「お買い物」  
 
お洗濯とお掃除が終わり、キッチンの椅子に座って一息つきました。  
「さて、と・・・・・・」  
時計に目をやり、立ち上がります。  
「お買い物に行かなくては・・・・・」  
スーパーに行く前に、近所の古本屋へ寄ってみようかしら。  
料理の本コーナーで立ち読みをすれば、夕食のメニューのアイデアが浮かぶことでしょう。  
少し時間もあるから小説コーナーにも・・・と考えを巡らせたところで、ずーんと頭が重くなりました。  
・・・・・・・・・・忘れていました。武様が出がけに仰ったことを。  
全くもって気が進みませんが、ご主人様のお言いつけに従うのがメイドのつとめ。  
せめてもの抵抗として、少しでも印象が変わるようにといつもは纏めている髪を下ろし、帽子を目深に被って別荘を出ました。  
 
 
 
古本屋へは自転車で10分ほどの距離でございます。  
漫画やハードカバーの棚には最新に近いラインナップ。  
しかし料理や手芸本などの棚は微妙に時代がかった品揃えというのは、やはりこのお店にも言えることのようです。  
でも、私にはそれが有難いのです。  
「材料これだけ、手早くササッと○品!」とうたったレシピ本より、手間がかかっても愛情と栄養のこもったレシピが載っている本が欲しい。  
幸いそれにぴったりの本が見つかりました。  
手順や完成図のカラーグラビアは少し色あせていますが、問題ありません。  
会計を済ませてお店を出ます。  
レジへ向かう前にページを繰って今日のお夕飯のメニューを決め、これからスーパーで買うものを頭の中にピックアップしました。  
 
そして、次のお店へ。  
武様のお言いつけの品物を先に買うか、スーパーでお夕飯の材料を買ってからにするか。  
しばらく迷いました(本当はずっと迷っていたかったのです)。  
武様のお言いつけの品物を買うまで、私はきっとお店でグズグズしてしまうでしょう。  
生鮮食品を持ったままうろうろするのは良くありませんから、先に薬局へ行くことにいたしました。  
・・・・・・それに、スーパーを後回しにした方がきっとお買い物の「口直し」になると考えたのでございます。  
 
 
 
薬局の自動ドアが開き、足を踏み入れます。  
さて、お言いつけの品物は売り場の一体どこにあるのでしょうか。  
まさかレジの方に尋ねるわけにもいかず、広い店内をうろうろ探します。  
薬局が、ブティックのように店員さんがすぐ近寄ってくる所でなくて本当に良かったと思いました。  
シャンプーやリンスの棚、洗剤類の棚、とあちらこちら見て回るのですが、見当たりません。  
「日用品コーナー」には置いていないということなのでしょうか。  
男性用化粧品の棚にカミソリなどと一緒に置いてあるかとも思ったのですが、ありません。  
ならば女性の化粧品コーナーか、と思ったのですがそれも外れでした。  
残った売り場は、とまた右往左往。  
要注意人物だと店員さんにマークされてもおかしくないほど、私は挙動不審だったのではないでしょうか。  
介護や赤ちゃんのおむつコーナーに迷い込み、ここはさすがに、と足早に前を過ぎます。  
そのまま横の女性用衛生用品コーナーを通り過ぎようとしたとき、ようやく目指すものを発見いたしました。  
 
「・・・・・」「・・・・・」  
棚の前にたどり着いたまではよかったのですが、そこから私は一歩も動かずに目だけ左右に走らせておりました。  
幾種類ものカラフルなパッケージが並んでいます。  
遠くから見れば外国のお菓子の箱のように思えるのに。  
真ん前に立ちますと、箱に書かれた文字が目に飛び込んできてとても手に取る勇気が出ないのでございます。  
「!」  
少し離れた棚の向こうに人の気配がし、私は慌てて女性用の衛生用品を一つ手に取り、そちらを眺めている風を装います。  
人影があちらへ歩いていったのを横目で確認し、手に取った物を棚に戻して向き直りました。  
いつまでもここに立っているわけにもまいりません。  
向き直って分かったのですが、どれもその値段に大きな開きは無いようです。  
ではこれを、と手に一番近い棚から一箱取り、籠に入れようとして私は危うく叫びそうになりました。  
「お買い物をするときには籠に入れる前にもう一度、瑕疵のない品物かを確認してからお買いなさい。」とメイド長に生活態度を躾けられている私たち。  
数年来の癖が出てしまい、つい手に持ったものを凝視してしまったのでございます。  
‘使用感ゼロの0.03mmうすうすタイプ やさしい究極の潤い A−Fit’  
どこまでが惹句でどこまでが商品名なのかは分かりませんが、意味を理解した途端に思わず顔を背けました。  
このままダッシュで会計を済ませて別荘へ戻ってしまいたい。  
しかし武様のお言葉が断片的に頭をよぎるのです。  
「好きなのを選んで」「できれば数箱」と・・・・・。  
 
見比べて選ぶなんてとてもできず、結局は見た目でなるべくそれと分かりにくい蝶柄の箱とフルーツ柄の箱を掴んで籠に入れ、足早に売り場を離れました。  
これだけを会計する勇気など持てず、また店内をうろうろしてから虫さされの薬と日焼け止め、洗濯洗剤などを籠に入れてようやくレジへ向かいました。  
お支払いして籠を受け取ってさあ終わり、と息をつこうとしたところで店員さんが紙袋を手に取り、先ほどの3箱を入れて封をします。  
女性用衛生用品と同じ扱いなのね、と納得する余裕はありませんでした。  
私は早くこの場を立ち去りたい気分で一杯でしたのに。後ろにレジ待ちのお客さんが立っていたのに。  
逃げるように他のものを袋に詰め、お店を出てスーパーへ向かいました。  
ぐったりと疲れ、さっき覚えたはずのスーパーでの買い物リストはスッポリと頭から抜け落ちておりました。  
 
 
──終わり──  
 

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