武(たける)様に支えられて露天風呂から上がり、なんとか浴衣を着ました。  
丹前も着て足袋を履き、ようやく一息つくことができました。  
「浴衣を着た麻由も可愛いね。」  
武様がそう仰るのを聞くと、先程の少々手荒だった行為に拗ねていた気持ちが溶けていきました。  
「武様も…とても素敵でいらっしゃいます。」  
頬がほころぶのを隠すように下を向いてそう申しました。  
実際、上背のあるお体で浴衣に丹前をお召しになると、男振りが上がるようでいつも以上に素敵に見えるのです。  
いえ、普段でも十分素敵な方なのですが…。  
「そうか、それは嬉しいな。」  
嬉しそうにそう仰ると、武様はこちらへにじり寄って来られました。  
今度は何を?と思わず身構える私に、武様は苦笑してこう言われました。  
「そんなに固くならなくてもいい。今は何もしないから。ただ、ちょっと膝を貸しておくれ。」  
そして脚を投げ出され、座っている私の腿に頭を乗せて膝枕をなさいました。  
「え、あの……」  
「うん?」  
私の膝頭を撫でながら眼を閉じられる武様を上から見つめる格好になりました。  
「今度こそ、ちょっと横になるから。寝入りはしないが、しばらくこのままでいてくれないか?」  
「はい。」  
気持ちよさそうな武様のお顔を見ていると、何ともいえない愛しさがこみ上げてくるのを感じました。  
そっと武様の髪に触れ、手で梳いてみました。  
「麻由……」  
満足げにそう呟かれたあと、武様はやはり少しお眠りになりました。  
 
武様に膝枕をしながら、私も少しうとうとしました。  
…露天風呂で少し疲れていたこともありましたから。  
部屋の内線電話がいきなり鳴りだしたときは心底驚きました。  
私は手近にあった座布団を武様の頭の下に敷き、立ち上がって電話に出ました。  
「武様、夕食の準備ができたそうですが。」  
「…ああ。もうそんな時間になったか。」  
立ち上がられた武様に手を引かれ、食事処に向かいました。  
 
 
お夕飯は、想像していた以上に立派なものでした。  
今が旬のヒラメ、たこ、黒鯛にカキなどの瀬戸内の魚介類。  
県内産の和牛や日本海側から運ばれたカニなどもあり、こんな贅沢をしてよいのかと思うほど豪華なメニューでした。  
お銚子を持って武様にお酌をするのも楽しい経験でした。  
「屋敷でも毎晩こうだったらいいのにね」と言われ、心からそう思い頷きました。  
武様にお酌をしていただいて一度返盃を受けましたが、口に含んだ瞬間に喉がカッと熱くなりました。  
むせてしまった私を見て、武様は笑っておいででした。  
 
 
食事処から引き上げ、お部屋に戻りました。  
部屋には床の用意がしてあり、ぴったりとくっ付けて敷かれた二組の布団に頬が染まりました。  
それをごまかすように、髪や身体を洗うために大浴場へ交代で行きました。  
私が女湯から戻ると、武様は待ちかねたように私を座らせ、また膝枕で寝転ばれました。  
今度は寝入られることは無く、ぽつりぽつりとお話をしました。  
昨日と一昨日の京都のこと、ゼミの皆様のことなどをお尋ねしました。  
ゼミは完全な男所帯だということを聞いて、私は心の中でホッと胸をなで下ろしました。  
(実際、武様のご一行に女性がいるかもしれないと思うと心中穏やかではなかったのです。)  
 
武様は今朝から待ち合わせまでの私の行動をお尋ねになりました。  
考えてみれば、武様とこうやってのんびりとお話をするのは久しぶりのような気がいたします。  
お部屋に伺う時はいつも深夜ですから、会話を楽しむよりも性急に抱き合うほうが多いのです。  
遠くお屋敷を離れて旅をして、こういった時間を持てることにしみじみ幸せを感じました。  
 
 
思い立ち、膝を武様の頭の下から抜いて、代わりに枕を挟んで立ち上がります。  
洗面所に置いてあった綿棒を持ち帰り、また膝枕の体勢に戻りました。  
照明の下まで少し移動して、武様の耳掃除をすることにしたのです。  
「……ん………っ…」  
大人しく、されるがままになっている武様から吐息が漏れました。  
「武様、加減はよろしいでしょうか?」  
「ああ、気持ちがいいよ。」  
「いつもはご自分でなさっておいでなのですか?」  
「そうだ。小さい頃は母やメイド長がやってくれたけれど、最近は自分でやっていた。  
いいものだね。……麻由、屋敷に戻ってからもまたやってくれるかい?」  
「はい。お申し付けくださればいつでも。」  
私にとって、武様に何かをしてさしあげるのはとても嬉しいこと。  
一般的ではないでしょうが、これが私と武様の「いちゃいちゃ」だと思うのです。  
 
