下からぴったりと押し当てられた状態で、舌が左右に動いた。  
 ゆるゆると、クリが転がされる。  
 さっき指でイった時より数段ソフトな感触だ。  
 動きも緩やか。  
 だけど今は、そのすべてが快感だ。  
 比喩だけど、私の身体は今キョーレツに乾いている。  
 砂漠が雨を吸い込むように、微かな刺激まで全部味わおうとしている。  
 お腹の奧の方が、クリと繋がっているみたいな感じがある。  
 クリを舐められると、それがダイレクトに奧まで伝わる。  
 お腹の中で、何かがきゅっとなる。  
 その「きゅっ」が、快感を増幅している気がする。  
   
 舌は、あの場所にあてがわれていた。  
 クリの下の方、まるで身体の奧を舐められているみたいに感じる、根元の部分。  
 そこにぴったりと押しつけられている。  
 押しつけたまま、ゆっくりと動いている。  
 揺らすように。  
 起こすように。  
 たまらない。  
 切ない。  
 泣きたくなるような、柔らかな快感。  
 それがずっと続く。  
   
「ああああああ」  
 
 ――え、嘘?  
 突然、ひとまわり快感が大きくなった。  
 ソフトな感触は変わらない。  
 もどかしいのも変わらない。  
 でも、少しだけ舌の動きが変わる。  
 それだけで一瞬、すぐにでもイきそうなくらいの快感が走り抜けた。  
 って、嘘でしょ? さっきイったのに。  
 こんなの、おかしい。  
 何度もイくっていう人もいる。っていうか、ネットとかでそういう話を見たことがある。  
 でも、私はいつも、1回イけばそれで終わりだった。  
 今日だってもう満足してた。  
 心はもちろん、身体だって。……ちょっと前までは。  
 なのにまた、昇り始めている。  
 さっきイった時と同じように、急に始まっていた。  
 刺激は同じなのに、受け取る快感がいっきに大きくなっていた。  
 目の奥が熱い。  
 頭の中が白くなる。  
 そして、びっちりと縛られた太ももが、勝手に震えだした。  
 
 不自由な身体が、反らされる。  
 やだ、嘘っ。  
 マジでイきそう。  
 どんどん気持ちよく、なっていく。  
 ケンジの舌の動きが、ヤらしい。  
 ゆっくりと、だけど、ずっと舐められてる。  
 ――クリが、おかしくなる。  
 あ、ホントに、もう。  
 も、もう、もうすぐ、ああっ。  
 ――い、やっっ!  
   
 びくっびくっと何度も痙攣した。  
 何の抑制も効かず、絞るような声を上げていた。  
 激しく腰を揺らしながら、身体が快感を貪ろうとしている。  
 でも、まだイってはいなかった。  
 頂きを超える寸前で、一切の刺激が消えていた。  
 クリは脈打ち、お腹の奧の熱い収縮も消えない。  
 快感を求めて、身体が勝手にそうなっている。  
 しかし、膨らみきった快楽は、ギリギリのところで爆発していなかった。  
   
「ああ、いや……」  
 
 どうしたらいいかわからない。  
 激しい欲求と、泣きたいほどの切なさだけがあった。  
   
「何が嫌? イきたかった? それともイきたくなかった? デッド・オア・ライブ」  
   
 け、ケンジ……。  
 それをいうなら「ライブ」じゃなくて「アライブ」だって。  
 それに、ギャグだとしたって「デッド・オア・アライブ」じゃ意味違うし。  
 どうしてもというなら「ライブ・オア・ダイ」の方がまだマシな気がするし。  
 ――って、そんなことはどうでもいい。  
 キミはいつから、そんな意地悪になったんだ?  
 確かにちょっと残念なカレシではあるけど。それでも私にとって、一番のよき理解者だったんじゃなかったか?  
 ……でも、怒りは湧いてこない。  
 頭も身体もぐちゃぐちゃで、怒る気力なんか残ってなかった。  
 ただ、切ない。失われた刺激が、恨めしい。  
 快感の名残で未だにあそこがひくひくしている。  
 その、一番ひくひくしているところへ、ヤツがまた舌を這わせてきた。  
   
「ああんっっ」  
   
 ああ、もう、私って超簡単。  
 簡単に、気持ちよくなる。  
 失ったばかりの快感が、すぐに戻ってきた。  
 全身が悦んでいた。  
 ゆっくりと、また波が生まれる。  
 徐々に大きくなる波が、身体の表面と内側を同時に伝わっていく。  
 あ、そこっ。  
 奧の方。  
 ――ああ、いや、気持ちよすぎる。  
 よすぎて、すぐにまた、昇り始める。  
 
「ああ、ああ、ああ、ああ」  
 
 自分の上げる声が、最高にいやらしい。  
 でもそれすら気持ちいい。  
 クリが、変になってる。  
 凄くヤらしい、ケンジの舌。  
 下の方から包み込むように、ゆっくりと押したり戻したりされている。  
 舌の動きも強さも、ほとんど何一つ変わっていない。  
 じれったくて仕方ない。  
 だけど、そのもどかしさと同時に、快感が膨らんでいく。  
 全身の力が抜ける。  
 妖しい快感が延々と続く。  
 目の前がチカチカしてる。  
 与えられる刺激よりも、興奮の方が大きい。  
 その興奮の大きさで、イってしまいそうだ。  
   
 ああ、もっと。  
 もっと、もっと。  
 ああ、駄目、お願い。もっとっ。  
 ああ、嫌、昇っていく。  
 抑えられない。  
 イきたい。  
 イきたいのに、じれったい。  
 だけど、ゆっくり昇っていく。  
 ああ、ホントに駄目。  
 もうすぐ、今度こそ、イっちゃう。  
   
