風谷耕一。見た目はごくごく普通の高校生である。  
平均よりかなり低めな身長、それと同時に全体的にほっそりしている少年である。  
何時も眼鏡をかけており、小さい頃から変えていないはずなのに何時もぴったりと少年はその眼鏡をつけていた。  
その眼鏡は只の眼鏡では無かった。超常の生命体『コネクター』の「グラスサイト」。  
それと『契約』した風谷耕一は、「グラスサイト」の持つ超常の力を使えるようになったのだ!  
 
が、この少年、基本的に欲が無い。超能力を得たからって覗きやいじめなどに使わないのだ。  
学校でも波風立てずに生きているこの少年の運命を変えたのはある出来事だった。  
 
その日、彼はマンションの一室で勉学に励んでいた。  
「………なあ耕一。」  
そんな感じで声が響く。  
「どうした、グラスサイト。」  
「若い青春をこんな文字と計算式だけで終わらせて良いのか?  
若い女の子のピチピチの肌を覗き見たくないのか?」  
「そんなの興味ない。」  
そう言って耕一は勉強の続きをする。  
 
「じゃあさあ、テストの答案を覗き見て100点取れば……」  
「グラスサイト。」  
「なんだ?」  
「それ以上ふざけた事を言うと折るぞ。」  
その言葉にグラスサイトは押し黙る。適当に契約を果たそうとする○マジンとは違うのだ。  
 
グラスサイトは不安なのだ。自分が必要とされなくなる感覚。  
いつ自分が捨てられるかもしれないと言う感覚。  
その為、ついつい過剰に能力を使うように推し進めてしまうのだ。  
 
グラスサイトは単体で遠隔視力などの能力を使用できるが、  
他に耕一に7つの邪眼を与えている。  
相手を自分に惚れさせる魅了の邪眼。  
相手の精神を一時的に操る催眠の邪眼。  
相手の精神に恐怖を受け付ける恐慌の邪眼。  
相手の肉体を操る呪殺の邪眼。  
視線上の物質を粉砕する粉砕の邪眼。  
視界内の物を動かす念動の邪眼。  
そしてあらゆる超能力を消去する破邪の邪眼。  
 
そのいずれも耕一は使用したことは無いのだ。  
それでは駄目なのだ。自分の能力を知っていても使わない耕一。  
一応契約してるので、生存には問題無いが、いつ何時契約解除されるかわからないのだ。  
その為、自分の能力は何時でもアピールしておく必要があった。  
 
それゆえにその事件をいち早く気づく事ができたのだ。  
 
耕一のクラスのクラス委員は真面目でいつもだらしないクラスを纏めている。  
そんなクラス委員の事を耕一は好きだし彼女も耕一を頼りにしてくれた。  
が、耕一に好かれてるからって、他の人達に好かれてるわけではない。  
 
彼女の存在が目の上のタンコブのメンバー達が結託して彼女を痛めつけてやろうと一計を案じたのだ。  
彼女を音楽室に呼び出して徹底的に陵辱しまくる。写した写真を掲示板に貼りまくる。それだけのつもりだった。  
 
…それがメンバー達の人生を破滅させるとは知らずに彼女を呼び寄せた。  
 
「止めなさい!貴方達そんな事して恥かしくないの!?」  
彼女が何と叫ぼうとメンバー達には関係ない。学校だってこんな事を表立てたくないだろう。  
下品な笑いを浮かべながら彼女に襲い掛かろうとするメンバー達。  
彼女が目を瞑った瞬間。音楽室のドアが大きな音を立てて開いた。  
 
やってきたのは耕一一人だった。それを見てメンバー達がせせら笑う。  
たった一人で何ができる? それともおこぼれに預かりたいのか?  
そういう表情だった。だがそれが凍りつき始める。  
「彼女から離れろ。」  
笑うべき所だろうか?だが誰も笑わなかった。全員が恐怖に支配されていた。  
七つの邪眼の一つ、恐慌の邪眼。恐怖を植えつけられた人間は、耕一に逆らえなくなる。  
元々数に頼ってるだけの人物達だ。耕一の命令一つで行動を阻止される。  
「あ……あんたそいつを救う……」  
取り巻きの女子の一人がそう耕一に抗議しようとしたその瞬間だった。  
耕一は二つの邪眼を同時に発動させる!「恐怖」と「催眠」だ。  
抗議した女子の体が一瞬にして凍てつき……次の瞬間服の隙間から生暖かい液体が流れ出る。  
「いっいやっ!!」  
体を折り曲げて暴れだすその女子。耕一の出した命令は「その場で排泄しろ」。  
催眠の邪眼は単純な命令なら言葉を発する必要は無い。耕一は何度か聞かされていたが、使う機会が無かったので、使わなかったのだが。  
「いじめられている彼女を見過ごすわけにはいかなかったんだ。」  
耕一はそう言って、彼女達を犯そうとしたメンバーを強く睨みつける。  
全員が恐怖に恐れをなしている。見えないプレッシャーによって精神が極限まで張り裂けそうになっている。  
「全員、二度と悪い事はしないと誓えるか?」  
全員がぶるぶると震えながら首を縦に振る。  
もはや、蛇に睨まれた蛙。邪神と相対してしまった人間並みの恐怖をあじあわされている。  
「写真取った奴いるか?」  
何気なく質問する。  
「あっああ。どうだ奇麗に………」  
そう言って男の一人が自慢げに写真を見せる。  
「全部消せ。」  
そう言って全員に簡単な催眠を仕掛ける。  
「二度と悪さをするな。悪さをすると地獄に落ちるぞ。」  
………全員の顔が恐怖に歪む。  
「そうでなくても、僕は君達を許さない。」  
全員、この男に対する対抗心を無くしていた。ふらふらとしながら音楽室から出ていく。  
……耕一はこの程度で許すつもりは無かった。  
が、問題として体がガクガクしている。オーラの使いすぎらしい。  
ふらふらとした足取りで委員長の方に振り向く。  
委員長はガクガクと体を揺らしながら僕の方を恐怖した目つきで見ていた。  
「……彼女もまた恐怖の邪眼に当てられたらしいな。」  
グラスサイトがそう言って僕に声をかけてくる。  
………イヤダ……カノジョニダケハキラワレタクナイ………  
耕一はある邪眼を彼女に使用した。  
 
