ちゅっ、ちゅっと、音が聞こえる。
その度にお腹の奧の方にまで響くような刺激が走る。
「ちょ、ちょっとっ、エッチする、んじゃ、なかった、わけ?」
「うん。だから、してる」
乱れる息を抑えながらのけなげな抗議は、余裕しゃくしゃくの意図的な言葉のすりかえで簡単に却下された。
――蛇足だけど、意識はシャッキリしてるぞ、私。
ケンジは再びクリに唇を重ねる。
感触は相変わらずソフトだ。
そんなに強くされてるわけじゃない。
でも、イった後だ。身体の欲求は満たされている。
それに、刺激が強すぎる。
ひとりエッチの時だって、イった後は感じすぎて触りたくない。
まして、強烈な快感を感じた後だ。
そこをそうされる度に、許してといいたくなる。
「……そこはもう、いいから」
「いや。俺はしたいの」
「もう、……感じすぎて、つらいんだってば」
本気の抗議にも謝罪はなかった。
そのかわり、キスは止んだ。
そして、再びぬるっとした感触が生まれた。
――あ。
舌だった。
動いてはいない。ただそっと、押し当てられている。
クリはまだジンジンしている。
舌があてがわれているせいで、そのことがはっきりとわかる。
太ももを掴むケンジの手が熱い。
股間にかかる息も熱かった。
微かに舌がずれた。
そのせいで、はっきりと意識された。
未だに脈打つような快感がある。
それは多分、イった後の余韻だろう。
だけど、そんなふうにされていたら、いつまでも余韻が消えない。
っていうか、また思い出す。
まるでそこを責めてといわんばかりの、ヤらしい恰好。
いつもより何倍も、自分でする時よりも深かった快感。
そして、あっけなくイってしまったこと。
ふと、部屋の中が凄く静かなことに気がついた。
いつの間にか、ミニコンポから流れていた曲が終わっている。
ただケンジの息と、自分自身の喉が鳴るのが聞こえるだけだ。
ケンジはじっと動かない。
舌をクリに押し当てられたまま、私も動く術がない。
そうやってじっとしていると、どうしても意識が感覚に集中してしまう。
エッチな興奮が、消えていかない。
それどころか、ちろちろと火が燃えるような疼きが、クリを中心に育っていくような気がした。
時間が止まったような部屋の中で、私は次に起こることを待っている。
そのことが、私をうろたえさせた。
「あ、あの、もう、いいからっ。ケンジが、気持ちよく、なりなよ」
うろたえを隠すように、私はそういった。
ケンジはようやく、返事をした。
「いう゛ぃあ、う゛ぉうぇわばう゛ぃろるりう゛ぉられらいろ」
ば、馬鹿たれ! 舌くっつけたまま喋るんじゃねー!!
そう罵りたかった。
だけど私は、別の反応を返していた。
「あんんっ、ぃやんっ」
細かく震えるケンジの舌に撫でられ、突然クリが刺激されていた。
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿バカバカー!!
ケンジは馬鹿ヤロウだ。
その馬鹿ヤロウの舌に翻弄されてる私は、もっと大馬鹿ヤロウだよー。
舌の動きは止まっていた。
でも、さっきよりひとまわり大きな切なさが生まれている。
普段はあまり意識することもない小さな突起が、今はただこうしているだけではっきりとした輪郭をもって意識される。
興奮して、張りつめているのが感触でわかる。
そのことを私に伝えているのは、ケンジの舌だ。
舌がそこにあてがわれているということだけで、疼きを伴う熱がゆっくりと大きくなっていく。
「あ、あの、ケンジ……」
突然、泣きたくなるような切なさに襲われ、私は思わずヤツの名を呼んだ。
「あ゛でぃ?」
「やんっっ」
だ、だから、舌つけたまま答えるなっつーの!
っつーか、わざとじゃないからね。
別にそうして欲しくて名前呼んだわけじゃ絶対にありませんから。
ああ、でも――。
前より切なくなっちまったじゃないかー。
「返事、する時くらい、その、口、離してよ」
「ぁ゛んでぇ?」
「あんんっ」
ああ、どうしよう。
なんか、さっきほど、苦しくない。
――っていうか、気持ち、いい?
頭の中が、またぼうっと熱くなっていく。
舌が震える瞬間は、ちょっとつらい気がする。
でも、止まるとそれが気持ち良かったことに気がつく。
もうひとつ気がついた。
いつもと同じだ。
ケンジはいつも、たっぷり舐めて、私が感じまくってからようやく入ってくる。
多分、同じようにするつもりなんだろう。
いつもだったらイく寸前で入れられて、凄く感じはするものの、イかないままエッチが終わった。
だけど今日は、私が先にイってる。
そんなことされなくても、たっぷり濡れてる。
だからいいんだってば。
キミがクリ・フェチなのはよおくわかった。
だけど私はもうイったから。
後は、ケンジが気持ちよくなればそれでいい。
――っていうか、我慢しないで私でイけよー。
というようなことを、男心を傷つけずに伝えるにはどうしたものか?
