簡素な1LDKマンション、それが彼の家だった。  
 
 
「・・・・・・・。」  
 
「・・・・・・・。」  
 
痛いほどの静寂が私たちを包んでいる。  
 
別にコートの家に来たのは、他意あっての事ではなかった。  
昨日のことを聞いてほしいと言う思いと、  
それを話せば私の――幻想種の――ことからすべてを話さなければならないし  
なにより一切合財全部をコートに知られたくない、二律背反。  
 
何度もあったわけではないがこういうとき、コートは何も聞いてこない。  
『話したければ話せばいい。無理強いするつもりも、傷口を抉りたい訳でもない』  
なんて、いつもとは違う真剣な表情で語っていたことを思い出す。  
 
思えば、コートとの出会いも随分奇妙だった気がする。  
あれは確か、1年以上前。  
私達が高校1年生だった夏の、満月であるはずの土曜日だった。  
 
その日も午前中だけ、授業があったはずだ。  
帰り際、急に雨が降ってきたんだと思う。  
天気予報をきちんと見ていた人はちゃんと傘を持ってきていたけど、  
天気予報を信じていなかったり見ていなかった人は止むのを待つか、ずぶぬれを覚悟して走るか、  
と言うどこにでもある出来事だった。  
 
ちなみに私は一番最後のパターン。  
目立つわけにも行かないし、なるべく抑えた走りで家路を目指すところだった。  
 
ここで彼とぶつかるなり、彼が傘を差し出すなりな展開があれば、  
今の関係はもっと別のものになってたんじゃないかとも思う。  
 
でも実際は、全然違う出会いだったのだ。  
 
―――それは今度語ることにしよう。  
 
時刻は夕方、太陽は地平に沈み始めている。  
 
当たり前だが、月の満ち欠けは月面の太陽の光の当たる部分の見える角度が変わることによって起きる。  
そして当然、満月は太陽の当たる部分が全開であり、  
それはつまり太陽と月の位置が地球から見て正反対のところにあるという事になる。  
 
何が言いたいかというと、『太陽が沈み始めている』ということは『満月が上り始めている』ということになる、  
ということだ。  
 
太陽の光が刻一刻と弱まっていく。  
 
まずい、かな。  
 
昨日変身したことで、今月はもう変身しなくてもいいかと思っていたのに、  
「アレ」が喉元をせりあがって来る気配がある。  
 
他の同族はどうだか知らないが、私に関して言うならば  
 
「変身の衝動は、日常生活におけるストレスに比例する」  
 
・・・・・平気なフリをしていても、やっぱり昨日のことが相当のダメージになってるらしい、  
なんて現実逃避気味な自己分析をしている間にも状況は酷くなっていく。  
 
コートの家まで来ておいてなんだけど、今日のところは出直したほうがいいかな。  
そう思って立ち上がろうとした、はずだった。  
 
あれ・・・・・・・?  
 
まるで、腰が抜けたかのように体に力が入らない。  
 
それどころか光量の問題ではなく、視界が・・・・・徐々・・に・・・く・ら・・・く・・・・・・・  
 
 
 
 
「・・・・アヤ?」  
 
気が付けば、目の前にコートの顔があった。  
 
完全に記憶が飛んでいる。  
 
コートの後頭部のすぐ後には壁面が・・・・・  
 
ソレが壁ではなく、「床」だと気付いて、ようやく「私」は今どういう状態になっているのかを知った。  
 
 
『私』が、『彼』を、『押し倒し』て、いるのだ。  
 
 
慌てて飛びのこうと、「思って」。  
私はさらに自分の体がまったく動かないことに気付いた。  
しかしソレは「自分の意思」では、だ。  
 
まるで誰かに操られているかのように、口が勝手に動く。  
 
「コートぉ・・・・・・熱いの・・・・・・」  
 
自分の声のはずなのに、その声はまったく別の誰かが言っているようにしか聞こえない。  
そのくせ感覚はいつもにも増して鋭くて、  
自分の荒い息遣いや、張り裂けそうなほどの勢いで動く心臓の音が聞こえる。  
頭にも、霞がかかるかのように何も考えられなくなっていく。  
 
そのまま『私』は戸惑ったような顔をしたままのコートに唇付ける。  
・・・・・・後で冷静に考えれば、コレが私のファーストキスだった。  
熱に浮かされた意識のままの「私」に、濃厚なキスの感触が送られてくる。  
『私』の舌がコートの唇の間に割って入り、顎をこじ開け咥内に入り込む感覚まで、だ。  
操縦式のロボットに意識があって、勝手に動かされるのってこんな感じなんだろうか?  
 