 
耳掃除が終わり、また少しお話をいたしました。  
先程、小さい頃の話をされたので、これ幸いと私が知らない頃の武様についてお尋ねしたのです。  
幼い頃から遠野家の跡継ぎとして厳しく、丁重に教育されてお育ちになった武様。  
市井に生まれ育った私には想像もつかないようなお話ばかりでした。  
同い年の二人の話題といえばテレビ番組や音楽のことなのでしょうが、育ちが違うというのはこれらの共通項が無いということです。  
もっと早く出会っていれば、立場が違うとはいえそれなりに共通の思い出もできたかも知れませんのに。  
 
「お小さい頃の武様に、もっと早く出会いたかったです。」  
「そうだね。僕も、小学生の頃の麻由を見てみたかったよ。」  
「とてもお見せできませんわ。ちびで、いじめられっ子で、社交的なほうではありませんでしたから。」  
中学に入るくらいまで、私は少し暗い女の子だったのです。  
幼い頃から可愛らしく利発であられたに違いない武様にはとても会わせられないくらいの。  
「いじめられっ子だったのかい?初めて会ったときは、とてもそうは見えなかったが。」  
「ええ。いじめといっても悪質なものではありませんけれど。  
靴を隠すとかスカートめくりとか、そういう類いですわ。ちびだからからかいやすかったのでしょうか。」  
「……スカートめくり?」  
「ええ。あるとき、同じような子たちと『このままではいけない』と団結して戦ったのですよ。」  
記憶がよみがえり、つい浮き立った声を出してしまいました。  
クラスの女子たちと共同戦線を張り、男子の悪ふざけをやりこめた、痛快な思い出でしたから。  
 
 
「女の子にはいじめられなかったのかい?男の子にだけ?」  
「ええ。」  
なぜでしょう、武様のお声が少し不機嫌なように聞こえるのですが。  
「それは、男どもは麻由のことが好きだからいじめたんじゃないか?」  
「えっ?」  
「僕の学校でもスカートめくりをする者はいたが。狙われるのは決まって可愛い子だったように記憶している。」  
良家の令息令嬢が通われる学校でもそんなことがあるなんて。  
「いえ、可愛いわけではなかったと……」  
「許せないな。僕だって、麻由のスカートめくりなんてやったことがないのに。」  
「…え?」  
確かにそうですが、武様。別荘でもっと先に進んだことをなさったのをお忘れですか?  
 
「もっと早くに会うべきだった。」  
武様は少し頭を持ち上げられ、枕にしている私の膝の下から浴衣の裾を引っ張り出されました。  
「あの、武様?」  
「過去のことは不問にするが。これからは誰にもされてはいけないよ。」  
裾をつまんで左右に開きながら、子供を相手にするように言い含められました。  
「あっ、何を…っ」  
「過去にできなかった分の『スカートめくり』さ。」  
 
 
素早く起き上がった武様に肩を押され、私は布団の上に仰向けに倒れました。  
ふくらはぎに絡む浴衣の裾がはだけられるのを感じ。手を伸ばして大急ぎで押さえました。  
「そんなことをしたら先に進めないだろう?」  
楽しげにそう仰った武様が、私の手ごと裾を大きく開かれました。  
露になった肌が布団に触れ、ヒヤリとしました。  
「あの、まさか……」  
「さっき露天風呂でいい思いをしたのは麻由一人だっただろう?」  
「いい思いだなんて…っ」  
「もう一度、麻由のいい顔が見たいんだ。」  
「え…キャッ!」  
足元にいらっしゃった武様のお顔が急に目の前に見えたかと思うと、襟に手を掛けてグッと開かれました。  
丹前の前紐もほどかれ、私の胸元が武様の目の前に露わになりました。  
「やっ……武様、明かりを消してくださいませ。」  
「どうして?麻由のいい顔が見たいと言っただろう?」  
にこにこと笑いながら、武様は上から見下ろされています。  
浴衣の上も下も大きくはだけ、布団に横になった自分。  
羞恥に耐えられず、私は丹前の前をかき合わせて胸元だけでも隠そうとしました。  
「ほら、観念するんだ。」  
その手をどけようとなさる武様に、いやいやをしながら抵抗いたしました。  
「後生ですから…おやめくださいませ。」  
 
