麻由と肌を合わせるようになって何ヶ月か経った。 
初めての時から数度は、ただ夢中で。 
彼女の身体の状態や反応に、十分気を配れていなかったように思う。 
しかし、物事には慣れるもので、最近は少し余裕を持って事に臨めるようになった。 
どこをどう触れば気持ちいいのか、気分が高まるかというのも分かってきた。 
麻由の方は、まだあまり余裕がないようで、最中に涙ぐまれてしまうこともある。 
精一杯紳士的に接しているつもりだが、彼女の裸を見ると抑えがきかなくなってしまうこともある。 
それでも求める僕に対し、懸命に応えようとしてくれるいじらしい面を見ると、ますます惹かれてしまう。 
恋人になってこのかた、失望や幻滅といった言葉とは今のところ無縁だ。 
 
 
最近は、夜の営みに少々変化が出てきた。 
初体験ではガチガチに固まっていた麻由が快感を得られるようになり、次第に女っぽくなっていくのが分かる。 
好きな女の処女をもらって、大人の女性として開花させているという自負が心地良い。 
震えて怯えていた彼女が、近頃は愛撫をねだるようなしぐさをしたり、僕を引き寄せたりする。 
少しずつ積極的になりつつある姿を見るたび、心に花が咲いたような気分になるのだ。 
また、麻由が女っぽくなっていく様子を見ることで、自分の中に新たな願望が生まれつつあるのを感じていた。 
彼女にも僕を愛撫してもらいたい、と。 
セックスの時の主導権は終始僕が握っていて、彼女は大人しく抱かれるだけ。 
良い婦人というのはあまり自ら求めないのかもしれないが、少しぐらいは参加してほしい。 
考えてみれば、麻由からキスしてくれたことさえほとんど無いのだ。 
僕だけが一人相撲をしているようで、少々物足りなく思うこともある。 
十三歳の時から想い続けてくれたというのなら、態度で示してほしい。 
僕達のきっかけになったあのパーティーの夜は、一度でいいから麻由をこの手に…と悲壮な思いでいたのに。 
ずいぶん貪欲になったものだ。 
いざ心が通じ合って恋人になっても、それで満足というわけにはいかなかった。 
僕を好きなら、その証しを見せてほしい。 
ベッドの上でされるがままになる彼女を抱くたびに、そんな思いが募っていった。 
 
 
ある夜、部屋に招いた麻由に正直な気持を話した。 
ただ従順に抱かれるだけじゃなくて、君にも僕を愛してほしい、と。 
その瞬間、彼女の頬にサッと朱が走った。 
僕に触れるのを嫌がっているそぶりが見えなかったことに、とりあえずは安心した。 
「主人の思うようになるのが正しいと考えているのかもしれないが、僕と麻由は恋人同士だ。 
日中は立場に開きがあっても、今は平等なんだから、君にも僕を愛してほしい」 
そう言うと、麻由は恥ずかしげに頷いた。 
しかし、何かに気付いたような様子でハッと顔を上げる。 
「あの、どうすれば良いですか?その、具体的には……」 
問うてくる彼女に、どう説明しようかとしばし迷う。 
いきなり僕の中心を触れと言うのは、急すぎるかもしれない。 
せいては事をし損じると先人は言った、ここはあえて遠回りをして……。 
「そうだね。じゃあ、君からキスをしておくれ」 
下半身の疼きを抑えつつ、紳士ぶって提案する。 
それに硬直した麻由を見て、やはり僕自身を……と頼まなかったのは正しいと思った。 
僕の目を手で覆った彼女が、そっと近付いてくる気配を感じる。 
そして唇が触れ、そっと離れていった。 
初めて彼女から贈られたキスに、がらにもなく胸がキュンとする。 
しかし、一秒足らずの短いキスなど物足りない。 
もう一度、あと一回とねだり、くっついた唇の柔らかさに酔う。 
