上げられるたび、靄(もや)がかかったように視界が白くなり、次第に何も考えられなくなっていきました。  
「ん…あ…あん…はっ……ああっ…やっ…はぁん…」  
いつもはこの時にも焦らされることがあるのですが、今日は違いました。  
普段にも増して力強く、がっちりと腰を抱えて揺すぶられて。  
私は一足飛びに快楽の階段を上っていきました。  
「あ…あ…武様っ…」  
恍惚の中で、先程読んだ本の記述を思い出しました。  
「男性主導の責めを与えられる」のがこの体位の特徴であると。  
私はいつものように武様に抱きつくことも、お顔を見ることもできません。  
完全な受身になって、背後から貫かれているだけ。  
でも、まったくそれを不満に感じなかったのです。  
「う…く、っ……」  
何かを堪えるような武様の呻きが聞こえます。  
「あ、キャッ!」  
腰を掴んでいた武様のお手が片方、秘所へと降りてきました。  
さっき絶頂を迎える寸前まで昇り詰めていた敏感な突起に、再び指が触れて。  
突き上げられて身体が揺れるのに合わせ、それを押し潰すような刺激を与えられました。  
「はぁ…あ…あぁん…や…あっ!」  
ますます身体の熱が高まって、沸騰しそうなほどでした。  
武様のものが中を抉るたび、秘所がそれを締め付けるのが分かって。  
自分の身体がどれほど貪欲であるかを、思い知らされるかのようで…。  
 
でも、まだ足りないのです。  
この熱が解放されないうちは、私は…。  
「ああ…麻由…うっ…あ…」  
武様が身体を大きく震わされ、さらに動きを激しくされました。  
「やぁ…あ!あ…武様もう…ああ!」  
「くうっ!」  
大きな快感が下半身全体に走り、私は全身を震わせて達してしまいました。  
それが刺激になったのか、武様もほぼ同時に絶頂を迎えられて。  
二人ともの身体から力が抜け、私は壁に頭も凭れて大きく息を吐きました。  
 
 
身体に回されていた武様のお手が離れ、私は膝を付きました。  
「大丈夫かい?」  
「…はい」  
がっちりと捕まえられ、半ば無理矢理のように身体を繋げた興奮がまだ冷めません。  
強引な行為に感じてしまったことに、少しだけ後ろめたい気持ちになりました。  
「ほら、おいで」  
後始末をなさった武様に身体を支えられ、ベッドまで歩きました。  
腰の辺りに留まっていたワンピース、片脚だけ抜いたままだった下着を取り去られ、ベッドへと横たえられました。  
「ちょっと悪乗りしてしまったね、済まない」  
「いえ…」  
武様も服を脱がれ、何も身体に纏う物が無くなった私達は裸で抱き合いました。  
肌に感じる温もりに、心が凪いでいきました。  
背後から貫かれるのは、身体の密着度が低くて、心細かったのです。  
「武様…」  
頬をすり寄せ、抱きつく腕に力を込めました。  
思いを寄せる方に包み込まれるのは、なんと幸せなことでしょう。  
 
 
しばらく、私達は何も言わずに抱き合っておりました。  
やがて、武様がそろそろとお手を動かされ、私の肌の上を滑らされました。  
「麻由、もう一度…いいかい?」  
遠慮がちに仰って、顔を覗き込まれました。  
私に異論のあるはずがありません。  
でも、そうと言葉に出して同意するのは恥ずかしかったので、目だけで頷きました。  
 
 
武様が身体を起こされ、私を見下ろされる格好になりました。  
「さっきのも、あれはあれで良かったが。でも麻由の顔が見られるほうがやっぱりいいね」  
仰った言葉を聞いて、微笑が浮かびました。  
私も、同じことを考えていましたから。  
保守的だと笑われるかも知れませんが、やはり、いつもと同じ形のほうが安心するのです。  
軽く口づけられた後、武様はベッドの足元へと少し下がり、私の胸に顔を埋められました。  
「あ…」  
柔らかい部分に吸いつかれては、チュッと音を立てて離されて。  
微かに感じる痛みに、赤い痕を付けられているのが分かりました。  
そんなことをなさらなくても、私が他の方に心を移すことなどありませんのに。  
でも、独占欲を発揮されているのが何だか嬉しくって。  
私は何も言わず、されるがままにいたしました。  
 