「こんな煽情的な格好でそんなことを言ったって聞けないよ。  
そこまで恥ずかしがることはないんじゃないか?もう慣れた頃だろう?」  
そんなことを仰っても、恥ずかしいものは恥ずかしいのです。  
「いつまでもそんなだと、浴衣の帯で縛ってしまうよ?」  
胸元でギュッと手を握ったままの私に焦れたのか、武様は仰いました。  
「し、縛るなんてそんな……」  
「僕が何をしようが麻由が抵抗できないようにしてもいいのかい?痛いのは嫌だろう?」  
「は、はい……」  
「なら、大人しくしなさい。」  
縛られるのは怖い、と握り締めた手が緩んだのを見計らい、武様はまた丹前の前を開かれました。  
「いい子だ……」  
頬に口づけて囁かれ、その吐息に頬が染まりました。  
 
 
「あ…あ……んっ……」  
足首から上へと、私の脚を武様のお手が何度もなぞりました。  
ただそれだけなのに、お手の触れたところが熱くなり、ジンと痺れたようになっていきます。  
膝上まではだけた裾のところでお手が止まるたび、足袋に包まれた足の指がわななきました。  
「…ん……武様…」  
武様の唇が脚に這い、チュッと音を立てました。  
「あっ!」  
ふくらはぎの内側を強く吸われ、ピリッとした痛みが走ります。  
何度も口付けられ、吸われて刺激が走りました。  
「…んっ……やぁ……」  
足元で動く武様の頭に手をやり、押し返すのですがそれは止みません。  
吸われるたび、その刺激に脚が布団の上で跳ねました。  
「麻由、大人しくしなさい。」  
「そんな…だって…っ…」  
 
動かそうと思って動かしているのではないのです。脚が勝手に跳ねるのですから。  
「まだまだ夜は長いんだから。待ちきれないのなら、こうしていなさい。」  
武様はそう仰ると、私の手をお取りになり、先程はだけたままの胸の上に置かれました。  
「ん…っ!……あ…」  
手を掴んだまま動かされ、胸に切ない疼きが生まれました。  
指の間に胸の先を挟ませられ、きゅっきゅっと締めつけられます。  
「あぁ…んっ……あんっ…」  
甘い声が漏れ、頭がぼうっとなりました。  
「僕は忙しいから、しばらくそうやっていなさい。」  
片手を胸の上に残し、武様はまた脚への愛撫を再開されました。  
武様のお手から自分の手を通して胸に感じる快感に、脚に走る痛みが消されていきます。  
いつしか私は自分から指を動かし、胸を触っておりました。  
「んんっ……あ……はっ…ぅん…」  
指先で胸の頂に触れると、背がのけぞるほどの快感が生まれます。  
「ああ…武様っ……」  
先程から自分を支配していた羞恥心が段々とゆるみ、薄紙を剥ぐように消えていくのを感じておりました。  
「んっ…あっ!あ……やぁ…んんっ…」  
ピンと立ち上がった頂を指で摘まみ、くりくりと擦ると強烈な快感が走りました。  
武様の前でこんなことをするなんて。  
はしたないとは思いつつも、手が勝手に動くのです。  
「…あぁ…ん……はっ…ぅんっ…」  
いつしか私は、武様に抑えられていない側の手も胸に這わせ、同じように動かしておりました。  
胸を掬うように持ち上げ、手のひらで上へ押し出すように揉み、頂に指を這わせて。  
武様にいつも愛撫されるさまを思い出し、それを再現しようと一心になっていたのです。  
それはやがて身体の中心に形容しようのない熱を生じさせ、鎮められることを欲しておりました。  
やはり自分の手では物足りない。  
武様のお手に、脚などではなくもっと敏感な場所に触れていただきたいのです。  
 
でもお願いするほどの勇気がなく、私はもどかしさに微かな呻き声を漏らしました。  
「麻由…どうしたんだい?」  
「あ…あのっ……」  
私は両の胸に這わせていた手で武様のお手を掴み、胸元で握りしめました。  
「うん?」  
「そ、そちらは、…もう結構でございます。  
あの、もっと、こちらの方も……」  
握りしめた武様のお手を開き、温かい手のひらを自分の胸に押し付けました。  
なのに、お手は動くことはなく、ただ胸を包んでいるだけなのです。  
「お願いでございますから……」  
もう我慢ができず、私は哀願しておりました。  
しばしの沈黙のあと、フッと武様が息を吐かれたのが聞こえました。  
「もう少し焦らすつもりだったけど、麻由にそんな風にねだられたのでは叶えないわけにいかないね。」  
 