動いているのは口だけではない。  
『私』は片手で自分の服を脱ぎ、もう片手は・・・・・その、、彼の大事なところをまさぐっていた。  
霞がかり、沼にはまって満足に身動きもできないような思考だが、なんとなく分かった。  
 
 
『私』は・・・・・・・発情、していたんだ。  
 
原因として考えられるのは、昨日の「アレ」しかない。  
思えば、起きた時から違和感があった。  
肉体的な意味だけではなく、精神的にも。  
「アレ」の所為で違和感があるのだろうと、無理やり意識しないようにしていたから、  
まったく予想外だった。  
 
現に、いままで満月の次の日にコートと会って共に昼食を取るのが恒例となっていたのに、  
今日のように家に行くことなど一度もなかった。  
 
 
コートが『私』の両肩に手を置き、中断させようとする。  
でも逆に、『私』にねじ伏せられてしまった。  
 
当たり前だ。  
私は幻想種で、彼は普通の人間だ。  
人の姿を取っているとはいえ、彼が私に勝てるわけがない。  
 
すっかり下着姿になった『私』は、ショーツ越しにアソコを弄り、  
同時に露出させたコートのソレを口に含んで弄ぶ。  
最初は小さかったソレが、『私』の口の中でゆっくりと大きくなっていく。  
それに、『私』のアソコももうビショビショだ・・・・・・  
 
「ちょ、ちょっと待て、アヤ!!」  
 
そして『私』は、ショーツを脱ぎ捨て、彼にまたがり、そそり立つソレと、  
ジュクジュクのアソコに手を当て、一気に腰を落とした。  
 
「んあああああぁぁぁぁぁ!!」  
 
「うあああああああ!!」  
 
刹那、いくつもの思考が交差した。  
ポッカリ空いていた空洞を隙間なく埋められた歓喜と、  
予想していたよりも熱い感覚がお腹を焼く衝撃と、  
いつもクールで飄々としている彼を押し倒している嗜虐心と。  
 
背筋はゾクゾクして、頭の中では電気がバチバチ音を立てながら跳ね回っている感じだ。  
そしてこの瞬間、『私』と「私」の思考が一致した。  
 
私は、彼の胸に両手を着き、腰を動かした。  
 
すごい・・・・・・  
 
腰を上下させるたびに普段閉じているアソコの中全体をゴリゴリと削られ、頭の中では火花が飛び散る。  
完全に落としきれば最奥の、子宮の入り口にアレの先端があたり、  
まるでアソコから頭のてっぺんまでアレで貫かれたかのような一際強い火花が舞う。  
 
「いい、いいよぉ!コートぉぉ!!!!」  
 
私は夢中で腰を振り続け―――  
 
「きゃうんっ!!はあああああぁぁぁぁぁ!!」  
 
頭の中を真っ白にするような火花―――雷に打たれたかのような衝撃を受けた。  
 
ホントに雷に打たれたかのように、体がビクンビクンと、痙攣を起こす。  
 
一歩遅れて、コートもイったみたいだ。  
私の中からアレを引き抜いた瞬間、アレの先端から白い液が勢いよく飛び出し、私のお腹に掛かる。  
液が掛かったところが、まるで火そのものが掛かったかのように酷く熱い。  
 
たとえ人間の姿を取れても、幻想種と人間じゃ、子供は出来ない。  
 
スパークし続けてる思考の中で、中で出されなかった事だけが残念だった。  
 
でも、すご・・・かったぁ・・・・・  
息もままならないし、心臓は引き付けを起こす寸前だ。  
でもなにより、意識が持たなくて。  
 
あ、気絶する・・・・・・  
 
その思考を最後に、ブレーカーが落ちるように私の意識は闇に沈んだ。  
 
 
夜の風が気持ちいい・・・・・・  
 
私はひとり屋上に立っていた。  
時刻はすでに深夜と言っていい時間。  
 
満月から、ほんの少しだけ欠けた月が中天から光を降り注ぐ。  
 
 
衝動は、ある。  
でも、いつものようにそれに抗う気は起きなかった。  
 
ほぼ全ての肌からザワザワと太い銀色の毛が生えてくる。  
風に揺れ、視界に入る髪はすでに銀色だ。  
ドクン、ドクンと血が全身を駆け巡るごとに、  
いつも以上の力がわきあがってっくる。  
手も、足も、爪が硬く、鋭く伸びていく。  
 
そして、変身を終わらせた私は、きていた服を脱ぎ捨てた。  
 
さあ、始めよう。  
 
全てを。  
 
私に傷をつけていい気になってる、アイツに。  
 
勝てるかどうかは分からない。  
 
でも。  
 
ここまま終わってやるつもりは微塵もない。  
 
 
 
 
 
 
 
ルォォォォォオオオオオオオオオオオ!!  
 
 
全てを見守る月に、宣言するように私は雄たけびを上げた。  
 
 

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