襞の内側が熱い。  
 縦に辿ると、溢れた愛液が指にまとわりつく。  
 左右の襞が合わさるところに、コリっとした小さな感触がある。  
 指が届く度に、そこは少しずつ体積を増していく。  
 
「マリクリ〜」  
「……あ、あっ」  
「どうだ? 起きた?」  
「あの、……ぅ、うん」  
「起きたんなら、ちゃんと『起きた』っていわないと……」  
「起きた、あの、……ちょっと」  
「そっか。おはよー」  
「ば、馬鹿ッ」  
 
 朝じゃない。深夜だって。  
 それに、挨拶すなっ。  
 だけど、ツッコミを言葉にする余裕が私にはない。  
 心臓バクバクいってて、あそこはずきずきしてて。  
 
「マジ可愛いんだよな、起き上がったマリクリ。普段は隠れてるくせに、顔出してさ」  
「や、やだっ」  
「マリとは逆だな」  
「えっ?」  
「オマエって、いつも態度でかいくせに、エッチの時は何ていうか、割とおとなしめじゃん?」  
「……う、るさいっ」  
「だけどマリクリは、普段は小さいけど感じると大きくなっ……」  
「ばっ、もう言うなっ!」  
 
 ケンジのセリフが終わらないうちに、私は悲鳴に近い声でそれを制した。  
 顔から火が出そうだった。  
 だけど指は離れようとしない。  
 それどころか、そこの形を確かめるみたいに、勝手に滑っていく。  
 まだそっとだ。ソフトにしか触れていない。  
 それでも鋭い快感が走り抜ける。  
 その快感以上に、これまで自分で触った時とは比べ物にならないほどの興奮がわき上がっていく。  
 頭がくらくらするほど興奮して、それに追いつこうとするように快感も大きくなっていく気がする。  
   
「挟めるようになったか?」  
「あっ、んんんっ」  
「挟んでみ?」  
「いやあっっ」  
 
 イやらしくて、恥ずかしくて、それが苦しい。  
 なのに、私の指はヤツの要請に嬉々として応えていく。  
 ケンジが何か言う度に、結局そのようにしてしまう。  
 ――ああ、おかしくなる。  
 興奮がまたひとまわり深くなる。  
 ……もう、止めることなんてできない。  
 止めたいとも思っていなかった。  
 
 あそこが熱を持って、ずきずきと脈打っている。  
 このまま続けたらもっともっと感じるとわかっていた。  
 ――なんか私、どんどんエッチになっていく。  
 そういえば、今週号の『アゥアゥ』で、ひとりエッチが女の官能力を磨くっていう特集記事があったっけ。  
 確かに自分でする時は、自由に好きなイメージでするし、思ったように触ることができる。  
 でも私の場合は、ひとりエッチよりも、ケンジにされたことの方が影響がでかい。  
 この前ケンジにされた時から、なんか気分とか妄想とか欲求だけじゃなくて、身体自体が変わっちゃったみたいなのだ。  
 別に官能力磨きたいなんて思ったわけじゃないのに、身体が勝手に「もっともっと」と言ってる気がする。  
 それにもし雑誌の特集がホントだったら、こうしてヤツの言う通りに、だけど自分で触ってるのって、どうなんだろう?  
 もしかして私、自分でも気がつかないうちに、自分で自分を磨いてしまってる?  
 しかも、官能力なんて奇麗なもんじゃなくて、エロエロ変態性欲って気がするんですけど?  
 ヤツの言うとおりに、クリの左右に這わした2本の指をゆっくりと閉じていく。  
 襞を押しだすみたいに挟み込む。  
 興奮した私のそこは、とんでもなくヤらしくなっていた。  
 襞の外から触ってるのに、はっきりとした輪郭が感じられる。  
 そこはあっという間に、さっき触ってた時の大きさを取り戻していた。  
 くっ、と、声にならない息が漏れた。  
 それに反応したみたいに、微かにしわがれた声でケンジが聞いてきた。  
 
「挟んだ?」  
「ああっ、うんっ」  
「どうやって挟んでる?」  
「あ、あの、人さし指と中指で……」  
「じゃあ、そのまま動かさずにじっとしてろな?」  
「あ、あっ、う、ん……」  
 
 頭が熱くて、朦朧としてる。  
 なのに、はっきりと意識が集中している部分がある。  
 ケンジの声。  
 自分の指。  
 そして、ずきずき疼くクリ……。  
 ――ああ、おかしい。  
 おかしくて、気持ちいい。  
 自分がしていることが、よくわからない。  
 恥ずかしい。恥ずかしいけど、このままじゃ終われない。  
 最後まで、イくまで、――ああ、ケンジっ。  
 
「マリさ、知ってた?」  
「……な、何?」  
「クリトリスって、男のペニスと同じようなもんなんだって」  
「何、が……?」  
「女と男とで構造とかは違うわけだけど、発生学的には同じものが分化したんだってよ」  
 