 
足元におられた武様が、私の脇に手を付いて顔を覗き込まれました。  
その楽しそうなご様子に、私は何だか無性に悔しくなり、唇を噛んでしまいました。  
「どうしたんだい?」  
問われるお声に返事をする代わりに、お身体に腕を回してきつく抱きつきました。  
「麻由…?」  
宥めるように髪や肩を撫でられますが、私は首を振り、ますます腕の力を強めて武様と密着をはかりました。  
武様にではなく、自分で身体を慰めて快感を得たことによる後ろめたさが心を支配していたのです。  
「……済まない。少々やり方を間違えてしまったようだ。」  
額に武様が口づけられ、そう呟かれました。  
「武様…?」  
口調が変わったのに気付き、私は我に返りおそるおそるお名前を呼びました。  
「麻由の切羽詰った顔が見たいあまり、困らせすぎたようだね。」  
悪かった、と小さな声で謝られた後、胸に顔を埋められました。  
待ちわびた刺激に、私は武様の頭を抱き締め、もう離れないようにと抱え込みました。  
 
「…ん……んっ…あっ!…あぅ…んっ!」  
胸の頂を舌先で押しつぶされ、小刻みに舐め上げられるのに高い声が漏れてしまいました。  
「あ…あ……っ…はぁ……」  
温かく濡れたその感触に、私は陶然となっていきました。  
快感に背が反り返り、膝と足の指をもじもじと擦り合わせてしまいます。  
「武様っ……っは……あぁん…」  
「麻由……」  
熱っぽい声で私の名を呼んでくださるのが、心地良く響きます。  
武様の頭を抱いている私の手がそっと退かされ、胸の間、おへその上と口づけが落ちていきました。  
腰骨の辺りをきつく吸われ、チュッと音を立てて唇が離れます。  
そして膝裏を掴まれ、大きく脚を割り開かれました。  
「やっ!…あぁ……」  
そこを隠そうと手を遣りますが、それよりも早く武様の舌が私の秘所に届きました。  
中央の溝をなぞられ、襞に沿って舌が這うのに身震いいたしました。  
行き場の無くなった手でシーツを掴み、強く握り締めるしかできません。  
襞に沿って動いていた舌が、私の内部に差し込まれ、羞恥を煽るようにゆっくりと抜き差しされました。  
「んんっ…あっ………やぁん!」  
堪らず、私は握っていたシーツを離し、膝を押さえる武様のお手に爪を立てました。  
それは嫌、と訴えたいのに声にならないのがもどかしい思いでした。  
首を振って必死に訴えるのに、そこを舐められている武様には見えないのでしょうか。  
 
 
力が抜けた腰に何とか活を入れ、肘をついて身体を起こし、武様のお手と口から逃げようと試みました。  
腕の力で枕の方へと這って逃げようとしたのです。  
下についた手が布団を通り越えて畳にたどり着き、腰を一気に引こうとしたその時。  
武様のお手が両膝を掬い上げ、私は手を畳に付いたまま布団の上にうつ伏せに転んでしまいました。  
 
「キャッ!」  
布団の端に顔がバサッと埋まり、息ができなくなってみっともなくバタバタともがきます。  
打ちつけた鼻の痛みに耐えながら、ようやく肘をついて顔を上げました。  
その瞬間、背後から腰を掴まれ、私は無様に元の位置まで引き戻されました。  
「麻由は往生際が悪いな。」  
少し低い武様のお声に、背筋がビクリとしました。  
「も、申し訳ございま……あっ!」  
強い力で腰を持ち上げられ、私は膝立ちの姿勢にさせられました。  
そのまま浴衣の裾を一気にめくられ、腰まで露わになってしまいました。  
 
 
「いやっ!こんな……」  
うつ伏せになり、お尻を突き出した状態で浴衣が腰までめくれているのです。  
この姿を武様がご覧になっていると思うだけで、顔から火が出そうでした。  
片手を背中に回し、浴衣を戻そうと試みますが、裾は腰に置かれた武様のお手に抑えられています。  
後ろ手に戻そうとしても力が入らず、無駄な努力に終わりました。  
「もっと腰を高く上げなさい。」  
「そんな…できませんっ…」  
「できないのなら、させるまでだ。」  
頭を大きく振って拒否しますが、聞き入れられることなく武様の手により腰が引き上げられてしまいました。  
「あっ!」  
そのまま固定され、開かれた秘所に武様の舌が届きました。  
「嫌、あっ!ああ!」  
いきなり敏感な突起を強く愛撫され、私は悲鳴を上げました。  
濡れた音がそこから聞こえ、さらに羞恥を煽ります。  
「んっ…あんっ…ひゃっ…ああ……」  
 
息が荒くなり、私は布団に爪を立てて秘所への刺激に耐えました。  
膝の力が抜けて倒れそうになるたび、武様が腰を引き上げられてまた愛撫が再開されます。  
どうあっても逃れられないのだと身体で教えられ、私は次第に何も考えられなくなっていきました。  
「あっ、あっ、あぁんんっ…はっ……あ…」  
手も脚も血の気が引いたようになり、それに反比例して秘所はどんどん熱くなってゆきます。  
「んっ…んっ……あ、やぁんっ!」  
敏感な突起をひときわ強く吸われた瞬間、堪えきれずに私は達しました。  
身体がガクガクと震え、私は再び顔から布団に突っ伏してしまいました。  
 
