(あったらしーい、あさがキタ━━━(゚∀゚)━━━ッ!! きっぼーおのアサ━━━! ……か?)  
 
僅かなカーテンの隙間から細く差し込んで来る光は、透明な青を潜めた蜂蜜色。  
 しかも、二十七時間耐久押し問答の末の、気絶同様な床寝ですら、無理矢理たたき起こす程の  
冷え込み具合から察するに、夜明け直後なんだろう。  
 ぎしぎし悲鳴を上げてる疲労過多な体をなんとか宥めつつ、起き上がるための準備運動として  
ゆっくり寝返りを打ってみたら……。  
 
(むにゅ)  
 
ちゃんと、ベッドへ寝かせといた筈の召喚主が、うにゃうにゃ言いながらしがみ付いてきやがった。  
 
 
  ……あー、やっぱり『ユメマボロシ』じゃなかったか……。  
 
 
取りあえず起こさない様、じわじわ引き剥がしにかかったものの『ゃ……だ、さむぃよぉ』  
とかなんとか呟きながら、ますます懐深く擦り寄ってくる。  
 だけど、此処で下手に抵抗なんぞしようものなら、コイツは絶対目を覚まして、凄まじく  
厄介な事になるのは、もう散々学習させられた。  
 俺は、『ガキの金切り声』っーのがこの世で一番苦手だし、なによりロンリーでスライムで  
自堕落なモラトリアム生活を、まだまだ満喫していたいんだ。  
 だから『頭撫で撫で機能付き抱き枕』としての任務を冷静に遂行しつつ、心の中でこっそり  
溜息をつく。  
 
 
  物凄い霊力で喚起されてみたら、毛も生え揃ってないような天使が大真面目な顔で  
  『今すぐ、私を抱いて下さい』なんてぬかしつつ、悪魔を押し倒そうとする事が許されてる  
  ココは、一体何処なんだ?  
 
 
で、しばらくの逡巡の後『天獄でも地国でもないココは、現実』という当たり前な結論に  
たどり着いた俺は、そろりと抱き上げた小柄な体を、出来るだけ用心深く且つ速やかに  
ベッドへと横たえる。  
 そして、床一面に白々と輝き続けている糞忌々しい魔方陣を踏み壊す為、歩み出した途端  
危うくつんのめりかけた。  
 恐る恐る振り向けば、何時の間にか俺の上着の裾をしっかり握り締めていた白く細い手の  
持ち主が、その菫色の瞳に一杯の涙を溜めて……。  
 
「タイヤキの中身は、絶っっっ対『粒餡』。更に、シッポの先までっ!!!」  
「……は?」  
「後、一番風呂は肌がぴりぴりするので、不可なのれ……すぅ……」  
 
そのまま、ずるずる前のめりにベッドへ倒れ伏し、又くうくうと響き始めた穏やかな寝息と  
呼応させるかのように、背中の純白の羽根を緩やかにはためかせる大莫迦野郎。  
 その小さな頭を手荒く掻き抱けば、指の隙間からさらさらと零れ落ちる白銀の輝きと  
それを柔らかく照らしている黄金の光輪、細かく入り乱れ、ちらちらと煌く掌中の『銀河』。  
 だけど俺は、総てを粉砕する様な勢いで、こめかみをぐりぐり抉りつつ早速、心の中の  
行動予定表トップに『粗大生ゴミの抹殺』をデカイ花丸付きで、書き殴った。  
 
「うぅぅ、まだ、痛……むぐもぐ」  
 
あれからずーっと涙目状態のままなガキが、鼻をぐすぐす啜りながら不満を訴えようと  
開いた口へ、メープルシロップまみれのワッフルをすかさず押し込む。  
 その途端、炎天下に放置しておいたアイスクリームよりでれんでれんに崩れた顔は  
『清純無垢』と言うより『世間知らずの単細胞』で。  
 ……まぁ、こーゆー手合いは、下手に煽り立てず軽〜く丸め込んで、そのままさり気無く  
サヨナラすれば、三度羽ばたく間に目出度く全記憶完全消滅する『鳥頭』が、ほとんどだ。  
 
だからこそ、俺の穏やかで快適でまったりとした日常生活を取り戻す為ならば、何故か  
うっとりと目を伏せ頬染めて、薄桃色の舌をちらちら覗かせながら追加を催促してるらしい  
阿呆なガキの御相手をするのも、暫くなら我……慢出来……ねーよ、畜生ーーーっ!!!  
 ……と、俺の右手の中でメキメキ悲鳴を上げ始めたフォークが、小さく柔らかな手で  
そぉっと取り上げられて……。  
 
「はい、あーーーん」  
 
……あ、マズイ。  
 なんか、今、コキュートスの奥底にいらっしゃるアノ御方が、優雅に微笑まれながら  
俺に向かって手招き……じゃなくて、中指おっ立てて『コ・ッ・チ・ク・ン・ナ』ぁぁぁっ!?  
   