しばらくたって、お気が済まれたのか武様は吸いつくのを止められました。  
「さっきは、直接触れなかったからね。痛かったかい?」  
「いいえ」  
即座に否定いたしました。  
先程は、直接触れてくださることを強く望んでおりましたから。  
やっとその思いが叶って、痛みも何のそのだったのです。  
それにしても、「触れなかった」と仰いましたが…。  
私を高まらせるためとはいえ、武様がご自分の策に自ら引っ掛かられていたなんて。  
直接触りたいのに、触れなかったというジレンマを感じていらっしゃったことが。  
自分と同じだったことが、とても嬉しかったのです。  
 
 
「あ…ん…」  
胸の頂に舌が這って、そのまま唇で包み込まれました。  
啜り上げるように愛撫され、その濡れた刺激に身体の奥から快感が湧き上がって。  
堪えようと、私は腕を伸ばし、武様の首元に抱きつきました。  
「んっ…あ…あん…や……あ…もっと…」  
高ぶる身体を抑えて、少しでも長く感じていたいのに。  
さらなる愛撫を求める声が漏れ、自分でもどうしたいのか分からなくなりました。  
「あんっ!」  
突然、色づいた部分を軽く噛まれて叫びました。  
「うっ…あ…あん…」  
走った刺激を宥めるかのように、舌でゆっくりと舐められて。  
その部分がじんじんと甘く疼き、痛みが快感へと変わっていきました。  
 
 
唇が離れ、もう片方の胸も同じように愛撫されました。  
固くなった胸の頂が舌で弾かれるたび、身体が跳ねて。  
私の口からは、もう意味のある言葉など出ませんでした。  
武様に胸を可愛がって頂くのが、とてもとても幸せで。  
ただ、この時間が少しでも長く続くようにと、それだけを願っておりました。  
「あ…あ…武様…っ…やんっ!」  
お名を呼ぶと、それに応えるかのように胸の頂が甘噛みされました。  
先程と同じに、その後は優しく舌で触れて下さって。  
両の胸にもたらされる快感が、体中を駆け巡り、また私を高まらせていきました。  
上半身を愛撫されているだけなのに。  
きっと、秘所はもうとろとろになっているに違いありません。  
今しがた武様と身体を繋げたばかりなのに、また欲しくなってしまったのです。  
 
 
「んっ…」  
息を吐き、武様の髪に指を絡めました。  
「麻由…?」  
お顔を上げられた武様が、こちらへ視線を遣られました。  
「あの…え、と……」  
『もう一度抱いて下さいませ』と言いたいのですが。  
やっぱり、言葉に出して言うことは難しいのです。  
この上は、行動で示すしかありません。  
胸を愛撫されていたお手を掴み、秘所へと近付けました。  
「あ…」  
武様の指がそこへ届いて、ぬるりと滑る感触に、自分の秘所がどうなっているかを思い知りました。  
きっと、はしたなく、蜜で滴るほど濡れているに違いないのです。  
「凄いね、麻由」  
「んっ…」  
感嘆なさったようなお声で仰るのに、身の置き場の無い気持ちになりました。  
 
蜜を絡められた武様の指が、私をからかうように動きました。  
その緩い刺激にさえ感じてしまい、小さな喘ぎが何度も零れました。  
「くうっ…あ…」  
でもやはり、指で触れられるのでは物足りなくって。  
お願いをしようかどうしようかと、頭の中で一人で大会議をいたしました。  
「さあ、これからどうする?」  
余裕のある口調で、武様が仰います。  
また私だけが追い詰められてしまったことに、少し悔しくなりました。  
「ん…」  
背に腹は変えられません。  
私は覚悟を決め、口を開きました。  
「武様、もう一度、あの…」  
「ん?」  
「もう一度、抱いて下さいませ」  
顔から火の出るような思いで、何とかお願いを致しました。  
「抱いているじゃないか、ほら」  
しかし、秘所から指を離された武様は、私の身体に手を回されるのみ。  
その「抱く」ではなくって!  
もう、焦らされるのはこりごりなのです。  
場に不似合いな、怒りのような感情が心に生まれました。  
「違います、もう一度入れて頂きたいとお願いをしているのです!」  
感情に任せて言ってしまった後、ハッと息を飲みました。  
 