 
布団の生地が頬に冷たく、心地良いとぼんやり考えていました。  
「麻由?」  
後ろから武様のお声が聞こえなければ、私はきっとそのまま眠っていたでしょう。  
「…はい?」  
その声に意識を引き戻され、私は少し遅れて返事をいたしました。  
返事をする声は我ながら小さく、微かなものだったように思います。  
うつ伏せになった身体を反転させられ、仰向けになった私は武様と目が合いました。  
目をパチパチと瞬かせて下から見上げると、武様は苦笑なさいました。  
「大丈夫かい?」  
髪を撫でられ、優しく尋ねられます。  
「…ええ。大丈夫でございます。」  
髪に遣られたお手を握り、今度はちゃんと返事をいたしました。  
ようやく人心地がつき、微笑む余裕もできましたから。  
「もう少し付き合ってくれるね?」  
武様はそう仰り、一旦布団から離れて準備を済まされた後、また私に覆い被さられました。  
「はい。」  
首に腕を回し、密着しながらそう答えます。  
武様は悪戯に二度三度とご自身を上滑りさせて秘所の突起を擦り、私の反応を楽しまれた後、中へと入ってこられました。  
 
「ああ、今日もいい具合だね。」  
根元まで沈められたあと、耳元で囁かれて頬が染まりました。  
待ち続けてやっと満たされ、私の内部がまるで喜ぶかのように武様のものに絡みつくのを感じておりました。  
「ん…っは……」  
心地良さに深く息を吐き、おずおずと武様の腰に脚を回します。  
「武様………」  
目を合わせ、首を伸ばして頬に口づけました。  
「待ちきれないのかい?」  
「……はい。」  
さっき達したばかりなのに。  
はしたないと思いつつも、身体がまた武様を求めてしまっておりました。  
「いつもそう素直でいればいいんだよ。」  
クスッと笑われた武様は、腰を大きく引き、力強く打ちつけるあの行為を始められました。  
 
 
「ん…あっ…はぁん……あ…んっ…」  
武様が動かれるたび、与えられる快感に喘ぎが零れました。  
私はいつしか自分から腰を動かし、身体を抉る武様のものをもっと深くまでと求めておりました。  
「んんっ…ん……あ…あん……」  
頭の芯が白く霞み、目の前の快感のことしか考えられません。  
このままもう一度…と思ったその時、武様は腰を引いた姿勢で急に動くのをやめられました。  
「!」  
突き入れられるべきものを迎えられなかった私の内部は、虚しくキュッと収縮しました。  
「あ、なんで…」  
「空振りだね、麻由。」  
抗議の声を上げる私の耳に、武様の楽しげなお声が届きます。  
 
「そんな……んっ…」  
武様に脚を絡め直そうとしますが、さらに腰を引かれてしまいました。  
今にも武様のものが抜けそうになり、それを阻止しようと慌てて私の腰も動きました。  
もうすぐ手が届くはずだった絶頂がみるみる遠くなり、それを必死で追おうとしていたのです。  
「お願いです…武様っ……」  
熱を持っていた体がどんどん冷えていくようで、私は身震いいたしました。  
この期に及んでお預けをされるもどかしさに、目に涙が溜まってゆきました。  
とうとうポロリと一粒が零れ落ち、頬を伝います。  
「何を『お願い』したいんだい?」  
涙の跡を指でなぞり、武様が仰いました。  
「…それは、武様の……」  
「僕の?」  
目を見つめて促されるのに、私はとうとう観念いたしました。  
「武様の、これ、を。もっと麻由に下さいませ。」  
下半身に手を伸ばし、今にも抜け落ちそうなそれにそっと手を触れて私は申しました。  
しばらくの沈黙の後、武様がゆっくりと突き入れて下さる気配がし、私は安堵と期待にホッと息を吐きました。  
「ん……嫌っ、もっと…」  
ところが期待に反し、武様のものは奥までは届かず、クチュクチュと入り口を浅く往復するだけ。  
満たされず、さらに募るもどかしさに私はもう我慢の限界でした。  
「武様っ…ひどい……」  
涙が滲む目を閉じて唇を噛み、顔をそらしました。  
恥ずかしいからと拒んでも強行され、求めれば焦らされて。  
ひどく悲しく情けなくなり、喉の奥が震えました。  
 
