限界が迫っていた。  
 もう、何をされてもイきそうになってる。  
 もう後ちょっと続けられたら、すぐに限界が来るだろう。  
 そうしたら、我慢できなくなって。  
 我を忘れて、イってしまう。  
 今だって、別に我慢したいわけじゃない。  
 イきたい。  
 イきたくてたまらない。  
 でも、じっと、快感が膨らんで破裂するのを待っている。  
 それ以外の選択肢はない。  
 もう、後ちょっと、そのまま続けて。  
 そうしたら、すぐに。  
 ああ、嫌。イきたい。  
 イって楽になりたかった。  
 
 いろんなことに、ケンジは醒めている方だと思う。  
 無関心ってわけじゃないし、自分が興味のあることに関しては熱っぽく話したりもする。  
 でも、私との関係とかは特に、結構あっさりしてる。  
 少なくともこれまではそうだった。  
 正確には覚えてないけど、初めて告られた時も、「オマエとつきあいたい」みたいなことを、まるで何でもないことのように言われた気がする。  
 だから、好きだとか、愛してるとか、そういう言葉を聞いたのは数えるくらいしかない。  
 そういうことをいうのは、エッチの時くらいだ。  
 私が相当感じて声上げちゃったりしてる時には、何故か妙に甘い言葉使いになることがある。  
 もしかしたら、私がそうならないと、安心して甘えることができないのかもしれない。  
   
 今もまた、ケンジは甘えるような口調になっている。  
 言葉の端々も、微妙に普段とは違う。  
 でも、単に甘えているという感じでもなかった。  
 そこが、いつもとは違う。  
 時々妙に甘ったるいイントネーションになるくせに、同時に凄く冷静な感じだ。  
 冷酷といってもいい。  
 私一人が完全にテンパっていて、ヤツは息すら乱れていない。  
 こっちは股間剥きだし状態で縛られ、いいように触られている。  
 ヤツは服を着たままそこに顔を近づけ、敏感な場所をいじっている。  
 そうやって、楽しんでいる。  
 オモチャに夢中になっている子どものように。  
 まるでママゴト遊びか何かしているみたいに。  
   
「マリクリぃぃー」  
「あ、やぁ、あんんんんんっ」  
 
 だからっ、そこ、呼ぶなっ。  
 ヤツの指は、私のクリを外側から挟み付ける力を入れたり抜いたりしながら、ゆっくり前後に動かしていた。  
 ――ああ、そんなふうに、されたら、もう。  
 
「マリクリは、どうされたい?」  
 
 そういって、ケンジはまた指の動きを止めた。  
 あ、いや、いや、いや……。  
 駄目だ、私、ホントにおかしくなっちゃう。  
 だって、勝手に変な名前つけて。  
 そこ、呼ばれて。  
 なのに……。  
 ああ。クリが、ずきずきしてる。  
 それだけで快感が膨れ上がる。  
 でも、さすがに疼きだけではイけない。  
 もうイきたいよ。  
 だから。だから。だからっ……。  
   
「俺、マリクリ大好きなんだぁ。……舐めたいな」  
「ああっっっ」  
「マリクリは舐められるの好き? 嫌い?」  
「ああああああああ」  
 
 指の動きが復活する。  
 このまままた舐められたら。  
 そんなの、……気持ちいい。  
 気持ちよくて、イっちゃう。  
 
「……す、すぐに、イっちゃうよ」  
「マリクリは、イきたくないの?」  
 
 ああ、私は、イ、きた、い――。  
 でも。  
 答えたら、まるで……ああ、でも。  
 クリは、ああっ、イ、き、ああ、ああ、ああっっ。  
 壊れる。  
 おかしくなる。  
 私はもう、駄目になる。  
   
「……イ、イきたいっ」  
「ふふ、よかった。素直なマリクリ、超可愛いー」  
 
 ぬるっと、指が動いた。  
 うわあっ!  
 全身に痙攣が走った。  
 喉が詰まって、今度は声が出なかった。  
 
「マリクリ吸いたいな。吸ってもいい?」  
「ああっ、う、んっっ」  
「吸われたい?」  
「うんっ、うんっ」  
「マリクリ、ちゃんと言って。……吸われたい?」  
「あ、あ、吸われ、たいっ」  
 
 反射的に答えた後で、ようやく自分が何を言ったのかわかった。  
 ああっ、私、おかしくされてるっ。  
 そうやって、慣らされて、調教されて、馬鹿になる。  
 ――もう、駄目。  
 ケンジの指が、クリを挟んでる。  
 挟んだまま、上にずらされる。  
 きつい衝撃が、走り抜けた。  
 そして、ぬるっと包まれた。  
   
 さっきまで指で挟まれていた場所を、もっと柔らかなもので挟まれていた。  
 ベッドの横から顔を伸ばしたケンジの唇が、襞の両脇を包むように押さえている。  
 指はちょっと上の方にずれ、そこを引っ張るみたいにしている。  
 すぐに吸われた。  
 じゅるっとイヤらしい音をたてて、熱く濡れた襞ごと吸い上げられる。  
 強く引っ張られる感触に、身体の奧の深いところで何かが弾けた。  
   