舌を出して彼女の唇をなぞると、おびえた様子で身体が離れた。 
「だめだ。そんな子供っぽいキスでは満足できないよ」 
もう一度傍へ寄るように言い、腕の中に閉じこめる。 
早く慣れてくれることを願いながら、何度も何度も繰り返し練習をさせた。 
 
 
ようやく彼女の唇を解放すると、ほうっと溜息が聞こえた。 
目を潤ませて口に手を当てているその姿に、笑みがこぼれた。 
「舐めて」 
促し、彼女の口に指を近付ける。 
舌が絡み、ゆっくりと舐められる感触にしばし心を奪われた。 
僕は頃合いを見て指を引き抜き、彼女の乳首にそっと触れた。 
「あっ……ん……」 
ぴくりと反応し、麻由が小さく声を上げる。 
指の腹で円を描くように撫で上げると、さらに溜息のような声が大きくなった。 
固く立ち上がった乳首の弾力が面白くて、執拗に刺激する。 
もっと声を上げさせたくて、僕は手を止めるや否やそこに吸い付いた。 
「あんっ……。やぁ……」 
彼女の全身に力が入り、震えるのが分かった。 
「んっ、あ……武様っ……」 
左右に身を捩って堪えきれない声が漏らされるが、離してなどやらない。 
自分が胸を愛撫されて気持ちいいのと同様に、僕の中心に触れたら快感を与えられることを想像してほしい。 
「ひゃうっ!」 
軽く乳首を噛んでやると、彼女が背を反らして高い悲鳴を上げた。 
痛みすら快感になってしまうほど蕩けていることに満足を覚えるが、ふと気付く。 
噛むことも有効だと学習され、僕自身に噛みつかれてしまったら……。 
たらりと冷や汗が背筋を流れて、慌てて力を緩めた。 
柔らかく舌と唇で刺激することで、更なる快感を誘い出す。 
そして、肌をなぞる手を下ろし、下着の上から柔らかな茂みを撫でた。 
「!」 
彼女の身体がびくりと震えて硬直する。 
溝に沿って何度か指を往復させると、ギュッと噛みしめた唇から呻くような声が漏れた。 
恥ずかしさと期待の間で揺れているようだ。 
この間にと、彼女を抱き起こして位置を入れ替える。 
ヘッドボードを背にしてもたれかかり、投げ出した脚の上に麻由を座らせた。 
慌てて胸を隠して俯く姿に笑いがこみ上げる。 
さんざん鑑賞し、触れて楽しんだ後だから、今更隠しても遅いと思うのに。 
しかし、彼女のそんな動作に気分を良くした自分がいるのも事実で。 
さてこれからどうしてやろうと、胸がわくわくするのを抑えられなかった。 
 
 
胸を覆っていた手を外させ、僕の下着に触れさせる。 
「だめだよ、僕を愛してくれると言ったのを忘れたのかい?」 
逃げる指に下着を掴ませようと奮闘しながら言う僕に、彼女はいやいやと首を振り、ベッドの足元へとずり下がっていく。 
「約束を破るつもりかい?」 
尋ねると、麻由が困った顔で僕を見た。 
「でも、あの……。武様のおみ足に腰を下ろすなんて、おそれ多くて……」 
下りますから手をお離しくださいませ、と彼女がもがく。 
「今はただの恋人同士だろう?遠慮なんかしなくてもいいんだ」 
「いえ、やっぱりいけません。重たいですし……」 
「重たくなんかないよ。しいて言うなら、心地良い重みかな」 
「……」 
「どうしても下りるというなら、これを脱がせてからにしておくれ」 
彼女の手にやっと下着をつかませ、緩く引かせて言う。 
「いつも僕が君を脱がしているんだ。たまには逆の立場になるのもいい」 
頬に触れ小さな声で言うと、恥ずかしげに首が縦に振られた。 
もっと抵抗されることを予想していたのだが、案外素直に頷かれて少々面食らう。 
動きを止めた僕の下着に手を掛け、麻由がゆっくりと引き下ろしていく。 
足から抜かれたそれが丁寧に畳まれ、脇に置かれる。 