……うん、多分、これでいい筈だ。
身体の中に渦巻く欲求と快感と、そしてマジでそう思っている気持ちに意識を向けた。
そして、普段の私だったら絶対無理な、超甘ったるい声で言ってみた。
「ケンジの、……入れて欲しい」
返事はなかった。
そのかわり、舌が離れた。
そしてすぐにまた舌が触れてきた。
下から上へ舐め上げられ、クリに届いた。
「あんんんっっ」
ぞくぞくするような快感が沸き起こった。
じっと息を潜めていた欲求が、出口をみつけたみたいに膨れ上がった。
敏感な突起は、すでに痛みを感じなくなっている。
それどころか、そのゆっくりした動きに、掘り起こされるように快感が膨らむ。
さっきイった時の激しさはない。
だけど、あの時よりもしみ込んでくるみたいな。
なんていうか、甘い。
優しくて、それでいて残酷な感触が絶え間なく続く。
されているのは、いつもと同じことだ。
でも、イった後の身体は、いつもと違う受け止め方をしてるみたいだった。
私の身体は、すでに満足していた。
その幸福感が冷めないまま、新しい切なさが広がっていく。
いやらしいけど、それが嬉しい。
嬉しいのに、焦ってる。
そして、その焦るような感じが、切なさを募らせる。
ちょ、ちょっと、ヤバいっすよ。
このままだと、またイきたくなっちゃうじゃん――。
ケンジとエッチするのは嫌いじゃない。
だけど、これまでエッチでイったことはなかった。
それでもよかった。
入れる前に舐められてる時は、凄く感じてイきたくなる。
でも、イかなくても、精神的には十分満足していた。
一人エッチならイくけど、どっちがいいかといえば、間違いなくケンジとする方だ。
イきそうでイけない切なさも含めて、快感だった。
さっき、初めてケンジの指でイった。
一人でするのの数倍感じた。
急に昇り詰めたのがびっくりしたくらいだ。
もどかしさや恥ずかしさまでが快感だった。
いつまでも残る余韻まで、身体が悦んでいるみたいだ。
十分満足したつもりだった。
なのに――。
ゆっくりと舌が動いていた。
音楽の速度標語ならラルゴか。
って、それ「幅広くゆるやかに」だよ。なんか超やらしいんですけど。
そのやらしい動きに、あっけなく反応してしまう。
なんか、マジでヤバい。
動きはいつもよりゆっくりで、もっと優しい。けど、そのせいで切なさだけがどんどん大きくなる。
叫びだしたいような感情が膨らんでくる。
「あんんっ」
声が出る。
ああ、どうしよう。気持ちいい。
どうしたらいいのかわからない。
ただ、どんどん気持ちよくなって、もっともっとよくなりたくなる。
私の反応を見てのことだろうか。
少し、舌の動きが大きくなる。
ああ、それ。
そうされると、おかしくなる。
クリがゆっくり舐められ、舌で押される。
まるで持ち上げるみたいに、下から上に動く。
「ああああ、ケンジっ」
泣きたくなる。
それ、気持ちいい。
――だから、もっと。
まるで私の願いを悟ったみたいに、また少し舌が速くなる。
左右に揺さぶるように。
それも、いい。
いつの間にか、休みなく小刻みに舐められていた。
快感が連なりだす。
ひとつの刺激が終わらぬうちに、次の刺激が重なる。
凄く、気持ちいい――。
さっきイって、十分満足した筈だった。
なのに、こんなに感じてしまっていいんだろうか。
あそこが熱い。
身体がおかしい。
イったばかりだというのに、またイきたくなり始めている。
頂上はまだ先だ。実際にイくことはないだろう。
でも、気分はどんどん高まっていく。
クリへの刺激に意識が集中してしまう。
頭の中の熱が全身に広がる。
お尻から背中にかけて、つっぱるような感じと一緒に伝わる。
お腹の奧にも熱がある。
その熱は、全部クリから生まれている。
全身がクリを中心に一つの方向に向かっているみたい。
ぬるっとした感触がヘンな動きになる。
どうされてるのか、よくはわからない。
ただ、なんていうか、クリのまわりを丸く円を描くみたいに快感が移動していく。
右から。
上から。
左から。
そして下から。
「あんんっっ」
そこ……。
そこ、なんか、……深い。
下から舐め上げられる時にも、力が抜けてしまうほど感じることがあった。
それが、もしかしたら、そこなのかも――。
何か、変な感じ。クリ全体を圧迫されてるみたい。
先じゃなくて、もっと根元の方から。
そこを、舌で押さえられた。
「ああ、ああ、ああ……」
声がひっきりなしに出てる。
我慢なんてできない。
縛られた太ももと足首が、痺れたみたいになってる。
セーターの袖の上からだけど、手首にもかなりロープが食い込んでいる。
だけど、そんなことどうでもよかった。
ケンジの舌が、クリにぴったりくっついたまま、小刻みに揺れている。
まるで身体の中を舐められているみたい。
それくらい、深い場所に快感がある。
根元の方から全部、舐められてる……。
本当はもっと速く、強く舐めて欲しいくらいだ。
でも、これはこれで、どうしようもなく気持ちいい。
おかしくなる。
――それを楽しみにしている私がいた。