動悸が激しい。  
 顔が熱い。  
 自分の心臓の鼓動が聞こえてきそうだった。  
 ケンジの代わりに、私がする……?  
 ああ、でも、そんなの、……もう、駄目だ。  
 私の指はいつでも動く準備ができている。  
 まるで陸上の選手みたいに、スタートの合図を待っていた。  
 クラウチング・スタートなら、もう腰上げちゃってる。  
 ――そして。  
 ケンジが静かに言った。  
 
「俺、マリクリ吸いたい……」  
 
 それがスタートの合図かどうかは、もう関係なかった。  
 カーっと頭が熱くなり、指が勝手に動いていた。  
 十分に昂ぶっていた身体に、いきなり快感が弾けた。  
 
「ああ、ああっ!」  
   
 挟んだまま、上下にしごいた。  
 痛いほどの快感が走り抜け、全身がびくびくと跳ねた。  
   
「指、動かしたのか?」  
「あんんっっ、う、んっっ、動いちゃ、た……」  
「いいよ。そのかわり思いっきりだぞ、思いっきりヤらしく触って」  
「んあっ、いやぁっ」  
 
 興奮がぶわっと大きくなって、腰がくねる。  
 今までで一番強引な触り方をしていた。  
 指先で襞をずらし、中にも触る。  
 直接触れた。  
 表面がぴんと張りつめている。  
 濡れた指先で押すようにしながらクニクニと捏ねるように回した。  
 
「ぅくっっっ」   
「感じてるか?」  
「んんんっ、か、感じて、るっ……」  
「今度はイきそうになるまでやめちゃ駄目だからな」  
「あう、う、んっ」  
 
 次から次へ新しい快感がわき上がる。  
 私の指は、何の遠慮もなくクリを捏ねくりまわす。  
 普段だったら苦しいくらいの、強引な触り方。  
 でも、それがたまらなく気持ちよかった。  
 
 喉の奧から引きずり出されるみたいに、ひっきりなしに声が溢れていた。  
 
「んああっ、んあああっ」  
「どこをどうしてるのか言ってみ?」  
「あ、んん、あ、そこを、指で、擦るみたい、にっ、あっ、ああっ」  
「いつもそうやってんの?」  
「ああ、違う、いつもは、もっと……そっと、でも、でも、ああっ、ケンジぃ。駄目、もう、イっちゃいそう……」  
「好きなだけ感じればいいんだ。でも、イく寸前で必ず止めろよ」  
「ああっ、どんどん、気持ち……うわっ」  
 
 鋭い快感が、またひとまわり大きくなった。  
 人さし指と薬指で左右の襞をずりあげるようにした。  
 中心で顕になった突起を中指が小刻みにタップしている。  
 そのリズムにあわせて次々と快感が走り抜け、前の衝撃を追い抜いていく。  
 気がつくと、凄い勢いで昇り始めていた。  
 高速のエスカレーターで、一気に頂上を目指しているみたいだ。  
 目の前に、快感の飽和点が迫っていた。  
   
「あ、あっ、ケン、ジ、マジで、イっちゃうよっ」  
「……早いな」  
「ああ、嘘、もうっ、あ、ああっ、イっ」  
「ストップ! マリ、指止めて」  
「いやあっっ」  
 
 ――ああああああああああ。  
 イく直前だった。  
 でも、指を離した。  
 突然刺激が消えたというそのことで、身体がびくんっと震えた。  
 震えて、勝手にイこうとする。  
 何度か痙攣した。  
 その度に、お腹の奧がきゅうっとなった。  
 でも、ぎりぎりイってなかった。  
   
「あああっ。止、め、たっ。指、離した……」  
「ふふ、マジメじゃん。素直に言うこときいて可愛いなあ」  
「……ああでも、もう、もうっ」  
「もう、何?」  
「イきたいよっ……」  
「じゃあ、指で押さえて。動かさずに、じっと押さえてて」  
「ああああ……」  
 