そしてこちらに向き直った彼女が、僕の股間に視線を走らせた途端に一瞬で真っ赤になった。 
明るい場所でこれを見るのは初めてのはずだから、無理もない。 
うぶな反応が堪らないが、もうそろそろ慣れてもらわなければ。 
「手を貸して」 
彼女の手を取りそこに触れさせると、火傷したかのように素早く引っ込められてしまった。 
「麻由」 
たしなめると、おそるおそるといった様子でまた触れられる。 
両手で水を受けるようにして、こわごわ僕自身が持ち上げられる。 
しかし、扱い方が分からないのか、しばらく待ってもそれ以降は一向にその手が動かない。 
「そうじゃないんだ。こう」 
扱いて手本を見せると、麻由がわずかに頷いた。 
やり方が分かったらしく、すぐにそこを握り込んでくれる。 
片思いをしていた頃は、こうして麻由に触ってもらうことを何度となく夢見たものだった。 
それが今叶っているのが、なんだか不思議に思える。 
細い指と柔らかい手のひらで擦られると、ひどく気持ちがいい。 
拙いながらも懸命な愛撫に、僕はどんどんと高ぶらされていった。 
もっともっと、麻由に触れてもらいたい。 
最初から多くを求めるべきではないのかもしれないが、その欲望には抗えなかった。 
 
 
「麻由、これに口で触れてみることはできるかい?」 
意を決して尋ねると、彼女は目をまん丸に見開いた。 
「僕が、麻由の大事な場所を舐めることがあるだろう?同じことをしてほしいんだ」 
拒絶されないことを祈りながら言うと、彼女が手を止めた。 
「同じことを…」 
確認するように小さく呟き、距離が詰められる。 
吐息が自身にかかり、思わず僕は息を飲んだ。 
彼女の口から赤い舌がちらりと覗く。 
ゆっくりそれが近付くのが、やけにもどかしかった。 
「あっ」 
温かく濡れた物が自身に触れ、びくりとする。 
「武様?」 
慌てて彼女が顔を上げ、僕の表情をうかがってきた。 
「不手際がありましたでしょうか?申し訳ございません」 
愛撫に反応しただけで、別に麻由が悪いわけではないのだが。 
そこを握り締めたままぺこぺこ頭を下げるのが面白くて、僕はわざと鷹揚に頷いてみせた。 
「大丈夫だから、続けて」 
促すと、またおそるおそる舌が伸ばされた。 
頭を下げた麻由の尻が、動きにあわせて揺れているのに、ついつい目が釘づけになってしまう。 
こうして二人で逢うようになった当初、彼女の下着はごくシンプルなものだった。 
しかし、関係を続けていくにつれ、それはレースやフリルのついた女らしい物に変わってきた。 
僕に見られることを意識して下着を選んでくれているのかと思うと、とても嬉しくなる。 
いつかは、似合いそうなものをプレゼントしてみたい。 
最初は恥ずかしがるかもしれないが、きっと着てくれるだろう。 
 
 
心躍る想像に耽っていた頭が、現実の快感に引き戻される。 
ぎこちなくはあるが、丁寧に舐められると背筋にまで震えが走る。 
愛する女が一生懸命に頑張ってくれているというのもあり、僕は人生で一番と言ってもいいほどの高揚感に支配されていた。 
しかし、もっと先を求めたいのが男心と言うものだ。 
「麻由、さっきみたいに手も動かしておくれ」 
「ん……キャッ!」 
頷いた彼女の頬に、僕の中心がぶつかる。 
慌てる姿が可愛くて、つい微笑んでしまう。 
こんな風にいちいち楽しませてくれるのだから、麻由と逢引するのはやめられない。 
愛撫を受けながら、僕は上機嫌になっていた。 
何度も舌が這わされるうち、僕の中心には熱がみなぎってきた。 
もっと深く愛されたいという欲望がわき上がり、脈打っているのが分かる。 
「麻由、これを口に含むことはできるかい?」 
「え?」 
「咥えてほしいんだ」 
