「別荘でしかできないこと」  
 
 
 
「ところで麻由、朝に頼んだものは買ってきてくれたかい?」  
お風呂から上がられた武(たける)様がお夕飯の後片付けをしている私にそうおっしゃいました。  
「・・・・・・・はい。」  
途端に、頬に血が上るのが分かりました。  
「そうか、どこにある?」  
「あちらに片付けてございます。お持ちしましょうか?」  
買い物から帰って来て、あの紙袋を目につく所においておくのに耐えられずにすぐ部屋の戸棚に仕舞っておりました。  
すぐ取りに行き、ソファに座っていらっしゃる武様にお渡ししようと思ったのですが。  
「僕が保管しておくよ。部屋まで持ってきてくれるかい?」  
「かしこまりました。」  
お部屋に向かわれる武様の後姿を見ながらそうお答えいたしました。  
 
 
 
「それで、麻由はどんなのを買ってきたんだ?」  
どんなの、とおっしゃいましても・・・・。  
「開けて見せてくれないか?」  
 
紙袋をお持ちし、そのまま踵を返そうとしたところで呼び止められました。  
仕舞ってくださればいいのに、と縋るように武様をお見つめするのですが、そのままの姿勢で待っていらっしゃいます。  
しかたなくテーブルに近付き、紙袋を開封して中身を並べます。  
黒地にピンクの蝶の絵がついた箱、フルーツの静物画の絵がついた箱、そしてあの一番最初に手に取った箱。  
「三箱かい。ちゃんと言いつけたとおりに買ってきてくれたんだね。」  
「はい・・・・・。」  
武様はそれを一つ手に取られ、しげしげと眺められます。  
「どういった基準で選んだんだい?」  
「はっ?」  
基準だなんて。それを説明せよと仰るのですか?」  
「ああ、何も考えずに選んだわけではないだろう?」  
「・・・・・あの、今持っていらっしゃるその箱は棚の一番近い所にありましたので手に取りました。  
残りの二つは、なるべくそれらしく見えないものを・・・・と選んだつもりでございます。  
左の箱はストッキングがこういうパッケージで売っているのを見たことがありますし、右の箱はフルーツ柄でしたので・・・・・」  
「なるほど。これを一旦籠に入れた後、棚に戻す勇気がなかったから残りはせめて抑えた表現のものを・・・ということか?」  
武様はあのどこまでが惹句か商品名か分からない箱を持ったままそう仰います。  
「・・・・・・はい。」  
「そうか。」  
今度はフルーツ柄の箱を手にとって眺められ、思わず吹き出されました。  
「麻由、この文字が見えなかったのかい?」  
箱の裏側を指してそうおっしゃいます。  
「文字・・・・?」  
顔を近づけてそれを見た途端、ヒッと声が出そうになりました。  
「フルーツの香りに彼女もとりこ!オレンジ、ぶどう、いちご、メロンと4つのバラエティ」  
おかしそうに私を覗き込まれる武様と目が合います。  
 
「君はこの絵が、商品と無関係に上品でいいと思ったんだろうが。関係は大有りのようだね。」  
裏面の文字と寸分違わぬ4種類のフルーツが盛られた籠。  
美術館にある静物画の油絵風で、これなら・・・・と購入いたしましたのに。  
「なんだか、ひどく裏切られたような顔をしているが。」  
「いえ、自分が情けなくなっただけでございます。」  
「次は、もう少し推敲して選びなさい。」  
「かしこまりまし・・・・・・えぇっ!?」  
思わず返事をしてしまいました。またこれを買いにいけと仰るのですか?  
「まあ、これだけあればしばらくはもつだろうね。」  
武様は笑いをこらえて仰った後、立ち上がって私を抱きしめ、顔を近づけられました。  
 
 
 
 
「・・・・・・ぁ、武様・・・・・?」  
激しさを段々と増していくキスの合間に問いかけます。  
「・・・・・何だい?」  
「私、まだお風呂をいただいておりませんので・・・・・」  
離してくださいませ、と言おうとしたところでまた抱きしめられます。  
「買い物から帰って来てシャワーを浴びただろう?」  
確かに、薬局で変な汗をかいた後でしたので軽く済ませましたが・・・・。  
あれからお夕飯の準備やら洗濯物のアイロンがけなどをしたので、また汗をかいたように思うのですが。  
手を突っ張って距離を取ろうとする私の抵抗などお構い無しで、武様は私のエプロンに手を掛けられます。  
「今日はこのまま君を抱きたい。」  
蕩けるような声でそう囁かれます。  
お許しください、と申し上げようとした私はさっさとエプロンを奪い去られ、ベッドに押し倒されて武様に組み敷かれました。  
 