 私はヤツの操り人形になっていた。  
 いわれたままに、指示された通りに動く。  
 指で押さえた。  
 
 動かさずに、そうしているのはちょっと辛かった。  
 でも、たまらなく興奮する。  
 普段のひとりエッチとは全然違う。  
 凄く感じる。  
 ただ、すでに限界ギリギリだった。  
 目の前に快感の頂きが見えている。  
 そこにたどり着きたくて仕方なくなってる。  
   
「押さえた、けど、ああっ、駄目っ、指、動きそう……」  
「我慢して。どうしても我慢できなくなったら、ちゃんとそういうんだぞ?」  
「……触ってたら、もう、我慢っ、できないっ」  
 
 少しずつ、指が動きだす。  
 止めようとしてるのに、それが難しかった。  
 ――ああ、ホントに駄目。  
 凄くイきたいけど、指を動かそうとは思ってない。  
 なのに、クリの脈動にあわせて指が勝手に擦る。  
 生臭い声が携帯を通して全部ケンジに伝わっている。  
 超ヤらしい。  
 ヤらしくて、気持ち、い、い……。  
 
「駄目、……止まんない」  
「じゃあ、できるだけゆっくり触れよ?」  
「あああっ、そう、してるっ」  
 
 押さえようとする意思と、激しく動こうとする熱情。  
 それがぶつかりあって、ぐるぐると渦を巻いているみたいだ。  
 ずきんずきんとクリが脈打つのにあわせて、背骨に沿って震えが走る。  
 尾てい骨のあたりから、頭の方にゾクゾクするような刺激が伝わっていく。  
 普段、自分でしてる時には気づかなかった、刺激の伝わり方。興奮の高まり方。  
 ひとつひとつが全部、快感に繋がっていく。  
   
「マリさぁ」  
「な、何っ……」  
「俺、マリクリに会いたいな」  
「あぅっっ」  
 
 私の指が、勝手にそこを弾いた。  
 慌ててまた動きをセーブする。  
   
「会って、キスしたい」  
「ぅんんんんっ」  
 
 ああ――。  
 駄目。  
 指が。  
   
「土曜日に会えるけどさ。でも、さすがにスケートリンクじゃ直接マリクリには会えないだろ?」  
「え……あ、ああ、うん、うんっ」  
「マリクリは俺に会いたくない?」  
「あああああっ、あ、あ、会い、たいっ」  
 
 おかしい。  
 ケンジの言葉が、ダイレクトに指に伝わってしまう。  
 頭がどうかなりそうだ。  
 指はゆっくりじゃなきゃいけないんだ。  
 なのに、もう。  
 どんどん、速く、そこを弾くように。  
 ピチカートでアレグロでフォルテッシモ。  
 左右に震わせて。  
 上下に撫でて。  
 押さえて、緩めて、回して、撫でて。  
   
「もしかして、日曜も空く? スケートの次の日だから、連チャンになっちゃうけど」  
「い、いい、よっ、……ああああっ、ケンジごめんっ、もう指がっ」  
「じゃ、俺のウチに来る?」  
「うぅっ、うんっっ」  
 
 ケンジはもう、指図しなくなっていた。  
 ただ、自分のペースで好きに話を続けている。  
 ――だけど、私は。  
 喘ぎ混じりで必死に受け答えしながら、だけど快感のベールが頭を覆い尽くし、ほとんど何も考えられない。  
 ――ああ、昇っていく。  
 昇り始めて、痺れたみたいに、背筋がぞくぞくして……。  
   
「俺がクリ好きなのはもう十分わかってるだろ。……でも、マリはどうなのよ?」  
「んっ、え、……んんっ?」  
「俺としては、愛するカノジョに自分の趣味を理解して欲しい。ホントのこと言えば、理解というより、嗜好を共有する同志になって欲しいけど」  
 