 
私は、何ということを……。  
女性としてあるまじき、ご主人様に対してもあるまじきあのような言葉を…。  
切羽詰っていたとはいえ、口に出してしまうなんて。  
熱に浮かされていた体が一気に冷えていきました。  
「ふむ。今日は、随分大胆だね」  
どこか感心なさったような調子で武様が仰いました。  
「違います、違うんです。忘れてくださいませ!」  
慌てて弁解をしようとするのですが、的確な言葉が思いつきません。  
武様のお手を握り締め、言ってしまったことをどうフォローするかに頭を悩ませました。  
「忘れるなんて、とんでもない」  
こんがらがった頭を立て直そうとする私の耳に、武様のお声が届きました。  
「…は?」  
「麻由が、そんな嬉しいことを言ってくれたんだからね、忘れるなんてできない相談だ」  
「あ…」  
どういう意味なのでしょうか、それは。  
問い返したいですが、藪ヘビになってしまいそうな予感がひしひしと致します。  
「僕を、求めてくれているんだろう?」  
「え…ええ」  
幾分遠回しの表現で仰ったことに、ホッと致しました。  
私も、「武様が欲しいのです」くらいの言い方をすれば良いだけでしたのに。  
これなら、何とか良心も痛みませんし…。  
 
「『入れて』と頼まれたのなら、叶えないわけにいかないからね」  
「っ!」  
姿勢を低くなさった武様が、耳元で囁かれた言葉に一気に血圧が上がりました。  
さっきホッとした心が一転して動揺し、私は目を白黒させました。  
ああ、やはり武様のゼミのお仲間の目は節穴に違いありません。  
このように女心をいいように翻弄される方が、女性を知らないなどと思われているなんて。  
明後日の方向に恨みを向けていると、武様は私を抱き締められたまま身を起こされました。  
ベッドの上に座る格好になり、頭に疑問符が浮かびました。  
「さて、と。交代しよう」  
入れ替わりに武様が横になられ、微笑まれました。  
「あの…」  
きょとんとしていた私を見かねてか、武様はまた身を起こされました。  
「折角だから、さっきの本を参考にしてみようか」  
「えっ?」  
いつの間にかベッドサイドに置かれていたあの本が、武様のお手でめくられました。  
先程の壁際から、またこちらへ持ってこられたのでしょうか。  
本がひとりでに動くわけはありませんから、武様がお持ちになったのに違いありません。  
「ああ、これだ」  
お示しになったページの挿絵を見た瞬間、また頬に血が昇りました。  
 
──「宝船」  
仰向けに横たわった男性の上に女性が腰を下ろし、男性の片脚を持ち上げて抱き込みます。  
それを支えにして、女性が自ら腰を動かす体位です──  
 
武様の上に乗りかかるなんて、とんでもありません。  
必死に首を振って拒否するのですが、聞き届けて下さる可能性は低そうです。  
「たまには、麻由が上になるのもいいと思うんだが」  
「いえ、そんな。私はいつも通りで結構ですから…」  
何とか思い直して下さるように頑張るのですが、旗色が悪いです。  
「さっきは、僕がいいように動いてしまったからね。  
今度は、麻由が自分のいいように動きなさい」  
言い置かれ、武様はそのまま待ちの姿勢に入られました。  
私はちゃんとご辞退申し上げることができず、途方に暮れました。  
「ほら、おいで。それとも、もう今日は眠るかい?」  
…それは、ちょっと困ります…。  
身体の熱はまだ治まっておらず、奥で燻っているのですもの。  
 