ぎゅっと閉じた瞼に、不意に温かいものが触れました。  
目を開けると、武様の形のよい唇が目の前にありました。  
「また、僕は麻由を困らせすぎたようだ。」  
静かにそう仰る武様のお声が、目の前の唇から紡ぎ出されるのをぼんやりと見つめていました。  
「麻由の反応が可愛くて、つい困らせるようなことばかりしてしまう。済まない。」  
「あっ!」  
突如、武様のものが私の奥深くを抉りました。  
「んっ、あぁっ!」  
力強く抜き差しされ、私は堪らず高い声を上げていました。  
先程まで打ちひしがれていたはずなのに。  
武様のものが突き入れられた瞬間、私の秘所は歓喜に震えてそれを迎え入れておりました。  
「あっ……んんっ…やぁ!あん!…はぁ……うんっ…」  
私は腕と脚を武様のお身体に絡め直し、今度こそ離れないようにと密着いたしました。  
「んっん…っ……武様…あんっ…あぁ……」  
脚を抱えて繋がりを深くされ、さらに責められました。  
「麻由……」  
名前を呼ばれるその声にも身が震え、私は再び絶頂が手の届く所にきたのを感じておりました。  
「あっ……あぁん…や…あぁ…はぁん……」  
頭の芯が痺れ、思考が霞むような快感が全身にみなぎっていきます。  
しかし身体はますます鋭敏になり、より強くと求めていました。  
「武様…んっ……は…もっと……はっ…ぅんっ!あぁっ!」  
肩口に顔を擦りつけ、懇願すると求めに応じてさらに繋がりが深くなりました。  
「あっ…んんっ……ああ!あん!…っふっ……んっ…やんっ!」  
今にも登りつめそうなのを堪えるため、知らずのうちに武様のお背に爪を立てておりました。  
 
このままずっと繋がっていたい。イきたいけれど、もっともっと武様を感じたい。  
しかし容赦のない武様の動きに、とうとう追い詰められてしまいました。  
「く…っ!麻由、麻由っ!」  
「あぁ…武様……もう…っあん!ああっ!あーっ!」  
武様のものが私の中で大きく脈打ち、弾けたのを感じた瞬間に私も達してしまいました。  
ガクガクと震える身体をそのままに、再び武様のお身体に縋りつきます。  
余韻が甘く残る秘所がヒクヒクと痙攣して、けだるい満足感に大きく息をつきました。  
 
 
しばらくじっと抱き合ったまま二人とも黙っていました。  
温かいお胸に包まれ、このまま溶けて一つになってしまいたいと、私は叶わぬ夢を思っておりました。  
「…大丈夫かい?」  
そっと髪を撫でられ、目を開くと優しいお顔をした武様に見つめられていました。  
「はい。」  
そっと微笑むと、頬を手で挟まれ、口づけされました。  
何度か触れ合った後、チュッと音を立てて武様の唇が離れていきました。  
「さっきは済まなかった。」  
神妙な顔をして謝られ、私は首を傾げました。  
「あの……」  
「言葉もないくらい呆れたかい?」  
言い淀んだ私を見てそう言われ、私はやっと何のことか思い当たりました。  
「いいえ。私こそ、先程は失礼な口の利き方を致しましたから。」  
「それは僕のしたことに対して腹が立ったからだろう?」  
先程、あんなに執拗に私を責め立てていた方と同じとは思えない口調で仰います。  
 
恨みがましく思ったのは事実でございますが、しゅんとされているのを見てそんな思いは消えてしまいました。  
「確かにそうですが、もう腹を立ててはおりませんわ。  
…最初は意地悪くなさいましたが、後で十分満足させて下さったでしょう?」  
視線を合わせ、微笑んで申し上げます。  
「本当だね?」  
「はい。嘘は申しません。」  
「よかった。」  
ホッと安堵の息を吐かれ、武様はゆっくりと私から引き抜かれました。  
「あっ…」  
喪失感に小さな声を上げ、それに気付いて赤面いたしました。  
後始末を終えられた武様が横に寝転ばれ、布団を掛けて下さいました。  
「今日はこのまま眠ろう。」  
腕枕をして下さり、空いた手で抱き寄せて囁かれました。  
「はい。お休みなさいませ。」  
「ああ。お休み、麻由。」  
 
 
 
朝、私は小鳥の声で目が覚めました。  
寝乱れてはおりましたが、私の身体はしっかりと武様に抱き締められておりました。  
起きられる前に身支度をすませようと、まだ眠りたいのを堪えて起きることにします。  
そっと身体に回ったお手を離し、布団から抜け出しました。  
 