「あううううっっっっ」  
 
 頭の中で、火花が散る。  
 身体の中に溜め込まれた熱情と快楽を、一気に引きずり出される気がした。  
 一瞬、イったかと思った。  
 それくらい、強烈な切なさ。  
 全ての興奮がそこに集まり、そして弾ける。  
 でも、それは始まりにすぎなかった。  
 そこを吸い込んだ唇が、ゆっくりと押しつけられた。  
   
「うあぁっっっっっ」  
   
 重い衝撃が、お尻の方から背骨を伝わって、頭に達する。  
 巨大な熱が打ち上げ花火のように昇っていき、弾けて大輪の花を描く。  
 そして、その衝撃が収まらないうちに、唇でさらに奧を挟み込まれた。  
 再び吸われた。  
   
「あああううううう」  
 
 獣のような声を上げて、私は首を左右に振っていた。  
 何もできない。  
 耐えることも、逃げることも、拒否することもできない巨大な快感が押し寄せてきた。  
 
 吸う力は、さっきよりも強かった。  
 何もかも、全部吸い出される。  
 私自身が、ただひとつの快感になって、どうしようもなく高いところまで引きずり上げられる。  
 そしてまた、押しつけられた。  
 びりびりと電気が走るような快感がクリで弾ける。  
 唇で押され剥きだしになったところを、舌の先で舐められていた。  
 まるで自分自身が全部、その小さな器官になったみたいだった。  
 巨大な熱と激しい快感が弾け、広がっていく。  
 きつい。  
 刺激が強すぎる。  
 感じすぎて、痛いくらいだ。  
 だけど、その痛みすら、気持ちいい。  
 吸われ、押し出され、そして先端を舐められる。  
 それが繰り返された。  
 すぐに頭の中が真っ白になった。  
 イ、く。  
 もう、イく。  
 次で、間違いなくイく。  
   
 一瞬、物凄く静かな時間が訪れた。  
 まるで時間が止まったみたいだった。  
 限界まで膨らみ弾けそうなクリが、電気を帯びているみたいにぴりぴりしているのがわかる。  
 身体の内側の快感は、すでに十分すぎるほど溜め込まれている。  
 パンパンに膨張して、破裂する寸前だ。  
 全身が発熱し、勝手に震えている。  
 口は叫ぶ形に開いたままだ。  
 でも、何故か、その状態で時が止まっているみたいだった。  
 白い光に包まれていた。  
 目はきつく閉じているのに、ケンジが嬉しそうに微笑んでいるのを見た気がした。  
 でも、すぐにそれも白い光の中に溶けていく。  
 不思議なほど静かで、穏やかな気分だった。  
 だが、次の瞬間、私は快感の嵐の中に呼び戻されていた。  
   
 ヤツの顔が再び押しつけられた。  
 限界まで吸い上げられていたところが、押し戻された。  
 再び張りつめ、はじき出されるのがわかった。  
 
「あっ、いっ、イくっっっっっ」  
 
 がくがくと身体が動いた。  
 次から次へ快感の花火が打ち上がり、弾けて散っていく。  
 その度に、腰から頭の天辺に向かって重い衝撃が走った。  
 全身がぶるぶると震えていた。  
 叫んでいた。  
 何を叫んでいるのかはわからなかった。  
 ケンジの唇は動きを止めなかった。  
 吸われて、押し込まれ、舐められ、それが繰り返された。  
 衝撃がおさまる前に、すでに別の衝撃が弾けている。  
 その度に違う色の火花が見える。  
 それが繰り返される。  
 そのリズムが徐々に速くなり、弾けた熱が身体の中で激しくぶつかり合う。  
 そして融合し、巨大な熱の塊になっていた。  
   
「あああああっっ、い、今っ、イってるっ!」  
 
 ああ、凄い。  
 すごすぎ、る。  
 壊、れる。  
 私、……壊れる、壊れ、あ、あ、おか、し、あ、ああっ。  
 だめクリが、おか、しぃ、あ、あ、あっ、あっ。  
 ああ、ケンジっ、けんじけんじがぁっっ、マリのああああっっ。  
 気持ち、いや、気持ちい、いぃっ。  
 ああ、い、や、もうっ、マリクリはぁっ、もう、もうっ、もうっ!。  
 駄目ぇええっ。  
 イき、すぎ、あ、あ、あ、あ、ああ、ああ、あああああっっっ!!  
 死んじゃ、う、駄目だめ、だめぇえええっっ!  
 もう、もうっ、ああ、まだっ、まだ来るっ!!  
 イく、イってるっ、イき続、け、て、ああ、ああ、あああっっっっ。  
   
 白い光のベールを、何度も何度もくぐり抜けた。  
 一瞬真っ暗になり、すぐにまた白い光の中へ飛び込む。  
 泣いていた。  
 怖かった。  
 何ひとつコントロール不可能な巨大な快感の波が、私をどこかへさらっていく。  
 黒い闇の中に落ちる度に、さらに高い場所に上がっていた。  
 何もない、ただ白い場所。  
 光に包まれ、何もかも消えていた。  
 やがて私もいなくなった。  
 

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