 
結局、私は本の挿絵の通り、武様の片脚を跨ぎ、乗りかかる体勢になってしまいました。  
「はい、これを使って」  
武様から渡されたものを手に取り、封を切って準備を致しました。  
「一度座り込んでから、脚を持ち上げた方がいいんじゃないかな」  
そのアドバイスの通りにしようと、腰を持ち上げて位置を合わせました。  
秘所を指で開き、武様のものにぴたりとくっ付けて、そして…。  
私は腰を落とし、ゆっくりとそれを体内に飲み込みました。  
「あ…あ…」  
潤っている場所に武様のものが入ってくる感触に、溜息のような声が漏れました。  
「っ…凄いね、麻由」  
そう仰る声を聞いても、もう動揺は致しませんでした。  
望んでいたものがやっと与えられた幸福感が強く、それに完全に浸っていたのです。  
冷めかけていた体が、中から熱を発し始めるのを感じました。  
その熱に浮かされるように、私は武様の片脚を持ち上げました。  
「ん…っふ…」  
それに縋りながら、そろそろと腰を動かし始めました。  
支えがありますから、身体がぶれることがありません。  
時折、秘所の突起が武様の肌に擦れて快感を生みました。  
胸の頂も、抱え込んでいる武様の足に擦れ、それがまた気持ち良くって。  
感じる部分を余す所無く刺激され、陶然となっていきました。  
 
「あ…気持ちいい…んっ…」  
夢中になって、武様の上で動きました。  
こういう形をとるのは初めてなのですが、その割には上手く動けているような気がします。  
武様はどうなのでしょう、気持ち良くおなりなのでしょうか。  
気になって、横目でそっとうかがいました。  
眉根を寄せてはいらっしゃいますが、私ほど高まってはいらっしゃらないようです。  
それでは困ります、同じくらいじゃないと嫌なのです。  
武様の脚に縋り直し、下半身に力を入れました。  
中が締まるようにと意識して、動きを大きくしたのです。  
「っ!」  
武様が息を飲まれたのが聞こえ、嬉しくなりました。  
もっと、気持ち良くなって頂きたくって。  
自分の快感はしばし横へ置いておいて、右側に感じる武様の息遣いに耳を澄ませました。  
 
 
いつもは、武様にいいようにされている私は結果的に受身になっています。  
でも、今日は少し違うところを見せたくって。  
私が頑張って、気持ち良くして差し上げたい。  
女の意地なのかメイドとしての奉仕精神なのかは不明ですが、とにかくそう思ったのでございます。  
とは言いましても、やはり、自分の快感も全く無視はできません。  
繋がっている部分、その上の敏感な突起、胸の先。  
これらが同時に刺激されているのですから、気持ち良くないわけが無いですから。  
ともすれば自分の快感だけに溺れそうになりながらも、自らを奮い立たせて頑張りました。  
 
 
「麻由…っく…っ…」  
押し殺したような武様のお声が聞こえます。  
良かった、私と同じくらいになられたみたいです。  
自分が武様を気持ちよくして差し上げられたことに喜びが湧きました。  
なのに。  
「あ…」  
武様のお手に肩を抑えられ、動きが止まりました。  
一気に不安になり、おそるおそるお顔をうかがいました。  
「麻由のいいように動いていいと言ったのに…」  
どこか不満気な表情で仰ったことに、ドキリとしました。  
一応、いいように動いていたつもりですが…と、言い返すことができずに私は固まりました。  
「ほら、一旦離しておくれ」  
抱えていた武様の足が下ろされ、私の手を離れました。  
腰を持ち上げられ、武様のものが抜かれてしまって寂しくなります。  
まさか、この期に及んでお預けを…?  
 
 
どうしたらいいか分からないまま、動けずにいました。  
「麻由?」  
肩に手が掛けられ、武様のほうを向かされます。  
「どうしたんだい?」  
「え…あの…」  
私は呆然としたまま、何も言えませんでした。  
「君にイかされるのは、何だか悔しいんだ。だから、やっぱり体位を変えることにするよ」  
「あっ!」  
いきなり抱き締められて、ベッドに押し倒されてしまいました。  
上になられた武様が、私を見下ろして満足そうに微笑まれました。  
お預けではないのでしょうか…?  
 