「キャッ!」  
「麻由・・・・・いいだろう?」  
思わず叫び声を上げた私を抱きしめ、耳たぶに唇を寄せて囁かれます。  
その熱っぽさに言葉を失った私の背中で、ワンピースのファスナーが下ろされていきます。  
素肌に武様のお手が触れ、体がビクッと跳ねてしまうのを止めることができません。  
ファスナーが根元まで下ろされ、引っ張られて袖が抜かれます。  
そのまま身体が抜けたワンピースの身頃はウエスト辺りで止まりました。  
まるで、半端にケーシングを剥いたサラミソーセージになった気分でございます。  
ホックが外されてブラジャーも奪われ、冷房の入った部屋の空気に胸の先がキュッと反応するのが分かります。  
「武様・・・・・・」  
キスが首筋、胸元にと降り注ぎ、微かな音を立てているのが耳に入ってきます。  
「あっ・・・・あ!・・・・ん・・・・・・」  
そのまま胸の先に吸い付かれ、舌で刺激されます。  
甘い快感に身体が揺れ、武様に胸を押し付けることになるのがとても恥ずかしいです。  
反対側の胸は武様の左手に包まれて、やわやわと揉みしだかれています。  
「・・・はぁ・・・・・あ・・・・・やぅ・・・・・」  
もう片方のお手はいつの間にか下へ降りていました。  
スカートと薄手のペチコートを捲り上げて中へ進入し、足首から上のほうへと登ってきます。  
指先や手の平でそおっと撫でられ、むず痒い刺激に耐えられずにスカートの上からお手を掴んで押しとどめようと試みます。  
しかし胸への愛撫で力が抜けた瞬間を狙ってお手の動きは再開し、時々は後戻りしながらもどんどんと上を目指してくるのです。  
こうなると、もう私の力ではどうすることもできません。  
 
「ふ・・・・あっ・・・・・・はぁ・・・・・・・・・」  
腿の内側を武様の指で撫でられ、切ない声が洩れてしまいます。  
「ああ、麻由・・・・・・」  
うっとりとした武様のお声が聞こえます。  
私への愛撫で武様のお気持ちも高まっているのでしょうか。  
「んっ!?あ・・・・・・・」  
下着に手を掛けられ、するすると下ろされていってしまいました。  
抵抗するまもなく足首まで下りたそれをあっけなく脚から抜かれ、奪われました。  
そのまま脚を大きく広げられ、めくれて膝上辺りを覆っているスカートの中に武様が顔を入れられました。  
「きゃあっ・・・・・・おやめください!」  
スカートの中に殿方のお顔があるなんて。  
熱い吐息が私のそこや太股を撫で、そのまま下半身に熱となって留まります。  
武様とこういう関係になってから一年以上も経つのに。  
メイド長や同輩メイドたちに服のしわを見咎められぬように、ベッドを共にする時はいつも先に服を脱いでおりました。  
そのため、着衣を取り去らぬまま愛撫を受けるという経験は初めてだったのでございます。  
「なんだかすごくいけないことをしている気分だよ。」  
スカートの中でそう仰る武様の声が、くぐもって聞こえてきます。  
「麻由はまだ服を着ているのに、いつもより些か興奮している。」  
私も思っていたことをあっさりと口に出され、しばらく沈黙したあと武様は舌をそこに伸ばされました。  
 
 
 
「あぁ・・・・・・ん・・・・・・ん・・・・・うっ・・・・」  
中央の溝を上下になぞられ、襞を唇で挟んで引っ張られます。  
湧き出してきた蜜を舌で掬い取り、指で少し開いたそこに塗り広げられます。  
 
「はぁ・・・・・あっ・・・・・あん・・・・・」  
はしたなく蜜を零している私のそこに武様の舌がそっと進入してきます。  
「あぁ・・・・・・武様・・・・・」  
身体が熱く、とろとろに溶けてしまいそうになった私は胸に置かれたままのお手を掴み、気を静めようとしました。  
「・・・・ああ、そうだったね。」  
唇を一旦離し、そう呟かれた武様は私が掴んだお手の動きをまた再開されました。  
「んっ!・・・・・あんっ・・・・・やぁ・・・・・・」  
指で胸の先をくりくりと撫でられ、時折摘み上げられる動きに私は高い声を上げてしまいました。  
そんな積もりではなかったのに、胸への愛撫をねだったと思われてしまったのでしょうか。  
はしたない女だと思われたら…、と心配になるのですが、私の口からは弁解の言葉ではなく甘い声しか出ず。  
武様のお手をぎゅっと握り、与えられる愛撫に耐えておりました。  
「きゃんっ!・・・・・あ、ああ・・・・・・う・・・んっ・・・・」  
私のそこを押し広げられていた武様の指にぐっと力が入り、露わになった敏感な芽に舌が届きました。  
途端に腰が大きく跳ね、恥ずかしさに身を捩って逃れようとした私は武様のお手を離してベッドの上をずり上がります。  
しかし武様は私の身体を離すまいと、私の太股にがっちりと腕を回し、引き戻されました。  
「僕から逃げられるとでも思っているのかい?」  
虚しく元の位置まで戻されてしまった私は、両手で顔を覆って隠します。  
「だって・・・・・武様っ・・・・」  
何と続けてよいかも分からず涙を滲ませる私の手に、顔を出して伸び上がってこられた武様のお手が触れます。  
「麻由が僕のために頑張ってくれるように、僕だって麻由が喜ぶことをしたいんだ。  
普段自分が僕のために頑張っている報酬だと思いなさい。  
どんなに大きな声を出してもここでは僕と君の二人きりだ。  
恥ずかしがる必要は無いし、むしろ、君が悦ぶことが僕の男としての甲斐性になるんだからね。」  
 