 私の頭は、完全に馬鹿になっていた。  
 ヤツが何を言ってるのか、相変わらずよくわからない。  
 理解するための余白が残っていなかった。  
 小さな火花が、どんどん大きな花火に変わっていく。  
 もう少しスピードを落とさなきゃ、間違いなくすぐにイく。  
 だけど指は、激しくクリを弾き続ける。  
 そしてまた、熱い炸裂の予感が一気に膨らんだ。  
   
「も、もう、イっちゃうっ」  
「マリクリのこと、好きになってるか?」  
「えぇっ? あ、ああっ、い、やっっ、もう、もうっっ」  
 
 激しい快感が背骨に沿って這い上がってきた。  
 それが突然頭の中で破裂し、目の奥がカっと熱くなった。  
 
 お腹の中で、何かがきゅっとなった。  
 次の瞬間、全身に震えが走った。  
 
「マリクリは、俺のこと好きか?」  
「あ、ああっ、す、きっ」  
「マリは? マリはマリクリ好きか?」  
「んああっ、……す、好きぃ。ああ、いやっ、イっちゃうイっちゃうっ、……ぁあイく、イくぅっ」  
 
 背中が反って、足がつっぱった。  
 右手に掴んだ携帯を、強く握りしめていた。  
 股間に伸ばした手が、強く押しつけられた。  
 ぬるっと、指が滑った。  
 
「んんんあっ」  
「そのまま触り続けて。指は止めるな」  
「んうぅっ」  
 
 強くそこを押さえこんだ指が、再び動き出した。  
 頭の中では、必死に何かのイメージを追おうとしていた。  
 でも、何も浮かんでこなかった。  
 ただ、すぐにまた快感の波が寄せてくる。  
 波の動きにあわせて、次々と小さな爆発があった。  
 鋭い快感があわさって、痺れるような波になる。  
 大きな波に、一瞬指が離れた。  
 
 ――あ、駄目っ。もっと、まだ、まだやめないっ。  
 すぐに指を戻した。  
 普段だったら、とっくに離して脱力している。  
 でも、今日はそのまま、指を動かし続けた。  
 刺激が強すぎて、ちょっと辛い。  
 それでも、指を動かす。  
 クリを小刻みに震わせる。  
 あああっ、まだっ、いい。  
 イくのが、長い。  
 ああ、ああ、ああ、ああああっ……。  
 さすがに、刺激が苦しくなった。  
 ただじっと押さえるだけにした。  
 そうしているだけでも、脈に合わせて弾ける快感が残っている。  
 ああ、気持ちいい……。  
 いっぱい感じてる。  
 そっか……。今まではすぐに離しちゃってたけど、もういいって思った後にも快感はあるんだ……。  
 それからも何回か、びくっとなった。  
 そして、その間隔が徐々に長くなり、やがて止まった。  
 
 急に静かになっていた。  
 布団の中が、自分の体温で熱い。  
 
「マリ、どうだった?」  
「ん……イった。んんっ、まだ、気持ちぃぃ……」  
「マリクリは? 満足した?」  
「あ……、う、ん」  
「そっか。俺とマリって仲間だな」  
「……んんん」  
 
 途方もなくヤらしくて、それに超恥ずかしい話をしてる。  
 だけど、あまり気にならない。  
 倦怠感の混じる余韻の中で、ほわほわとした気分に満たされている。  
   
「じゃあ土曜はスケート、日曜はマリクリ・デーってことで」  
「あ、……うん」  
 
 ケンジの声は落ち着いていた。  
 でも、マジで嬉しそうな感じが伝わってきた。  
 余韻と恥ずかしさで、こっちは全身が火照っている。  
   
「マリ」  
「うん」  
「好きだ」  
「……うん、私も」  
「マリクリ」  
「うっ、……う、ん」  
「好きだ」  
「う、ん……」  
 
 阿呆な会話が、甘く感じた。  
 日曜日はまた、ヤツと二人きりになるらしい。  
 たった今イったばかりだというのに、それが待ち遠しい。  
 やっぱ私は、ケンジのエロ・ウイルスに感染してしまったみたいだった。  
 
<つづく>  
 

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