 脚が、つっぱった。  
 震えている。  
 ああ、クリが、弾けそう。  
 お腹の奧の方まで伝わって、熱くなる。  
 熱くて、きゅーってなって、それが何度も繰り返す。  
 あ、もうっ。  
 もう無理っ。  
 もう少しで。  
 イっちゃう。  
 もう、すぐ。  
 もうっ。  
 イく。  
 イ、……イ、イ、イ、  
   
「あううぅっ」  
   
 ああああ、どうしてっ?  
 どうして、また……。  
 
 イく寸前だった。  
 さっきよりももっと近かった。  
 なのに、再び舌が離れていた。  
 
 辛かった。  
 泣きそうだ。  
 全身に溜め込まれた快感は、すでに限界を超えている。  
 熱い欲求が渦巻いている。  
 息が乱れて苦しい。  
 クリは痛いくらいに張りつめて、どくどくしている。  
 身体がびくんびくんと痙攣を繰り返す。  
 それもまた泣きたくなるほど気持ちいい。  
 イきそうな感じが、全然引いていかない。  
 ああ、もう後ちょっとだったのに。  
 なのに、どうして?  
   
「……ケ、ケンジっ」  
「イきそうだった?」  
   
 平然とそう聞くケンジが恨めしい。  
 私はただ、小さく唸ることしかできない。  
   
「イく時はちゃんと教えろって言ったじゃん」  
「だ、だって……」  
 
 そんなの、恥ずかしい。無理。  
 それに私、今はもう頭真っ白だし。  
   
「俺さ、マリのことホントに好きなんだよ」  
「う、うん……」  
 
 うっかり返事しちゃったけど、一体何のこと?  
 突然好きだなんて、……嫌じゃないけど、なんか変。  
 私こんな恰好だし。  
 何も考えられないし。  
 ケンジの顔が、濡れてベタベタになってる。  
 一瞬遅れて、どうしてそうなったのかわかった。  
 私は慌てて目を逸らした。  
   
「本気なんだけど?」  
「え?」  
「性格とか考え方とか、喋り方とかも好きだしさ。ちょっとヒネクレてるトコとかもな」  
「あ、……うん」  
「笑顔も可愛いしさ、俺より数段センスいいと思うし」  
「……そうでも、ないよ」  
 
 ああ、わかったから。今はそういうの、困る。  
 私、こんなにおかしく、ヤらしくなってるのに。  
 
「もちろん身体も超お気に入りだけどな。スタイルいいし。胸はちょっと小さいけど、俺元々巨乳フェチじゃねえし」  
「あ、う、うん……」  
「あのさ。……ずっと言おうと思ってたんだけどさ」  
「……ん?」  
「俺さ、クリトリス好きなんだ。一日中舐めたりしてたいとか思う」  
 
 うぎゃー、何すか、それ?  
 甘いこと言いだしたと思ったら、突然のカミングアウト?  
 それって、わざわざ言うことか?  
 っていうか、知ってたけどな、クリ・フェチだってことは。  
 突然の阿呆な展開に、私は逆に少し落ち着いた。  
 だけど、それってケンジ的にはNGなんじゃないの?  
 
「そんな『一日中』って、……ヒリヒリするからヤだ」  
 
 真面目に答える私もどうかと思う。  
 って、これ何の会話?  
 
「馬鹿、本気で一日中はしないって」  
「うん」  
「それにその、オマエのクリが好きなんであって、別に誰でも彼でもクリがあればいいとかそういう……」  
「……うん」  
 
 何度もイきそうになったせいで、私の頭、壊れちゃったか?  
 うろたえながら早口で、何とか愛のあることを説明しようとしているケンジを、可愛いとか思ってしまう。  
 でも、それだけならまだいい。  
 一日中はカンベンだけど、今はして欲しい。――なんて、こっそり思っちゃう私って、どうよ?  
   
 ケンジの顔を見つめた。  
 私のクリが好きなんだって?  
 だったら、最後までやってイかせてよ、みたいな。  
 ……さすがにそれは言えないよなあ。  
 
「でさ、もう少しだけ好きなようにさせてくれない? 頼む」  
 
 うわ、頼まれたー!  
 って、何頼まれてるんだ、私。  
 っていうか、クリ・フェチ野郎に身体任せろって?  
 っていうか、ていうか、「渡りに船」ってこういう時に使う言葉?  
 それとも「望むところよ」とか言えばいいわけ?  
 っていうか、ていうか、ていうか私、縛られてるし。  
 拒否権なさそうだし。  
 すでにイっちゃってて。  
 その後、2度もイきそうになってて。  
 ヤツはその一部始終を見てたわけで。  
 多分、最初からヤツの計画通りで――。  
 
 あ、駄目だ。  
 私、壊れる。  
 またされるって思っただけで、あそこがどくっとなった。  
 クリがヒクってなった。  
 お腹の奧も、きゅって……ええい、もういい。  
 女は度胸だ!  
   
「うん、……して」  
   
 言っちゃった。  
 言った途端に、恥ずかしくて死にそうになった。  
 自分の言葉以上に、それが意味する未だ不明な結末が不安だった。  
 でも同時に、信じられないほどの興奮も感じていた。  
 そのつもりはなかったけど、結果的に自分で自分を煽ってる。  
 なんか、淫ら度200パーセント?  
 クリ・フェチ相手にクリ解禁、残念なカレシに全部お任せ。  
 マジで、私、どうかしてる。  
 これはもう、壊れてるとしか思えなかった。  
 
(つづく)  
 

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