「あ…ああ…」  
組み敷かれた身体に押し入ってくる武様のものに、身体が悦ぶのが分かりました。  
「今度は、僕が麻由を気持ちよくさせてやろう」  
「あっ!」  
そう仰ったかと思うと、武様は大きく腰を使い、私の弱い所を責められました。  
「やっ…ああ…んっ!…いやぁ…駄目…あんっ!」  
いきなりのことに身構える余裕も無いまま、過ぎるほどの快楽を与えられてしまって。  
大きく息が乱れて、呼吸が苦しくなりました。  
「あ…あ…武様っ…はぁんっ…待って…待ってくださいませ…」  
「駄目だ、君は僕より先にイくんだ」  
「あああっ!」  
必死の懇願を却下されて、さらに責めをきつくされました。  
さっきは同じくらいだったのに、私だけが一気に高みへと押し上げられて。  
それが不安で、私はいやいやをするように首を振り、武様を見詰めました。  
「あ…私が…んっ!…先は…ぁ…嫌、です…」  
「どうして?」  
「武様と…あんっ…一緒に…っ…一緒がいいのです…」  
乱れる息を整え、切れ切れにそう申しました。  
 
 
「…そうか」  
動きを止めて小さく呟かれた武様が、頬に口づけて下さいました。  
私はギュッと閉じていた目を少しだけ開けて、お顔を見詰めました。  
「じゃあ、一緒にイこうね」  
「あ、あっ…」  
腰の動きを再開されて、また息が乱れ始めます。  
でも、今度は性急に追い立てられるのではなく、じわじわと緩い責めを与えられました。  
ゆっくりでありながらも、絶え間なく突き上げられて陶然となっていきます。  
先程とは違い、嫌だの待ってだのという言葉はもう出ませんでした。  
「ん…はぁん…あ…あ…んっ…ああんっ!」  
武様の動きが、段々と速くなってくるのを感じました。  
つられて私の腰も動き、さらなる快楽を求めて力が入ります。  
閉じた目の奥が白くなりはじめ、秘所がギュッと収縮しました。  
「ああ…あっ!武様、武様…もう…っ…」  
「ん…もう駄目かい?」  
「んんっ…ぁ…はい……」  
頷いて、お体に縋りつきました。  
力強さを増した武様の動きが、さらに激しくなっていきます。  
「あ!…あ…ダメ…あ…イく…あああんっ!」  
一際大きな浮遊感に包まれた後、ゆっくりと落ちていくような絶頂感に襲われて。  
足の指先までピンと張り詰めさせながら、私は達してしまいました。  
「うっ…あ…麻由…っ!」  
痙攣してなお快感を求めるように収縮を繰り返している秘所を、さらに何度も突き上げられて。  
少し遅れて、武様が絶頂を迎えられたのが分かりました。  
はあはあと息を切らされながら、ぐったりと私の上へ倒れ伏せて来られます。  
お顔が見たくて目を開けようとしますが、くっついたように瞼が重くて動きませんでした。  
その代わりに、武様に縋りついていた手を動かし、大きく上下するお背を何度か撫でました。  
 
 
「風呂に湯を張ってくるから、待っていなさい」  
虚脱したようにしばらく抱き合った後、ようやく目が開いて。  
武様がそう言い残してお風呂場へと向かわれるのを見送りました。  
戻ってこられた武様は、改めて優しく抱き締めて下さって。  
このまま眠りたい思いだったのですが、お風呂のブザーが鳴り、私は脱衣所へと運ばれました。  
「タオルを出しておくから、麻由は先に入っていなさい」  
言い置かれて、武様が残られました。  
それに従うべく浴室のドアを開け、かかり湯をしようと湯桶を手に取ったところであることに気付きました。  
お湯に入浴剤が入り、一面に良い香りが漂っていたのです。  
 
 
ピンク色のお湯に身体を沈め、ホッと息をつきました。  
桃の香りを一杯に吸い込み、身体から力が抜けていきました。  
「どうだい?」  
湯船の縁にもたれたところで、浴室に武様が入ってこられました。  
「…ええ、とってもいい香りです」  
「それは良かった」  
身体を流された武様が、湯船へと入ってこられます。  
向かい合う形になり、何だか照れくさくなりました。  
お湯に色が付いて、身体が見えにくくて良かったと思いました。  
「この入浴剤も、ビンゴゲームの景品なんだよ」  
「えっ?」  
「多分、事後にこれで恋人の機嫌を取り結べということなんだろう」  
「なるほど…」  
景品を見繕われた方の気配りということなのでしょうか。  
気分が良くなったことは確かです。  
その方は、案外、女心の機微に通じていらっしゃるのかも知れません。  
このようなことで容易に懐柔されてしまったことが少し悔しいですが…。  
 