頼むと、彼女は驚いて目を瞬かせた。 
「そんなことをして大丈夫なのですか?こちらはとても繊細な場所だと、聞き及んでおりますが……」 
首を傾げるのを見て、彼女の勘違いに気づく。 
「咥えるって、噛みつくことではないんだよ?」 
そんなことをされたら一大事だ、ショック死するかもしれない。 
「君が言うように、ここはデリケートな場所だからね。強い衝撃は厳禁なんだ」 
「はい」 
麻由が、また握っている僕自身を見やり、納得したように頷く。 
ああしろこうしろとはあまり言いたくないが、やはり彼女からの愛撫を受けたい。 
どう説明すれば分かってもらえるかをしばし考えた。 
「麻由、僕が君に触れる時のことを思い出してご覧」 
「はい」 
「乱暴にはしないだろう?優しく触ったり、舐めたりするだろう?」 
「はい」 
その時のことを想像したのか、麻由が蚊の鳴くような声で答える。 
「あれと同じだと考えればいいよ。自分が気持ち良かった時のことを思い出して」 
「……」 
俯いた彼女の頬も、耳までもが真っ赤に染まっている。 
気をよくした僕は、その身体を引き寄せて胸に抱いた。 
「例えば、そう。胸はどう触られると気持ちいい?」 
耳元で囁くと、彼女は全身を硬直させた。 
「どう、と仰いましても……」 
「色々あるだろう?揉んだり、舐めたり。乳首を軽くつねることもあるな」 
「ええ……」 
反応を見れば、どう愛撫すれば気持ちいいかなど手に取るように分かる。 
しかし、どうせなら一度本人の口から聞いてみたい。 
「ね?教えておくれよ」 
「あっ!」 
耳たぶに舌を這わせると、麻由は僕の腕の中で身を震わせた。 
「んっ……。武様、おやめ下さ……」 
「教えてくれたらやめてあげる」 
「そんな……」 
本当にイヤなら、僕を突き飛ばしてでも逃げればいいのに、麻由は困りきった声で抗うだけだった。 
あまりいじめては可哀相かもしれない。 
僕は麻由の耳を舐めるのをやめ、落ち着かせるように彼女の髪を撫でた。 
「あの……」 
「うん?」 
「舐めて下さるのが、その……。とても……」 
「とても?」 
「気持ち、よく……って。あの」 
切れ切れに呟かれる言葉に、ついつい笑みがこぼれる。 
「それだけ?」 
「え」 
「あんまり気持ち良くないみたいだね」 
「いいえ!そうじゃなくて」 
「うん」 
「吸い付かれるのも、赤ちゃんみたいで……。可愛いと思います」 
また蚊の鳴くような声が聞こえる。 
可愛いといわれるのは予想外だ、僕が麻由の胸に触れるのは男の欲望ゆえなのに。 
「じゃあ、吸いつきながら舐めるのはどうだい?」 
抱き寄せていた手で、彼女の背を撫でながら問い掛ける。 
「それは、あの……」 
「うん?」 
「身体中に力が入って、息が苦しくなってしまいます」 
「つらいのかい?されたくない?」 
「いえ……」 
麻由がまた困ったそぶりをする。 
「変な声が出ますし、武様に抱きつきすぎて、痛いとお感じになられているのでは、と……」 
「ちっとも痛くなんかないよ。それに、声だって変じゃない」 
嬌声も爪を立てられるのも、僕が麻由を気持ち良くしている証しだから、全く気にする必要なんてないのに。 
 
 
「じゃあ、大事な場所に触れる時はどうだい?」 
僕の腕の中でその言葉を聞いた麻由が、答えたくないとでも言うように首を振る。 
「ほら、言って」 
「お許し下さいませ、そんなこと申し上げるわけには」 
「だめだ。言わないと許さない」 
「え……」 
泣きそうな声を上げ、麻由が沈黙した。 
自分からは言いにくいというなら、誘導尋問をしかけてみるか。 
「僕は、麻由の大事な場所を触るのは好きだよ。とても楽しい」 