上も下も乱れ、ただ帯だけで身体に留まっている浴衣としわくちゃになった丹前を見て赤面いたしました。  
浴衣を着直して丹前を伸ばし、ふと傍らを見ると昨夜使うことのなかったもう一組の布団が目に入りました。  
全く乱れのないのが恥ずかしく、私は掛け布団とシーツを掴んで手でシワを寄せ、使った風にしてから畳みました。  
バサリと音がして武様が身じろぎされたのを見て慌てました。  
お目が覚めなかったように願いながら、タオルともう一着用意されていた浴衣を持って部屋付き露天風呂へまいりました。  
 
 
脱衣所で浴衣を脱ぎ、またお湯へ浸かりました。  
朝湯など何年ぶりかの贅沢です。  
下を見ると、昨日体中に散々つけられた武様の情熱の痕が目に入ってきました。  
今夜の宿では大浴場には行けないかも知れません。  
「レディース湯ったりプラン」の名が泣くと思いながらも、私の中にはまんざらでもない気持ちもありました。  
「麻由は僕のものだ」と思っていらっしゃるからこそ、武様は痕を付けられるのでしょうから。  
私に執着して下さっている間は、武様も私のものだと考えられなくもありませんもの。  
そう思うと自然に口元が綻びました。  
誰に見られることもありませんが、浮かんだ笑みに何となく決まりが悪くなってしまい。  
ごまかすように湯の中のタオルを持ち上げ、パチャパチャと何度も音を立てました。  
 
引き戸を開ける音がし、そちらに目を遣ると武様が立っておいででした。  
「あっ…おはようございます。」  
やましいことを考えていた顔を慌てて元に戻し、お湯の中で姿勢を正して一礼しました。  
「おはよう。…麻由、朝湯をするなら起こしてくれればよかったのに。」  
拗ねたような口調でそう仰り、こちらへ歩いてこられました。  
「申し訳ございません。よくお眠りだったので……」  
「まあいいさ。僕も入るとしよう。」  
脱衣所へ戻って服を脱がれ、武様はさっさとお湯に浸かられました。  
昨日と全く同じ状況ですが、まさか朝から触れられることもないだろうと自分を安心させます。  
「麻由と朝湯するのは初めてだね。」  
武様はお手を伸ばして私の持っていたタオルを取られました。  
まさか…と心の中で身構えましたが、武様は岩の上にタオルを置かれたあと、距離を保ったまま仰いました。  
「温泉でタオルを使うのはマナー違反だと教えたはずだろう?」  
「え、あ…はい。申し訳ございません。」  
武様は手足を伸ばされ、しばらくじっとされていました。  
そのお顔を横目でこっそりと伺います。  
「また来たいものだね。」  
「ええ。」  
独り言のように小さく呟かれるお声に私は頷きました。  
「本当はもう一泊したかったが、ゼミの旅行が四泊というのはさすがに言い訳に苦しむからやめたんだ。  
こんなことなら、ゼミの旅行をやめて麻由と三泊するんだった。」  
「そんな。大学の皆様とのご親睦も大切でございますわ。」  
お諌めはいたしましたが、心では違っていました。  
もっと一緒にいたかったと思うのは私も同じでしたから。  
 
「ま、最も。君にしてみれば身体がもたないと思うがね。」  
笑いを含んだ声でそう仰り、私は真っ赤になって向こうを向きました。  
「麻由。」  
武様はこちらに近付き、昨日のように後ろから私を抱き締められました。  
湯の中でも感じる、いつもより温かいその素肌に心臓が跳ねました。  
「また、必ず来よう。」  
「はい。」  
力強いお声でそう仰ったのに、私は深く頷きました。  
「僕はもう上がるよ。これ以上こうしていたら、また不埒な振る舞いをしそうになるからね。」  
昨日のことを思い出して再び真っ赤になった私は、武様が露天風呂から上がって歩いていかれるのを背中で聞いておりました。  
 
 
朝食は魚の干物や朝粥などをまた食事処で頂きました。  
お部屋へ戻ってからチェックアウトの時間が迫るまで、武様はまた膝枕をご所望されました。  
いよいよ時間が来て、膝から武様の温もりが消えたときは寂しゅうございました。  
チェックアウトし、タクシーで駅まで戻ってからまたローカル線で新幹線の駅まで参ります。  
その間、武様はずっと手を繋いでいて下さいました。  
駅ビルの喫茶店に入り、新幹線の時間が来るまで一分一秒を惜しむように片隅の席で寄り添っておりました。  
明日にはまたお屋敷でお目にかかれるのに、やはり一旦別れるのは辛く、少々センチメンタルになっていたのです。  
いよいよ武様が改札口に向かわれる時は、このまま私も一緒に帰ってしまおうかと思ったほどでした。  
屋敷へ戻った夜に部屋へ伺ってもよいとの言葉を頂き、私達は別れました。  
 