私の手をそっとお退けになり、目を合わせて優しく仰る武様の笑顔に胸が熱くなります。  
コクリと頷くと武様はゆっくりと私の頬を撫でられてからまた元の位置に戻られました。  
「あぁ・・・・・んっ・・・・んっ・・・・あん!・・・はぁぁ・・・・・」  
脚を抱え込まれ、大きく割り開かれて愛撫が再開されても私はもう抵抗いたしませんでした。  
「・・・武、様っ・・・・・あぅ!・・・・はぁ・・・・・・・ん・・・・私、もう・・・・・」  
太股に手が這い回り、敏感な芽を舐められ、そこを指でほぐされて。  
私の身体はどんどん熱くなり、急速に高まっていきます。  
「あぅ・・・・あんっ!あ・・・ん・・・・ああぁー!」  
武様の舌と指の動きが一層早くなり、強い刺激を受けた瞬間に私は達してしまいました。  
スカートの中から顔をお出しになった武様は、ヒクヒクと痙攣しているそこをそっと撫でて微笑まれました。  
 
 
 
「せっかくだから今日は麻由が買ってきてくれたものを使うことにしよう。」  
乱れた呼吸を整えようとする私に、一度ベッドから降りられた武様のお声が聞こえます。  
何のことかと考えを巡らせますが、すぐにあれの事だと理解して恨めしくお顔を見上げます。  
「どうしてそんな顔をするんだ?君が選んだものだろう?」  
苦笑しながら武様はいつのまにかベッド脇に用意されていた箱を手に取られます。  
三箱のうちどれをお使いになるのかと、気になって目を遣る自分に気付き、慌ててギュッと目を閉じました。  
 
「屋敷に帰っても、この箱を見るとあの真っ赤になった麻由の顔が思い出されて楽しめるだろう。  
潤いも十分なようだから、これも今日は使う必要はないな。」  
武様のお言葉と共に、フルーツ柄と緑色の箱が除けられ、蝶柄の箱が残ります。  
「あとの二箱は事故のようなものだが、これだけは麻由のセンスで選んだものだからね。  
今日はこれを使うことにしよう。」  
手早く服を脱がれた武様のたくましいお姿を一目見てまた身体が熱くなるのを感じます。  
目を逸らしてしまったので、それの箱を開け、一つ取り出されるところは物音だけで聞いておりました。  
「そのうちこれの世話もしてもらうからね。」  
準備を整えられた武様が耳元でお囁きになります。  
「・・・おおお、お世話でございますかっ!?」  
素っ頓狂な声で叫んでしまった私に武様がこう仰います。  
「主人が纏うものを管理し、身に着けるのを手伝うのがメイドの大切な仕事だろう?」  
・・・・・・・逆らうことはできなさそうでございます。  
 
 
 
「ほら、このままでは麻由の中に入れないな。」  
先ほどの愛撫でさらに乱れたスカートは太股の半ば辺りまで捲くれ上がっています。  
生地の上から私の脚を擦りながら武様は仰いました。  
「え・・・・?」  
手を掴まれ、スカートの裾に押し付けられます。  
 