「……」 
「君が叫んだり、僕の髪に指を絡めたりするのが特に好きなんだ。感じているのが分かるからね」 
「はい……」 
「濡れてくるとやる気が出て、もっともっと気持ち良くさせてやりたくなる」 
「……それは、もったいのうございます」 
小さく呟き、麻由が僕の肩口に顔を埋めた。 
「麻由は、僕を気持ち良くさせてやろうとは思わないかい?感じさせてやろうと思ったことはない?」 
一抹の不安を感じながら問いかける。 
もし「触れたいとは思わない」と言われてしまったら…。 
年単位で立ち直れなくなりそうだ。 
「触れてみたいと思ったことは、何度もございます。 
ですが、どう振舞えばよいか分かりませんし、武様に失礼なのではと尻込みしてしまって……」 
「失礼だなんて。僕はきっと大喜びで受け入れただろうに」 
「本当ですか?」 
「ああ。君にその気があると分かりさえすれば、手取り足取り教えていただろう」 
経験が浅いくせに、教えるなどと僕が偉そうに言うのはおかしいのだが。 
色々試してもらい、どこをどうされると気持ちいいかなどは伝えられたはずだ。 
いかがわしいビデオでも調達してきて、二人で見て勉強することもできただろう。 
「頑張ってくれる気は、あったんだね?」 
「はい。でも、自分からは言い出しにくくて、その……」 
「そうか」 
先程の不安が消し飛び、胸が温かくなった。 
ひょっとしたら、好きなのは僕だけで、麻由は僕の誘いを断りきれないだけかもしれないという疑念がいつもあったから。 
セックスには慣れてきていたつもりだったが、彼女の心に積極性が芽ばえ始めていたことに、僕は気づけていなかったようだ。 
 
 
「じゃあ、自分がされて気持ち良かったのと同じことを、僕のこれにしてくれるかい?」 
「私がして頂いたのと同じことを、ですか?」 
「そうだ。胸なり大事な場所なり、されて気持ち良かったことを思い出してご覧」 
「はい」 
彼女が考え込むようなそぶりを見せた。 
「承知致しました。では、寝転んで頂けますか?」 
「ああ」 
シーツにごろりと横になった僕の上に、麻由が乗りかかる。 
「なるべく、重くないように気をつけますから」 
麻由が囁いて、僕の耳たぶに口づけた。 
今更そんな所に触れてくれなくてもいいのだが。 
簡単な場所から始めて、気分を高めることも必要かと思い、したいようにさせる。 
麻由は僕の首筋に舌を這わせ、時々軽く吸いつきながら下へと降りてきた。 
そして、乳首を口に含んで舐め始める。 
尖らせた舌でつついたり、ざらりと大きく舐め上げたり。 
いつも僕がするのを真似して丁寧に触れてくれた。 
ここが性感帯なのは女性だけかと思っていたが、いざ刺激されると中々気持ちがいい。 
胸がキュンとするような、甘い快感とでも言うべきものが走る。 
いつしか、僕の呼吸は早くなり、吐息にも熱がこもるようになっていた。 
そこに飽いたのか、彼女の唇が下半身へと向かってくる。 
期待ではちきれそうになっている場所に、早く口づけてほしい。 
心がはやり、いてもたってもいられなくなった。 
待ち侘びた頃、ようやく、麻由の手が僕の中心を掴む。 
そして、鈴口が温かく濡れた物に包み込まれた。 
思わず漏れた呻きに、彼女の動きが止まる。 
大丈夫だと伝えるべくその髪を撫でると、小さく頷いてくれたのが分かった。 
「んっ……ん……」 
僕の中心が彼女の口に出入りし、湿った音が微かに響く。 
時々歯が当るのにヒヤリとするが、先に注意したせいか痛みを与えられることはない。 
慣れないながらも僕のことを気遣ってくれるのが分かって、嬉しくなった。 
「麻由、手と舌も使って……」 