それから私は、今日の宿と美術館のある市へと電車に乗って参りました。  
当初の目的だったエミリー・ヤンソン展はとても素晴らしく、私は長いこと美術館から出ることができませんでした。  
ミュージアムショップで記念品を買い、私は宿へ向かいました。  
宿を入ってチェックインすると、脇の小部屋に案内され、プランどおりに浴衣を選ぶことができました。  
いくつも種類があり、しばし何にしようかと迷います。  
しかし、せっかく選んでも見てくれる方が今日はいらっしゃらないことに気付き、気分が沈みました。  
それを振り切るように思い切って華美な浴衣を選び、部屋で着替えました。  
浴衣をまとう前に改めて体を見下ろすと、やはり昨日の痕が目立ちます。  
大浴場は諦めようかと思いましたが、折角ですのでお夕食の前に参りました。  
運良く他には誰もいなかったので、素早く身体を洗い、昨日とは違う茶褐色のお湯に浸かりました。  
しばらく浸かっていたのですが、家族連れが二組ほど急に入ってきたので出るに出られなくなりました。  
チャンスをうかがっているうち、少々温まりすぎてしまい茹でダコのように真っ赤になってしまいました。  
洗い場に家族連れが移動したのを見計らい、急いでお湯から上がり部屋へ戻りました。  
座布団を枕にして横になり、湯当りしかけて熱くなった身体を休めました。  
 
 
お夕飯が済み、部屋へ戻ると床の用意がしてありました。  
昨日とは違い、部屋の真ん中にポツンと一組だけ。  
さほどの広さではないはずなのに、部屋が急にがらんとして見えました。  
横になり天井を見て、今日駅で別れるまでの武様のことを思い出します。  
駅まで繋いでくださっていた手が温かかったこと、新幹線の改札を入って遠ざかっていかれる凛としたその後姿。  
昨日の旅館でのお酌のこと、朝風呂のことも。  
 
今頃は何をしていらっしゃるのでしょうか。  
ほんの少しだけでも、私のことを考えて下さっているのならいいのに。  
早くお屋敷に帰ってお会いしたい、そう強く思いました。  
美術館のパンフレットや今回の旅のために買ったガイドブックをぱらぱらと見ているうちに、いつしか眠りについておりました。  
 
 
翌朝、私は早々に宿を発ちました。  
駅で屋敷の皆へのお土産を買い、新幹線に乗りました。  
旅の感傷もそこそこに、心はもう東京へと戻っていたのです。  
早く帰って武様にお会いしたい。  
ただその一心で、早く早くと気ばかり焦っているのでした。  
お屋敷へ戻り、使用人棟の自分の部屋で、ひたすら時間が過ぎるのを待ちました。  
夜になるのをこれほど待ちわびたことはありません。  
皆が仕事を終え、それぞれ引き取ったあとに足音を忍ばせてそっとお部屋へと向かいました。  
「お帰り。」  
ドアを開けてくださった武様がそう仰ったのを聞いた途端、私は武様の胸に飛び込んでおりました。  
 
 
駅で別れてからの私の行動を武様はベッドでお尋ねになりました。  
大浴場での話をすると、愉快そうに笑われてしまいました。  
部屋へ戻り、一組の布団を見て寂しく感じたことも申し上げました。  
「二人で泊まった時も布団は一つしか使わなかったじゃないか。  
朝方、麻由は使わなかったほうの布団に何やらしていたようだけど。」  
「えっ?ご存知だったのですか?」  
「ああ、実はね。だが何か言うのも野暮だと思って眠っている振りをしたんだ。」  
 
折角その時は黙って下さっていたのに、今話されては同じことではありませんか。  
きまりが悪くなって沈黙した私の頭を宥めるように撫でながら、武様は一つの包みを取り出されました。  
「遅くなったが、京都の土産だ。取っておいてくれ。」  
「えっ…?私にでございますか?」  
「君以外に誰がいるんだい?」  
受け取り、おそるおそる開けると、上品な柘植(つげ)の櫛が現れました。  
「麻由は仕事中いつも髪を結っているだろう?夜、ほどいた髪をとかすのに使うといい。」  
少し照れくさそうにそう仰るのを聞き、私は胸が一杯になりました。  
「ありがとうございます。一生大切にいたします。」  
「一生だなんて大げさだ。また二人で旅行に行って、思い出の品をいくつも買ってくればいい。」  
武様はそう仰り、私に口づけられました。  
そして、「僕がいなくて寂しかったのなら昨日の分を取り返さなければ。」と言いくるめられ、そのまま愛されました。  
 
 
その次の機会が無いまま、武様は遠野家のご当主となられて現在に至ります。  
お忙しい為に約束は棚上げされたままですが、私はそれでも良いと思っております。  
いつかまた二人で、と夢に描き続けるのもまた楽しいものでございますから。  
 
 
──終わり──  
 

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