次の日、耕一はオーラの使いすぎでふらふらになりながらも学校に登校した。  
昨日の事は全員口をつぐむ事にしたらしい。はっきりいって心に直接刻まれた恐怖。  
耕一の不気味な雰囲気はそれをさらにえぐったらしい。  
耕一を見るとビクッとしてそのまま逃げていく姿を所々で見つけた。  
………耕一はそれどころではなかったのだ。最後に彼女に仕掛けた邪眼。それは『魅了』。  
委員長に嫌われたくないと耕一は彼女に魅了をかけてしまったのだ。  
一人屋上で黄昏れる。  
「さいてーだ………」  
耕一はそう思って昨日の事を思い出す。わざわざ魅了なんて仕掛ける必要は無い。  
破邪の邪眼で恐怖の邪眼の影響を消してしまえばそれですんだ筈なのだ。  
「耕一…………もしかして破邪で彼女の魅了を消せると思るのか?」  
「ああ、彼女本来の精神を取り戻すにはそれしかないんだ……」  
グラスサイトにそう答える耕一。がグラスサイトはにべも無く返事をする。  
「……すまない。耕一。もう不可能なんだ……」  
「は??」  
「精神を操作して、それを取り消せるのは使用してすぐ後のみ。後は……変形してしまった器は……どうやっても戻らない……」  
そう言ってグラスサイトは溜息をつく。  
「そんなの聞いてないぞ!」  
「言ってないからな!」  
色々言いたい事はあるが、耕一は空を見上げる。  
「………責任……とらなきゃなあ……。」  
どう責任を取るべきだろう。  
彼女に催眠で恋人になるなと命令するか?  
正直に話して、分かれるべきか?  
他に恋人を作って、彼女に納得してもらうべきか?  
……どれもしっくり来ない。  
 
「耕一君…ここにいたんだ。」  
そう言って委員長が屋上でたそがれていた僕に声をかける。  
「……き、昨日の事だけども……助けてくれてありがとう!  
 あいつらも何故か知らないけれども反省してるみたいだし、今回だけは大目にみるから」  
そう言って委員長が僕に近づいてくる。  
「これ、朝ちょっとミスって多く作りすぎたから食べてくれない?」  
「あっ、良いんですか?」  
耕一はそう言って差し出された弁当箱を受け取る。  
多く作りすぎて無駄にするよりも、誰かに食べてもらった方がマシ……と委員長は考えているんだろう。  
「良いのよ。どうせ余りものだし。」  
「では、遠慮なく。」  
そう言って耕一は御飯を口に含む。  
味は平均的だと思うが、それでもムシャクシャしていた気分がなんとなく落ち着いてくる。  
「美味しい。」  
その言葉に彼女の顔がぱっと輝く。  
「あっ、そうだ。横良いかな?」  
そう言って委員長が耕一の横に座り込む。  
「………あのさ、委員長……。」  
僕は意を決して委員長に声をかける。  
「ん?何。」  
「お弁当のお礼なんですけど、今度の休みの日、何か街で買い物しませんか?」  
「良いの?」  
「ええ、自分は空いてますけど。」  
「今度の休みは……特に用事は無いわね。」  
そう言って委員長がニコリと笑った。  
 
家の中。グラスサイトは耕一から変な命令を受けた。  
「委員長をできるだけ見張っててくれ。」  
「???」  
「精神を意味無く操ったんだ、償うんだったら一生かけて償うしかない。彼女も守りきる。絶対。」  
耕一はそう言ってグラスサイトに命令する。  
「彼女はどうしてる??」  
「今見せる」  
……彼女は裸でオナニーをしていた。ベッドの上でなにやら呟きながら自らの股間に指をこすりつけている。  
「ブッ!」  
鼻血が出た。  
彼女は僕に見られていることに気がつく事無く、オナニーを続けている。  
「……まっまあ委員長だってオナニーぐらいするよな。他人の迷惑になるわけじゃないから……。」  
そのまま委員長はベッドの枕を抱きしめてオナニーを続ける。  
「想像の相手は……僕………なのかな。」  
自意識過剰かなと耕一は思う。  
そのまま委員長は枕を抱きながら寝てしまった。  
「……お休み委員長。」  
僕はそう言ってベッドに入った。彼女の幸せそうな顔を見ながら彼女の裸を確認しながら。  
 
      (完)  
 

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