溜息混じりにねだると、すぐ従ってくれた。 
手で扱きながら舌を動かすのは同時にやりにくいのか、時々テンポがずれる。 
それがまるで焦らされているようで、僕はどんどんと追いつめられていった。 
深く咥え込んで吸い付いたり、喉の奥で先端を擦られたり。 
そのたびに抑えきれない声が漏れ、下半身がわなないて手に汗を握ってしまう。 
いつもは麻由がこうなっているのに、今日は逆で、僕が喘がされている。 
少々不甲斐なくはなるが、つまらないプライドは捨てて、快感に身を委ねるのも良いかと思った。 
「あっ……あ……」 
先端を舌先で穿るように舐められ、危機感が募る。 
このままでは口の中に出してしまいそうだ、初めてなのにそれは気の毒だ。 
「だめだ、麻由。離しなさい」 
指示するも、愛撫に夢中になっている彼女の耳には届かなかったようで、更に責め立てられてしまう。 
「はっ、あ……ううっ!」 
頭が真っ白になった瞬間、僕は彼女の口内に放っていた。 
 
 
荒い息を整えながら天井を睨む。 
しばらく動けなかったが、麻由が僕の中心を解放してくれたので、どうにかやっと起き上がる。 
足元をうかがうと、麻由は顔をしかめ、なんともいえない表情で固まっていた。 
喉をひくひくとさせているのが申し訳なく、慌ててティッシュを差し出す。 
ひどく苦くてまずいらしい物を、口に含んだままにはさせられない。 
いいから吐き出しなさいと申しつけると、彼女は後ろを向いてそれに従った。 
その間にこちらも後始末をすませる。 
麻由が処理を終えるのを待ち、再びベッドに背を預けた。 
「大丈夫かい?」 
沈黙に耐えきれず、小さな声で問いかけてみる。 
初めてしてもらったのだから、達する寸前に離してもらうべきだったと後悔する。 
もう二度とイヤだと思われたらどうしようかと、身が縮むような思いにとらわれた。 
「大丈夫でございます」 
隣に寝転んだ麻由が、口の端に笑みを浮かべて言ってくれた。 
「すまなかった、気持ち良すぎて、つい」 
「いえ、お気になさらないで下さいませ」 
彼女が首を振り、僕の言葉を押し留めた。 
「いつもは、私がして頂くばかりでしたから。実は少々心苦しかったのです。 
ですから、お返しができて良うございました」 
「そうなのか?」 
「ええ。……あの、不手際はございませんでしたか?痛い思いなどなさいませんでしたか?」 
必死に問うてくる表情が可愛くて、つい微笑んでしまう。 
「ちっとも悪い所などなかったよ。上手だった、一日中してもらってもいいくらいだ」 
「まあ……」 
照れた彼女が上掛けをひっぱり、顔を隠す。 
初々しいその仕草に、新たな欲望がかき立てられた。 
起き上がり、僕は彼女を組み敷く体勢を取る。 
上掛けを引いて奪い取り、視線を合わせた。 
「頑張ってくれたから、お返しをしなければね」 
「えっ」 
彼女が息を飲んでいる間に、さっさと足元に移動して脚に手をかける。 
下着を奪って開脚させると、キャアという悲鳴が上がったが、もう遅い。 
「今度は僕の番だ」 
秘めやかな場所に舌を這わせると、彼女の全身が一瞬にして緊張する。 
恥ずかしいからやめて下さいとでも言うように腰が逃げるが、無駄なことだ。 
逃がさぬようにしっかり捕まえ、力加減を微妙に変えて、時間をかけて彼女のそこを丹念に舐め回してやる。 
襞、敏感な肉芽、そして後で僕自身を受け入れてもらうべき秘密の穴まで。 
舌を動かすほどに、ひっきりなしに麻由の嬌声が上がり、そこはどんどんと潤った。 
僕自身にも再び熱がみなぎり、固くなっている。 
先に口でイかせようかとも思ったが、待ちきれそうにない。 
濡れそぼった場所から顔を上げ、僕は枕元の引き出しに手を伸ばした。 