武様が望んでいらっしゃることが分かり、私は両手で恐る恐るスカートの裾を持ち上げ、そこを露わにしました。  
さっきはスカートの中にお顔を埋めていらっしゃったのに。  
私から誘っているようなこの状況をわざと作り出して楽しんでいらっしゃるに違いありません。  
「そうだ、よくできたね・・・・」  
「あっ・・・・・ん・・・・・」  
クチュッという音を立て、武様が私の中へ入っていらっしゃいました。  
そのままゆっくりと奥まで差し込まれ、脚を抱えて繋がりを深くされます。  
「武様・・・・・・・」  
大きくて熱いもので貫かれ、それだけで身震いしてしまいます。  
「一度、この姿の君を抱きたかった・・・・・・」  
例のご学友に、「メイド姿の女性を・・・・・云々」とまた一説ぶたれ、その気になられていたのでしょうか?  
ひょっとしたら、私の知らないところでお気持ちが募っていったのかも知れません。  
今後も何かあるのかしら・・・・と少し心配になってまいりました。  
「ん・・・・・あ・・・・・ん・・・・はぁん・・・・・」  
強弱をつけて動かれる武様のお背中に腕を回します。  
「・・・・っ、今夜の君もとても素晴らしい・・・・・」  
少し気障な武様のお言葉が私の理性を蕩かしてゆきます。  
「武・・・・様・・・・・・あっ!・・・・あぁ・・・・・・いい・・・・・」  
いつしか私は自分からも腰を揺らし、求めておりました。  
私が悦ぶことが自分の甲斐性と言い切ってくださった、武様のお言葉に素直に従おうと思ったのでございます。  
「ああ、僕も・・・・とても気持ちいいよ・・・・・っ!」  
切なげにそう仰っていただけることがとても嬉しく思えます。  
 
武様に悦んで頂くのがメイドとして、女として私の甲斐性になるのだと先程のお言葉をなぞり、噛み締めます。  
「あんっ、あ・・・・・・は・・・・・・」  
振動でよれたワンピースの身頃が胸の先を掠め、その刺激が伝わり私のそこに切なく甘い疼きをもたらします。  
「麻由と繋がっている時にここを触ると、僕のものをギュッと食い締めるのが分かるかい・・・?」  
身頃を捲られ、胸に直接武様のお指が這います。  
「う・・・・・・ぁ・・・・・はい・・・・・・・」  
お指が触れるたびにピクピクと身体が震えました。  
「僕はこれが好きなんだ。麻由の身体は全て僕のものだ・・・・・・」  
そう仰ると武様は動きを激しくされ、高みへと私を押し上げられます。  
「ああぁ!・・・・・んっ、ん・・・・・いやぁ!・・・・・・あぁ・・・・武様ぁ!」  
「…麻由……んっ・・・・・・ぁ・・・・・・・ぁ・・・・・くっ!」  
「あぁんっ!」  
武様のものが私の中で大きく波打ち、弾けました。  
それを感じた瞬間、私も達して大きく息をついてベッドに沈み込みました。  
 
 
 
ようやくお風呂を頂いて、メイクし直したベッドへ二人で横たわります。  
ほどいた私の髪を玩びながら武様が話されます。  
「君の服を汚す羽目になって済まなかった。」  
「・・・・いえ、明日洗濯いたしますのでお気になさらないで下さいませ。」  
脱衣所の籠に入れたワンピースは、かつてないほどしわくちゃになってしまいました。  
事前に外してくださったエプロンは無事でしたが。  
「・・・・・・・・今日のこともご学友の方の影響なのですか?」  
「ん?・・・・あぁ、そうじゃないんだ。二人きりでしかできないことを考えていたら思い出しただけだよ。」  
「はぁ。」  
もしかして、昼間はそのようなことばっかり考えていらっしゃるのですか?  
私はあっけに取られ、二の句を告げることができませんでした。  
 
「君のスカートの中に入ったときは興奮したな。  
立ったまま触れるなら、服も乱れないし大丈夫だろう。  
屋敷で、ベッドを共にできない時は空き時間にそうやって君を可愛がろうか?」  
いかにも名案を思いついたと言いたげなお顔でそう仰って、私の顔を覗き込まれます。  
「ダメです!そんなこと・・・・・・」  
あんなことを日のあるうちにされるなんて、恥ずかしくて死んでしまいます。  
眉を寄せて怒る私に武様はクスクスと声を出してお笑いになりました。  
「麻由。」  
と、急に真面目な顔になって呼ばれました。  
「はい?」  
「今週の日曜は休みだ。二人でどこかに行こう。」  
「え?」  
「デートだよ。」  
頭を撫でて優しくそう仰るのを、信じられないような面持ちで聞きます。  
武様と二人でデート?外を歩く・・・・?  
「お休みの日なのに、宜しいのでございますか?」  
「ああ。君と二人で外に行くのもいいだろう。向こうにいるとできないからね。」  
嬉しさに頬を染める私をギュッと抱きしめてくださった武様のお言葉。  
普通の恋人同士のように歩ける、そう思っただけで胸の奥がツンとして涙が出そうになりました。  
「どこへ行きたいか二日間考えておきなさい。じゃ、お休み。」  
ニッコリ笑って目を閉じられた愛しい武様のお顔を見上げ、身体を擦り寄せて私も目を閉じます。  
デートなんてまるで夢のようなお話。  
日曜のお天気が晴れであることを願いつつ、私は眠りに落ちていきました。  
 
──終わり──  
 

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