(ぽんっ!!!)「んーーーっ」  
 
しかし、俺の反応がお気に召さなかったらしい『斜め上』は、遂にぽたぽたシロップが  
垂れている駄々甘い塊を半端に咥えたまま、膝の上に座ると、そのままにじり寄ってきた。  
 反射的に胸を反らした勢いで一瞬、椅子の前脚が浮いて、重心がずれた方に軽い体は  
容易くしなだれかかる。  
 
「う、をぉっ!!!」  
「ひゃ……、ふぁんんっ!!!」  
 
咄嗟の事過ぎて、なす術も無く、派手な音&間抜けな声と共に、床へ勢いよく倒れ込む。  
 翼を広げて衝撃を和らげようとするも、背もたれが邪魔して、あえなく失敗。  
 せめて、腕の中のガキが頭を打たないように、しっかり抱きかかえたのとほぼ同時に  
白い羽根が視界一杯にふわりと広がり、優しく抱き返されていた。  
 その途端、辺り一面に百合の香りがふわりと立ち昇り、俺は、頭を打った訳でもないのに  
まったく動けなくなる。  
   
 
  ……ぎゅっと押し付けられた質量と弾力性に反応した、ある『一箇所』を除いて。  
 
 
「……あ、あの……」  
「おいっ!!!」  
 
怖ろしく気まずい空気を、蚊の鳴く様な声と裏返る一歩手前の声が、同時に破ろうとして  
又一層、濃く煮詰めてしまう。  
 
「……お先に、どぅぞ……」  
「オ・マ・エから、言えっ!!!」  
 
何故か真っ赤になって、おどおどした目つきを在らぬ方向に彷徨わせ始めた少女の態度に  
『感づかれたかっ?!』と脊髄反射的対応を選択した俺の耳に飛び込んできた言葉は……。  
 
「ごめんなさいっ!!! 最後の一切れ、落としちゃった……」  
「……」   
   
なんだかもう、いろんな意味でずれまくってる召喚主との、疲れる会話を続ける気も失せた  
俺は取りあえず、まだ何か言いたげに開きかけた艶めく唇を、全力で塞ぎにかかった。  
 
軽く、短く、素早く、瑞々しい頬に、形良い額に、震える瞼に、甘い悲鳴を漏らす唇に  
俺の唇が微かに触れていくだけで、白百合の蕾は瞬く間に、紅薔薇の花へと綻びる。  
 
   
  ……しかし、コレはどう見ても……。  
 
   
だから、態と鼻の頭をペロリと舐め上げて、まん丸に目を見開いた少女の、熱く染まった  
耳元へ、静かな笑いを含んだ声で低く囁いてやった。  
 
「息は、鼻でしろ」  
「んふっ!? ……やぁぁっ、だめ、みっ、耳、食べなぃでぇ、おねが……、ひゃぃぃっ!!!」  
   
返事を聞く暇も惜しく、そのまま耳朶をぴちゃぴちゃと音を立てて熱心にしゃぶり上げ  
甘噛みしながら、耳穴へ吐息を吹き込む。  
 只それだけで、腕の中の華奢な体は、切ない歌声を高く弾ませながらびくびく跳ねて  
くたりと柔らかく溶け落ちた。  
 
虚ろな瞳から絶え間なく流れ続ける涙も、滑らかな肌をしっとりと覆い尽くしている汗も  
冷たい空気を求めて小刻みに開け閉めを繰り返している口元を濡らす唾液も総て、俺を酷く  
酔わせてしまう『美酒』となる。  
 一滴たりとも零さぬ様、綺麗に舐め取りながら、更に貪り尽くす為に深く深く口内を犯す。  
 半分意識を飛ばしながら、俺の太ももをその細い足で挟み込み、くちゅくちゅと高らかに  
響く水音を隠そうともせず、腰を強く擦り付け続ける少女の拙い痴態さえも、愛しくて堪らない。  
 その頃には、はふはふと忙しなく上下している白衣の胸元で、静かに輝く『百合の花』の  
紋章は、その奥に隠されている秘宝へ、俺の愛撫を誘う目印に過ぎなくなっていた。  
 手っ取り早く、引き毟ってしまいたい気持ちをなんとかねじ伏せて、やわやわと優しく  
弄りながら、丁寧にはだけていった辺りまでは、まだ冷静だったのだけれども……。  
 
 
  まず最初に、桜色の乳首にむしゃぶりついて強く吸い立てている俺、必死杉。  
   
 
それでも、俺の名前と『だいすき』と『もっと』を、切れ切れに叫び続ける以外、術も無く  
もう一人では決して降りてくる事の出来ない高みへと、瞬く間に押し上げられた少女が  
二度目の絶頂を迎えたのを機に、つるりとなめらかな股間から渋々、舌を引き抜いた。  
 そして、とぷとぷと絶える事無く甘いシロップを滴らせ続けている泉の入り口へ  
暴発寸前の楔を打ち込む直前、少し乱暴に小さな体を揺さぶり上げて、覚醒を促す。  
 やがて、壊れる寸前の笑みでなお、ゆるゆると口付けを乞うて来た少女の瞳を  
真っ直ぐ見据えながら、厳かに『契約の言葉』を交し合う。  
 
「『浄化』されても、構わない。だから、『堕天』してくれ」  
「 私を、『本当の私』に出来るのは、貴方だけよ。アザゼル」  
「 Ma-smuka? 」  
「 Anaa ismii“Layla”」   
 
 
  魂と体の奥底へ、同時に『熱い迸り』を注ぎ込みながら、満たされて。  
    
 
俺の腕の中で、愛しい少女は“美しき夜”となる。  
 
 
 
   
 
「……ラッ、ライラ。いい加減、止めないか。もう、オマエ、全身、『精液』まみれ、なんだ、が……」  
「えぇーっ!!! ……じゃ、一回。後、一回だけっ!!! 良いでしょ!? 『足こき』してあげるからっ!!!」  
「……ヨロシクオネガイシマス……」  
 

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