「んっ……あ……。武様?」 
イく寸前だったのに、どうして……と問うような顔で見られる。 
彼女がそんな色っぽい表情をするようになったのも、ここ最近のことだ。 
「すまない、早く君の中に入りたくてたまらないんだ」 
僕の言葉に小さく頷いた彼女が、抱っこを望む幼子のように両腕を広げる。 
そこで丁度準備が整い、僕は彼女の中に深く自身を挿入した。 
 
 
熱く潤んだ粘膜が絡みつき、ゴム越しなのにその快感に息を飲む。 
今から圧倒されていてはだめだと深呼吸し、彼女の額に掛かる髪を払ってやった。 
自分が優位に立っているふりでもしなければ、先に屈してしまう。 
「はっ……ん……」 
麻由が息をつき、僕の背に腕を回して目を閉じる。 
それを合図に、ゆっくりと突き上げ始めた。 
最初は浅くゆっくりと動いて、彼女の負担にならぬようにする。 
愛撫によって蕩けるようになっている場所に押し入るたび、淫靡な水音が立つ。 
そこに、麻由の喘ぎと僕の名を呼ぶ声も加わり、場を支配した。 
全ての雑念が消え、ただ気持ち良くなりたい、よがらせたいという思いだけになる。 
彼女の片脚を抱え込んで繋がりを深くし、さらにと責め立てた。 
「ああっ……あ……ふあっ……」 
圧迫感からか、麻由の背が反り返って白い喉が露になる。 
僕が吸血鬼なら一も二もなく噛みついているところだ。 
その代わりにと、細くくっきりとした鎖骨の下に吸いついて赤い痕を残した。 
「んっ……あん……。武様、はっ……う……」 
切れ切れに聞こえる喘ぎが僕を高ぶらせる。 
名を呼んでくれるのがひどく嬉しい。 
麻由が僕の名を口にするのは、二人きりの時だけだ。 
会話もいいが、愛し合っている時に切ない声で呼ばれるのが一番いい。 
「麻由っ……」 
お返しに名を呼んでやる。 
僕は昼も夜も「麻由」としか呼ばないが、今の言葉にこもった熱と恋心を感じ取ってほしい。 
「あ!だめ……。んっ……やんっ!」 
中を探るように突いてやると、弱い場所に当ったのか、彼女が身体を震わせて叫ぶ。 
そこを何度も責め、甘い声を誘い出す。 
次第にそれは涙声となり、彼女の限界が近いことを僕に告げた。 
後れを取らないため、快感に集中して腰を動かす。 
「あ……武様、武様っ!」 
麻由が一層高い声を上げたのをきっかけに、二人ともほぼ同時に達した。 
絶頂の余韻が押さえきれず、身体が小刻みに跳ねるのが互いに伝わる。 
達した瞬間の体勢のまま、僕達はしばらく己の意思では動けなかった。 
 
 
麻由が閉じていた目を開き、僕の姿を捉える。 
何度か瞬きをして微笑むのが可愛くて、目が釘づけになった。 
このまま眠りたいが、そうもいかない。 
名残を惜しみながら身体を離し、後始末をして寝転んで彼女を抱きしめる。 
事が終ったらすぐ浴室へ向かうのが勿体無く感じられた。 
身も心も繋がりあった感触を、すぐ消したくはない。 
髪を撫でて口づけてやると、麻由はもぞもぞ動き、僕の胸にぴたりと寄り添ってきた。 
「愛しい方……」 
頬擦りをし、うっとりと呟かれた言葉に僕の心が温かくなる。 
好きな女にそう言ってもらえることが、どれほど生きる自信になることか。 
同じことを思っていることを伝えたくて、こちらも布団に潜り、頬擦りをする。 
しばらく、僕達は子猫のようにじゃれあい、クスクスと笑いあった。 
今日は、初めて麻由に僕自身を愛撫してもらった。 
満足した、よくやったと褒めてやりたいのに。 
浮かぶ言葉はどれも上から目線のものばかりで、しっくりこない。 
さて、どう告げれば一番伝わるのだろうか。 
 
 
息苦しくなったのか、麻由が上掛けをまくり上げる。 