 
いつものように身体を洗って頂き、バスタオルを巻いてお風呂場を出ました。  
今日も、また二人抱き合って眠るのです。  
武様もお布団に入ってこられ、腕枕をして下さいました。  
「実はね、麻由」  
「はい?」  
「入浴剤は、まだあるんだよ」  
「え…」  
「さっきのは、桃の香りだっただろう?リンゴやグレープフルーツ、ミルクの香りなんてのもあったんだ」  
仰った言葉に、嫌な予感がします。  
「あの本、コンドーム1箱、入浴剤が4袋。この3点セットで3千円相当だと、幹事が言っていた」  
「はあ…」  
「本はまだ活用し切れていないし、後の二つも使いかけだからね」  
「……」  
「だから、また今日みたいにしてもいいだろう?」  
「だっ、駄目です!」  
微笑みながら仰るのに、私は慌てて首を振りました。  
今日みたいなことは、もうこりごりですもの。  
 
「そうか。服を着たまま試すというのでも、駄目かな」  
まあ、それくらいなら…と一瞬考えましたが、すぐに我に返りました。  
「でも、また今日みたいに脱がされてしまうのでしょう?」  
「あぁ、ばれてしまったか」  
残念そうに仰る武様を睨みつけました。  
やっぱり、計略をめぐらせておいでだったのですね。  
「私は、あのような本が無くっても、いつも通りで十分幸せですから」  
「…そうか」  
「はい」  
これで、武様が思いとどまって下さるといいのですが。  
「僕も、いつも通りで満足していないわけじゃないんだ。  
でも、どうせならやったことのない形にも挑戦してみたいし、麻由のことをもっと気持ち良くさせてやりたい」  
そう思って頂いているのは嬉しいですが…。  
「現に、さっき僕の上に乗っていた君は、とっても気持ち良さ…」  
「きゃあっ!それ以上は仰らないで下さいませ」  
恥ずかしいことを臆面も無く言われてしまい、私は慌てて武様の口を押さえました。  
それ以上言われるのは、耐えられそうにありませんから。  
「まあ、君が嫌だというのならしょうがない」  
「え、ええ」  
「じゃあその代わり、この本を預かっておいてくれたまえ」  
「えっ、私が預かるのですか?」  
「ああ。僕の部屋にあったのでは、他の使用人に見つかるかも知れないからね」  
それは困ります。噂好きなメイド達に、坊ちゃまが妙な本を隠していらっしゃるとあっという間に広まるでしょうから。  
「預かるだけでしたら…構いませんが…」  
「そうか、ありがとう」  
微笑まれた表情に裏があるようで落ち着きませんが、本をこちらに置いておくよりはましでございます。  
「さあ、もう寝よう」  
「はい。お休みなさいませ」  
「お休み、麻由」  
 
 
翌朝早く、服を調えてあの本を隠し持ち、お部屋を後にしました。  
本は自分の部屋の引き出しの奥に仕舞い、上に物を乗せて隠しました。  
二度とこれを開くことは無いと思っていたのですが…。  
武様と会えない日が続いた時、つい魔が差して本を開いてしまいました。  
文章のページを読むだけだから、と自分に言い訳をしますが、やはり…。  
気が付くと、あの挿絵のあるページにたどり着いているのです。  
描かれている男女を、武様と自分に置き換えては頬を染めて。  
こんな風にされてしまったら、私は一体どうなるのでしょう。  
おそらく、受け入れてしまうと思うのです。  
武様のなさりようが、結局は私の望みでもあるのですから。  
今夜は、久しぶりにお部屋に伺う予定になっています。  
「前に預かってもらった、あの本を持ってきておくれ」とも申し付けられています。  
不安と期待の間を忙しく行き来しながら、私は夜に向けて心の準備を致しました。  
 
──終わり──  
 
前スレで書いた、武の大学時代に二人で旅行をした時の話です。  
 

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