 ああ、もうっ。  
 コイツの頭には、そういうエロい情報しか詰まっていないのか?  
 って、そういうことしか詰まってなさそうだ……。  
 でも、今は私の脳味噌だってエロエロの極致だ。人のこといえない。  
 指の間でドクドクと脈を打ってる“それ”と“あれ”が同じだなんて、そんなこと言われたってどうしていいかわかんないけど。  
 
 私は何も言い返せなかった。  
 ヤツは一人で勝手にぺらぺら喋っていた。  
   
「ただし、ひとつ大きな違いがあるんだな。ペニスはさ、男性器であると同時に排泄器官でもあるだろ? でもクリトリスは、ただ快感を感じるためだけに存在してるんだよ。そんな器官は、人間の身体の中でも唯一クリだけなんだって。……って、ネットの受け売りだけどさ」  
 
 ケンジの話は、ほとんど聞いてなかった。  
 指動かしたくなっている……。  
 そのことで頭がいっぱいだった。  
 動き出しそうになる指先を押さえることに、意識を集中している。  
 指から、脈が伝わってくる。  
 それは間違いなく、快感を保証している。  
「動かしちゃ駄目」そう思っていた筈なのに、いつの間にか「動かしたい」に変わっている。  
 欲求が、私を激しく誘惑する。  
 ――ああ、もう、どうしたらいいの?  
 
 我慢できなかった。  
 ほんの少しだけ、こっそり動かした。  
 その途端、なんともいえない快感が走り抜けた。  
 大きな喘ぎ声を上げそうになった。  
 くふっと、鼻が鳴った。  
 なんとか息を押し殺した。  
 それが精一杯だった。  
 どうやらケンジには気付かれなかったらしい。  
 ヤツはおしゃべりを続けていた。  
   
「しかも、神経の量はペニスと同じ。なのに、サイズは全然違うだろ? 単位面積あたりの神経分布を考えたら、そりゃ敏感だろって話」  
 
 や、だ……。  
 聞いてないつもりだったのに、突然イメージが膨らむ。  
 ケンジの“あれ”の感触や重さを思い出していた。  
 とうてい片手にはおさまらないサイズ。大きくて熱くて、ちょっと凶暴そうで、でも、そこに触るとそれだけで私はおかしな気分になる……。  
“あれ”って、どうしてあんなにサイズが変わるんだろう?  
 クリだって膨らむけど、あそこまで大きく変化はしない。  
 そもそも、あまりにサイズが違う。  
 あれと同じだけの神経が、私の指先に挟まれてる小さな器官に詰まっている? それって本当なんだろうか?  
 ――ああ、どうしよう。  
 確かにそこは、凄く敏感だ。  
 こうして挟んでいると、疼く度にそれだけで快感が走る。  
 そして、どんどん欲求が湧いてくる。  
 気持ちよく、なりたい。  
 もう、ほんとに限界だった。  
 
 我慢できずに、またちょっと指が動いた。  
 今度ははっきり声が漏れた。  
 
「あぅっ」  
「あ、オマエ、指動かしただろ?」  
「だ、……だってっ」  
「だって、何?」  
「あ、あのっ、押さえてると、おかしくなる」  
「おかしくなっていいよ、なればいいじゃん」  
「……もう、なってるよ。ケンジの言う通りに、しちゃってるし」  
「動かすなっていったんだぞ?」  
「今は、止めてるよ……」  
「どんな感じだ?」  
「ズキズキする……」  
「どこがズキズキするんだ?」  
「あっ、あのっ、……クリが」  
「疼いてるってこと?」  
「うん、うんっ」  
 
 脈が大きくなっていた。  
 まるでそこが意思を持っていて、動かして欲しいと言ってるみたいだ。  
 ……したい。指を、動かしたい。  
 ――おかしくなる。  
 
「……ね、ねえっ」  
 
 自分じゃないみたいな生々しい声。  
 ああ、欲情してる。  
 したくてたまらない。  
   
「マリクリぃ〜」  
 
 ああ、呼ばれた。  
 呼ばれちゃったよ。  
   
「……は、はい」  
「お、すげー素直じゃん」  
「だ、だって……」  
「マリクリ」  
「ああっ、もう、駄目っ、もうホントに」  
「ホントに、何?」  
「指、動いちゃうよ」  
「もうちょっとだけ待てってば」  
「もう、我慢できなくなりそう……」  
「じゃあ、ルールその1」  
「な、何っ?」  
「俺はマリクリにいっぱい触りたい。でも、今は触ることも舐めることもできないだろ? だから、ルールその1。今日はマリが俺の代わりに触るんだから、俺と同じくらいマリクリに対する愛を持ってやること」  
「……ええっ? え、あっ、う、うんっ」  
「ルールその2。我慢したりしないで、いっぱい声を出すこと」  
「う、う、んっ……」  
「ルールその3。俺の指示にはちゃんと従うこと」  
「ああっ、うん。……わかっ、た」  
 
 その後ちょっとの間、ケンジは黙り込んだ。  
 沈黙すら、私を燃え上がらせる。  
 激しい期待と予感が、指の内側で震えていた。  
 
<つづく>  
 

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