ぷはっと大きく呼吸するのが聞こえた。 
僕も顔を出し、明るい所で彼女の顔を見た。 
「あの、武様」 
「うん?」 
妙にもじもじしながら、麻由が僕の顔を覗きこむ。 
「あの、先程致しましたことについてなのですが……」 
「えっ?」 
「本当は、全部飲みこむのが正しいのでございましょう?」 
謝るように尋ねられ、しばし考えてああと思い至る。 
「そうかな、僕も詳しくは知らないんだ」 
以前見たビデオでは、確かに飲み込んでいたようだが。 
あれは演出上の行為だとも考えられるから、真相は分からない。 
そう言おうとした所で、あることに気付いた。 
「ちょっと待ちなさい。なんで君がそんなことを知っている?」 
「えっ」 
麻由は奥手で、男を気持ち良くさせるイロハにも疎いはず。 
一体どこからそんな情報を仕入れたのだろう。 
「その……お仕事の合間に、同輩との話の中で……」 
「メイド同士の?」 
なるほど、男が複数寄ると女の話になるように、女が寄ってもそういう話になるのか。 
合点がいったが、少々面白くない。 
僕の知らない所で麻由がそういう知識を得るのは、なんとなく気に入らないのだ。 
「触れ方なんかを教えてもらったのかい?」 
「ええと、教わったわけではないのです。何人かが、ヒソヒソ話しているのを小耳に挟みまして」 
「ほう。それで、飲むのが正しいと聞いたのかい?」 
「はい、そうすれば殿方は大変お喜びになられると亜由美さんが……あっ」 
年上メイドの名を言ってしまった彼女が、しまったと口に手を当てる。 
習ったならともかく、麻由は話の輪に入っていなかったから、実践に至るほどの知識は得られなかったのだろう。 
「他にはどんなことを聞いたんだ?」 
目がそらせないよう、至近距離で彼女を見つめる。 
「言わないと、本人に問いただすよ?」 
頬をつつきながら言うと、麻由は困った表情になった。 
「飲み干した上で『美味しい』と言うのも効果的だと……」 
「ほう」 
「それから、その……。『大きい』と言って差し上げると、皆様とてもお喜びになられると」 
申しますから亜由美さんにお尋ねになるのはご勘弁を、と麻由が慌てる。 
確かに、男にしてみればそう言われるのは嬉しいはずだ。 
自分の一部と、そこから生じたものを褒められてイヤだと思う者は少ないはず。 
でも、麻由にはそんな世慣れた女のようなことを言ってほしくない。 
美味しいはいいとしても、大きさに関しては、他人の持ち物との比較の上に成り立つ言葉だから。 
「別に、そんなことを言う必要はないよ」 
麻由には、僕におべっかを使うような真似などしてほしくない。 
曇りのないまっすぐな心で接して、見たまま感じたままを言葉にしてほしい。 
それが僕にとって有難くないことでも、嘘をつかれるよりはずっといい。 
「君は今日初めて僕の物に触れて、頑張ってくれた。それで十分だ」 
「……はい」 
「演技なんてしなくてもいいからね。素直でいてくれればいいんだ」 
「心得ました」 
「僕も、君には真心で接することを約束するから」 
跡取り息子とメイドという、立場に開きがある僕達だからこそ、間に嘘偽りを差し挟みたくない。 
「変な小細工をしたり、言ったりしなくても麻由は十分可愛いよ」 
「いえ、そんな……」 
ゆでだこのように真っ赤になって、麻由がかぶりを振る。 
計算なんかしなくても、彼女はなんら僕を飽きさせることなどない。 
ずっと二人でこうしていたいと思いながら、その背を抱き寄せてもう一度唇を重ねた。 
 
 
──続く── 

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